体育祭~004

 さて、女子の100メートル。俺達の全員トップに触発されてか、何故か全員熱くなっていた。スポ根宜しく、瞳に炎を宿している。

「女子、気負い過ぎじゃねーか?大丈夫かな…」

「大丈夫でしょ。例えばコケて最下位になったとしたら、ダーリンは責めちゃうの?」

 それはそうだな。頑張った、頑張ろうってつもりでそうなったんだから、残念ではあるが責めはしない。

「ヒロがコケたら、盛大に責めるけどな」

「あはは~。今日は波崎が来ているから程々にしてやってね」

 いや、波崎さんが居ようが居まいが、責める時は普通に責めるぞ。

 ともあれ、見守る。

 レースの内容は端折るが、一着無しの全員二着!!これはこれで全然OKだろ!!

「スゲェなウチのクラス!!総合優勝も狙えるんじゃねえか!?」

 誰かがそう言った。まだ気が早いような気がするが、100メートルリレーだけの点数でも27点だぜ!!

 因みに、以前も話したと思うが、一着5点、二着4点、三着3点、四着2点、ビリッケツが1点だ。

「あはは~。気が早いと思うけど、期待はしちゃうよね~」

 流石は彼女さん、客観的で冷静だ。もうちょっとはしゃいでもいいだろうに。

 ならば程よいプレッシャーを掛けてやるか。

「言っておくけど、二人三脚も一位狙いだからな?」

「そりゃそうしょ?私とダーリンなら当然でしょ?」

 だが、この熱い感じを維持する事はいい。程よい緊張は良い結果を齎す。

 二年、三年の100メートル走が終わり、いよいよ国枝君が出場する400メートルだ。

 トップランナーから松谷君、坂上君、国枝君の順番だ。

「じゃあ…ちょっと行って来る!!」

 松谷君が轟々と燃えて位置に付く。

「松谷、ちょっとマズイな…」

「うん。気負い過ぎだな……」

 ヒロの心配に同感だ。下手すりゃダッシュでこけたり、フライングで失格になったりするかもしれない。

「松谷君、ちょっと落ち着こう。誰もまだ位置に付いていないよ」

 国枝君が見かねてスタートラインに向かった。松谷君、ここで漸く冷静になる。

 未だ揃っていない競技相手の事を気にせずに、軽いストレッチなんかしたりして、緊張を解していた。

「良かった。あのままじゃ、いい結果は出せなさそうだったからね」

 安心して俺達の所に来る国枝君。

 そうは言っても、国枝君も意外と熱くなっている。やはり瞳が燃えていた。

 体育祭で此処まで熱くなれるのか。いや、前回俺も熱くなったから、気持ちは物凄い解かるけれども。

「国枝君、坂上君も、ストレッチしておいた方がいいよ。やるとやらないじゃ、結構な差だ」

「そうだな…緒方の言う通りだ」

「そうだね。緒方君の言う通りだね」

 二人とも納得して、奥に引っ込んでストレッチを開始する。この400メートル、ひょっとしてひょっとするかもだ。

 心無しか、ヒロも緊張して見守っている。傍らに波崎さんを連れて。

 その波崎さんは、イチゴ牛乳をストローでチューチュー吸いながらの応援だが。

「この競技って国枝君も出るんでしょ?何番目?」

 波崎さんの質問に答えるのはヒロ。

「最後だ。三番目だな」

「国枝君、勝てそう?」

「国枝は意外と運動が出来るんだが、どうかな…」

 同意見だが、今回国枝君は勝つと思うんだが…根拠は無いけれど、なんかそう思うんだ。

「ふーん………」

 なんか頷いてどこかに行く波崎さん。流石に俺も慌てて止める。

「波崎さん、うろちょろしないい方がいいよ。他校生が紛れ込んでいるとか知れたら…」

「大丈夫大丈夫。バレたら逃げるから」

 前回と同じ回答だった。意外と解らないもんだと、前回も思ったよな、そう言えば。

「じゃあ、どこ行くんだ?せめてクラスから出ない方が…」

「ちょっと勝利の鍵を取りに」

 ふふんと鼻を鳴らして姿を消すが、勝利の鍵?なんだそれは?そんなモンどこにあるんだ?

