26章  森の果て  02

 その日の夜は祝賀パーティということで楽しく過ごした。


 もちろんその場にはアシネー支部長にアメリア団長、そして教会の聖女主従3人も参加した。


 総勢11人のキラキラ女性に囲まれ、主役の俺が逆に縮こまっていた気もするが、それはそれでまあいいだろう。


 しかし前世の経験を思い返してみても、これだけの女性が集まって一緒に仲良くおしゃべりしている姿は見たことがなかったりする。


 しかも俺の勘違いでなければ、彼女たちは全員俺のことを……と思うと、正直なところ嬉しさよりも怖さが先に立つのは俺が女性の強さを知っているからだろうか。


 ありえないだろうとも思いたいが、冷静に自分の能力や地位や資産ややらかしてきたことをかえりみると、十分ありえる事態なのでなおさら怖い。


 普通に考えたら同じ男に懸想けそうする女性が集まったらもっとギスギスしそうな気もするのだが、そうはならないのは一夫多妻が認められているからか、それとも別の理由があるからか。


 いずれにしろさらに怖いのが、彼女らのほかにさらに6~7人同様の女性がいることで……天国と地獄が表裏一体なのだと肌で感じる次第であった。


 あれ? 楽しく過ごしたはずなんだが……。





 そして翌日、ネイミリアとラトラとエイミと……昨日調査に行くと言ったら「絶対ついて行く」と言って引かなかったリナシャとソリーンとカレンナル嬢を連れ、俺は『古代文明遺跡』調査に出発した。


 久しぶりの勇者パーティでまず訪れたのはニルアの里である。


 いきなり『千里眼』と『転移魔法』でしらみ潰しに探してもいいのだが、一応『逢魔おうまの森』の住人であるエルフに話を聞いてみようと思ったのだ。イベント的にもこういった手順を踏むのは大切である。


 久しぶりに会ったネイミリアの母上ネイナルさんに挨拶をし、共に里長のユスリン女史の元を訪れた。


「おお、ケイイチロウ殿ではないか。会いに来てくれて嬉しいぞ」


と、いきなりハグをしてくるスレンダー(一部非スレンダー)体型のキラキラ美人エルフ。


 あれ、ネイミリアさんたち今日はブロックしないんですね……と現実逃避をしてなんとか耐える。さっきのネイナルさんの豊穣の女神ハグはかなりヤバかった。


「突然の訪問申し訳ありません。実は『逢魔の森』の奥地を調査したいと思いまして、何か情報をお聞かせいただけたらと思ってお邪魔いたしました」


「ほう、それはまた妙なことを考えたな。しかし今日は以前より可愛らしい供が増えているようだが、さすがケイイチロウ殿だな。強い男は多くの女をめとるべしという理をわきまえているようだ」


 そんな理は聞いたことが……そういえばニールセン子爵が言っていたような気もするなあ。


「彼女たちは実は勇者パーティとして共に戦った仲間でありまして、娶るとかでは……」


「ふふ、それはまた後にしようか。まあ入ってくれ。私が知っていることはすべて話そう」


 人数が多いので、応接の間で車座になって話をすることになった。


 俺の両隣はユスリン女史とネイナルさんなんだが……それを見る勇者パーティの皆さんが妙に穏やかな表情をしていらっしゃるのがちょっと気になる。


「で、何が聞きたいのかな」


 ユスリン女史が俺の腕を取りながら耳元でささやいてくる。なんか今日は遠慮がまったくないんですね。


 俺が戸惑っていると、反対側でネイナルさんが対抗するように俺の腕を取って答えた。


「ケイイチロウさんは『逢魔の森』の奥に『古代文明の遺跡』があるんじゃないかと考えているそうです。それについての情報が聞きたいとおっしゃっていましたわ」


「ふむ、そういうことか……。そうだな、かなり昔のことだが、歴史を研究している者に少しだけ話を聞いたことがある」


「……ええと、それはどのような話だったのですか?」


 なんとか気を取り直して質問する。もちろん両腕に当たる柔らかい感触を必死に意識の外に追いやりながら、である。


「このニルアの里……というよりエルフ族が集落を作るさらに前の時代に、今より優れた魔導の技術を持った文明があったらしい、という話だ。その者も半分は妄想に近いが……と前置きをして語っていた」


「遺跡を見つけたわけではないのですね」


「うむ。各地にそれを示すような魔道具の残骸が残されているという話でな、技術者に見せてもまったく理解ができなかったそうだ。もっともそれ自体が昔の話なので、今の技術者が見てどうかは分からんが」


「その残骸というのは残っていないのですか?」


「好事家の貴族が集めているという話もあったが、その貴族もすでに残っていない国の人間であろうし、探すのは難しいだろうな。ああ、そういえば一つだけもらったものがあったな」


