地域活性化友好交流会~006

 コングが鳴って無言でリング中央に向かう。

 そして無言で拳を突き合わせる。戻してジャブ。

 躱すヒロ。若干のバックステップで距離を取る。そこに追撃宜しく、大きく左脚をスライド。

 超前傾姿勢での左ボディ!しかし届かない。

「序盤でやったパンチが通用するか馬鹿」

 言いながらも遠くに逃げるヒロ、このラウンドはダメージ回避に当てるつもりか?

 気持ちは解るし、俺もそれやりたいくらいだが、生憎とテク不足なんでな。勢いに乗るのに精いっぱいなんだよ。

 ガードを固めてダッシュする俺。読んでいたんだろう、バックステップで逃げる逃げる。

 肩でフェイクを入れながら真っすぐ追う。カウンターを喰らいやすいが、破壊力に次いで自信があるのがこのダッシュ力だ。

「逃げてばっかじゃ俺には勝てねーぞヒロぉ!!」

「このまま逃げ切れば判定で勝てる。そんくらいも解んねえのかバカ」

 アホにバカと言われるこの屈辱よ。つうかお前も逃げるつもりがないだろうに、よく言うぜ。

 隙を見つけて打つつもりだろ?お前も何だかんだ言ってKO狙いだろうに。

 しかしそれは叶わないぞ。だってKOするのは俺だからなぁぁぁあああああああああ!!!

 ギアを上げる。このラウンドで捕らえられなくとも、プレッシャーをかけ続ける!!

 俺のスタミナ切れの方が先のような気もするが、そんなの知ったこっちゃねえ。特攻こそ俺の真骨頂だ!!

「く!!」

 ギアを上げた俺とは対照的にスピードが落ちたヒロ。

 よく考えれば……俺がヒロに勝っているのは破壊力とスタミナくらいだと思っていたが、タフさでも勝っているぞ?

 だってそうだろ?ヒロに限らず、他の奴等は貰わないように努めて動いているし、実際あんま貰わないけど、俺は真逆の貰う前提で動いているので、実際貰う事も多い。

 しかし、貰いながらも逆転はちょくちょくしている。俺が倒れないからそうなったんだが、それってタフだって事にも繋がる。

 つまり、同じ比率で攻撃を喰らっても、俺よりヒロの方がダメージがデカいって事だ。

 つまり、今の状況では、俺よりヒロの方がダメージがあるって事だ。いや、パンチは俺の方が貰っているけど、ダメージ蓄積率はヒロの方がデカい。

 それがあの失速に繋がっているんだろう。勿論フェイクの可能性もあるが、過去、それに騙されて、実はヒロの方がダメージがデカくて俺が慎重になり過ぎて追わなくて、結果判定負けは結構あったんじゃないか?

 まずは試しだ。より速いダッシュでヒロを追う。ジャブの間合いで左を放つ。

 ガードで弾くヒロ。サイドステップを使い、逃げる。

 また確証はないが、やっぱそうかも……いつもならここでオープンガードで突っ込むが、ちょっと我慢してみようか。

 追う俺。間合いに入るなりジャブを出す。やっぱガードで弾く。躱そうとはしない。こいつやっぱダメージあるんだ!!

 ならば迷う事はない。追って追って追いまくる!!

「あああああああああああああああああああ!!!」

「ちっ!!くそうぜえな!!」

 離れたところからジャブで牽制。だからな、ジャブじゃ俺は倒れねーんだよ。

 臆することなく突っ込む。当たり前だがガードして。

「この野郎!!今日に限って冷静とか、何の冗談だ!!」

 逆にヒロが焦っているように見える。いや、焦っているんだ。スタミナがヤバいんだこいつ!!

 更に踏み込む。ジャブがガードに当たる。ダメージは全くない。

 そして俺の左脚が遂にリバーの間合いに入った!!

 咄嗟にリバーをガードするヒロ。ここで打ってもダメージ半減以下。ならばとスイッチ!!

