27章 転生者のさだめ 08
北側についても同様に高等級モンスターを殲滅し、最後にネイミリアたちがいる東側に転移した。
『
よく考えたら『逢魔の森』のモンスターは『星の管理者』の管轄ではないはずだから、それも当然ではあった。
さて、俺とゼロが姿を現すと、勇者パーティの面々がいち早く気付いて集まってきた。
「師匠! 今日はどんな魔法を使うんですか!?」
さすがネイミリア、こんな時でも魔法マニアぶりにブレがない。
「『風龍
「エルフの秘術に師匠がさらに手を加えるんですね。楽しみです!」
「こんな時に楽しそうにできるって、ネイミリアってすごいよねっ」
「本当にそうですね。私はずっと緊張してしまって……。クスノキ様が来てくださってやっと心が落ち着きました」
聖女リナシャの言葉を受けて、聖女ソリーンが確かにホッとした顔で頷く。
「あのモンスターの数なら仕方ないさ。しかも『魔王』の時より強いモンスターも多いしね」
『魔王』の軍勢もかなりの迫力ではあったが、あの時は結局軍勢とはぶつかってはいないからな。今回はさすがにそういうわけにもいかない。
「高等級のモンスターはクスノキ様に一掃していただけると考えてよろしいのですね?」
「もちろん。見ててくれ」
エイミの問いに答えつつ、俺は『風龍獄旋風』改め『氷龍
天に上る白い龍が複数生まれ、モンスターたちを呑みこんで引き裂いていく。
その光景を前にして、カレンナル嬢が憧憬の眼差しみたいな目で俺を見てくる。
「クスノキ様には剣ですら足元にも及びませんが、魔法ともなるともはや神の御業としか思えません。まさに竜神様の化身です」
「はは……、ロンドニア様にも似たようなことを言われたよ」
ああこれ称号につくの確定っぽい。俺の称号欄が中学時代のノート化していく……。
「ロンドニア様に?」
「今ちょうど女王陛下のところに来ていてね。あっちで魔法を使って見せたらお前は竜神か、ってね」
「なるほど……。しかしロンドニア様がこちらに来られたということは、ローシャンにはリンドベル様が戻って来られたということですね。もしかして……」
とカレンナル嬢が俺を見る目が別の色合いを帯びる。ああ、こういう時の女性の勘って鋭いんだよなあ。
俺はあわてて目を逸らし、魔法を見て気合を入れ直しているラトラに声をかけた。
「ラトラはいつものとおりやればいいよ。城壁の上に上がって来ようとした奴だけ相手すれば大丈夫」
「はいっ、みなさんのため、ご主人様のために頑張ります!」
「そうだね。でも一番大切なのはラトラだから無理はしちゃだめだよ。怪我したらすぐソリーン様に治してもらうこと」
「はいっ……一番大切……はうぅ……」
そこでラトラは真っ赤になって顔を伏せてしまった。ふと見ると全員が何か言いたそうな目で俺を見ている。
「……あ~、もちろん俺にとってはみんな一番だからね。全員各自自分を大切にして戦うこと。連携も大切だから、いつもの感じを忘れないように」
「はいっ」
嬉しそうに返事をする女子部……勇者パーティ一行。
なんか周りの兵士さんたちの視線がすごく痛い……のは当然ですね。申し訳ないのでそろそろ転移をしよう。首都の城壁はそろそろ戦闘がはじまっているだろうし。
ああでもその前に、サーシリア嬢とセラフィとシルフィに声をかけるのを忘れたらいけないな。
この防衛戦において、ハンター協会の建物が臨時の救護施設の一つとなっていた。
協会のホールの床にはいくつもの寝床が敷かれ、いつでも重傷者を受け入れられるようになっている。
受付カウンターの上には応急手当をするための道具がおかれていて、その近くには協会の職員のほかにアルテロン教会の関係者多数詰めていた。
むろん皆一様に緊張した面持ちである。
俺が入って行くと、やはり緊張した様子のサーシリア嬢がすぐに気付いて近づいてきた。