 そう言うとユスリン女史は奥の部屋に行き、しばらくして戻ってきた。


 その手には、前世で見た電子基板に似た、奇妙な金属板が載っている。


「これがそうだ。何に使うかまったく分からないが、人の手によるものであるのは間違いない」


 その金属板を渡された俺は、インベントリから『玄蟲』を討伐した時にドロップした『古代文明の残骸』を取り出した。


 二つをつき合わせてみると、明らかに同じ文明のものであると感じられる。


「おや、ケイイチロウ殿も持っていたのか。なるほど、比べると同時期のものに見えるな。これはどこで?」


「『悪神』が操っていたモンスターからドロップしたものです。リースベン城の地下に封印されていたモンスターで、どうやら『古代文明』と関係があったようなのです」


「それはまた面妖な経験をしたものだな。ケイイチロウ殿と話をしていると飽きなくて面白い」


「自分でも驚きます。それで、その文明については他には?」


「残骸はかなり広い範囲から見つかっているので、恐らく大陸全体に広がる巨大文明だったのではないか、というくらいだな」


「そうですか。……あ、この残骸を『解析』で見てみればいいのか」


 大切なことを忘れていた。


 実は『玄蟲』からドロップした方は、レベル99の『解析』で見ても有用な情報は得られなかったのだ。


 どうもドロップ品は新たに生まれたモノ扱いのようで、それ自体から情報をたどれないらしかった。


 しかしユスリン女史がもってきた方の残骸なら情報が引き出せるかもしれない。



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 投影装置の魔導基盤(破損)


 イスマール魔導帝国技術省にて試作された投影装置の基盤の一部。


 ミスリルの表面を魔素被膜で覆ったものがベースとなっている。


 ……


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 この後も膨大な技術的説明が続いているが、そこは今は必要な情報ではない。


 問題となるのはもちろん『イスマール魔導帝国』とやらだ。この言葉の詳細を表示。



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イスマール魔導帝国


現在より1万5123年前~1万2245年前の間に存在した中央集権国家。


最大で5州7属国を束ねた帝国。


人口は最大時で13億を超える。


第3階梯の魔導技術を擁することで高度な文明を築き、複数の文化を融合した独自の文化を発展させた。


……


……同時多発的に出現した『厄災』との数年にわたる戦い、そしてその後出現した『大厄災』との戦いによってほぼすべての文明が破壊された。


当該帝国の名は現在の歴史には残っていない。


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 一気に情報が流れ込んできて少しクラッときた。しかしなるほど、これでお約束の『古代文明』の実在は確定したと言っていいだろう。


 そしてどうやら『厄災』によって滅ぼされたのも確定だ。しかも「同時多発的」ということは、今回と同じ『厄災』の6体同時出現があったと考えていいだろう。さらには『大厄災』という言葉……これが『星の管理者』というのも俺の中では確定だ。


 とすれば、この高度な魔導文明が、『大厄災』への対抗策を用意したところで滅亡した……というシナリオだろうな。そしてその対抗策が遺跡に眠っているという感じか。うん、ベタベタな展開だな。


「ケイイチロウ殿、どうかしたのか?」


 ユスリン女史が顔を覗き込んでくる。やっぱりメチャクチャ美人だよなあ。


「今、私が持つスキルでこの残骸がもつ情報を覗いていました。やはりこれは古代文明のもののようです。『イスマール魔導帝国』という国が1万年以上前にこの大陸にあったようですね」


「何……?」


 ユスリン女史が眉をひそめ、ネイナルさんは口もとに指をあてて「?」という顔をしている。


 もちろんほかの娘たちもポカンとした顔だ。あ、ちょっと突飛なことを言い過ぎたかもしれない。


「ああ、その、『解析』というスキルがありまして、この間それがすごくレベルアップしたんです。おかげでものを見ただけでいろんな情報が見えるようになりまして」


「『解析』って、師匠がステータスが見えるって言ってたスキルですか?」


 ネイミリアよく覚えてるな。ステータスを見たのはもうだいぶ前のことだけど。


「そう、それ。で、この残骸を調べたらそういう情報が出てきたんだ。しかもその『イスマール魔導帝国』は、多数の『厄災』と『大厄災』によって滅ぼされたらしい」


「いきなり言われても信じられないお話ですけれど……ケイイチロウさんが嘘をつくはずないですものね。きっと本当のことなんでしょうね」


 ネイナルさんがにこっと笑う。それとは対照的にユスリン女史は真剣な顔をする。


「しかし『厄災』に『大厄災』か。穏やかではない話だな。もしかしてケイイチロウ殿はその『大厄災』とやらに心当たりがあるのではないか?」


 さすが里長、勘が鋭い。


「ええ、実はそうなんです。ここにいる皆も見ているんですが、より強力な『厄災』が現れる前兆のような現象が起きていまして……ネイナルさんも『邪龍』を倒した時に御覧になりましたよね?」


「えっ、あ、あの黒い霧が吸い込まれていったあれですか?」


「そうです。どうやらその予想が当たってしまった感じですね。やはり『イスマール魔導帝国』の遺跡を見つけて、その『大厄災』の情報を得ないとならないようです」


「ふむ、しかしそうは言っても『逢魔の森』は広い。どうやって探すつもりなのだ?」


「それは私のスキルでどうにかします。ただ、森の奥がどの方向なのかが大雑把にでも分かれば楽になるのですが……」


 実はそれもユスリン女史から聞きたかったことの一つであった。俺の勘では『逢魔の森の一番奥』に遺跡があるはずなのだが、問題はどこがその『奥』にあたるのか広すぎて分からないということであった。


 しかしその疑問に対して、ユスリン女史はあっさりと答えた。


「ああ、それは簡単だ。強いモンスターが出てくる方に向かえばいいだけだからな」

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