 まぐれだろう、練習で成功した事はないんだし。だけどイメトレはしょっちゅうやった。踏み出しと同時に右脚を内に捻る。

 そして右脚から腰、背中、肩、肘、最後に螺旋の運動を右拳に乗せて――

 解き放つ俺のコークスクリュー!!リバーをガードしていたヒロは咄嗟の事に対応できず!!

「がはっ!!」

 !!手応えが軽い。あの野郎、こんな状況でも身体を捻ってダメージを軽減させやがった!!

 しかし、入った事には変わらない。入ったと言う事はぶっ倒れたと言う事だ。

「ダウーン!!」

 腕を上げてガッツポーズを取る俺。歓声が今まで以上に大きくなった。

『大沢選手、ダウン!!ダウンです!!これは緒方選手のKO勝ちか!?』

『いえ、完全に入ってはいませんでした。身体を捻って力を逃がしましたから、立つでしょう。しかし、あの状況でも随分冷静ですね、大沢選手は』

『立つんですか?あんなに凄いパンチが決まったのに?』

『ですから決まっていないんですよ。ですがダメージは相当なもののはずです。そして、第五ラウンドのあのボディの正体が朧げながらに見えましたね……』

 流石玉内。完全に解ったとは言えないだろうが、あのパンチの正体に肉薄することくらいはできそうだな。

 コークスクリューを見たからだろう。俺のコークスクリューは右脚が肝なのだから。

『あの謎のパンチが解った?』

『朧気ですけどね。今のコークスクリューと同じ打ち方だと言う事です』

『え?でも、お腹と顔でしたけど?』

『打ち方は全く同じです。距離が違うだけです。その距離の違いでボディか顔面になるのでしょう。そんな単純な話でもないでしょうが』

 概ね合っているな。距離の違いと言うよりも、ワンインチパンチが俺のコークスクリューの完成形なんだけど。

「シックス!!」

『おーっと!そうこうしている間にもカウントが進んでいた―!!』

『今は謎のパンチよりも大沢選手の心配ですね。立つとは思いますが』

 玉内もブレねーな。立つと信じているんだから。まあ、俺も立つと思うけど。

「セブン!!」

 動かないヒロ。ダメージがデカいのは見ての通りだが、あいつは絶対に立つ。

「エイト!!」

 ガバッと上体を起こした。ほらな。立つだろ。

「ナイーン!!」

 がくがくしながらも立つ。ちゃんとファイティングポーズも取って。

「やるのか?」

「当たり前だろ!!」

「本当は止めたいんだけど……」

「止めたら出川さんを先にぶっ飛ばす!!」

「ファイっ!!」

 あっさり引き下がるなよ。そんだけヒロの殺気が凄い事になっているんだろうけど。

 ともあれチャンスだ。もう一発当ててまたぶっ倒す!!

 ダッシュで間合いを詰める俺。ヒロは脚も使わずにガードを固めているのみ。ダメージは深刻そうだ。

「あああああああああああああああああああ!!!」

 振り被っての右!!しかし、俺の顔面にガツンと顔面に衝撃が走った。

『大沢選手のパンチが当たりましたー!!』

『カウンターです。狙ったと言う訳じゃないんでしょうが』

『何故?』

『真正面から大振りで仕掛けようとしてきたんです。隙しかないのでカウンターが簡単に取れたんです』

『ならば今回は緒方選手がダウン?』

『いえ、緒方選手はカウンターが来る事は想定済みでしょう。あれこそが緒方選手の真骨頂ですから』

 その通り。カウンターを貰う事は承知だ。だが、来ると解っていればナンボでも耐えられるのが俺だ!!

「あああああああああああああああああっっっっ!!!」

 顔面にパンチを貰いながらも右を振り切った。ヒロはガードを固めたが、それをぶち壊すパワーを込めて!!

