地域活性化友好交流会~007

『玉内さんボラードとはいったい!?』

『スィング気味に打つロングフック、とでも言ったらいいでしょうか……メキシカンがよく打つ強打の右ロングフック……説明が難しいですね……ですが、破壊力は御覧の通りです!』

 俺的には喰らった感触から言えば、上からのスマッシュって感じだが……破壊力は御覧の通りです!ひっくり返ってんじゃんか俺!

『カウンター気味に入ったボラードですから、大沢選手が若干遅かったんですが、相打ちまでは持っていきましたね…』

「ファーイブ!!」

『ははあ、大沢選手の更なるフィニッシュブローって事ですかってもうカウント5です!!両者動きません!!』

 ヒロも動いていないのか。俺のアッパー喰らってそう簡単に動けるはずもないからな。

「シーックス!!」

 カウント6かよ……いつまでも休んじゃいられないな。タオル投げられちゃうかもだし。

 根性で腕を突っ張った。起き上がる為に。

「セブン!!」

「おおーっと!!緒方選手、立ちました!!大沢選手はまだダウンした状態だ!!』

 ヒロより先に立ったか。だけどまだだな。ファイティングポーズを取らなきゃ……

「エイト!!」

『大沢選手も立ちましたー!!』

 やっぱ立つか、ヒロ。まあ、お前は絶対立つだろうとは思ったけどさ。もうちょっと希望持たせてくれよな……

 カウント9、ヒロも立ってファイテイングポーズを取る。

「ファイッ!!」

『両者まだ戦う意思を見せています!!続行だ!!』

 観客が湧くが、当の俺達は結構きついんだが。とっととぶっ倒れろよこの野郎。

「お前がおかしく粘るおかげで続行になっちまったじゃねえかよ。大人しくあのままくたばっとけよ」

 ヒロも全く同じことを思っていたようだ。つうかお前さぁ……

「ボラードなんてパンチ、いつ開発した?」

「あん?そんなもん、コソコソに決まってんじゃねえかよ。馬鹿がコークスクリューを当てるように色々創意工夫しているのと同じだ」

「誰が馬鹿だ誰が。つか、お前は本当に大振りが好きだよな。スマッシュと言い、ボラードと言い。躱されたら絶好のカウンターチャンスになるんだぞ」

「どこかの馬鹿の懐大好きよりは遥かにマシだ」

「その懐を取られてダウンしたアホがいるようだが、どう思う?」

「二度同じ事が通用すると思っているんだったら、馬鹿を超えたウルトラ馬鹿だよなそいつ」

 そうか?んじゃ同じように通用させてやる。

 利き足に力……がくがくしてやがるよ!!これじゃダッシュ難しいぞ!!