「おい隆、松谷が走るぞ!」

 ヒロに言われて疑問がどこかに飛んで行く。訳の解らん鍵よりも、松谷君の応援が優先だ。

 さっきの入れ込みと違い、ストレッチの効果か、程よく緊張しているのが解る。

「松谷、いい感じになったよな」

「うん。学校の体育祭でそこまでとは思うけど、確かにいい感じになった」

「お前がそれを言っちゃ駄目だろ…」

 確かに、俺が熱くさせたようなもんだからな…冷めたら一番駄目なのが俺だ。

「お前の言う通りだ。俺は言ったら駄目な奴だったな」

「解ればいいんだけど、俺も大概だよな…」

 ヒロも当てられた口だからな。単純だが、この熱の発端でもある。運動部だらけの第一走者での一位。誰よりもこの熱の功労者と言えよう。

 そしてピストルが鳴る。いいスタートを切った松谷君、二番手に付いている。

「いい位置じゃねえか?このまま行けば、直前で抜けるかもだ」

「逆に抜かれる可能性もあるけど、松谷君ってどんくらい速いんだ?」

「それはちょっと解らねえな。中学の時に何かやっていたのかもしれねえけど」

 俺もそうだが、ヒロも同級生の情報が少な過ぎだ。

 ともあれ、今は松谷君を信じよう。つか、それしか俺に手がない。

 終盤に差し掛かった時、松谷君の腕の振りが激しくなった。腿の上がり方も申し分ない。

「よーし!このままいけー!」

 クラス中の応援が響き渡る中、直前でトップに立った松谷君!!そのままゴールテープを切った!!

「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」

 割れんばかりの歓声と喝采を背にしてクラスに戻る松谷君。全員手荒い歓迎をして、松谷君もそれを笑いながら受けた。

「よーし!!次は俺だ!!」

 気合入りまくりの坂上君。意気揚々とレーンに入る。

 当然ここでも期待されたが、相手が悪かった。

 中学時代に短距離で走っていた生徒が、BとDにいたのだ。結果坂上君は三位。

 戻って来た坂上君が号泣しながら謝罪をする。

「みんなごめん!!トップ取れなかった!!」

 大丈夫、気にすんな、問題無いと、みんなが慰める。俺もその輪に加わったが、正直体育祭で泣いて謝罪しないでもいいだろ。

 これも熱に侵された、クラスの雰囲気が招いた結果なんだろうけども。

「次は国枝か…敵はどんな感じだ?」

 ヒロが何の気なしに訊ねると、Bクラス走者はサッカー部との事。つうか梶原君じゃねーか。一年の時Bったのか。

「じゃあ…行って来るよ」

 熱に侵され捲っている状態なのは国枝君も同じのようで、ちょっと気負いしている感じがある。

 少し落ち着くように促そうとすると――

「はーい、勝利の鍵を連れてきましたー」

 どこかに行っていた波崎さんが戻って来た。Bクラスの春日さんを連れて。

「え!?春日さん!?マズイんじゃねーの!?」

 敵クラスの応援とか、あり得ないだろ普通?そうじゃなくとも、目立ちたくない属性の春日さんなんだぞ?

「ちょ、波崎、それは…」

 ヒロもまずいと思ったようで、だが、止める手立ても無く。

「春日さん!?駄目だよE組に来たら!!」

 流石に慌てた国枝君。だが、春日さんは平然と国枝君の前に行く。

「……無理しないでね?怪我しちゃヤダよ?」

 真っ直ぐに国枝君を見ながら言った。周りからは「ヒュー」とか「はあ~…」とか、口笛やら吐息やら。

「わ、解ったよ。だから敵の応援なんて…」

「……応援はしていないよ?怪我しちゃ駄目って言いに来ただけだよ?」

 そ、そうか。応援じゃないからギリいい。………のか?

 何となく駄目なような気がするが、グレーゾーンの様な気もするが、身体を気遣って来たのなら、まあ……

 しかし、油断できないとはいえ、今回の春日さんはヤンデレが無いな。やっぱ友達が沢山いるからか?

 そうなると、現在Bクラスに友達はいるのか?

 気になったのでBクラスをチラ見すると、何人かの女子がこっちを見ながらキャッキャ言っている様な感じがした。

「春日さん、Bクラスの友達が冷かしているぞ…?」

 カマを掛けた感じになったが言ってみた。

「……うん。そろそろ戻らなきゃ、ちょっと恥ずかしいかな?」

 否定はしないんだ。つう事は、友達なのか?

