黄金週間~008

「学校生活悩み相談部ってのもあるぞ。こいつの女が部長やってんだ」

 坂口が東山を指差してそう言う。

「それはいい事じゃねーの?学校生活に不満を持っている奴等の悩みを聞くんだろ?」

 多分何も出来やしないが、愚痴を吐きだす事で気持ちが軽くなる事もあるだろ。

「学校生活の悩み聞くだけならな……」

 なんか重い溜息を付いた東山。その他にも何かあるのか?

「……飼っていたインコが逃げたから探してくれとか……だれだれが好きだから付き合えるように協力してくれとか……」

「ただの便利屋じゃねーかそれ」

 まあ、確かに悩みっちゃー悩みなんだろうけども。いい様に使われているだけじゃねーの?

「で、その相談の成功率が10パーセントも無いって言う」

「もう辞めちゃえばいいだろ、そんな部活」

 彼氏たる東山の方が悩んでいるようじゃねーかよ。彼氏の悩み解決してやれよ。

「そうは言っても、藤咲に助けられた奴も確かに居るんだし、あの儘でもいいんじゃねえか?相談だって色恋沙汰が8割くらいなんだし」

 坂口が慰めるようにそう言う。成程、東山の彼女は藤咲ふじさきさんと言うのか。

「よく無い。人手が必要な時、俺も駆り出されるんだ。面倒臭いしどうでもいいからやりたくねえのに……」

 本気でげんなりして重い溜息を付いた。

「うん?まさかその部活って一人でやっているのか?」

「そうだよ。だから俺が殆ど協力する羽目になるんだよ。本気で潰れてくんねえかな、あの部活……」

 いや……マジで災難だな……俺も結構災難だと思っていたけど、俺以上だなこいつ……

 そんな雑談をしていると、ヒロが帰って来た。

「おうヒロ、どうだった?」

 問うと、ヘルメットを脱いで頭を振る。その時ギョッとした。

 ヒロも波崎さんも大雅も橋本さんも、案内で同行していた田中って奴も真っ青な顔をしていたのだから。

「ど、どうしたんだ大沢?大雅も……」

 この尋常じゃ無い気配を察して女子達も寄ってくる。

「……波崎、酷い顔色だよ……」

「ああ、うん……」

「橋本さんも真っ青よ?一体どうしたの?」

「………無かった……」

 何が無かった?意味が解らず、河内と顔を見せ合う俺。

「……ペンションなんて無かった」

 大雅の言葉に難しい顔をする品川。

「田中、道間違ったのか?」

「……そうじゃねえ。案内看板通りに進んだんだからな。だけど無かった……」

「ペンションが無かったって事か?畳んだんじゃねーの?」

 お客が来ないから辞めたなんて話、よくある事だろ。

「……確認だが、連山から越してきた奴ってのはペンションで住み込みで働いてたんだよな?」

 ヒロが品川に凄みながら問う。そう言う話だったが、畳んだのはその後なんだろ。佐伯が辞めた後畳んだとかちょっと出来過ぎのような気もするけど、、最初から決まっていたのなら納得だし。

