27章 転生者のさだめ 09
ロンネスクでのあれこれを終え、俺は一旦首都に戻った。
転移したのは首都の城壁の上であったが、やはりそこはすでに戦場であった。
無数のモンスターが壁に取りつき、様々な方法で城壁を越えようと襲い掛かっている。
下にいるモンスターを足場にして城壁を登ろうとするゴブリンやオーク、自分の持つ特殊能力で壁に張り付いて上ってくるリザード系モンスター、小型のモンスターを城壁の上に投げつけてくるオーガなど、その行動は多彩だ。
一方で城壁にいる兵士たちも、己の能力に応じて応戦している。
戦士は槍で上から突き刺し、魔導師は魔法を撃ち込み、原始的な方法では石や岩を落としたり、焼けた油をかけたりと、あらゆる方法で防衛に当たっている。
まだ防衛側が優勢だが、モンスターの飽和攻撃に一瞬でも押されればそこから一気に崩れる可能性もなくはないだろう。
俺は兵たちの後ろから『千里眼』を使って戦場を
派手な魔法でモンスターが吹き飛べばそれだけ兵たちの士気も上がる。誰がやったかを気にする余裕のある者もいないしな。
『マスターの魔力量は、現在のところ推定で1億ソリュールを超えています。これは魔導帝国の帝都が一月で消費する魔力量に匹敵します』
「それどれだけすごいのかよく分からないな。まあおかしいというのだけは分かるけど」
『『大厄災』との戦いのために魔力を温存することをお忘れなく』
「ああ、そうだったね」
ゼロの言葉で思い出したが、実は俺がこの防衛戦で手を抜いているのには理由がある。
その一つが『大厄災』との戦いのために魔力を温存するため。もう一つは、俺という個人が全てを解決してしまうことに、国として無視できない弊害が付きまとうからである。
特に後者に関しては、女王陛下いわく「人々が卿に依存するようなことがあっては困るのだ。苦難があったら卿に頼ればいい、などと言い出されたら卿も困るであろう?」ということで、俺自身納得したところである。
まあ陛下もそう言ったあとで「余も人のことは言えんのだがな……」としおれていたのだが。
「ところでゼロ、モンスターは他の国には出現していないのか?」
『今のところは感知できません』
「そうか。感知したらすぐしらせてくれ」
『はい、マイマスター』
ゼロの感知能力はこの大陸全土を範囲内におさめるらしい。おかげで俺もかなり動きやすくて助かる。
さて、バルバネラの様子でも見ておくか……と思っていたら、怒号飛び交う戦場の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あっ、ケイイチロウさんいいところにっ。魔力が尽きかけてるの、補充お願いっ」
『王門八極』のメニル嬢が赤いツインテールを振り回して俺のところに走ってくる。
「お疲れ様、怪我はないみたいだね」
「それはもちろん。ケイイチロウさんに捧げるための大切な身体だし……あぁ……んっ」
すぐに『魔力譲渡』を行ったのだが、メニル嬢の際どい冗談のせいでアレな感じになってしまった。
とはいえメニル嬢の顔にはさすがに疲れが見えたので、ついでに『体力注入』も行っておく。
「ん……ふぅ……こんなのダメ……。もう入らない……っ」
「メニルはまったく……こんな中でもずいぶん余裕があるね」
「それはケイイチロウさんが強いモンスターを全部やっつけちゃったから。あの魔法すごすぎて、ワタシの部隊の子たちがみんな腰抜かしちゃったんだから」
「それは悪いことをしたね。でもそれで士気があがったりはしなかった?」
「うふふっ、それはもちろん。クリステラが『これがあのクスノキ護国卿の力だ。ボクたちには軍神がついている、負けるはずがない』とか言って盛り上げてたし」
「またそれは……」
『竜神』の次は『軍神』か。いや気にしたらダメだな、諦めよう。
「ワタシも部隊の子に、『この魔法の使い手と結婚するの』って言っちゃったからヨロシクねっ」
メニル嬢がそう言ってウインクする。彼女の場合どこまでが冗談か判断に困るところがあっていつもやきもきする。このタイミングで少し驚かせるのもいいかもしれない。
「俺もそのつもりだから、『大厄災』をさっさと倒してニールセン子爵との約束を改めないとね」
「えっえっ!? それって本気……よねっ! やった、頑張って戦いを終わらせないとっ!」
驚いたのも一瞬、メニル嬢はすぐに抱き着いてくるかと思ったが、そのまま急いで自分の持ち場に戻っていった。
その横顔が真っ赤になっていたので、どうやら彼女は守りに回ると弱いようだ。
「へえ、メニルがあんな顔をするのは珍しいね」
と反対側からやってきたのは黒い鎧の剣士、クリステラ嬢だ。
かなり暴れてきた後なのか美しい金髪が乱れ、鎧も少し傷がついているようだ。
「お疲れ様、戦いには満足しているかい?」
「強いのは君が一掃してしまったからね。それでも兵の手に余るような奴らは残っていたから、そいつらをあらかた片付けてきたよ。おかげで部下に少し休めと言われたけどね。おっと何だい?」
口調はいつものとおりだが、部下が心配するだけあってそれなりの疲労が見える。俺は肩に手を置いて『体力注入』をしてやった。
「……くぅ……これは効くね。君は本当にいろいろな力を持っていて飽きないよ」
「この戦いはこれ以上は派手に助けられないから、これくらいはね」
「ああ、『大厄災』だっけ? 力を温存しなきゃならないんだろう? それに全部君がやってしまったらそれはそれでよくないからね。多少犠牲は出ても自分達で守ったという感覚がなければ、国としてはダメになってしまうというのも分かるさ」
「前からちょっと思ってたけど、クリステラは政治家にも向いているかもしれないね」
彼女はこういった政治的な部分でもちょくちょく鋭い感覚を見せるんだよな。前線担当だけにしておくのはもったいない気がする。
しかしそう褒めると、彼女は眉根を寄せて渋い顔をした。
「やめてくれよ、ボクは剣を振り回しているのが楽しいんだ。そっちの世界に足を踏み入れるのはゴメンさ。よほどのことがない限り、ね」
「よほどのこと?」
「わかるだろ?」
お手本のようなウインクをする男装の麗人。多分さっきのメニル嬢とのやりとりを聞いていたんだろうな。
まあ彼女の気持ちも分かっているし、ここは同じようにしないとならないだろう。
「あ~、その、『大厄災』が片付いたら俺は色々面倒なことになると思うんだが……その上でクリステラには俺のところに来て欲しい」
「まったく、君はこういう時はスマートじゃないんだね。まあそれも君らしいか。その言葉、確かに承った。ボクの人生を君に預けるよ。よろしく」
二本指で敬礼をして、クリステラ嬢はすみやかに自分の持ち場に向かっていった。その横顔が少し赤かったのは……やはり普段は
さてこれで、俺の行く先は完全に固まったな。
もう後戻りはできない。後は女王陛下を説得するだけだ。
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