27章  転生者のさだめ  06

 そんなこんなで俺は各国を回ったり遺跡にいって兵器群を起動して転送したりと奔走した。


 各国を回ると言っても先の3か所以外は王家の使者を転移で送ったりしただけで、俺が話を通したりしたわけではないので大した働きはしていない。


 兵器群の起動もほぼゼロが行ったので問題はなかった。


 遺跡の兵器に関しては、銃器系に関しては一部精鋭部隊を編成して彼らに扱わせることにし、2体のインペリアルガーディアンと100体を超える『精鋭兵』たちは城門前に配置した。


 なお、ゼロはやはり『戦闘支援システム」ということで、自身にはそこまで強力な戦闘能力はないようであった(といっても普通に3段位ハンターレベルはあるが)。


 もちろん一番重要なゼロの『対大厄災兵器モード』も確認を行った。


 行ったのだが、どうやらお約束の「実験段階の一発限定兵器」らしく試すことすらできなかった。


 まあこの手の武器は「いきなり実戦投入」でも動くのがパターンなのでそれに賭けるしかない。


 正直「事前テストなしで設計通り動くものなど存在しない」ということは骨身に沁みて知っているだけに不安でしかたないのだが……。


 ともあれ日は過ぎていき、いよいよモンスター出現予定日まであと1日となった。


 俺はゼロとともにサヴォイア城の女王陛下のもとに待機をしているが、執務室も今までにない緊張感が漂っている。


 なおこの場には事前の話通りバルバネラとロンドニア女史もいる。


 リュナシリアン女王陛下とロンドニア女史が仲がいいのは聞いていたが、どうもロンドニア女史とバルバネラも妙に気が合うようで、応接セットの方で2人してくつろいでいる。


 女王陛下はバルバネラの俺に対する態度に何か感じるところがあったようで、俺の顔を見て溜息をついていた。


 それがどんな意味の反応なのかは分かりかねたが、すべてが終わったら俺が断罪されればいいだけだと腹はくくっている。なんとも格好の悪いくくり方だが……。


 俺が場にそぐわないことに頭をめぐらせていると、ピクリとゼロが反応した。


『マスター、大規模な魔素の発生を確認しました。発生場所は当都市の全周囲』


「ありがとう。女王陛下、始まったようです」


「うむ。じい、連絡を頼む」


「は、いよいよですな」


 ヘンドリクセン老が執務室を去ると、程なくして城外に設置された魔道具からけたたましい警報が鳴り響いた。


 恐らく城壁に詰めている『王門八極』を始めとする守備隊にも聞こえているだろう。


 すでに2日前から人の行き来は禁じられており、城壁の門はすべて閉じられているので、城から見る限りではまだ大きな動きはない。


 その城壁のはるか向こうで、黒い霧が一斉に立ちのぼるのが見えた。


 その黒い霧は壁のようにこの首都の全周囲を囲い、ゆらゆらその場にとどまっている。


 霧の密度が次第に濃くなっていき、そしてその密度にまだらな濃淡が生まれ、濃の部分の霧は次第にモンスターの形を取り始める。


『モンスター出現。総数は3万……4万……5万……5万5千……6万……6万ほどで出現数が安定。10等級が10体、9等級23体、8等級49体、7等級82体を確認』


 ゼロが報告を続ける。


 7等級以上の高等級モンスター数をカウントするよう頼んだが、彼女が口にする数字はなかなかに絶望的だ。


 女王陛下もさすがに眉をつりあげて椅子から立ち上がった。


「なんだと。予想よりも強力ではないか。この首都を100滅ぼしても釣りがくる戦力とは」


「いやちょっと、これアタシが出ても意味あんの?」


 バルバネラはいつもの調子だが、さすがに少し顔色が悪い。


 ロンドニア女史はと見ると……口元が引きつっているが、一方で俺を期待の眼差しで見ていたりもする。


「陛下、ご安心を。今報告にあったモンスターはすべて私が討伐いたします。バルバネラは予定通り陛下の指示に従ってくれ。ゼロ、転移するぞ」


『はい、マイマスター』


 俺は陛下に頷いて見せると、転移魔法を発動した。




 転移先は城のもっとも高い尖塔の上であった。


 尖塔の先とはいっても、人が2~3人立つくらいのスペースはある。


 俺とゼロはそこに立ち、はるか高所から首都の周囲を見回した。高所だけに風はかなり強いが、それは俺たちには特に問題にはならない。


 遠目でも城壁の周りを完全に包囲するように大小のモンスターがうごめいているのが分かる。


「ゼロ、今から高等級モンスターを殲滅する。7等級以上で撃ち漏らしがあったら教えてくれ」


『了解、マイマスター』


 俺はインベントリから500発のミスリルバレットを取り出し『念動力』の支配下に置く。

 

