球技大会~004
食った。動けない。しかし、半分も残っている。
「こ、これどうする?」
「どうするも何も……申し訳ないけど松田君に預けるしかないんじゃないかな……」
国枝君が苦しみながらもそう言う。お残しして申し訳ないが、そうするしかなさそうだな……
「やっぱ多過ぎたか、寮の方に運んでおくか。晩飯これでいいだろ?」
ん?晩飯とか言わなかったか?
「……晩飯食ってから帰るって事か?」
木村が首を捻りながら言う。ああ、そっか。そう言う事か。納得だ。戴いた物をそのまま丸投げは目覚めが悪いからそっちの方がいいか。
「何言ってんだ?泊まるんだろ?槙原さん、そう言ってたぞ」
ギョッとして遥香を見る俺達。国枝君は除く。
「く、国枝君は知っていたのか?」
「うん……僕は児島さんを送らなけれなならないから帰るけど、みんなは泊まるって……」
なんで勝手に決めるんだ!?いや、山郷に、しかも寮に泊まるのは少し楽しそうだけど!!
「松田、寮って俺達が泊まっても居のか?学生の為の物だろ?」
ヒロが珍しく良識のある質問をした。本気で珍しいからびっくりして目を剥いてしまった。
「ああ、寮は今誰も住んじゃいねえけど、泊まれるよ。尤も、やっぱヤマ農生限定だけど、ばれる事はねえから大丈夫だろ。騒がなきゃな」
「女子もいいのか?俺達は男だからまだいいが、女子も泊まるとあっちゃうるせえんじゃねえのか?」
木村は元々良識があるからこの質問は驚かない。風紀云々とかの問題があるだろうから納得の質問だし。
「ばれなきゃな。一応二部屋キープしといたから、部屋は別々だ。後々発覚してもいい訳が出来るようにな」
その弁だと、生徒は寮を結構使っているようだが……
「収穫祭とかは泊まりになる事もあるからな。早朝の収穫とかにも使う場合もあるし」
そういやヤマ農は朝こっぱやく野菜の収穫をしなきゃいけない時があるとか言っていたな……その時に活用しているって事か。
「だけど、決まったのはほんの数十分前だろ?よく取れたな?」
「学生寮は生徒会が管理してっから。ダチが生徒会に入っているから、何とかな。勿論泊まる名目は必要だけど」
「なんて言って通して貰ったんだ?」
「さあ?俺は二部屋キープしてくれって頼んだだけだからな。名目はそいつが勝手に決めるだろ」
なんか意外と自由なんだな……真面目な生徒が多いからこそ、こんなのが出来るんだろうけど。
「しかし、泊まるのはいいけど、いきなりなんでそうなった?」
「槙原さんが込み入った話があるからって。児島さん?は用事があるから帰らなきゃいけねえって事で、国枝が送る事になったようだな」
込み入った話……さっきの揉め事、つまりはとうどうさん関連の事か……それはつまり、朋美の事も話さなきゃいけなくなる。
児島さんが空気を読んで用事があるって事にして、その場にいないようにしたのだろう。児島さんは繰り返しの事を知らない設定だから。
遥香がそのように誘導した可能性もあるな。だからこその空気を読んだって事だろうが。
「私もお泊りしたいけど、バイトがあるからね。こればっかりは仕方がないかな」
ホントに残念そうに言う。つうか……
「え?児島さん、バイト決まったの?」
「うん?言ってなかったっけ?西のファミレス。あのコスプレの」
マジで!?あの味が普通のファミレスにバイト決まったのか!?楠木さんや高岡さんと同じバイト先!?
ま、まあ、児島さんも可愛いから簡単に決まったんだろうけど、接客大丈夫か?なんか向いてないような気がするけど……
ともあれ、戴いた食べ物を各々持って松田の後に続く。
学校から出て裏手。結構広めの木造アパートのような建物の前に止まった。
「ここがヤマ農の寮。今は使っていないから、元寮か」
「結構デケェな?何部屋あるんだ?」
木村も圧巻のデカさだった。つうか広さだった。
「一階は今は農機具小屋とかに使われているから泊まれねえけど、二階は泊まれる。12畳一部屋で8部屋かな?」
広いよそれは!!確実に!!
「つってもホント、ただの一部屋で、風呂やトイレは一階で共同だからな。飯も一緒だから大広間っぽいし。もう一棟あったけど、そっちはぶっ壊して居間は部活棟が建ってる」
「で、でも一人12畳なんてやっぱ広いだろ?」
「ああ、いや、昔は二段ベットが二つで、一部屋4人だったんだ。だから単純に二階で言えば32人住んでいたって訳。一階はさっきも言ったけど飯食う所や風呂、トイレがあるから部屋数は少ないけどな」
そ、そうなのか。だけど今は使われていないんだから、風呂とかどうすんだ?