「ボラードを喰らっていつものダッシュをかませると思うか?」

 ヒロが前に出て来るも、膝が折れて止まった。

「脚が死んだようだな?これでステップワークをオシャカにしたぜ」

「抜かせ馬鹿。お前も似たようなもんじゃねえか」

 全くその通りなので笑えないな。ダメージはお互いイーブンって所だな。

『ここでコング!!お互い一歩も引きません!!』

『次は8ラウンドですね。大沢選手のスタミナが心配です』

 終盤だからな。残す時間は9分だ。その9分でヒロをぶっ倒さなければならない。

「博仁の奴、ボラードなんか開発していたのかよ。しかしよく立った」

「カウンターが遅れたから立てたんだろうが、ダメージはどうだ隆?」

「まあ、まだイケます。終盤なんで向こうのスタミナ切れも期待できますし、希望はこっちにあると」

 うがいして聞かれた事に答えた。ヒロのスタミナは多分次に消える。と言う事はだ。

「おそらくヒロは待ちになるでしょう。カウンター狙いになるかと。あのボラードで本当は決めたかったんだと思いますし」

「お前が突っ込んでくるのを期待して、か……じゃあお前の脚はどうだ?」

 本心じゃヤバいですと言いたいが言えない。止められてしまう可能性が大だからな。

「当然イケるっす」

 こういうしか無い。平然とした顔を拵えながらな。

「絶対に嘘だと思うが、お前にゃインファイトしかない。多少強引でも突っ込むしかねえ。だが、ガードは下げんな。博仁もお前ほどじゃねえがパンチ力はあるんだから」

 バレてるし、戦術もそれしかないのは事実だし。

 8ラウンド。すり足で向かう俺。ヒロの脚はやっぱり半分死んでいるのか、跳んで離れたりしない。寧ろ軽くステップを踏んで近寄ってくる。

 互いの左の間合い。当然のようにジャブを放った。

 ぱん

 ぱん

 二発当たった。しかも連続で。右を放とうとしたが、逆にジャブを当てられて儘ならなかったが。

『大沢選手、ダメージが回復していませんね。スタミナも残り少ないと思いますよ』

『ここまでのダメージで動くが鈍くなったのはここからでも解ります。逆に緒方選手の方は?』

『緒方選手もダメージの蓄積は勿論ありますが、スタミナはまだ残っていますね。少なくとも大沢選手よりは』

 玉内の解説通り、俺はダッシュで強引にくっつこうとしているからそう思うのだろう。逆にヒロは腕を伸ばして寄せ付けないようにしているし。

 里中さんにも解るほどのヒロの動きの鈍さ。これもフェイクの可能性が十分にあるから油断は禁物だが……

「もう終盤だぞヒロ!」

 ショルダーチャージで強引に押す!

「このスタミナ馬鹿が!!」

 身体を捻って躱そうとするが、許すはずがねえだろ!!

 ぐいぐい押す俺。ヒロは遂にロープに背中を突いた。

「お前、あのボラードで決めるつもりだっただろ!!」

「馬鹿言うな!決めたい場面はあそこだけじゃねえ!!」

 逆に肩で押してくるヒロ。ロープのしなりでどうにか逃げるだろうと予測していたが、こいつなりのプライドがそうさせたか。

 肩で押し合いする俺。セコンドから指示が飛ぶ。

「そこはお前の間合いだろ!」

 その通り。左肩で押しているので、右はフリーだ。なので右フック……

「ぶっ!?」

「逆に喰らってどうすんだアホ―!!」

 うるせーな青木さん。ヒロだって接近戦はできるんだよ。俺が偏っているだけで。

 しかし、この距離で負けるわけにはいかない。なので右フック……

「ぶっ!!」

「二度も同じ事させんなアホー!!」

 こいつカウンターチャンス物にしやがるんすよ荒木さん。俺が逆の立場でもそうするし。

なので今度が右もガードを固めて右脚を軸に半回転。

「ち!」

「おせーよヒロ!!」

 今度はフリーになった左でボディ!流石のヒロもくの字になった。

 更に右をボディに当てて――

 脚を内に捻り――

「やらせるか馬鹿!!」

 強引にショートアッパーを放った。窮屈な体制故に綺麗には入らず。俺だったら入っていたぞそのアッパー!!

 仕返しとばかりに左フック。ガードで弾かれる。

 返す刀で右フック。これもガードによって阻まれる。

「あ!ああああああああああ!!ああ!!!!」

 全体重を乗せた左フック!!ガードがぶっ壊れた!!

 今度は肘を縦に曲げて!

 屈伸と縦回転による右アッパー!!

 ヒロの顎が跳ね上がった!!拳にも確かな手ごたえを感じた!!

 普通の奴ならこれで終わるが、ヒロは普通じゃない。

 なのでがら空きのチンにかち上げるような左ストレート!

 膝が折れたヒロ。テンプルが丸見えだぜ!

 チョッピングライト!俺はあんま打ち下ろしはやらないが、練習はしてきているんだ。無防備のテンプルを捉えることくらいできる!!

「ダウーン!!ニュートラルコーナーに!!」

『おおおおおっとおおおおおおおおおおお!!!遂に、遂に緒方選手、大沢選手からダウンを奪いました!!!』

 実況の里中さんが興奮して拳を振り回していた。

『緒方選手の間合いです。これはまずいですね。立てるかどうか……』

 いや、立て。もう一回ダウンさせてやるから立て!