「そう言う話だったが……そもそもどうやって知ったのか記憶がないが……」

 真っ青になって品川が返す。それが気持ち悪いからとの理由でヒロが偵察を買って出たんだ。

「……廃業してから一年は経っているぞあの建物」

 ざわっと全身が泡立った。俺だけじゃない、多分みんなも。

「ち、ちょっと待てよ……三軒とも?」

 坂口が身を乗り出して訊ねた。

「三軒?そうだな……ぺしゃんこになった建物を合わせれば三軒か」

 そう言って写メを見せる大雅。それを見て更に寒気が増した。

 一軒目、確かに建物の原形は保っているが、屋根の庇が潰れていたり、窓ガラスが割れていたり……

「……これが大沢が言った廃業してから一年のペンションで……」

 スライドさせると、そこには原形を留めていない建物が。こっちは崩壊寸前。ぺしゃんこになっていた。

「……これはまだ屋根があるからな。こっちはこうだ」

 最後の一軒。これには身を仰け反った程驚いた。いや、嫌悪した。

 火事か何かにあったような柱が数本、立っているのみ。燃えたのが丸解りだった。

「……嫌な気配はしたんだよ。特にその火事になったペンション……」

 自分を抱きしめるよう、腕を回してカタカタ震えている波崎さん。それはひょっとして……

「……亡くなったようだね……まだ居るよ、その魂が」

 国枝君の言葉の後、今度は手に取るように解った。全員蒼白になった事が。だって俺、全員の顔を見渡したんだから。俺がこの目で見たんだから間違いない。

「……ねぇ大沢君、さっき廃業から一年経っていたって言ったけど、なんで?」

 遥香が疑問を投げた。ヒロは至って普通な顔をして答えた。

「その廃屋、一年は経っているだろ?見たら解るじゃねえか?」

「そうじゃなくて、この廃業したペンションのほうに住み込みで働いていたような感じで言っているような気がするんだけど」

 顔を見せ合うヒロと大雅。波崎さんと橋本さんもだった。何言ってんだ?って感じで。

「いや、そうだろ?え?ちょっと待て……」

「……そういやそうだよ。私達、こっちの廃屋に在籍していたって思い込んでいたけど……」

 波崎さんの言葉に頷く遥香。

「こっちの火事の方。こっちに在籍していたんじゃないの?焼けてからそんなに日にち経っていなさそうじゃない?」

 そう言やそうだ……焼け残った柱があるんだ。比較的新しい時期に火事になったんだよ。日にちが経過しまくれば、柱なんて直ぐに倒れる。

「言われてみればそうだよな……漠然とこっちの方だと思っていた……」

「正輝も?私もそうだよ……何コレ?なんか……」

 橋本さんの唇が紫色になった。震えも大きくなっていた。

 気持ち悪い……本気で気持ち悪い……何だ?一体何が起こっている?

「……そういや、5日くらい前の新聞に出てたような……ペンションが火事になったとか……」

 東山の呟きに全身が泡立った。やっぱりこっちに佐伯が居たんだ!!生駒のアパートに来た2日前くらいか?全焼したのは!!

 そうなると……まさか……

「……佐伯が火事を起こした……?」

「その可能性は充分あるね。尤も、あの子がそうしたのかもしれないけど」

 聞こえないように、小声で返す遥香。あの話を品川達にする訳にはいかないから、聞こえないように配慮したんだろう。

「緒方君。私と春日ちゃんは国枝君に付き合って湖に行くわ。いいでしょう?」

 いきなり振られて戸惑うも……

「ちょっと待って。なんかおかしいから……」

 本気でおかしい。だからやめた方が絶対にいいと思う。嫌な予感ってヤツだ。

「あの湖もなんかおかしいんだよ。ざわざわするんだ。僕一人で行くと言ったけど、二人が付き合うと言ってくれたからお願いしたんだよ」

 口を挟んだ国枝君。表情は何かを決意したように見える。

「でも、湖をどうやって調査するんだ?」

「ボートがあるだろう?」

 スワンボートが沢山浮いているが、あれで沖に出ようって事か?

「危険じゃないか?何かありそうだし……」

「だから僕が行くんだ」

 相変わらず決意した瞳を俺に向けて言い切った。

「そんなに心配いらないわ。無茶しようものでも私達足手纏いが居るのだし」

 笑いながら。自分達は国枝君の枷だと。

「……国枝君を信頼していないと言うんなら仕方なく諦めるよ?」

 相変わらず春日さんはヤラシイ攻め方するな!!そんな事言われたら反対する訳にはいかないだろ!!