「まあ、今は生徒数も少ないし、みんな通学手段を持っているしで、やっぱ無用の長物だな。こうやってたまーに生徒が使う程度だから、台所は使えねえし、風呂はシャワーのみだし」
そう言って二階に上がっていく。俺達も後に続いた。
「ここが借りた部屋。布団は一応あるけど、数は無いから毛布だけだ。俺達男子は」
「女子の分はあるの?」
「だから、布団全部女子に回すってこった」
まあ、俺達野郎は毛布だけで充分だ。寒かったらストーブ付ければいい話だし。
一階の元台所には、一応ながら冷蔵庫があった。そこに戴いた食べ物を入れる。
「ガスも水も使えるけど、シンクはねえから料理は出来ねえ。お湯湧かす程度だな。まあ、食いもんは電子レンジであっためりゃいいだろ」
「しかし、綺麗だな……管理ちゃんとしている証拠だ」
感心する木村だった。確かに放置していれば、埃だらけで、布団もカビが生えているだろう。
「まあな。一応衛生管理はちゃんとしているよ。農業高校だから。んで、どうしても料理したいってんなら学校に設備があるが、部外者は勿論入れねえ。だから諦めてくれ」
「だったら料理したいとか言わなくてもいいんじゃないか……」
つうか台所が寮に無いんなら学校にあるのは勘付いていた。だってあの料理、どこで作ったんだって話になるから。
「てか、吉彦、時間大丈夫?」
倉敷さんの問いに真っ青になる松田。
「うわやべえ!!始まる時間だ!!お前等も早く出て!!誰かに見つかると面倒臭いから!!」
そりゃそうだ。この寮はこの学校の生徒の物。部外者たる俺達が居ていい場所じゃない。
なので速やかに退出する。見つからない様にとの事なので人目を気にして、こそこそしながら。松田は超ダッシュでグランドに戻ったが。
で、漸く俺達もグランドの観客席に座った訳だが……
「まだ点入ってねえか」
「そりゃそうだろアホ。開始して10分くらいしか経ってないんだぞ」
「松田君、キーパーなんだね。ダッシュして良いのかとか思ったけど、キーパーなら大丈夫かな?」
国枝君の言う通り、松田はゴール内で息を整え中だった。フォワードとかだったら、ちょっとヤバかったかもしれん。
で、超はしょるが、結果松田のチームの勝ち。3-0だった。
「全くボール来なかったねー」
「そうだねー。松田君、動かなかったしねー」
そうなのだ。敵のキックは悉くゴールから外れたコースに向かっていたので、松田は全く動く必要がなかったのだ。
「相手3年だってよ」
「3年であのレベルかよ……俺の方がもっとまともに動けるぞ……」
そうなのだ。敵のチームのボール支配率はせいぜい20パーセントくらい。全く身体も動いていなかったし。
だが、まあ、勝ったのは事実。このまま勝ち進んで明日も球技大会ならいいよな。代掻きやらずに済む。
「じゃあ体育館行こうか。セパタクロー」
おお!!ナイス提案だ国枝君!!セパタクロー見たかったし!!
なので体育館にぞろぞろと。
で、見た。脚でやるバレーボールみたいな感じだった。
手を使っていない事から、手は使っちゃいけないルールなんだろう。意外と面白かったが……
「やっぱ知り合いが出てねえ試合は面白くねえな」
ヒロの言う通り。応援のし甲斐がないって言うね。概ね同感だ。どっち応援すりゃいいのか見当もつかん。贔屓にする理由を探したが見つからなかったし。
その後、松田のサッカーの試合ばっか見た。試合がない時はそこら辺をプラプラして。
試合時間は前後半合わせて30分程度だったが、同点引分けのじゃんけんも勝って、勝ち進んで、明日の準決まで残った。
「良かったねー和美さん。明日も応援できるよ」
「うん。でも、ゴールキーパーってあんま活躍しているように見えないのが不満かな」
いや、そんな事ねーだろ。さっきの試合だってファインセーブ何回かしていただろ。あれなければ点取られて負けていたぞ。
球技大会一日目が終わって松田が合流。
「漸く終わった。晩飯はあるけど、風呂どうするんだお前等?」
そうだな。風呂には入りたいな。女子はもっと入りたいだろ。
「学校からちょっと離れるけど温泉あるぞ。そこでいいなら案内するけど」
全員頷いて了承する、そこに行くことが決定した。
「じゃあ私は此処でね。松田君、倉敷さん、また遊んでねー」
あ、そうか、児島さんは帰るんだったな。じゃあ国枝君もか。
「僕は児島さんを送って行くよ。緒方君、後で話を聞かせてくれ」
頷く。とうどうさん、しいては朋美の事を話したら、松田と倉敷さんはどんな反応をするのだろうか?