 それらを1キロ上空まで浮かび上がらせれば、狙撃準備は完了だ。


 『千里眼』『魔力視』を併用して、城壁に向かって進んでくるモンスターのうち高等級のものに照準を固定する。


 ヒュドラ、ガルム、ケルベロス、オーガ最上位種、各種ドラゴン……それ以外でモンスターの密度が高い部分にも適当に狙いをつける。


 超高レベルの『並列処理』を駆使しての多重ロックオン。もはや一人イージスシステムと言っていいかもしれない。


 3秒ほどで500発分のロックが完了。


「ファイア」


 一度言ってみたかったんだよなこれ。


 号令とともに、多重加速されたミスリルバレットが音速の数倍の速度で上空から連続射出される。周囲に響く凄まじい破裂音は、さながら殺戮をもたらすラッパのようだ。


 この世界にはあり得ない高エネルギーをたくわえた弾丸はモンスターの集団のあちこちに着弾し、その膨大なエネルギーを解放した。


 巨大な高等級モンスターが破裂し、周囲のモンスターも巻き込んで凄まじい爆炎が巻きあがる。すべての弾丸に魔法『フレイムバースト』の属性を付与しているので、着弾と同時に爆発する仕様だ。


 連続で火柱が上がる様子はさながら戦争映画の砲撃シーンだが、ボンボンボンという衝撃音が遅れて耳に届くのが現実なのだと実感させる。


『7等級以上のモンスターすべての討伐を確認。合わせて1万2千のモンスターが消滅。素晴らしい射撃精度、そして驚異的な破壊力です。データ更新、マスターが使用した一部能力から魔力が感知されませんでした。帝国が研究していたすべてのエネルギー原理からも逸脱しています。可能なら説明をお願いします』


 ゼロが身を乗り出して迫ってくる。このアンドロイド少女はネイミリアとちょっと似たところがあるな。


「それは後だ。女王陛下に報告しよう。転移する」


 高等級モンスターがいなくなれば後は『王門八極』と国軍、そして遺跡の兵器群とバルバネラで何とかなるだろう。


 執務室に転移すると、窓の外を女王陛下とバルバネラとロンドニア女史が食いつくように眺めていた。


「陛下、7等級以上のモンスターはすべて討伐いたしました。合わせて1万2千ほどのモンスターも消えたようですので、首都の守りは有利に行えるかと思います」


 声をかけると3人が呆けたような顔で振り返った。


 その中で真っ先に口を開いたのはロンドニア女史だった。


「今のクスノキ殿がやったんだよな? とんでもないブレスを連続で吐いた感じだったが……もしかして竜神様の生まれ変わりなのか?」


「いえ、あれは魔法と私の持つスキルを合わせた技です」


 変な称号がつくから迂闊に「竜神様」とか呼ぶのはやめていただきたい。


「いやしかし本当に10万でも相手にできそうだな。さすが旦那様だ、いいものを見せてもらった」


 と言って嬉しそうに俺の背中をバンバン叩くロンドニア女史。まあ引かれるよりははるかにありがたい。


 次に動けたのはバルバネラだ。溜息をつきながら俺の胸をつつく。


「まあアンタが強いのは知ってたけどね。ホント敵にならないで正解だったよ」


「最初はそうでもなかったんじゃないか?」


「あの時は何も知らなかったからさ……。でもなんで最初会った時に見逃してくれたんだい?」


「まあ、何となくワケありだと分かったからな」


「アタシそんなそぶり見せたっけ?」


 キラキラしてたからだとは言えないので「勘でわかった」と言おうと思ったら、女王陛下が横から入ってきた。


「この男は美しい女には見境がないからな。もっともそのおかげで『凍土の民』とも和解できそうであるし、バルバネラには力を貸してもらえることになったのだから悪いことではないのかもしれんが」


「まあそれもそうか。さて、そろそろ始まりそうだから、アタシは前線に行くよ」


 そう言うと、バルバネラは窓から外へと飛び出して、城壁の方に飛んでいった。


「空を飛べる上にモンスターを使役できるというのは本当に強力な援軍が来たものだ。クスノキ侯爵にも感謝をしなければな」


 女王陛下の言葉には、微妙に皮肉っぽい響きがある。まあバルバネラと俺の関係にも気付いているみたいだしなあ。


「話を聞く限り、旦那様はあちこちで美しく能力の高い女を囲っているようだな。やはり力ある男はそうでなくてはな」


「何を言っているのだロンドニア、お前もその一人であることを忘れるな。我が国は側室も存分に働いてもらうからな?」


「リュナスの10分の1くらいは働くさ。ローシャンとの橋渡しもしなきゃならんだろうし」


「最低でも余の半分は働いてもらうぞ。もともと国の長をしていた人材を無駄にするほどサヴォイアは余裕がある国ではないのだ」


「うへ、怖いね女王様は」


 確かにこの2人は仲がよさそうだ。


 しかし言葉の感じからすると女王陛下はどうも俺の女癖の悪さ(冤罪)についてはそれほどこだわってないような……。


 と自分に都合のいいことを考えようとしているとゼロがピクリと動いた。


『マスター、新たなモンスターの出現を感知しました。場所は都市ロンネスク周辺。数は1万……1万5千……2万……2万で出現数が安定。10等級が3体、9等級7体、8等級15体、7等級26体を確認』


「わかった、ありがとうゼロ。では女王陛下、私は一旦ロンネスクに向かいます」


「うむ、頼んだぞ」


 女王陛下とロンドニア女史に見送られ、俺はゼロとともにロンネスクへ転移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る