「解った。だけどホントに気をつけてくれよ?」

「任せてくれ。じゃあ行こうか二人共」

 頷いて国枝君の後に続く春日さんと横井さん。やっぱ女子の方が胆が据わっているよなぁ……

 遥香が指を差してこっちに来いと促す。なんだと思って付いて行く。

 でっかい木の下に連れて行かれた。しかもあいつ等から意外と離れちゃったし。

「なんだよ?この木がどうかしたのか?」

「そうじゃなくて、内緒話。あの話は彼等に聞かれたくないでしょ?」

 そうだな。あの話は無関係の人には話せないよな。

 納得した所で先に進むぞ。

「あの話関連だってのか?この怪現象は」

 みんな何となく外れている。注意深く見ればその通りと納得できるが、認識がずれている様な。

 その他に記憶が曖昧になっている。こっちは渓谷の奴等だけだが。

「これを朋美がやったってのか?ただの生霊だぞあの糞女は。そんな力あってたまるか」

「うん。多分須藤の力じゃない。こんな摩訶不思議な力、あったらとっくに使っているだろうし」

 遥香もそうだと。じゃあなんだ?

「認識が微妙にずれている。曖昧な記憶。渓谷に来てからこれだけの事は解った。で、気付いた事があるんだけど」

「それはなんだ?」

「佐伯さん、どうやって須藤の生霊と会えたの?」

 どうやってって……はて?

 ……いや、いやいやいやいや……そうだ、そうだよ……

 以前話ししたじゃねーか。川岸さんは朋美と会えて。佐伯は会えなかった。だけど先の事件で生霊の朋美に命令されて生駒を殺しに来た事が解ったじゃねーか!!

「……須藤の生霊が出てくる条件、川岸さんはそれを満たせたけど、佐伯さんは満たせなかった。だけど今回ようやく満たせたって事だよね。あくまでも仮説だけど」

 何度も頷く俺。そうだ、そうだよ、その通り!!

「渓谷の友達もその条件を満たせたから出て来れた。須藤を認識できたって事になるよね?」

「この摩訶不思議な現象は、その渓谷の友達がやったってのか?」

 頷く遥香。その意見には同感だが……

「どうやって?」

「それは全く解らない。国枝君と波崎に丸投げするよ」

 大袈裟に肩を竦めて。まあ、専門の人がいるからそれでいいんだろうけど。つか、専門じゃねーけど。今は単なる霊感持ちだし。

「佐伯さんって今どうしているの?」

「入院中な筈だ。大雅は知っているんじゃねーかな……」

 俺にも教えろと言ったが絶対に教えてくれなかった。生駒とヒロにも。曰く、病院に追い込みを掛けるだろ?だったら他の入院患者の迷惑になるから駄目だ。だってさ。

「じゃあちょっと呼んで来るよ」

 そう言って走り出す。そして渓谷の野郎共と話し中の大雅と橋本さんを引っ張って戻って来た。

「内緒話?」

 橋本さんに訊ねられて頷く。そしてさっきの話を二人にも話した。

「……どうやって出て来たのかそれを知りたいって事か。だけど……」

 俺を横目で見ながらとても言い難そうに。俺には教えたくねーんだけどって雰囲気をバンバン出しながら。

 しかし、そもそもだ。

「佐伯の糞野郎の前にお前は出す気はねーからな。お前に乱暴しようとしたんだぞあいつ」

 そんな糞中の糞の前に愛する彼女さんを出せるか。間違いなくぶち砕くわそんなモン。

「じゃあ、えっと、例えば大雅君だけ行って、スマホで私が聞き出すとか?」

「あの糞にお前の声なんか聞かせられるか。そう考えたらやっぱ殺した方が良さそうだな。俺の精神安定の為に」

 心底そう思う。あの時大雅が喉を突いて気を失わせた事が俺的にやり過ぎだと思ったが、殺してねーからやり過ぎでもなんでもなかったわ。

「……やっぱり教えられないな、これじゃ」

「そうだね。訊ねたい事を正輝に伝言するしかないよ。乱暴云々の件で女子は前に出せないとは同感だし」

 大雅が聞きたい事を代わりに佐伯に聞きに行くって事?だけど……

「いくらなんでも佐伯って白浜に入院しているんだろ?大洋からわざわざ聞き取りに行けとは言えねーよ。だから俺が」

「今日の晩に行くから、緒方君が心配する事は無い。訊ねたい事をメールで知らせてくれ」

 ちっ、先手を打たれたか。つか、やっぱ白浜のどこかの病院に居るのか。何ならあの糞の家に行って親に訊ねてもいいけど。多分絶対に教えてくんないと思うけど。

 何故なら、家に押しかけた時、居留守使われて、それにムカついて押し入って親御さんの前でぶち砕いたからな!