 前回と違って今回は最初から俺達が友達だし、彼氏も早々にできたからな。社交性がちょっと生まれたのだろう。

「なんでー?此処で見て行けばいいじゃん?」

 帰ろうとした春日さんを止めたのは、Cの楠木さんと、Aの里中さんだった。

「つーか何で此処にいる!?自分のクラスの応援しろよ!!」

「だって、負けムードでつまんないんだもん」

 ねー。と顔を見合わせて腰を屈める楠木さんと里中さん。つうか、いつ仲良くなったんだよ!?

「あ、勿論私がセッティングしたんだよ、顔見せの。勿論麻美さんとも面識があるよ」

 遥香がしれっと挙手して言った。

「お前、なんでそんな事するの?何で言わないの?」

「え?女子会に混ざりたいって事?」

 女子会なる物を催していたのか…それは確かに混ざる訳にはいかないな…

「隆、突っ込みたい所がいっぱいあるのは解るが、始まるぞ」

 ヒロも突っ込みたかったのだろうが、堪えてレーンに目を向けていた。

「国枝君…いい感じに集中しているな…」

「ああ。やっぱ彼女の存在はデカいよな」

 ヒロの発言に、彼女持ちじゃない男子が殺意の視線を向けた。

「つうか、やっぱ明人呼べば良かった…」

「今から国枝君のレースが始まるって時に、何を言い出すんだ!?」

 意味不明な事を言った黒木さんに驚いて、突っ込んだ。

「いや、彼女の存在はデカいって、大沢君が言ったから…」

「木村に応援して貰いたいって事?」

 木村のキャラじゃ、想像できないが…他校の体育祭に彼女の応援に来るとか。

 ぱあん!!

「あ!!始まったよ!!雑談している場合じゃないよ緒方君!!応援しよう!!」

「いや、黒木さんが訳の解らない事を言ったからじゃないかな…」

 ともあれ、応援は同感だ。

 此処は春日さんにカッコ良い所を見せる為に、是非ともトップを取って貰わなきゃだ!!

 スタートダッシュは申し分ない。三位に付けているのも、いい感じだ。余力が見て取れるから。

「松谷君みたいに、直前で抜くつもりかな?相手のレベル次第になるような気がするけど」

「丁度いい事に、先頭と二位はAとCだ。聞いてみようぜ」

 確かに丁度いい事に、Aの里中さんとCの楠木さんがいる。

 敵の俺達に情報を渡すだろうかと不安もあったが、聞いてみない事には始まらない。

「里中さん、楠木さん、今トップと二位だけど、運動部なの?」

 言われてどれどれと見る二人。里中さんも楠木さんも、あんま良い表情をしていない。

「Aの小松は中学の時ラグビー部だって言ってたかな?」

「Cの比嘉は沖縄から引っ越してきたんだけど、ほぼ毎日海に出てたって言ってたよ」

 元ラグビー部と海で泳いでいた奴か…体力はあるんだろうな…

「ん?だけど、そうなら自分のクラスが有利だろ?何でそんな複雑な顔をする?」

「え?だってEの応援に来たんだし」

「そそ。春日ちゃんの幸せの為に」

 いや、普通に自分のクラスを応援しろよ。

 これ体育祭だよ?勝負事だよ?温い事言わない方がいいぞ?

 中盤、国枝君がスパートを仕掛けた。

「ちょっと仕掛けが早いんじゃねーか?国枝君ヤバいんじゃ…」

「いや、里中と楠木の話だと、体力はあるだろうからな。此処で前に出て勢いに乗るってのもアリだ。四位に付けているBも現役のサッカー部だし、ここで出し抜くのも悪くない」

 それに『元』だしな。とヒロが呟く。

『元』とは言え体力はあるだろうけど、だからと言って足が速い訳じゃない。

 もし速いのなら100メートルに出て来た筈だ。

 ならば、ヒロが言った通りか?

「見ろ隆!!国枝がトップに立ったぞ!!」

 興奮するヒロだが、残り100メートル弱だ。

 体力が切れる前に、逃げ切れるか?

 手に汗を握って応援する俺達。春日さんは指を組んで祈っているし。体育祭なのに。つか、Bの梶原君の応援はしないんだな…

「いけー!!国枝君!!」

「南国野郎に負けんなー!!」

「いや、お前等も応援しちゃ駄目だろ!!」

 なんか知らんが、必死になって応援していた里中さんと楠木さんに突っこんでしまった。

 そしてその隙に――

 国枝君が、僅差でゴールテープを切った――!!