「……無理に話さなくてもいいんじゃねえか?ヤマ実の野郎は連山との同盟の事、よく覚えちゃいねえんだろ?」
それはそうだが、山郷に俺達と戦うための拠点を設けようってんだ。ヤマ農も間違いなく巻き込まれるから。
「だけど丘陵、連山、渓谷と、随分離れちゃっているだろ?俺等とやり合う拠点も何もだがなぁ……」
「多分山郷に全部集めて数を揃えようって事だろ。ヤマ実はよく知らねえが、ヤマ農と同じように寮があるんならそこに集められる」
俺の疑問に答えた木村。成程、そう言う側面があるのか。
「年末の騒動の事をとうどうさんが知っているかどうかは解らねえが、アレは実質挟み撃ちだろ。それは通用しなかったから一点突破にしたんだろ」
「そうは言ってもとうどうさんって人を操れるやつがいたんだから、白浜でその技使ったら簡単に数が覆るだろうに」
「その女の事は話に聞いた程度だから何ともだが、友好校協定を上回る数と質、揃えられるのかだ。数は兎も角質は無理だと思うが」
好意を持たせる技にも限りがあるのかもしれんが、実際数で負けるかもしれんが、質は間違いなくこっちが上だ、それには納得だ、
ともあれ、温泉を満喫して松田の後ろに続く。つうか女子達は待たなくてもいいのか?
その旨を質問すると、ああ、と。
「女子達は着替えしたいだろ。向こうは着替え買って寮で合流するってよ」
着替えなら俺達も欲しい所だけど……
「近頃の100均はそう言うのも揃えているからな。パンツ欲しいんなら俺達も行こうか?」
「いいよ面倒くせえ。下着気にする事態にはなんねえだろうし」
木村の弁に真っ赤になって顔を伏せる俺。
「……まさか、緒方って童貞なのか……?」
松田が意外だって顔で俺を見る。
「こいつヘタレだからな。槙原の方が欲求不満になっている筈だ」
「余計な事言うんじゃねえよ木村!!見ろヒロを!自分が欲求不満なのに、チャンスすらない哀れな敗者を!!」
バーン!!とヒロに指差す俺。ヒロ。真っ青になって俺達を見た。
「ヘタレの隆は兎も角、まさか木村、お前まで黒木と……?」
「言わねえよ馬鹿。お前等の話のネタになってたまるか」
「ま、松田も付き合って半年にもなっていないのに、まさか……?」
「流石にまだ手を出しちゃいねえよ!!キス程度だよ!!」
松田のカミングアウトに俺もヒロも仰け反って驚いた。
「な、なんだ?そのオーバーリアクションは?」
そ、そんなにオーバーだったか?超驚いただけなんだけど、そう見えちゃったのか……
「ああ、緒方は兎も角、大沢の方は家にも入れて貰えない状態だから、キスも何もだろ。なぁ大沢?」
「うるせえな木村ぁ!!つうかなんで知ってんだ!?」
「そりゃ、緒方から聞いたからだ」
「お前余計な事言ってんじゃねえぞ!!」
俺の胸倉を掴んでガックンガックンと揺さ振った。血涙を流すような表情で。
それを叩いて肩をしっかりと掴む俺。とっても良い笑顔で言う。
「大丈夫だ。お前だけだから。やんわりと拒否されているのは。だから胸を張って堂々と生きろ」
肩にかけた手を思い切り叩かれた。
「やんわりじゃねえよ!!ハッキリだよ!!ぶっちゃけ心が折れそうなほど、きっぱりだよ!!」
そ、そこまでなのか!?ま、まあ、波崎さんは身持ちが硬そうだからという事でだな……
「貞操観念がはっきりしているからいいじゃねえかよ。誰にでも股開くような女じゃねえんだったら、そっちの方がいいだろ」
「そこは木村と同意見だな。逆に考えれば大沢一筋って事になるからいいんじゃねえか?」
「そ、そうだよな?」
頷く木村と松田。平和に事を済ませるのならそれでもいい。
だけど、ちょっと待って欲しい、真実は一つなのだ。例え美しい誤解をさせようが、真実は残酷な物なのだ。それを教えるのも親友の役目と言うものだ。
「お前が解り易い程がっつき過ぎなだけだろ。だから普通に拒絶されるだけだ。つまりお前が全面時に悪いし、自業自得なだけだ」
「……………………………」
項垂れちゃった。心当たりがありまくりなんだろう。
「そんな自業自得のアホはほっといて、早く寮に行こう。腹減ったし」
「お、おう……」
微妙な表情の松田だった。お前も木村のように我関せずで無視して歩けばいいのに。
寮に到着。しかし、やはり松田の後に続く。どっちの部屋に行くか解らないからだ。
そして部屋のドアを開けたら、とってもいい香りが鼻に付いた。
「あれ?和美達、早かったな?」
松田が呼び捨てしているのに若干の違和感があったが、確かに遥香達が昼に戴いた食い物を温め直してテーブルに並べていた。
しかし、女子達は100均に行った筈では?