「スリー!」

『大沢選手、ピクリとも動きません!』

 休んでいる可能性だってあるんだ。こいつは試合巧者。油断しちゃいけない奴だ。

「シーックス!」

 のそり、とマットに腕を突っ張ったヒロ。

『立つ、のか?あのダメージで?』

 玉内が信じられんと言った体で言う。立つんだよ、俺にもう一回ダウンさせられるためにな。

「セブーン!!」

 のそり、と膝が、背中がマットから遠ざかった。

『大沢選手、まだ戦えるんでしょうか?』

『タオルの場面でも不思議じゃない状況ですから、TKOの可能性は充分考えられますね』

 止めるなよ出川さん。タオル投げるなよ堀田さん、幸田さん……

「……ファイッ!!」

『続行だああああああああああああああああああ!!!大沢選手、まだ続けるようです!!』

『これは正直驚きました。もう戦う力は残っていないとばかり思っていましたから』

『それほど深刻なダメージだと?』

『緒方選手の距離で、緒方選手の得意なパンチを貰ったんです。立つのもやっとなダメージだとは思いますが……』

 もう一発、ちょこんと押すだけで倒れるって事だ。もっとも、押す事はしない、ちゃんととどめを刺してやるから安心しろ。

 ジャブの間合い、ヒロはジャブすら出さず。俺のジャブを喰らっている。じゃあとどめを刺してやる。

 右ストレート!!これで終わりだヒロ!!

 俺の右は、ヒロの頬を……

 掠めて通り越した。同時に顔面に信じられないほどの衝撃!!

「ダウーン!!」

『今度は緒方選手がダウンした―!!!』

『ライトクロスカウンター……防御も攻撃も捨てて、この一発に賭けた……のか?』

 この野郎!!玉内の言う通りだ!!防御は最小限、ジャブを放つ力すら温存し、カウンターに全てを賭けていやがった!!

「シーっクス!!」

『カウント6です!!緒方選手、動きません!!』

『緒方選手もダメージや疲労は当然蓄積されていますからね。ここで逆転KOされても何ら不思議じゃない』

「エーイト!!」

 超根性で立つ。そして構える。

『立ったー!!緒方選手立ちましたー!!』

『タフですね。しかし、一発で逆転が両者ともあるとは、恐ろしい試合です』

 恐ろしいのは確かにそうだが、普通こんなにポンポンとダウンしねーよ。つうかワンインチパンチが決まった時に大人しく死んどけばここまできつい思いしなくてよかったんだよヒロ。

 つまり、全部お前のせいだこの野郎!!

「この馬鹿、無駄に立ちやがって。おかげでまたきつい思いしなくちゃいけねえだろうが。空気読め」

「俺が思った事そっくり返されたとか……」

『おーっと!ここでコング!!第八ラウンド終了です!!』

『このラウンドはイーブンですかね。残す所後2ラウンド、どうなるか予想できません』

 予想しろよ。俺がヒロからダウンを奪ってKO勝ちするとかさー。

 ともあれ、脚を引き摺って自陣に戻った。途中ヒロをチラ見したが、俺と同じく脚を引き摺って戻っていた。

 ダメージは五分五分くらいか?つうか普通練習生にここまでやらせねーよ。何考えてんだ会長は?