「おおおおおお!!やったあああああ!!!」

 全身で息をしながら、クラスに戻ってくる国枝君に駆け寄って肩を貸した。

「はあ!!はあ!!はあ!!や、やったよ緒方君!!」

 ウンウン頷いて、春日さんの所に連れて行く。

「……お、おめでとう」

 等の春日さんも若干赤くなって、一位を喜んでくれた。

「はあ!!はあ!!う、うん!!」

 やはり息切れ宜しく、辛うじて返す国枝君。

「……私、もう行くけど……」

「はあ!!はあ!!おひる!!一緒に食べよう!!」

 息が切れている勢いで、結構な大きさの声で誘った。当然周りからは冷やかしの口笛が。

 春日さんは更に赤くなってコックリ頷き、早足で自分のクラスに帰って行った。

 自分のクラスに帰った春日さんだが、早速クラスメイトと言うか、友達に弄られていた。因みに梶原君には誰も近寄らなかった。折角三位になったのに。

「おお~…春日ちゃんやるなあ…やっぱシロ呼べばよかったかなあ…」

「そう?私はあんま来て欲しくないけど。いつもべったりでウザいし」

 彼氏の扱いが酷過ぎる里中さんだった。入谷さん、マジ可哀想だから、ちょっと優しくしてやって!!

「それは兎も角さ、E組ってもう40点だよ。総合優勝狙えるんじゃない?」

 波崎さんも笑いながら、期待を露わに。

「まだ先が長いからね。油断は禁物だよ」

 気を引き締めて、そう返す遥香。全く以てその通り。

「じゃあ、私クラスに戻るね。次の女子400、出場するから応援してね~」

 手をヒラヒラ振って楠木さんが戻る。いやいや、自分のクラスを応援するから。

「私も帰ろーっと。大玉転がしは応援よろしく!!」

 敬礼して去って行く里中さん。いやいや、自分のクラスを応援するから。

「まあ、何はともあれ、女子の400だな。気合入れて応援しようぜ隆」

「いや、その前に二年、三年の400メートルだろ」

 直ぐに一年女子の400メートルがある訳じゃないのに、今から気合入れてどうすんだ。疲れるわ。

 そして予定通りに二年三年男子の400メートルが終わり…

 いよいよ一年女子の400メートルの競技になった。

 レーンに入る前に、男子の真似をしたのか、ストレッチしていたクラスメイトに目を向ける。

「福田さん、横井さん、五十嵐さんか…運動部は誰だっけ?」

「五十嵐は確か水泳部だった筈だな。福田、横井は運動部経験なし。ちょっと厳しいかもしれねえな」

 厳しいのは男子も同じだっただろ。だけどトップを二つ取ったんだ。死に物狂いで応援してやるぜ!!

 女子400メートル、五十嵐さんがトップを取って、福田さんと横井さんが二位と三位。12点も取ったぞ!!合計52点だ!!マジイケるかもしれない!!

 興奮してトップを取った五十嵐さんを胴上げするEクラス!!

 因みに楠木さんは三位だった。一応こそっと応援したぞ?二着になれって。

 五十嵐さんは、ギャー!とか、やめてー!とか言っていたが笑っていた。

「流石ね五十嵐さん。水泳部の時期エースと呼ばれているだけはあるわ」

 眼鏡女子の横井さんが満足そうに頷きながら言う。

「あ、横井さんも三位おめでとう。凄かったよ」

「凄いのは緒方君じゃないの。急きょ出場になった100メートルでトップ。しかも大差で」

 いや~と頭を掻いて照れ笑いで返す。つーか、横井さんとちゃんと喋ったのは、これが初めてかもだ。

 文化祭は実行委員で頑張ったんだよな。今回も実行委員になるのだろうか?遥香も前回、Dクラスの実行委員だったし、どうなるんだろうな?

「槙原も喜んでいたでしょう?あの子は昔からあなたの事を見ていたから、尚更じゃないかしら」

 ん?遥香を槙原と言った上に、昔からどうのこうの言っていたな?

「ひょっとして、遥香と同じ中学?」

「ええ、そうよ。中学三年の時には同じクラスだったわ」

 へー!!初めて知った事実!!

 しかし、そりゃそうだよな。同じ中学から白浜に進学した人も結構いるだろうから。Eクラスにオナ中が居てもおかしくは無い。

 しかし、ちょっと待て。話したところ、あんま見た事無いぞ?

