3章 都市騎士団 06

ロンネスクから北に馬車で2日ほどの場所に古代の遺跡がある。


そこは雑魚ですら3等級魔結晶を出すほどの強さで、4等級、5等級の上位種も出るという。


許可を得たハンターしか入ることができず、しかも許可については都市騎士団を通さないといけないらしい。


「1級のケイイチロウさんと3級のネイミリア様なら許可は問題なく出ると思います(ニッコリ)」とのことで許可を申請したのだが……


「ロンネスク都市騎士団団長を務めているアメリア・ニールセンだ。クスノキ殿、ネイミリア殿、遺跡調査の協力感謝する」


なぜかあのキラキラ超絶美人騎士団長が目の前にいるんだよなあ。




遺跡までは騎士団の馬車に相乗りさせてもらうことになった。


というか一応こちらが騎士団に協力するという体なので、道中のあれこれは森の中で会った茶髪のイケメン騎士(コーエンという名前だそうだ)が面倒を見てくれた。


「まさかあの時のお二人とは思いませんでしたよ」と朗らかに笑う騎士コーエンは人当たりのいい好青年だった。


彼との会話で、ロンネスクには「都市騎士団」と「内門騎士団」という二つの騎士団があることが分かった。


そして都市の防衛を担う「都市騎士団」と、領主の館を守る「内門騎士団」は仲が悪いということも彼の口ぶりから察せられたのであった。


ま、洋の東西時代の古今を問わず、異なる集団間で軋轢あつれきが起きるのは人のさがである。




古代遺跡というのは、山のふもとの森の中にあった。


ツタに覆われた巨大な石柱が、朽ちた姿をさらしつつも往時の威厳を保つかのように整列している。


その奥には崖がそそり立っているのだが、崖に張り付くように神殿の門のようなものがあり、入り口がぽっかりと黒い穴をあけている。


話によるとその門の奥はかなり深く、いくつもの部屋に区切られていて、その部屋ごとにモンスターが出現するらしい。




遺跡の門の前にベースキャンプを設置し一泊、そして翌朝。


騎士団長の前に10名の騎士が整列している。男女は半々だ。


俺とネイミリアは騎士団長の脇に立ち、直立不動の彼らと対面している形だ。


「これより調査を開始する。目的は神殿最奥部の到達及び異常の有無の確認。遺跡内部は3から5等級までのモンスターが出現する。2人一組で対応するのを常に忘れるな」


「はっ!」


「こちらのハンター2名は強力な魔導師である。クスノキ殿の方は5等級を単独で複数討伐できるとのことなので、上位種が出た場合は優先して当たってもらう。言うまでもないが、各自個人の功を焦るような真似は厳に慎め」


「はっ!」


「クスノキ殿、一言頼む」


騎士団長がその場を譲る。


「私は1級ハンターのクスノキ、こちらは3級のネイミリアです。5等級までなら問題なく対処できますので遠慮なくお任せください。ただしこの遺跡に関しては未経験ですので、その点はご了承いただきたいと思います」


「ありがとう。では遺跡に進入する。二列縦隊!」


美人騎士団長の号令のもと、盾と短槍を携えた騎士たちが遺跡の入り口に入っていく。


俺たちは最後尾の騎士団長の前に並び、きびきびと進んでいく騎士たちの後についていった。




今回、キラキラ美人騎士団長率いる騎士団と仲良く遺跡に入ることになったのは単なる偶然である。


オーク狩りの谷の一件で騎士団がロンネスク周辺の狩場を再調査することになり、そこにたまたま許可を求める俺たちが現れたというわけだ。


どうもサーシリア嬢の様子だと断りづらい話のようで、俺個人としても騎士団の心証を悪くするのもどうかと思い、受け入れた次第である。


まあ、規律を重んじる騎士団と自由を愛するハンターなんて水と油みたいな集団同士、放っておくと仲が悪くなるのは目に見えてるから、時折こうやって協力し合うことは必要だろう。


余計仲が悪くなる可能性もあるが……俺はそうならないように注意しよう。




遺跡の中は当然暗い……と思ったのだが、通路の石壁の一部が謎技術によってうっすらと光っており、歩くのに支障はなかった。


考えてみればモンスターが徘徊しているなら真っ暗であるはずもない。


ネイミリアは遺跡は初めてらしく、おのぼりさんよろしくしきりに周りを見回していた。


俺も本当はそれに倣いたかったのだが……後ろにいる騎士団長の視線を感じ我慢した。


しばらく歩くと目の前に縦横3メートル程の扉が現れた。


扉にはいかにも古代遺跡然とした奇妙な文様が刻まれている。


気配察知に感、扉の向こう側である。


「扉の向こう、3等級5体の反応あり。魔法用意、突入隊形取れ。突入!」


団長の指示で3人の男性騎士が扉の前で盾を構え、その後ろで女性騎士が魔力を練る。


脇の騎士が扉を左右に開けると、部屋の奥に黒光りするオークソルジャーが5体。


「魔法撃てっ!」


火焔岩槍かえんがんそう』(一般には『ファイアランス』と言うらしい)が5本放たれ、5体のオークソルジャーにすべてに命中する。


そのまま騎士たちは2人一組で突撃し、まだ息のあるオーク達を短槍で霧に還した。


「見事な連携ですね」


一糸乱れぬ動きをする騎士たちの姿に、つい感嘆の言葉が漏れる。


「騎士としてこれくらいできなくてはな」


という騎士団長の言葉には、どことなく皮肉の響きがあった。




その後、5つ程モンスターのいる部屋を攻略した。


遺跡は部屋と通路の組み合わせでできており、ほぼ一直線に奥まで続いているようだ。


戦闘に関しては、実力を知ってもらうため俺とネイミリアも何度か参加した。


オークソルジャーどころかオークキングまで一撃で消滅させるネイミリアの魔法には、さすがの騎士たちも少しどよめいていた。

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