「勿論、素早く買い物して戻って来たんだよ。お腹空かせているかもってくろっきーが言ったから」
なんかドヤ顔で黒木さんが胸を張った。実に気が利くでしょ?と言わんばかりに。
「昼も腹いっぱい食ったからそうでもねえが、まあ、心遣いには感謝しとこうか」
「なんで素直にありがとうって言わないの!?」
ドヤ顔から一転、抗議の厳しい表情に変わった。ありがとうを期待して用意したからじゃないかな……?
「はいダーリン、アイスのコーヒー、買っておいたよ、温泉で喉渇いたかと思って」
「ああ、ありがとな遥香」
「ほら!!緒方君はちゃんとありがとうって言うよ!!」
「ああ、解った解った。じゃあ食おうか、折角あっためてくれたんだし」
相手すんのも面倒だとテーブルに着いた木村。黒木さん、仏頂面で木村の隣に座る。文句を言いつつも隣はキープするんだな……
「じゃあ食おうか。昼の残りもんだが我慢してくれ」
勿体ないからって理由でそうしたのはみんな承知だから文句は言わん。つうか実に美味そうだし。
戴きますして晩飯に有りつく。しかしこの量はやっぱ消費すんのに大変だよな。ここはヒロに頑張って貰おうか。
沢山食べた。昼の残りとは言え大変な量だった。
食い終った頃には女子達の除いて全員仰向けにぶっ倒れた状態だった。
「……松田、友達にありがとうって言っておいて」
「……おう……」
「……松田、悪いが茶くれねえか?」
「……今は立つのも厳しい……和美、頼む……」
「……松田、デザートはアイスがいい……」
「「「まだ食うのかお前!?」」」
仰向け状態でヒロに突っ込んだ俺達。こんな状況でもアイスを欲するのか!?
「つうかアイスなんかねえよ。どうしても食いたきゃ買って来るしかねえけど、俺はこの通り動けないからな?」
「俺だってそうだぜ。お前の馬鹿食いの為に付き合って歩くような真似もしたくねえ」
拒否されたヒロを可哀想に思った俺は、進言する。
「勝手に買いに行け。俺は付き合わないけど、コーヒー買って来てくれ。ついでに」
「槙原からアイスコーヒー貰っていただろ!?」
あれは風呂上がりのコーヒーで、今欲しているのは食後のコーヒーだ。間違うな。
「ああ、じゃあついでに俺にも頼む。俺もコーヒーだ」
「お前松田に茶頼んでいたよな!?」
松田に頼んで倉敷さんが煎れてくれた茶だ。それは好意であり善意であり、それに甘えるのは友達として当たり前で、木村が欲しいのはお前のオゴリのコーヒーだ。そこも間違っちゃ駄目だ。
「コーヒーもあるから買って来なくていいよ、だけどアイスはねえからな」
「……俺もコーヒーでいいや」
面倒臭がるなよ。買ってこいよ。ついでに俺達のコーヒーも買って来いよ。気が利かないなぁ。
コーヒーを淹れて貰ってマッタリ。
と言う訳じゃ無く、倉敷さんが普通に疑問を呈してきた。
「ねえ、緊急の内緒話って何?長くなるからって事で宿……と言うか寮まで手配させたんでしょ?かなり重要な事だよね?」
緊張が走った。松田以外。
「ヤマ実の三上の事だろ?木村が出て来たんだし、大沢も蹴散らしたし、緒方がぶっ叩いたんだしで、もう何も出来やしねえと思うけど?」
「その事だが、ヤマ実には寮はあるか?ヤマ農のような、こんな感じの寮が?」
木村の問いに少し考えて答える。
「あった筈。向こうはそんなにデカくねえけど、やっぱ今は使われてねえと思った。それがどうした?」
「……多分そこを当てにして、連山のチームが拠点作ろうとしてやがるんだ」
「うん?どう言う事だ?」
「ヤマ実、つうか、三上って野郎が、連山のチームと協力関係になったそうだ。えっと、岸だったか?お前のツレの?そいつから三上が調子に乗り始めた時期を聞いたんだが、協力関係になった時期がほぼ一緒だ。つう事はそれを当てにした可能性がデカい」
