とうどうさん~010
あっちこっちに連れ回されて、付いた先は――
「マンションなんて初めて見た!!」
なんかテンションが上がってはしゃいだ。幸とトーゴーが冷ややかな目で見ているが。
「いいから黙れ、恥ずかしい」
自動ドアが開いてトーゴーが入る。当たり前だが後に続く。
エレベータの乗り込むと、12階を押したのが目に入った。
「幸!12階の建物だぞ!スゲエな丘陵!!」
「マジで恥ずかしいからやめて」
本気で恥ずかしいようで真っ赤になっていた。
「渓谷とか言っていたが、そっちにもマンションくらいあるだろ。それに12階建てじゃねえ、俺ん家が12階なだけだ」
「ねえよ!!精々アパートだよ!!」
「お、おう、そ、そうなのか……」
なんか引いているように見えるが、気のせいだろう。つか、まさか誤解させたのか?
「あのな、渓谷にも一応高層的な建物はあるんだからな?12階のマンションが無いだけで」
「3階建てのショッピングモールは高層とは言わないんだけど。しかも、トーゴー君が言った事聞いてないよね?」
12階建てじゃねえって所だろ。ちゃんと聞いているって。
「ショッピングモールの事を言ってんじゃねえよ、違う。ビルがあるだろうが。6階くらいしかないような気がしたけど」
「解ったからちょっと静かにしろ、近所迷惑だ」
防音完備のマンションじゃねえの?言いたい事はそう言う事じゃないんだろうが、誤解を招く発言になるから気を付けた方がいい。
あ、と思い出して口に出す。
「ホテルがあったぞ!!一応観光地だからな渓谷は!!」
「解ったから静かにしろって言ってんだろ」
高層建築物の話はどうでもいいようだった。自分でもそう思うから、トーゴーも幸もそう思っている事だろう。
ともあれ、目的の12階に着いたようでドアが開く。
とっとと出て行くトーゴーの後を追う。
「ここだ」
目的の部屋に着いたようで、トーゴーが開錠し、中に入れと促されたので、お邪魔しますと言って入った。
「おお……結構広い!!」
「3LDKだから部屋数はそうでもねえけどな。そこの椅子に適当に座れ」
部屋を見ながら座る東山に対して、結構厳しめな瞳を拵えながら座る幸。
「ほら、缶コーヒーでいいだろ」
「お、おう……匿ってくれたばかりかコーヒーまでくれるのか……お前良い奴だな……」
勝手に首突っ込んだだけなのに。しかも幸が。
「匿った訳じゃねえだろ。お前等が勝手に首を突っ込んだ結果とは言え、一応俺を助ける名目で割って入ったんだ。その礼くらいはする」
そう言ってプルトップを開けてコーヒーを呷った。東山も同じくプルトップを開けたが、幸は動かなかった。
「幸、どうした?なんかおっかねえ顔しているけど?」
自分は呑気のコーヒーを飲んでいるが、幸は厳しい顔で動かない。
「……トーゴー君、だっけ?なんか困っていることあるでしょ?」
「まあ、困っているっちゃー困っているかな。あんな奴等に常に狙われてうんざりって所か」
困っている風には見えなかったが、成程、自分なら困るなー。と、呑気に思った。
「なんであんな奴等に狙われているの?」
なんかグイグイ攻めるなー。と、やはり呑気にコーヒーを飲みながら思った。
「なんでって、揉めたからだ。俺のダチに因縁吹っかけて金を奪おうとしたからぶっ叩いたら、いつの間にかこうなった」
やっぱり困っている風には微塵も見えなかった。
「じゃあ警察に行った方が良くない?」
「そうしたら仲間がワラワラ出てきてこうなった」
「まさか、あの人たちだけじゃないの?」
「そうだな。あいつ等の仲間つうか」
早乙女さん達だけじゃなかったのか。大変だなー。と、呑気にコーヒーを飲みながら……ってもう無かった。
「トーゴーだっけ?お代わりあるか?金は払うが」
「冷蔵庫に入っているから勝手に持って来て飲んでいい。金はいらねえよ」
金は要らないとか、やっぱりいい奴だなー。とか呑気に思って冷蔵庫に向かった。
幸がしばらく考え込んで、よし、と立ち上がった。
「なんだ?帰るのか?まだ夕方になってねえからヤバいんじゃねえの?」
「いや、あいつ等のリーダーって奴と話を付けたい。このままじゃどっちも不幸のままだから」
は?とトーゴーと目を合わせる。何言ってんのこいつ?って感じで。
「そもそも、早乙女さんがリーダーじゃねえのか?俺はてっきりそう思っていたけど」
「リーダーって言うか、そんな感じではあるが、お前も見たようにあんな奴だぞ?まともに話なんかできねえだろ」
だってさ、と幸を見る。
「颯介に倒された人がリーダーなんだ。じゃあ話は早い。多分だけど、私達も狙われているんだよね?」
「え?あ、ああ、仲間呼んだと思うから、あいつ等がぶっ倒れている所も当然見付けただろうから、お前等の事も話したと思うし……」
だから狙われる。よって人混みに紛れる為に夕方まで匿った。
それなのに、話しに行く!?