 母親が泣いて謝罪したから半殺しもしなかったけど。あの両親、自分の息子が悪いって解っていたから警察沙汰にもしなかったし。

 つか、俺って武蔵野のケー番知っているんだった。あの糞デブに入院先を聞いて貰うって手が一番手っ取り早いかも。

 ちょっとトイレと言ってあいつ等から離れた。

 そして武蔵野の糞デブに電話。数コール後、当然のように出る。

『も、もしもし?』

「おう武蔵野先輩、ちょっと頼みたい事があるんだけど、佐伯の糞野郎の入院先調べられねーかな?」

『調べる……普通に電話で聞けばいいのかな……』

 知らねーよ。俺がお前に頼みたいのは佐伯の入院先を知りたいって事だけだ。経過はお前がどうにかしろよ。

「つーかあの糞って白浜ではお前しか知り合い居なくなったのか?お前には電話かかって来るようだけど、他の奴には無いのか?」

『どうだろ……他の奴にそう言う話聞かないからな……荒磯にもオナ中の奴はいるけど、佐伯と接触したなんて話聞かないから……』

 あの糞に関わったら俺にぶち砕かれるからだろ?糞が巻き添えを喰らわないように糞から離れたってだけだ。

 ホント、荒磯って糞しかいねーよな。児島さんだけか?まともな人は。

『だけど、佐伯の親とは顔見知りだから、親から聞けるよ。で、でもそれで病院に追い込みかけられると、お、俺が後から困る事になりそうなんだけど……』

 なんかおどおどしながらそう言った。お前がチクっただろとか完璧に言われるだろうな、絶対。下手すりゃ親御さんからも恨まれるかも。武蔵野が恨まれようが世界一どうでもいけど。