「この特攻バカが!!」

 文句を聞く前に左のフォロー!! ぶち壊したガードの隙間にパンチをねじ込んだ!!

『入ったー!!緒方選手の左パーンチ!!」

『入りましたが、浅いですね。流石大沢選手、僅かに身体をずらしてダメージを軽減させました』

 言われなくとも知ってるわ!!こんなの毎回やられているわ!!

 だけどここからの勢いは相殺できるのかヒロお!!!

 右フック!!ガードで弾かれる。左フック!!これも躱させる!!

 ヒロが焦った顔をする。そうだろう、フックを放つと言う事はそこは俺の間合いだって事だ!!

 左右の高速フック!ガードをより強固に固めて凌ぐヒロ。いや、ただ凌いでいる訳じゃない。目が全く絶望しちゃいない。

 ギラギラと隙を窺っている目。ほんの僅かな隙を見逃さないよう、より集中しているのが解る。

 それでこそお前だ。だからお前に勝ちたいんだ。

 じゃあこのヒロにどうやって勝つ?答えは簡単だ。

 ガードをぶっ壊すまで放ち続ける!スタミナ?何それ美味しいの?

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 捻りで遠心力を与え、パワーをそれに上乗せして!!

「く!この野郎……」

「この野郎はお前だヒロ!!とっととぶっ倒れろ!!」

 じりじり下がるヒロ。その分前に出る俺!!

 そしてロープに追い詰めた!!

 貰った!!渾身の右フック!!どこにも逃げられねーだろ!!俺の勝ちだヒロお!!!

 絶対に当たる筈の右。しかし、俺のフックは空を切った!

 何!?なんでだ!?逃げ場はない……

 いや、あった。ロープの弾力だ。それを利用して後ろに下がったんだ!!

 やられたちくしょう!!俺は大振りもいいとこの右フック。放った後は隙しかない。

 ヒロが笑ったのは見えた。しかし、それは一瞬。

 次に見えたのは天井。アッパーをもろに喰らっちまった!!

『おおーっと!!大沢選手、劣勢から逆転の……えっと……』

『左ショートアッパーです。気分よくフックを連発していた緒方選手はカウンターを喰らいましたね。かなりのダメージが見込まれます』

 その通りだよちくしょう!!大抵の奴ならダウンするぞこれ!!

 だが、俺は大抵じゃねーんだよ!!なのでスタンスを広げて踏ん張った。

『あ!!』

 何が「あ」だ玉内?あ、いや、解っちゃったよ俺も。

 気付いたが時すでに遅し。俯き加減状態の俺の顎が再度跳ね上がった。

 しかし真上じゃない。視界は斜め方向だ。これはスマッシュ!!もろに喰らった!!

『ダウーン!!緒方選手ダウンです!!』

 そりゃダウンするだろ。スパーのグローブとは言えスマッシュだぞ。まともに喰らったし。

『左ショートアッパーのカウンターには耐えましたが、流石に利き腕でのスマッシュには耐えられませんでしたね』

『緒方選手のダメージは深刻……で、いいんだよね?』

『そうです。KO負けしてもおかしくはないダメージを貰った筈ですから。だがまあ、立つでしょう』

『大沢選手のように何かをして躱した、とか?』

『いえ、ただの根性で。証拠にまともにヒットさせた大沢選手ですが、倒れている緒方選手から目を逸らしません』

 なんだ、ヒロも見ているのか。俺が立って逆襲すると思ってんのか。

 まあ、その通り、立っちゃうのが俺なんだよなあ!!

 カウント8、超根性で立ち、ファイテイングポーズを取る。

「やれるのか?」

「当然っす」

「止めたいと言ったらどうする?」

「出川さんのケー番、いろんなところに晒します」

「ファイッ!!」

『カウント8!続行だあああああああああああああああああああ!!!』

 里中さんのコールで会場が盛り上がった。しかし、それは肩透かしとなる。

 カーン!