「よく戻って来た!カウンターで負けたと絶対に思ったぞ!」

 椅子に座らせられ、うがいさせられながらそう言われた。普段の俺ならカウンター喰らってそのまま終わりだからな。

「ま、これは真剣勝負っすから……簡単に負けてやるわけにはいかないっすよ……」

「そりゃそうだ。だが、それは博仁も同じだ。そして何回も言うが、タオルを投げるのに躊躇しないのも向こうと同じだ」

 頷く。何回も言われたし。だから早くタオル投げて欲しい。堀田さんと幸田さんが。

「ここまで来てあーだこーだ言わねえ」

「さっきも聞きましたよ、それ」

「この先は小手先のテクニックじゃねえ。根性勝負だ」

「今までも根性勝負でしたが……」

「根性で負ける訳には行かねえよな隆。解ったよな?解ったら頷け」

 解っているから頷く。泥仕合は俺の大好物だ。乱打戦はもっと好きだが。

「「行って博仁を倒してこい」」

 頷く、そこはその通りだ。判定勝負じゃ負ける。多分俺の方が取っているラウンドの数は少ない。

 勝つためにはKOしかない。と言うか、俺はKO しか狙っていない。俺はボクサーじゃないからだ。

 タダの喧嘩屋だ俺は。だからお前も遠慮しないですべて出し切って来い。ボクサーとして喧嘩屋に負ける訳にはいかねーよな。

『第九ラウンドは乱打戦だー!!』

 里中さんの絶叫通り、俺とヒロはリング中央で脚を止めて打ち合いまくっていた。

 俺はぶっ倒さなきゃ負けるから、ヒロは脚が思うように動かないからが主な理由だが、俺達の利害が一致したからこうなった。

 しかし、距離の取り方がうまい。懐に絶対潜り込ませないように、上下左右に器用に打ちやがる。

 おかげで9ラウンドはヒロに取られた。ダウンこそなかったが、クリーンヒット1発貰ったし。逆に俺はクリーンヒットなしで終わったし。

 椅子に座って対面のヒロをじっと見る。セコンドがなんか言っていたが、全く耳に入らず。

 それは向こうも同じだろう。だってインターバル中、ずっとガンのくれ合いしていたんだから。

「あああ!もう時間がねえ!兎に角打ち勝て!負けんなよ隆!!」

 セコンドアウトの間際、荒木さんがそう言っていたのが辛うじて耳に入った。打ち勝て、か。ヒロが逃げる事は予想もしていないって事だな。

 まあ、それは俺もそう思うけどな。

 リング中央、互いに目を逸らさずに。

「最終ラウンドまで粘りやがって。いつものようにカウンター貰ってひっくり返れってんだ」

「お前こそ、最終ラウンドなのにスタミナが残っているのがびっくりだぞ」

 グローブを合わせて――

『さあ!泣いても笑ってもこのラウンドが最後です!』

『大沢選手がやや優勢ですね。このまま行けば判定で大沢選手の勝利でしょうが、緒方選手には一発がありますから』

 その一発に賭けるってか?そんなもん、ヒロも織り込み済みだろ。

 そして、これも織り込み済みだろ。

 俺はガードを解いた、真っすぐ突っ込む意思しか見せず。

『出ました!!緒方選手、特攻です!!オープンガードで突っ込むような真似、緒方選手しかしません!」

 玉内がやや笑いながらそう実況した。

「カウンターチャンスだろうが。いいのかよそれで」

「いいに決まってる。俺の真骨頂は特攻だ」

「それ、決まった事あんまねえだろうが」

「今日決まるかもしれねーだろ!!」

 地を蹴る利き足!ヒロの上下左右に打ち分けるジャブをもろに被弾しながら進む!!

「ジャブじゃ止まんねーのは知ってんだろ!!」

「最終ラウンドだ!いくらお前でもダメージの蓄積ってもんがあるだろ!」

 ヒロの言った通り、ガクンと膝が折れた。ジャブしか喰らっていないにも関わらず。

 ダメージも実はもう限界に近い程蓄積されている。スマッシュにボラード。でっかい大砲をまともに喰らったんだ、当たり前だ。

「それでも進む!突き進む!!」

 膝が折れようが、腰が砕けようが、構わず前へ!

「っち!開き直った馬鹿相手は面倒くせえな!!」

 言いながらジャブ。お前もジャブのスピードも威力も落ちているのは承知だろ。

 だから被弾なんてなんて事は無い。そんな手打ちのジャブなんか敵じゃねーよ!!

