27章 転生者のさだめ 07
転移した先は公爵閣下の執務室だったが、すでにモンスター出現の報が届いていたらしく、部屋には緊張感がみなぎっていた。
俺の顔を認めるとコーネリアス公爵は「おお、クスノキ侯爵か」と安堵の表情を浮かべた。
「公爵閣下、モンスターが出現したとのことで参上いたしました。これより高等級モンスターを中心に討伐を行います」
「うむ、頼んだぞ。多数のドラゴン種まで確認したとのことで不安が高まっているようだ。それを払拭して欲しい」
「は、お任せください」
公爵閣下はもう俺の能力については疑いを持っていない。むしろドラゴンくらい簡単に一掃できるだろうと確信しているようだ。
俺は一礼すると、南側の城壁の上に転移した。
城壁の上にはすでに大勢の兵士が弓や杖を構えて並んでおり、魔導バリスタなどの大型の兵器も並んでいた。
全員が一様に固まったかのように、まだ遠くに見えるモンスターの大群を見つめている。
これほどのモンスターの群など見たことがないだろうし、しかもその群には明らかに高等級と分かるモンスターが多数混じっているのだ。
なるほど確かに守備の兵士から見ると、とてつもなく絶望的な光景に違いない。
「む、ケイイチロウ殿ではないか。応援に来てくれたのだな」
そんな中俺に気付いたのは赤いポニーテールの女騎士、アメリア団長だ。
彼女は俺の横に並ぶと、モンスターの群に目を向けた。
「これほどのモンスターが現れるとは、事前に言われてはいても実際に見るとさすがに身がすくむ思いがするな」
「アメリア団長でもそんなことがあるんだね」
「当たり前だ。さすがに私でも複数のドラゴン種は相手にできん」
「ケルベロスくらいなら一対一でいけるんじゃないか?」
「どうだろうか。戦えるとは思うが……いやそれよりケイイチロウ殿はこの大群をどうするのだ?」
「予定通り7等級以上のモンスターは一掃していくよ。それ以外もある程度間引いておくけど、それで許してほしい」
そう言うと、アメリア団長は口元に笑みを浮かべた。
「ふふっ、『許してほしい』とはいかにも卿らしい言いようだな。卿でなければ大言壮語と笑いとばすところだ」
「自分でもおかしなことを言っている自覚はあるけどね。城壁を4か所回る予定だから、とりあえず始めるかな」
さて、ここまで距離が近いとミスリルバレットは必要ないだろう。
というかアレは強力だがクレーターだらけになるからな。首都の周りは500ものクレーターができてしまっているはずなので、後で女王陛下に文句を言われるかもしれない。
それはともかくここは『風龍
『ヘルズサイクロン』『フローズンワールド』を同時発動。『念動力』で圧縮して、複数の極低温超高圧縮の竜巻を複数発生させる。
「ゼロ、討ち漏らしがあったら報告頼む」
『了解しました、マイマスター』
白い登り龍にも見える竜巻を操り、高等級モンスターを呑みこませていく。
呑みこまれたヒュドラやガルムやドラゴン種は空に吸い上げられたかと思うと瞬時に凍りつき、バラバラに砕け散りながら消滅していく。
もちろん竜巻の通り道にいるモンスターたちも相当数が同じ運命を辿ったのは言うまでもない。
『この方角の7等級以上のモンスターは殲滅完了です、マイマスター』
「ありがとう。よし、次に行こうか。アメリア団長、失礼するよ」
振り返って見ると、アメリア団長はさすがに少し驚いた表情をしていたが、すぐにいつもの凛々しい顔に戻った。
「ケイイチロウ殿の力は十分に知っているつもりだったのだが、やはり目の前で見せられると言葉を失うな。しかしこれでこの方面の守りは問題あるまい、別の方角の支援も頼む」
「分かった。アメリア団長も気をつけて」
「ふふ、貴殿の妻になるまで死ぬつもりはない」
そう冗談を口にしたアメリア団長は、その瞬間だけは騎士団長ではなく、一人の美しい女性に見えた。いやまあ普段から美人ではあるんだが。