「多分絶対に話聞かねえぞ?逆に仕返し対象が来たって喜ばれるだけだ」
「だってこのままじゃ、トーゴー君毎日喧嘩しちゃうことになるよ、最悪も想定される」
「最悪って?」
「向こうの誰かを殺しちゃうか、逆に殺されるか」
幸のこの台詞に険しい顔になったトーゴー。気のせいかもしれないが、怒気も発したように感じた。
なんか気に障るような事を言ったのか?まあ、それは兎も角だ。
「最悪を回避したいってのは解るは、トーゴーも言ったように話なんか聞かねえだろ。どうやって説得するってんだよ?」
「それに、お前等も狙われる対象だって言っただろうが。関係ねえ奴が何処まで首を突っ込むつもりだ?気持ちはまあ、有り難いが、俺は心配ねえ。殺さねえし殺されねえよ。そこは保障するから、お前等は本当に夕方になったら帰れ」
保障ねえ……確信があるようだが……
「私が狙われて人質になる事を心配してくれているんだよね。だけど、それは大丈夫だよ。100パーセント」
「なんで大丈夫なんだ?早乙女のは脅しだろうが、何かの拍子にうっかり、って事がある。あの時も……」
そこまで言って口を噤んだ。印象的だが、早乙女さんは小物の部類だから、人を殺す度胸は無い。しかし、気になるな……
「だって私は颯介が守ってくれるから」
考え事をしていると、幸がとんでもない事を言った。
「こいつが?確かに多少は強かったが、数には勝てねえだろ」
「こいつじゃねえよ。そういや自己紹介がまだだったな。東山 颯介。こっちは藤咲 幸」
「は?とうどうとか言ってなかったか?」
そういや幸が偽名でそう名乗っていた。
「あれは適当「東山の東と藤咲の藤で東藤『とうどう』だよ」……そうらしいぞ……」
やはり台詞に被された。しかし、断言できる。あの時は本気で適当に名乗ったんだろうと。絶対に言わないけど。言った所で捻じ伏せられるから。
なんか怪訝な顔をしたが、それも一瞬、直ぐに反論に出る。
「とうどうだろうが何だろうが何でもいいが、あいつ等に話しは通じねえ。何回もぶっ叩いた俺だから解る」
何回も……
「東山、だっけか?なんか気になる事でもあるのか?顔がおかしな事になっているぜ」
「その言い方ってどうなのかな……」
どんな顔だそれは。考え事をしたらおかしな顔になるのか。と、突っ込みたかったが、今は気になる事を先に片付けよう。
「えっと、この辺にコンビニないか?喉渇いて」
「コーヒーならあるからそれを飲めばいい。それとも、他の欲しいのかよ?」
「ああ、うん。出来れば案内して欲しいけど」
仕方ねえなと立つトーゴーにホッとするも、今度は幸が怪訝な顔。
「トーゴー君の言う通り、コーヒーじゃ駄目なの?颯介って別に拘っている訳じゃないでしょうに?」
「炭酸飲みたくなっただけだ。お前は何か欲しいのあるか?」
「冬なのに炭酸欲しいのか……まあ、私もアイス食べたいけど」
了解と言って外に出る。そしてエレベータ内でいきなり切り出した。
「お前、一回死んで戻って来ただろ」
トーゴーが強張ったのが解ったが、それは僅かな時間だった。
「……お前、俺と同じ匂いがしたと思ったら、やっぱりか……」
「察してくれて話が早い。コンビニの往復分の時間しかねえけど、話ししようぜ」
「それは俺も助かる所だ。実際の所、お前等を家に入れたのは、お前が同じ匂いがしたから気を許したって部分がデカいからな」
通りでな。巻き込んだ云々も勿論本音だろうけど、それだけであそこまでしてくれるとは思えない。だって、トーゴーは会った時から長年の友人に接するような口調で態度だったから。
「細かい話は後だ。だから後でメアドとかケー番を教えてくれ」
「……女の方は生き返った訳じゃねえのか。だったらあれはただの善意か?どこまでお人よしなんだ。俺だったから、いや、お前が同伴だったから良かったが、それ以外は自殺行為だぞ」
「いや、違う。まあ、それも含めて後だ。お前の力は?」
またまたいきなり切り出すが、今度は冷静に答えた。
「力、というのか解らねえが、間合いが近くなった」
「?解んねえけど……」
本気で解らない。だが、心当たりはあった。
「さっきの喧嘩、一撃でぶっ倒したよな。その関係か?」
「ああ、俺のパンチもキックも放てば当たる。極端に離れていれば効果はねえけど、なんて言うか、空気が飛んでいくような感じか」
何その必殺技?どこぞの漫画によくある空力使い?