 とか思っていたら、ガクンと膝が折れた。

「漸く限界か馬鹿!」

 喜び勇んでの右ストレート。カウンター狙いのお前から大砲を打ってくれるとは有り難い。

 俺は身体を固めた。硬直したのだ。右腕を前に出して。

 俺の右はヒロの顔面に入った。ヒロの右ストレートも俺の顔面に入った。相打ちだ。

「がはっ!!」

 しかしダメージはヒロの方がデカかった。俺は来る、当たると知りながら硬直させたのだ。対してヒロは勇み足で放ったストレート。どっちが我慢が効くか言うまでもないだろ。

 たたらを踏んで後退するヒロ。追う、が、脚が動かない。当たり前に俺もダメージを貰っているのだから。

 だが、根性で右脚を前に出す。踏み込みとほぼ同にに内側に捻って。

 その捻りは腰、背中、肩、肘、拳に伝達されて――

『この土壇場でコークスクリューが入った!!』

 玉内が興奮した通り、俺のコークスクリューは確かな手ごたえを感じてヒロの顔面に入った。

 仰け反ったヒロ。そのままダウンすると思ったが、すぐそこはロープだった。

 ロープによってダウンを免れたヒロ。そして腕をロープに搦めてダウン拒否。

『大沢選手、ロープに助けられましたね』

 ホントにな。コークスクリュー喰らってダウン拒否とか、有り得ねえだろ。あれは的場を倒したパンチなんだぞ。

 だが、まだ俺のチャンス。ロープで守られてんだったら場外に落としてやるまでだ。

 左脚で踏み出す。ちょっと距離は遠いが、コンパクトなショートアッパー。それはチンを捉えた。

 顎が跳ね上がった。そのがら空きのジョーに右ストレート!!

『決まったー!!これは確実でしょう!!大沢選手、ダウン……え?』

 ダウンすると皆が思っただろう。俺もそう思った。だが、ヒロはロープを掴んでダウン拒否をした。

 マジか……俺の渾身を喰らってもダウンしねーのかよ……!

『凄い執念ですね大沢選手。スパーリング用のグローブとは言えダウンをしないとは』

 気を失うくらいはしてもいいだろ。いくらスパーのグローブだと言っても……

「はー!はー!そ、そう簡単に倒れてやるか!!」

 しかも目も死んじゃいねー。おっかない目で俺を睨んでいるし。

 構えて少し下がった。ビビったのだ、ヒロに。

 ミドルの間合いになった。同時に大振りの薙ぐようなパンチを放つヒロ。

 隙だらけだろこんなパンチ。簡単に躱し……いや、ガードだ!!

 思いの外伸びて来た、思いの外スピードが乗ったそのテレフォンパンチは、俺のガード越しからでも解るであろう破壊力。ガードしながらでも視界が揺れる。

 タダのテレフォンパンチじゃない。ロングフック。これはボラードか!!

 しかし、なんて破壊力だちくしょう。スマッシュはスリークオーター、ボラードは横。放つ場所は違えど、振り抜きの同じパンチ。

 出所が違うだけで同じ性質のパンチだな。破壊力もやや同じだし。

 尚もガードを固める俺。追撃を警戒してだが、ヒロは振り抜きで更に脚が死んでいる。追撃は来なかった。

 損したじゃねーかよちくしょう。追撃が来ると思ってガードしちゃったよ。攻撃すりゃは言ってダウン奪えたかもしんねーのに。

 ムカついて踏み出した。ぎょっとした。ヒロはいつの間にか右を引き戻している。しかもあの構えは――

『ここで大沢選手のスマッシュが決まりました!!しかも緒方選手、もろに喰らいましたよ!!』

 玉内の言う通り、俺はスマッシュをもろに喰らってしまった。間違いなくダウンする破壊力。しかもこっちはダメージの蓄積がヤバい。

 だが、俺は両脚を広げてダウンを拒否した。自分でもびっくりだ。あれ喰らって今の状態でダウンしないとは。

『マジか!?緒方の野郎、あれ貰ってもダウンしねえのかよ!!』

『玉内君、言葉使い!解説なんだから!』

「そりゃビビるよな。あれをもろに喰らったんだ。元気な状態ならいざ知らず、今の状態でもダウンしねえとか、お前はやっぱ本物の馬鹿だ」

 うるせえ。お前だってコークスクリュー喰らってもダウンしなかったじゃねーかよ。

「時間も時間だ。決めさせてもらうぜ隆」

 バシバシと顔面にパンチが当たる。俺は避けもせず、ガードもせずに全部喰らった。

『緒方選手、もう限界のようですね。反応しません』

 玉内の諦め声。限界?外からはそう見えるのか。

「早いとこぶっ倒れろよ隆!」

 言いながらも顔面にバシバシ当たる。なんだろうな、まったく痛くねーや。さっきまで疲れていたのにそれすら感じなくなった。

『……え?あ、あれ……?』

『どうしました玉内さん?』

『いや……大沢選手が下がっている……緒方選手が被弾しながらも摺り足で進んでいるから……ですが……』

 驚く事はねーだろ。だって全く効いちゃいないんだから。効かないパンチならガードする必要もないだろうから。

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