『おおっと!ここでコング!第6ラウンド終了です!』

 なんかあ~あ。とか聞こえたし。まあ、兎も角コーナーに戻る。

「スマッシュを喰らってよく立った!!」

 座らせてうがいうさせながら青木さんが褒めた。まあ、あんなもん、大した事じゃない。

「このラウンドはイーブンだろうな。手数でも負けてねえとか、お前にしちゃ上出来だ」

「っす。んで荒木さん、ヒロをぶっ飛ばす策ください」

 イーブンだろうが何だろうが、俺に取っちゃどうでもいい。って訳じゃないが、まあ、そんなに重要じゃない。

 俺にとってはKOできるか否かが重要なのだ。喧嘩で判定なんかないだろ?勝つも負けるもKO決着が望みなのだ。

「脚は?」

「半分死んでいます」

「スタミナは?」

「まだまだいけます」

「ダメージは?」

「ちょっと洒落なんないっす」

 う~むと腕を組んで考え込む荒木さん。

「博仁はどうだと思う?」

 おっと、青木さんに訪ねられたぜ。ぶっちゃけよく解らんが正解だが……

「ダメージも俺より濃いと思いますし、スタミナも結構ヤバいと思います」

「お前の印象ではそうなんだな?」

「青木さん達は違うんすか?フェイクだとでも?」

 その問いに首を横に振っての否定。

「俺もそんな感じだと思う。荒木は?」

「俺もそう思う。んで、向こうのセコンドがこっちと同じことを博仁に聞いていると思う」

 まあそうだろうな。特に幸田さんはそうだな。あの人やたら心配症だし。

 頷く青木さん。

「まあ、こういうこった。俺達以上にこいつ等は互いの事を知っているってこった」

 まあそうだよな。青木さん達よりもヒロの事は知っているつもりだ。逆にヒロもそう思っているだろう。

「俺達が、多分向こうも同じことを言っているだろうが、こいつ等の為にやれるとしたら、それは助言じゃねえ。ヤバくなったらタオルを投げるのに躊躇しない事だけだ」

 思いっきり思考放棄じゃねーのそれ?だがまあ、有難いっちゃー有難いかな?