「もしくは透明な肉体が分離して本体と同じモーションで攻撃する感じか?」
「スタンドみたいだな……まあ、その話も後だ。俺は嘘を本当にする力。だからまあ、幸が話を付けると言っても、俺の力でそれはマジでどうにでもなると思う」
「成程、お前の女はお前の力を当てにしたって事か」
納得と頷くが、それは違う。
「いや、幸は俺が一回死んで戻って来た事は知らねえし、おかしな力が宿った事も知らねえ。だから俺の力を当てに、は違う。あれは多分自分だったら助けて欲しいから助けたんだろう」
「?お前の言っている事も解んねえな……コンビニに着いたから、その話は後だな」
それに同意してコンビニでコーラを買った。幸にはアイス。ハーゲンダッツたけーな。
マンションに戻って幸にアイスを渡した。因みに東山は何も買わなかった。奢ると言ってもイランと断りやがるし。
「おおー!ハーゲンダッツ!!ありがとう颯介!!!」
なんかガッツポーズを作って何回もよっしゃとかやっていた。とあるギャグのそんなの関係ねえみたいなアクションだった。
「藤咲、とか言ったな。あいつ等に話しをすると言っていたが、今出て行っても確実に捕まるとは思えねえが、どうするつもりだ?」
ガッツポーズを作って踊っていた幸がピタリと止まる。
「……いきなり?さっきまで反対していたような?」
「いや、よく考えたら、あいつ等を此の儘ぶちのめしても根負けするかどうか解んねえし、逆に仲間を増やされる可能性がデカい。だったら僅かな可能性でも賭けた方がいいかと思ってな」
もちろんこれは東山と打ち合わせで決めた事だが、幸にそれを知る筈もない。
「そっか、何もしないよりは可能性があるからね」
一人納得して頷く幸。
「逆に聞くけど、あの人たちの中で一番偉いのって誰?」
「お前の彼氏が倒した奴だよ」
東山を見て感心した顔になる。
「やっぱり毎日鍛えていたのは無駄じゃ無かったって事だね」
それは嬉しそうに。そんな顔を見せられては照れるだけだと言うのに。
「まあな、もしもまた早乙女さんがお前に向かって来ようもんなら倒してやるから、その前の説得って言うの?は任せたから」
やっぱり笑顔で頷く幸。この笑顔の為なら自分はなんだってやる。例え、お前の母ちゃんを殺しても。
幸とトーゴーがなんやかんや話をして決まったのは、早乙女さんがいる心当たりに乗り込む事だ。
当たり前だが仲間がいる可能性があるし、さっきよりも人数が多い場合もある。それでもこのプランを推し進めた。東山の力を使って無傷で降伏させる。果たしてできるかどうかはやってみなくちゃ解らないが、失敗したらトーゴーが全員ぶっ倒すって事でマンションに帰って来る前に決まった。
それをうまく誘導して、幸に納得させた。当たり前だが、力の事は一切言っていないし、東山は最後尾で顔を見られない様にじっとする事が条件だ。動く時は失敗した時のみに限定した。
「颯介は顔見せちゃ駄目だからね。向こうに偉い人殴っちゃった張本人だから、纏まる話も纏まらなくなる」
なんか厳しい目を向けられてそう言われた。
「そもそも普通に考えて成功する可能性はゼロに近いんだぞ。なんでそんなに自信満々なんだ……」
「私も成功するとは思っていないけど……」
は?とトーゴーと二人で幸を見た。
「何もしないよりは可能性があるだけ。さっき見た10人は酷いでしょ?最低でも大人数はやめてって言う」
元より期待はしていないが、何もしないよりはマシ。
それは、幸の現状に重なる。母親には期待していないが、リスカして脅して見せる、ささやかな、しかし無駄であろう行動だ。
足掻いているんだな、とぼんやり納得し、立ち上がった。
「そうと決まれば行動だ。なんかあったら絶対守ってやるから心配しないで行け」
うん、と頷き、幸も立った。その様子をトーゴーが羨ましそうに見ていた。因みにハーゲンダッツは既に食い終えていた。
トーゴーに案内されて着いた先は、どこかの学校近くの廃屋。何でも10年間くらい買い手がつかなくて放置されているらしい。
「この学校は早乙女さんの学校か?」
「ああ、丘陵でも最下層。この学校に行くか中卒で良しとするか」
ふーんと。別にどうでもいいから。丘陵の高校は関係ない。
「じゃ、俺が先頭で入るから、その次は藤咲だ」
幸を見ないで東山を見てそう言う。嘘を本当にする力を頼むって事だ。
微かに頷いて同意とした。安心したのか、トーゴーの歩調が速くなる。
「あ?おい、誰か来たようだぞ」
「マジで?今日は誰にも連絡付かなかったんじゃなかったか?」
奥の部屋からひょっこり顔を覗かせたのは早乙女さん、トーゴーの顔を見た瞬間形相が変わった。
「追い込みに来たのかトーゴー!!黙ってやられると思うなよ!!」
この怒号でワラワラ部屋から出て来た。そうは言っても4人。さっきの大半は帰ったか?