 その旨を伝えると、ああ。と言って返される。

「クラスメイトと言うだけで、友達とは呼べなかったからね。槙原は誰とでも差し障りなく接する事が出来るけれど、心を許す人は限られるから」

「波崎さんみたいに、って事?」

「そうね。波崎も中学の時、ちょっとあって、あまり人他人と深く関わらないようにしていたからね。似た者同士で気が合ったのかもしれないわね」

 ちょっとあったってのは、霊感があるから勝手に期待されて、勝手に絶望されたってアレか。前回結構そんな事があったとか言っていたもんな。

「だけど、槙原は高校に入ってから変わったわ。元々表面だけ合わせる事は出来たから、トラブルは無かったけれど、逆も然りで友達も少なかったみたいだけれど、今は周りに沢山の人がいる」

「まあ、遥香は可愛いからな」

「御馳走様。フフ。緒方君が土下座告白をしたからよ。槙原が変わったのは」

 冗談で言ったのだが、惚気だと受け取られた。まあ、それでもいいんだけれども。

 遥香は信用できる友達が一握り居ればいいって言っていたから、逆に煩わしくなくて良かったかもしれないし。

「ん? つーか、ちょっと待て。昔から俺を見ていたって言っていたけど、遥香って気を許した相手は少ないんだろ?何故それを横井さんが知っているんだ?」

 適度な距離を保って接していたであろう遥香。その遥香が、俺の事を一クラスメイトに言うのだろうか?

 それならば、物凄い違和感だが…

 横井さんは、ああ。と頷いて話した。

「ウチの中学、コミュニティサイトをやっていてね。まあ、生徒専用で、外部の人は入れない様になっているみたいだけど、パスがあれば入れるとか、そのパスを他の生徒に教えたりとか随分穴のある管理体制…いえ、そんな事はどうでも良いんだけど、そのコミュニティサイトにある投稿がされたのよ。白浜第三中学の事件がね」

 白浜第三…俺の中学…事件って…

「…俺の事か?」

 頷く横井さん。

「そう。緒方君をお金で虐めた先輩が、報復に根負けして全てを語った事がね。だから、メインは緒方君じゃない、その女の事なんだけどね」

 遥香は川上中だったか…川上中に俺の事が広まっていた?

「そのコミュニティサイト自体、利用している生徒が少ないし、直ぐに削除されたから、その事を知っている生徒は少ないと思うけれど、知った人も当然いる訳で。私もそうだし、槙原もそう」

「……そのコミュニティサイトの掲示板で遥香がはしゃいだとか?」

 頷く。そして続ける。

「殆どの人が書き込みを見ていないのだろうけれど、槙原が、この人私を助けてくれた人だ。とね。カッコイイんだ。とかね。寂しい目しているんだよね。とかね。抱きしめてキスしたい。とかね。それを、わざわざ本名で書き込みしたのよ」

 ………何やってんだあいつ…普通に恥ずかしいじゃねーかよ。超嬉しいけどさ。

「その書き込みの中に、痴漢から助けて貰った事が書かれてあったのよ。その時から、ずっと片思いしているって」

 遥香にしては、随分ぶっちゃけたな…そこまで晒すか?石橋を叩いて叩いて叩き捲ってから渡る用心深さなのに、名前を出してまで?

「勿論直ぐに削除されたけれどもね。多分だけど、緒方君は自分の物だから手を出すなって言いたかったんじゃないかしら?」

 ああ、ある意味先手を打ったのか。だけど、それに興味を示して俺に接触して来る奴もいるかもしれないだろうに。それが女子の可能性だってあるだろうに。

「私も緒方君に興味を持ったけれど、会いたいとは別に思わなかったわね。だって緒方君の評判、物凄かったじゃない?」

 …ああ、そうかぁー。そうだよなー。

 見たらぶち砕く狂犬。関わりたくないと、普通の生徒は思うだろうなー。

 川上中の糞も当然ぶち砕いた事もあっただろうしなー。

「今はもっと早くお話していればよかったと思っているわよ。緒方君、評判以上の人だったからね」

 そう言って笑う。いや、それも照れくさい話だが。

「あ、次の競技の準備が始まったわね。じゃあね緒方君。リレーも二人三脚も借りもの競争も頑張ってね」

 手をフリフリして去る横井さん。俺も振りかえす。

 しかし、何故川上中のサイトに俺の事、つーか朋美の事が晒された?

 遥香が晒したのか?だったらその意図は?そもそも遥香じゃないような気がするが…

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