「聞いたな隆?俺も青木と同意見だ。いよいよとなったらタオルを投げる。投げられたくなかったらなるべく貰うな」

 頷く。そしてマウスピースを嚙ませた。

「「行ってこい隆!!」」

 頷いてコーナーから出る。しかし、最終ラウンドみたいないい方だな。まだ7ラウンドだぞ。

 ああ、そっか、最終ラウンドまでやらせるつもりはないって事か。やりたいんだったら貰い過ぎんなって脅しか。

 んじゃ、ま、情報交換と行こうか。

 リング中央、ヒロと拳を合わせながら訊ねる。

「貰い過ぎたらタオル投げるって言われちゃったよ」

「お前もか。俺なんか今すぐ続行不可能だってレフェリーに言いに行くって言われたぞ」

 俺よりもダイレクトに脅されたようだな。まあ、お前の場合はワンインチパンチとコークスクリュー貰ったからだろうけど。

「んじゃあ程々にしとくか?」

「やらせかよ。つうか俺がうんとか言ってもお前絶対に程々にしねーだろが」

「当たり前だ。馬鹿がまんまと騙されたと笑いながらぶっとばしてやる」

 なんだこいつは。うっかり乗っかったら馬鹿見るところだったじゃねーかよ。俺が絶対に乗らねーと思っての軽口なんだろうが。

 こつんとグローブを合わせて同時に引く。ヒロはバックステップで距離を取り、俺は利き足に力を込める。

『さあ!第七ラウンド開始です』

『序盤は様子見、は無いでしょうね。緒方選手が若干かかり気味ですし』

 かかり気味って、競走馬か。逸っていると言えよ。早くヒロをぶっ飛ばしたい欲求の表われとか言ってくれ。

 そうは言ってもインターバルでの回復は見込まれないので、切れのあるダッシュは不可能だ。

 逆にヒロも本来のステップじゃない。根性で追えば捕まえられるとは思う、現にさっきのラウンドは捕まえたし。

 なので根性で追う!!しかしなかなか縮まらない。当たり前にヒロも根性で逃げているからだ。

 追う俺、逃げるヒロ。つってもただ逃げるんじゃなく、時々ジャブを放つ。そうしないと消極的がどうのとかの指導を受けるから、ポイントで負けるからな。

 全くよく考えているぜヒロ。おかげでこのラウンドはイーブンで終わりやがった。

『第七ラウンド。クリーンヒットなしで終了しました』

『大沢選手、明らかにスタミナ回復に当てましたね。緒方選手も付き合って自分も回復に努めたようです』

 その通り、なんやかんや言ってお互いマジに追わなかったし、逃げなかったし。

「隆、スタミナは?」

「まだまだいけるっす。今のラウンドでダメージもちょっと回復しましたし」

「そうか。じゃあ次で勝負を仕掛けるか?」

「俺は常に勝負を決めに行っているはずっすが……」

 今までのは何だと思っているのだろうか?適当に流しているとか思われているのか?

「まあ、そうだよな。ただ決まんなかっただけで」

 荒木さんの言う通りなので頷いた。実際その通りなんだから。

「だけど博仁をこれ以上休ませるのはまずい。向こうの方がテクニックが上だし、試合運びも上だから」

 俺もそう思う。8ラウンドでなにか形に残さないとヤバいな……

「博仁は絶対にくっつかねえ。脚を使って攪乱するだろうな」

「ヒロの脚は多分想像以上に動かないっす」

 7ラウンドで回服出来るダメージじゃない。ワンインチパンツをもろに喰らい、コークスクリューも浅いながらも喰らってダウンしたんだから。

 だから向こうの方がダメージはデカいと思う。俺の心配はカウンターを貰うかもって所だな。特攻上等なんだし。

 そろそろ時間だ。マウスピースを噛ませながら荒木さんが言う。

「兎に角追え。捕まえろ。ボディ重視だぞ。ワンインチパンチのダメージは恐らく今日中には抜けねえから、動きは当然鈍い筈だ」

 頷いて立つ。そしてリング中央で拳を合わせて――

「!!?」

 奥歯をかみしめてガードした。ヒロが突っ込んでスリークオーターの形を取ったからだ。

 スマッシュ。さっきのように奇襲を仕掛けたんだろうが、流石に二度目はねえよ。舐め過ぎだ。

『おお~と!!緒方選手の身体が浮いた~!!』

『スマッシュです。またもや開始直後に仕掛けてきましたね大沢選手』

『しかし緒方選手はガードしました!!』

『流石に二度目は無いでしょう。あれで大変な目に遭ったんですから』

 その通りだが、ワンインチパンチが決まったからむしろプラスなんだが。

 今のスマッシュも実はプラスだとしたら?

 振り抜きしたヒロの懐を……あ、身体浮いていたんだっけ。じゃあ突っ込むのもできねーな。

 出鼻をくじく作戦か?実際くじかれたから、もしそうだったら成功したな。

 脚がマットについたとほぼ同時にヒロが離れた。パンチが届かない距離だ。やっぱりあいつ、うまいよな。

 タンタンタンとリズムよくステップを踏むヒロ。あれは絶対フェイクだよな。まだダメージ抜けていないと思うし。

 まあ、それは俺も同じか。だが、真っすぐ突っ込むだけなら足捌きはそんなに必要ねーんだぞ。

 大きく息を吐く。肺から空気を全部出すが如く。

 出し切ったら今度は大きく空気を吸う。酸素をなるべく取り込むように。

 そして息を止めて。利き足に力を込めて!!