「どうやって調べようがなんでもいい。お前から聞いたとか絶対に言わねーし、なんなら日にち置いてから訪ねるし」

『だ、だったらいいけど……じゃあ……解ったら電話するから……』

「おう、頼んだぞ」

 そう言って電話を終えた。そして、足早に戻った。時間かかり過ぎたら疑われちゃうからな。

「あ、ダーリンおかえり。大雅君に聞きたい事を話して来て貰う事にしたよ。それ以外は断るって」

「当たり前だよ。緒方君は前に出せないし、強姦しようとした馬鹿の前に女子は出せない」

 いいんだいいんだ。俺は別口から会いに行くから。

「まあ、解った。その話は後だ。渓谷の奴等をほっといてこっちだけで話すとか不義理だ。だから早く戻ろう」

 そりゃそうだと頷く。なので足早に戻った。

 丁度良く生駒たちが帰って来た。そして楠木さんが走りながら寄ってくる。

「お待ち。渓谷学院って意外と大きくてびっくりしたよ」

「ああ、でも、統廃合の結果だからな。人数が多いと言っても」

 答えた坂口に写メを見せる楠木さん。

「えっと、岡って人がオカルト研究会はこの部室だと思ったって自信なさ気に言うんだけど、あってる?」

「……東山」

 面倒そうに東山がスマホを覗き込んだ。こいつ等オカ研の部室うろ覚えなのかよ。興味ないんならそうだろうけど。

「ああ、間違いない。暗幕有っただろ?あれで部屋を真っ暗くして遊ん…儀式するんだ」

「お前今遊んでいると言おうとしただろ」

 儀式と言い換えなくてもいいし。実際遊んでいるだけなんだろうから。

「じゃあ、国枝君は?」

「ああ、湖の調査」

「あ、そっか。優、視てくれる?」

「体調次第で視えるかどうかなんだけど……」

 言いながら写メを覗き込む波崎さん。スライドさせながら撮りまくった写メを視て行く。

「……私には何も感じないな。国枝君が帰ってきたら、念の為に彼にも視て貰おうよ」

「そうだねー。なんも無いんならそれに越した事は無いしねー」

 オカ研には何もないと。まあそうだろう。話しに聞けば遊んでいるだけの部活。こんな摩訶不思議な現象を起こせるとは思えない。

「……だけどとうどう、だっけ?俺達も調べてみる。何つうか、モヤモヤするからな」

 ザ・ワールドの面々も協力で調査してくれると言う。

 だったら連絡先交換だ。俺が近くにいた東山に交換を持ちかけたところ、俺も私もと。

 渓谷の5人との連絡先、ゲットだぜ!!友達100人できるかな!!

「お前ってラインやってねえのな。いいなあ、あれって既読付くから必ず返さなきゃ後がうるせえんだよなぁ……」

 東山が遠い目で呟いた。こいつも苦労しているんだなぁ。彼女に。

 まあいいや、国枝君が来るまで、もうちょっと雑談に興じよう。

「渓谷ってスポーツ強いのある?」

 とうどうが体育系かもしれないとの事で質問開始。とうどうなんて知らねえらしいが、偽名の可能性もあるからな。

「ない」

 きっぱりと言い切られたよ。清々しい程。

「そんな事は無いだろう。渓谷のカヌー部は強いだろう?」

 なんか大雅が横から乗っかって来た。南海は体育系だから、こんな話題は大好物なんだろう。

「それはこの辺には渓谷学院しかカヌー部しかないからそう思うんだろ。全県でも一位になった事ないっつうの」

 カヌー部自体、この県には乏しいからな。そこでトップ取れないからレベルは低いと言っているんだろう。

 その時丁度俺の携帯が鳴った。武蔵野からか。

「もしも」

『佐伯が死んだ!!』

 ……………は?