一応周りに気を配るが、気配はない。という事はあの5人で全員だと言う事で。
強烈に思う。イメージする。幸の言った事があいつ等に伝わればいい。と。
イメージが終わり、幸の肩をポンと叩く。
「言ってやれ幸。弱い者いじめをするな。人数を当てに喧嘩するな。トーゴーから手を引けって」
震えながら頷く幸、なんだかんだ言いながら怖いと見えるが、勇気を出してトーゴーの前に出る。
「あなた達、トーゴー君は一人なのよ?大勢で喧嘩売るのはやめて。というか弱い者虐めした結果がそうなんでしょ?弱い者いじめをやめて。トーゴー君にこれ以上ちょっかい出さないで」
凛として前を向いて言いきった、あとは東山の力が通じるか否か。
結構心配して成り行きを見守ったが、険しい、ともすれば殺しそうな表情だった早乙女さん達の険が落ちて、脱力して腕をだらんと下げた。
「……その女の言う通りだが、こっちにも……まあいいや。中学生のガキに説教喰らってやめるほど人間できちゃいねえんだよ。なんだそりゃ?プリキュアの悪党かよ」
力が通じなかった。トーゴーに目配せして臨戦態勢を取る。しかし、プリキュアの敵って永年恨みで戦って来たのに、たかが14年くらいしか生きていない少女の愛とやらで簡単に説得されるよな……実は大して思いが強くないんじゃないか?
つうか早乙女さんがプリキュアとか言うんじゃねえよ。イメージぶっ壊れちゃうだろ、アンタオッサン顔の強面なんだから。
「……だから、こっちから関わらないでおいてやる。おうトーゴー、お前も俺達にもう関わるんじゃねえ。ここにも来るな、顔を見ても無視をしろ」
顔を見合せる俺とトーゴー、力が通じた!
一応安心した。一種の賭けだったから。
「……だ、そうだから、帰ろう。約束したからねアンタ達。仲間達ももちゃんと伝えてね」
ホッとして幸が促すも、ちゃんと釘を刺した。これで多分もう大丈夫だろう。
おう、と言って俺が先頭でとっとと廃屋から出た。幸もトーゴーも襲われる事無く、無事に出られた。
「……正直信じらんないけど、ちゃんと約束できた、よね?」
「ああ、お前のおかげだ。助かった藤咲」
トーゴーも幸にお礼を言う。東山の力だとは言わずに、お前のおかげだと。
「安心したらお腹減ったかな。お昼ご飯の量、少なかったし」
「お前が美味しくないとか言って殆ど俺に押しつけた結果、少なくなっただけだろ……」
「そうか、じゃあ礼代わりに晩飯奢ってやるよ。まだ5時くらいだからどこもそんなに混んでいない。さて、どこがいい?」
「いや、俺はそんなに腹減ってないんだけど……」
「お前はついでだ。礼って言っただろ、藤咲に対しての礼だからな」
何となく和やかになって、幸のリクエストで焼き肉に行く事になった。ちゃんとしたのは高いので、食べ放題の。
向かう途中、ボソッとトーゴーが幸に聞こえない様に言う。
「マジで助かったぜ。殺しちまうか殺されるんじゃねえかって思っていたからな。結構脅えていたんだよ。本気で感謝している」
東山も正面を向きながら応えた。
「お前も知っている通り、俺は幸の為にやっただけだから。お礼はマジやめて。照れるし」
「じゃあ焼肉はやめにするか?」
「それは幸に言ってくれ。あいつのリクに応えたの、お前だろ」
言葉に詰まったトーゴーだった。東山はついでだとも言い切った手前もある。
「ま、まあいいじゃねえかよ。焼肉屋に着いたら連絡先交換しようぜ。あの話も色々聞きたいからな」
それは願っても無い事なので頷いた。さて、目の前の焼き肉やかな?食い放題だから明日の分まで食ってみようかと密かに思った。
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