「ケイイチロウさんお疲れ様です。いよいよ戦いが始まったんですね」
「ああ、さっき高等級のモンスターは全滅させたから、戦いは有利にはなると思う。ただ怪我人は相当数出るだろうね」
「分かりました。私はちょっとした手当てしかできませんけど、セラフィちゃんたちがちゃんと動けるようにサポートします」
「よろしく頼むよ。そういえば二人は?」
「さっきなにか強い力を感じるとか言って二階に行ってましたけど……」
サ―シリア嬢が奥の部屋に続く扉に目を向けると、ちょうど白い翼をもった二人の少女が扉を開けて出てきた。
セラフィとシルフィは俺を見て小走りに近寄ってくるなり話しかけてきた。
「クスノキ様、さきほどのお力はクスノキ様が?」
「……すごい力だった……」
「多分そうだね。かなり強力な魔法を連続で使っていたから。というか、二人は魔力とかを感じることができるの?」
「はい、クスノキ様に力をいただいてから感覚が鋭くなったみたいです」
「……クスノキ様の魔力はすごくわかりやすい。あったかい感じがするから」
「なるほど、そういうこともあるんだね。二人は特別な存在だし、他の人にはない力がまだあるのかもしれない」
『光の巫女』の能力については、伝承でもあまり話が残っていないらしい。どうやら以前トリスタン侯爵が言っていたように、一人で『闇の皇子』を倒すと同時にその命を失ってしまうからのようである。彼女らが二人同時に『光の巫女』となって本当に良かったと思う。
俺がそう思いつつ二人を眺めてると、セラフィが急に顔を赤くしながら口を開いた。
「どのような力があるかは分かりませんが、もしあるのなら、その力はクスノキ様のために使いたいと思います。その……何度も助けていただきましたから」
少し慌てたようにシルフィも続く。
「えっと……わたしも、クスノキ様のために力を使います。だからこれからもクスノキ様の側に置いてください。……その、運命の人だと思うので……」
「シルフィ、それは言わないって……」
「だってやっぱり気持ちは全部言わないとだめだと思う。セラフィもちゃんと言わないと」
「ええっ!? あうぅ……」
セラフィが真っ赤になって
いやでもここでそんなことを言われるとは思わなかったな。
正直彼女たちの年齢を考えると、ここで俺がその想いに応えるのは前世の感覚では問題アリという判定なのだが……しかしここで『異世界』の常識を当てはめるのはナンセンスだろうとも思う。
「二人の気持ちは分かったよ。俺としてもすごく嬉しく思う。もちろん今後もずっと俺のそばにいて欲しい」
ああだめだ、今の自分を客観視するとキツいなこれ。やっぱり何も考えずに先に進もう。
俺は抱き着いてきた二人を受け止めつつ、ちらりとサーシリア嬢を見た。
彼女は目に涙を浮かべて頷いていたが、それとともに俺に何かを訴えかけているようにも見えた。
セラフィとシルフィがちょっと恥ずかしそうにしながら身を離した。
すると交代にサーシリア嬢が二人に押し出されて前に出てくる。なんかもう、全員で結託してる感じですね。
「ええと、ケイイチロウさん、私もずっと……一緒にいていいんでしょう……か?」
「サーシリアさん、もちろんだよ。今後もずっと俺と一緒にいて欲しい」
「は……はいっ。よろしくお願いします!」
ぱあっと花が咲いたように笑顔になる美人受付嬢。初めて会った時に比べてキラキラ感が5割増くらいになってる気がして直視するのがつらい。
ふと周りを見ると、生暖かい目で見守っている救護施設のスタッフの皆さんが……。
俺は慌てて一礼すると、3人を励ましつつ、ゼロとともに逃げるようにその場を後にするのだった。
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