「ち、ちょっと待て!!いつ!?」

 俺の尋常じゃ無い気配に気付いたか、全員俺の会話に耳を傾け始めた。

『さっき!!ついさっきだって!!なんか許可取らずに隠れて外出したらしく、車に撥ねられて其の儘!!』

 あの糞、勝手外出してくたばったのか。だけどそれは多分……

「……須藤だね」

 遥香が低い声でそう言った。無言で頷いてそれに返す。

「そうか。解った。こうなってしまえばしょうがないよな」

『う、うん。佐伯からは何も聞けなくなったから……』

「……また何か気になる事が出来たら連絡する」

 もう情報は必要ないだろうから解放しろと言いたそうだったので、暗に却下した。

『わ、解ったよ……』

 力無くそう言って電話を切った武蔵野。佐伯が死んで実はホッとしてんだろお前。俺から逃げられると思って喜んだだろ。

 まあ、糞デブの思考なんてそんなもんだろ。仮にも元仲間が死んだってのに、声が弾んでいたんだから。

「……なんかあったようだな。顔色が悪いぜ」

 品川にそう言われて頭を振る。

「まあな、知り合いが事故で死んだってさ」

「え?マジか?じゃあ早く帰らなきゃいけねえんじゃねえか?」

 知り合いと言ったが仲間、味方とは言ってない。寧ろ敵だ。

「それには及ばないが、流石にこの状態で話は聞けないよな。後日改めて電話とかで、でもいいか?」

「おう。それでいい。だから早く帰ってやれ」

 美しい誤解しているな、絶対。佐伯はいつかくたばると思っていたんだからいいんだよ。まあ、わざわざ言う必要も無いけど。

「国枝君が来たら一緒に帰るよ。わざわざ悪かったな」

「いや、俺達もなんかおかしい事に気付けたからな。お互い様って事にしておこうぜ」

 東山がそう言ってくれた。気遣いに感謝だ。

「じゃあ俺達はこれで帰る。とうどうっての、調べておくから」

 そう言って駐車場に向かったザ・ワールドの面々。それに手を振って応える俺達。

 そしてバイクに乗って帰ったのを確認し、みんなを見て言った。

「佐伯はくたばった。多分朋美が殺したと思う。これであの糞から話を聞く事は出来なくなったな。まさに死人に口なしだ」

「でも、多分被疑者死亡での書類送検はあると思うよ。だってペンションを火事にしたの、佐伯さん、もしくは須藤だし」

 朋美が唆してやったとして、口封じで殺したか?お前が命令したとか警察で言われちゃ困るもんな。メールとかSNSでやり取りしてたんだから、証拠もわんさかだろうし。

 じゃあ再び雑談だ。会議のようなもんだけど。

 みんなでシートに円になって座り、武蔵野の情報を話した。

「……そうか、やはり緒方君の言う通りになったか」

 大雅が神妙な顔でそう呟いた。佐伯は殺されると言ったからその事だろう。

「でもさ、ただの事故の線ってのは無いの?」

 橋本さんの質問である。答えたのは遥香。

「その可能性も勿論あるけど、多分殺された。そして火事を起こしたのも須藤。憶測だけど」

「火事もそうだけどよ、俺達全員そっちじゃなく、廃屋の方にいたって信じ込んでいたんだよ。その説明、誰かしてくれねえか?」

 気味悪がって縋るように訊ねるヒロだが、みんな俯いて誰も発しない。

 だってそうだろ?解らねーもんは解らねーんだよ。

「とうどうの情報も皆無。渓谷に来て解ったのはおかしな現象が起こっているだけか……」

 河内の弁に全員頷く。しかし、それが解っただけでもいい。

「なにも無いよりは遙かにいい。この怪現象がとうどうの仕業だってのは何となく思うけど」

「須藤の仕業とは考えないのか?」

 大雅の質問に首を横に振って否定する。

「あいつは単なる生霊だ。そんな力は無い」

「だけど、繰り返し?で培った力かもしれないじゃないか?戻って来てから得たのは記憶継承だけじゃなく、何らなの力も備わっているとは考えないのか?」

 大雅の言葉に何か引っかかりを覚えた。麻美も戻って来た。記憶と共に悪霊の力を持ちながら。その悪霊の力は、実の所解っていない。

 以前麻美と話した時、俺と親しい人の前には朋美が出られないようにした。それは振り分けたからだと俺は言った。

 麻美が酷く驚いてそれを是としたが、麻美の悪霊の力の本質はそこじゃない。

 俺を何度も繰り返させた、並行世界における次元移動。それが麻美の力だった。

 森井さんも児島さんも、その悪霊の力を見た。朋美を寄せ付けないようにする力なら、目に見える程驚くだろうか?それを信じる事が出来るのだろうか?

 横目で隣の遥香を見る。

 遥香も繰り返し中の記憶も持って『戻って来た』。無間地獄にいた遥香は、何の理由か定かではないが、そこにはおらずに、つたない線で引っ張られているような感じらしい。

 遥香も何かしらの力を持って戻って来たのか?そうは言っても、遥香の情報収集能力は不思議パワーって訳じゃない。努力によって得たスキルだ。

 あとは……病的に慎重くらいか?それに伴う不思議スキルも、実は持っているのか?

 そうなると、大雅の疑問に引っかかったのも頷ける。この二人が不思議スキルを持っているとしたら朋美も当然持っているんじゃないか?

 言っても生霊を飛ばせる事自体不思議スキルだが。普通に人間相手なら、そのスキルで充分過ぎるんだが。

 ならば、同じ繰り返しの俺も不思議スキルを持っているんじゃねーか?俺の繰り返し中の事と言ったら、糞をぶち砕くこの拳だ。これを戻って来た時に一緒に持って来た……

 今も昔も変わんねーじゃねーかよ!!不思議でもなんでもねーよこのスキル!!