ふうむ、と腕を組んで考える松田。
「連山っても遠いだろ?そこと協力した所で、そうちょくちょくこっちには来れねえと思うけど?つうか何で山郷?言っちゃなんだが、此処は田舎、こんな田舎に攻めて来てもしょうがねえだろ?」
それはそのとおり。だが、山郷にはメリットがある。戦力を留めておける宿があるからだ。
その旨を言うと、やっぱりふ~むと。
「えーっと、ヤマ実と協力したのは兵隊……でいいのか?を泊められる宿があるから?そこはまあ、いいとして、その戦力をどこに投入するんだよ?大洋狙いだったらやっぱ連山の方が近いだろ?」
「それは……」
言いあぐねた木村。困ったように俺に視線を向ける。言ってもいいのか?みたいな。
「連山だけじゃねえ。丘陵も絡んでくる。数は勿論多い。つう事は、友好校狙いって事だろ」
ヒロが明言を避けて言う。やっぱ核心は言いにくい部分があるからな。
「友高校……黒潮、西高、ヤマ農、南海?数も勝つだろこっちの方が」
「そりゃそうだけどよ……」
ヒロも困って俺を見る。
「なんかさっきから緒方君を見ているようだけど、緒方君狙いで戦力を集めているって事?友好校協定外の緒方君を、そんな大勢で狙うって言うの?」
倉敷さんの疑問に、いやいやと首を横に振る。
「俺狙いじゃねーよ。いや、最初は俺狙いじゃ無かったけど、結果そうなったと言うかな」
「揉め事に首突っ込んだの?」
「え?えーっと、そうじゃなく、あーっと、えーっと……」
やっぱり俺も言いあぐねた。全部話せば納得すんだろうけど、絶対に信じないだろうなぁ……
「ねえ和美さん、川岸さん、どうしてる?」
いきなり話題を変える遥香。みんな何言ってんのこいつ?って目になっている。
「あの子は引き籠りになってから学校に来ていないけど……多分留年になったんじゃないかな?なんでいきなりその話?」
「うん。あの子がダーリンを追い回していた理由、知っているよね?」
「何回も生き返ったってアレ?」
「それが発端」
やっぱ遥香は言うつもりか……倉敷さんはやっぱり何言ってんの?って顔をしているけど……
「今から言う事は他に絶対に漏らさないで欲しい。お願いします」
深々と頭を下げる遥香。もうちょっとで土下座の勢いで。
流石にそれには慌てて止める倉敷さん。アワアワしながら、わちゃわちゃと忙しなく動きながら。
「ちょっといきなり何!?唐突過ぎて困るからやめて!!」
「それでも、他に漏らして欲しくないから」
そう言いながらもまだ頭を上げない。うんと言うまでこの姿勢でいるつもりだ。成程、脅迫か。そうなるよな、これ……
「解ったから!!絶対に他に言わない!!だから顔を上げてちゃんと話して!!」
「……松田君もお願い。他には言わないで、絶対に」
「え!?ああ、勿論!!」
いきなり振られてびっくりしたんだろう。声が裏返っていた。
そこで漸く顔を上げて姿勢を正す遥香。大きく息を吐き、発する。
「これは信じられない事だけど、事実。本当にあった話で、現在進行形で続いている話なんだけど……」
「……なんか怪談みたいだな…」
引き攣りながら言う松田。怪談と言えば怪談だ。都市伝説も出て来るし。
そして遥香は語り出す。俺の繰り返しの事を。川岸さんが何故俺に拘っていたのかも、すぐに解る事だろう。
やっぱりこの話は長かった。俺の繰り返しの事だけじゃない、自分の記憶の事も、今回の事件の事も交えたのだから、いつも以上に時間が掛かった。
既に知っているみんなもじっと話を聞いていた。直ぐに飽きて寝るヒロでさえもだ。今までの復習も兼ねて聞いているんだろう。
そして話終えた遥香が息を吐く。喉が渇いたのか、ペットボトルの水を一気に飲み干した。
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