『おおーっと!!緒方選手突っ込んでいったああああ!!!』

『くっつかなければ緒方選手に勝機はありませんからね。しかし終盤であのダッシュ力とは、緒方選手のスタミナは驚愕物ですね』

 もっと驚愕してもいいんだぞ。だってここから更にギアを上げるからな!!

『止まらない!緒方選手!!大沢選手をとことん追います!!』

『大沢選手の方がスタミナが乏しいようですね。ダメージも大沢選手の方があるようですし』

『玉内さん、それはいったいどういう事でしょうか?』

『明らかに動きが鈍っているからです。だが、緒方選手はダッシュだけで言うのなら、序盤とそう変わりません』

『そうですか。それはおおおっと!!大沢選手、ロープまで追い込まれたぞ!!」

 さっきはロープの弾力を利用されて躱されたが、二の轍は踏まねーぞ。そのくらい解っているよなヒロ!!

『緒方選手の左ボディ!!しかし距離があります!!』

 実況の通り、距離はあるので届かない。だが、これは前振りみたいなもんだ。

 簡単に躱すヒロ。ちょいと身体を引かせてれば、パンチは当たらないのだ。多分こうすると思ったんだ。

 そして俺はスタンスを戻す。しかし左脚じゃない、右脚を前に出して。

 内に捻る右脚。それは腰に伝達され、背中、肩、肘、そして拳に伝達された。

 溜めの必要なコークスクリューだが、どうにか打とうと試行錯誤してんだよこっちは。

 解き放つ右。回転を加えたストレート!!

 ガードを固めたヒロ。コークスクリューが来るとは思ってはいなかったんだろうが、それでもガードするとは流石だ。

『大沢選手がガード事ロープにめり込んだぞ!!』

 ここまでの破壊力。ロープじゃなくコーナーならガードをぶっ壊せたんだろうが、まあいい。これは本命じゃない、下準備だ。

 素早く右を戻す。そしてサウスポースタイルのまま左ボディ!!

『やっぱりガードに弾かれましたね。コークスクリュー対応のガードですから強固なのでこの結果は納得です』

 俺も納得だよ。だが、まっ直ぐへのガードだ。上に注意しているか?

 素早く左を戻して、右アッパー!!サウスポーでの右アッパーなので、多少距離が遠くてもどうにかなる!!

 流石はヒロで、ガードした。しかし間に合わない。まともに当たらなかったが、身体を浮かせるくらいはできたぞ。

「ぐっ!!」

 浅いがダメージは通っているようだな。だったら更にもう一発だ。

 踏み込む。今度が左足で。オーソドックススタイルに戻したのだ。しかし、そうなるとより接近する事になる。

 だが、ここは俺の間合い。取り分けアッパーの間合いだ。

 超至近距離からの縦回転の右アッパー!!さっきの半端なアッパーと違って今度はウェイトが乗った完璧なアッパーだ!!

 そのアッパーは崩れたガードをぶち壊し、ヒロのチンに入った!!

「がっ!!」

 大きく仰け反るヒロ。追撃とばかりに左拳に力を込める。

 目が合った。ヒロのおっかない目と。カウンター狙いか?上等だ!!

「あああああああああああああああああああ!!!」

 左フック!!案の定打ち下ろしを被せてくるヒロ。相打ち、もしくは俺の方が若干速い!!相打ちでも我慢比べなら絶対に負けねーよ!!

 俺の左がヒロの頬の入った!!少し遅れてテンプルに衝撃!視界が揺れるが、来ると解っていたんだ、耐えきってやるぜ!!

『ダウーン!両者ともにダウンしました!!』

 マジかよ!俺の方が若干速かったのに、俺までダウンするか!?

 つうかあの打ち下ろしなんだ?チョッピングライトとは違うぞ?

『ボラード!!大沢選手、ボラードを隠し持っていました!!これは効いていますよ緒方選手!!』

 ボラードだと!?ヒロのあれはロングフックか!?低いアッパーだから打ち下ろしに見えたのか!?

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