「妻になっても死なれたら困るよ」
そう答えて俺は転移魔法を発動した。
景色が変わる直前に見えたアメリア団長の頬は、赤く染まっていたようだった。
次に転移した西側の城壁は、領軍の兵士とともに多数のハンターが守りについている場所だった。
陣頭指揮を執っているのはイケメンエルフのトゥメック副支部長のようだが、もちろん吸血鬼美女のアシネー支部長の姿もある。彼女自身『氷属性』を使う高レベルの魔導師であるので、さすがに今回は出ない訳にもいかなかったのだろう。
「あらケイイチロウ様、こちらにもおいで下さったのですね。南の方ではかなりの魔法をお使いになったみたいですわね」
艶然と微笑むゴージャス美女も、さすがに今日は多少余裕がないようにも見える。
仕方ないとはいえ普段は超然としている彼女なので、俺としても少し気になってしまう。
「ええ、予定通り高等級モンスターを殲滅します。ゼロ、いつものように」
『了解。7等級以上のモンスターをモニタリングします、マイマスター』
俺は同じく『氷属性』付きの『風龍獄旋風』を発動、城壁に近づきつつあるモンスターの隊列を引き裂いていく。
『7等級以上のモンスターの殲滅を確認しました、マイマスター』
「ありがとう。アシネー支部長、これで大丈夫でしょうか?」
俺の放った魔法の猛威を目の前にして目を見開いていたアシネー支部長だったが、声をかけるとすぐにふふふっ、と口を押さえながら笑い出した。
「ケイイチロウ様の魔法をこの目で見るのは二回目ですけれど、本当に信じられないほどの威力ですわね。しかも先ほどの魔法は『氷属性』もお使いになっていましたわよね?」
「ええ、『ヘルズサイクロン』と『フローズンワールド』の合成ですね」
「どちらも使えるだけで一目置かれるほどの上級魔法ですのに、それを事もなく複数同時発動した上に合成したなどと言ってのけるのはケイイチロウ様くらいのものですわ」
「うむ、名づけるなら『氷龍
トゥメック副支部長がメガネをクイッと上げながらやってきた。さらりとセンスを疑われ……感じさせる名づけをしてくれたが、これがエルフの神髄なのかもしれない。
「この時代のこの国に貴殿が現れてくれて、我々は本当に幸運だったとしか言いようがないな。これほどの力を持つ人間がいること自体いまだ信じられないが」
「私が力を振るえるのは、皆さんが自分を受け入れてくれたからだと思っています。幸運というならむしろ私の方がそうでしょう」
「フッ、貴殿のその物言いが信頼を勝ち取ったのだ。それは間違いない」
「あら、トゥメックもようやく素直になったようですわね」
「何を言う、私は最初から彼のことは認めていたぞ? お前と違って距離を置いていただけだ」
うん、どうやらリーダーに余裕が出てきたようだ。この方面は大丈夫だな。
「ではそろそろ失礼いたします。次の場所に援護に参りますので」
「あら、もう行ってしまわれるの? せっかく求愛をしてくださったのに」
「は……?」
転移しようとした俺に、支部長が聞き捨てならないことを言った。
「吸血鬼にとって、自分が得意とする属性のより強い魔法を見せられることは、求愛を受けたことになるのですわ」
「えぇ……」
「アシネー、この非常時に冗談はやめたまえ。そんな習俗があるなど聞いたこともないぞ」
「ふふっ、緊張を解くことも大切ですわ」
トゥメック副支部長にネタばらしされ、いたずらっ子のように笑う支部長。
ゴージャス美女のギャップ萌え(前世の長男から得た知識)とか、このタイミングで見せつけてくるのはさすが公爵閣下の信も篤い策士である。
「そのような意味に取っていただいても私は構わないのですが」
これくらいの反撃は許されるだろう。俺はアシネー支部長が一瞬呆けたような顔になったのを確認して、転移魔法を発動した。
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