 コークスクリューとかワンインチパンチはこっちの緒方君が開発したパンチだし、俺何もしてねーじゃねーか!!

「どうした緒方?なんか難しいツラしてよ?」

「なんでも無い。自分の不甲斐無さにちょっと苛立っただけだ」

 実際そうなんだから仕方がない。つうか河内にまで難しい顔しているとバレてんのかよ。ホント顔に出やすいんだな、俺って……

 そんな事を考えていると、国枝君達が戻って来た。

 女子二人に肩を借りて。覚束ない足取りでフラフラしながら。

「ど、どうした国枝君?やけに疲れて……いや、具合が悪そうだけど……」

「それが国枝君、湖を暫く凝視していたら、吐いちゃって……」

 国枝君を俺と河内が女子二人から預かって座らせる。

「遥香、水買って来てくれ」

「うん、解った」

 遥香がお使いに行っている間、訊ねよう。

 そう思った矢先、波崎さんの方から飛び出した発言に目を剥いた。

「死体でもあった?」

 俺だけじゃない、河内も目を剥いたし、生駒も大雅も蒼白になった。

「……波崎がこの湖嫌な感じがするっつっただろ?多分湖の底に殺された遺体があるってよ……」

 ヒロがやっぱりそうかと言った感じで付け加えた。こいつがあまり動揺しなかったのは事前に聞いていたからか。

「……うん…春日さんと横井さんにはなるべく知られたくなかったけど、気持ち悪さが勝っちゃって吐いてしまって……」

 今度は横井さんも蒼白になった。

「ち、ちょっと待って頂戴……あの底に遺体があったと言うの?しかも殺された遺体が?私達はそれを知らないで呑気にボートに乗っていたと言うの?」

「……それを調べるために同行したんだから、気にしないで言ってくれても良かったんだよ?」

 横井さん、春日さんを見て更に驚いた表情を作った。自分は狼狽えたのに、春日さんの胆の座りようにビビったんだろう。

「……それで、どこまで視れたの?」

 更に驚愕する横井さん。流石に窘めた。

「春日ちゃん、国枝君は今具合が悪いのよ?」

「……それも織り込み済みで調査に行ったんだよ?私達が今するべきことは、国枝君を気遣う事じゃ無く、視た、聞いた事を伝えて貰う事。時間が経てば記憶も薄れるから折角の行動が無駄になるよ」

「それはその通りだけれど……」

 何か言いたそうな横井さんを腕で制する国枝君。

「……遺体は死後約一年。40代後半の女性。死因はバールのようなもので数回殴られた……いや、違うな…一発で亡くなったけど、その後も執拗に殴り続けた……」

 コックリ頷く。しかし、頷いたのみ。これはもっと言えと言う事か?

 促されたのに気付いたのか、更に続けた。

「足にコンクリートを履かせてあるね……浮いて来ない様に。ボートであそこまで運んで沈めたんだ。犯人は……ちょっとそこまで視えなかったな……だけど遺体は許してと何度も言っている……」

「……他は?」

「……視たのはこれだけだよ。体調が悪くなってしまったから、これ以上は無理だった……」

 膝をついて悔しそうに項垂れる国枝君。それを春日さんがそっと抱きしめた。

「……ご苦労様。今はそれでいいよ。嫌な感じの正体が解っただけでも充分だよ」

 労うように、慈しむように背中を撫でながらそう言った。なんか感動した。なんかスゲーと思った。横井さんも驚愕から憧憬しょうけいの表情に変わったし。

「お待ちどうさま。はい国枝君。お疲れだったね。春日ちゃんも横井も」

 戻って来た遥香が国枝君に水を渡した。春日さん、それを受け取ってキャップを捻って国枝君の口に運んだ。

 河内とヒロが物調面になった。イチャコラしやがって恨めしいって感じの。なんて小さい奴等だ。感動している横井さんを見習え。


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