2章 城塞都市ロンネスク 15

「師匠、戻ったら必ず今日使った魔法を全部見せてください。約束しましたからね」


ネイミリアがジトッとした目で見上げてくる。


ヒュドラの元には一人で行くと伝えると、俺の魔法を見たい一心のネイミリアは、普段の礼儀正しさを捨てて抵抗した。


しかし彼女は、この場の戦線を最小限の被害で維持するのに必要な人材である。


なので、ヒュドラ討伐に使った魔法は後日必ず見せるという条件でなんとか残留を了承をしてもらった。


「次の波が来た時に、戦いに紛れて谷に突入するということでいいのだね?」


副支部長はまだ半信半疑のようだったが、これは仕方ないだろう。今から俺がやろうとしていることは、かなり常識から外れているはずだ。


「こんな作戦が可能なのは『王門八極』くらいのものだと思うのだが……。まあネイミリアまで可能だと断言するなら、私も信じてみよう」


あ、『王門八極』ならできるのか。ならそこまで大それたことでもないのかもしれない。


と、谷の方がにわかに騒がしくなってきた。


どうやら行動開始のようだ。


「では行きますね」と言って、俺は隠密スキルを発動させて谷の方に歩き出した。




迷路状になっている谷底はオークオーガがひしめき合っていた。


俺はその間を気配を殺しすり抜けながら、早足で奥に向かう。


所どころ見かける上位種はストーン改めメタルバレットでできるだけ霧に変えていく。


ドロップアイテムを拾う余裕はない……と思っていたが、ふと気付いて念動力でインベントリに放り込んでみたところ上手くいった。


ゴブリンの時に気付いていればと少し後悔。


オークソルジャーやオーガディフェンダーの頭部がいきなり爆ぜ、そのドロップアイテムが黒い穴に吸い込まれる様子を見て、周囲のオークたちが騒いでいる。


彼らから見ればとんでもない怪奇現象だろう。


谷に入って1時間ほど経っただろうか、明らかに上位種の存在が増えてきているのに気付いた。


上空から見た感じでは、ここが中間あたりのはずだ。


もう少し進むと四つ足のモンスターが出てくるな……と思っていると、それは現れた。


一言で言えば、人の顔を持った大型のライオンである。


その尻尾はサソリのようで、先端は明らかに毒針になっている。




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マンティコア(成体)


スキル:

毒針 気配察知 

咆哮 剛力


ドロップアイテム:

魔結晶5等級 マンティコアの毛皮 

マンティコアの牙 マンティコアの爪

毒腺

 

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なるほど有名なモンスターだ。


実際見ると人面があまりに奇怪で、本能的に後ずさりしたくなるが。


遠巻きにすれ違おうとすると、ギロリ、と、その赤い目がこちらを向いた。


隠密が見破られたようだ。モンスターの気配察知はかなり強力らしい。


ヒエェェェッ!!


奇妙なうなり声が、牙の並んだ口から漏れる。


周囲のモンスターたちから一気に殺気が吹き出し、オークオーガが上位種を含めて一斉に俺に向かって突進してきた。


「ライトニングバーストッ!」


俺命名の魔法名を大声で叫んだのは、ひるみかけた自分を叱咤しったする意味もあった。


俺の手から稲妻が放たれ、周囲を薙ぎ払う。


オークたちは瞬時に霧と消えるが、マンティコアはさすがにそれだけでは倒せない。


と言っても、もう虫の息ではある。


俺はインベントリからオーガの斧を取り出し、醜悪な顔でにらみつけるマンティコアを一刀両断した。


「ここからは全部倒して進むしかないか」


雄叫びを上げて迫ってくる無数のモンスターたちに向かって、斧を片手に俺は歩を進めた。




元の世界にいたとき、長男がやっていたゲームを思い出す。


強力なプレイヤーキャラクターが無数の敵を片っ端から、それこそ草を刈るように倒していくゲーム。


今の俺が、まさにそのプレイヤーキャラクターだった。


炎と雷、岩と水が周囲に渦巻き雑魚モンスターを触れたそばから消滅させる。


斧が一閃すれば上位種の首が飛び、獣の巨体が真っ二つに裂けて霧となる。


邪魔になるドロップアイテムは出現した側から黒い穴に吸い込まれ、激しい戦い……というより一方的な殺戮さつりくが行われているのにも関わらず、俺の通ったあとには染み一つ残らない。


目の前に5メートルを超える巨大な鬼。




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オーガエンペラー(成体)


スキル:

剛力 剛体 回復 

気配察知 大剣術 


ドロップアイテム:

魔結晶5等級 

オーガエンペラーの大剣 

オーガエンペラーの盾

 

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巨鬼が鉄塊のごとき大剣を横ぎに振るう。


それを俺は斧で上に弾き、瞬時に間合いをつめ、両足を切断。


上体が地に崩れるより早く、その首を刈り取る。


「これはいいな」


ドロップしたオーガエンペラーの大剣は、青光りする刀身だけで2メートルはあろうかという大業物おおわざものだった。


俺は得物えものを斧から大剣に変え、さらに奥地に向かった。




周囲に黒い霧が濃くなってきた。


そろそろ谷の最奥だろう。


前方にワイバーンと遭遇した時と同じレベルの気配を察知する。


風魔法で霧を散らすと、100メートルほど先に巨大な多頭の蛇が姿を現した。


ダンプカーほどの胴体から、丸太のような蛇の首が扇状に突き出している。


それぞれが独立してウネウネと動き、舌をチロチロ出しながら威嚇している姿は、いかにも神話の世界から飛び出してきた怪物といった趣だ。




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ヒュドラ(成体)


スキル:

ブレス(水+毒) 再生 

回復 気配察知 


ドロップアイテム:

魔結晶7等級 ヒュドラの瞳 

ヒュドラの皮 湧水器官


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「ヒュドラと言うからには、首を落としても再生したりするのか?再生スキルもあるし」


火魔法で高熱の炎を生成、それを超能力で圧縮し、熱線として照射。一本の首を焼き落とす。


シュルウウゥゥゥッ!!


悲鳴を上げてヒュドラがのたうつ。


新しい首が生えてるくる様子はない。もしかしたら切り口を焼いたせいかもしれない。


怒り狂った残りの首が、八発の水ブレスを吐いてくる。


ブレスと言ってもそれはウォーターレイの上位版ではなく、巨大な水の球であった。


俺は超能力でその軌道を捻じ曲げ、四方に散らす。


ヒュドラが戸惑っている隙に距離をつめ、大剣で次々と首を落とす。


なるほど確かに斬ったそばから再生はしているようだが、残念ながらその再生速度はまったく間に合っていなかった。


首をすべて落とすと巨体から黒い霧があふれ出し、そしてワイバーンと同じ7等級の魔結晶がドロップした。



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名前:ケイイチロウ クスノキ

種族:人間 男

年齢:26歳

職業:ハンター 4級

レベル:53(9up)


スキル: 

格闘Lv.12 大剣術Lv.6(new) 長剣術Lv.10 

斧術Lv.8 短剣術Lv.9 投擲Lv.5

七大属性魔法(火Lv.10 水Lv.13 

風Lv.15 地Lv.14 金Lv.6

雷Lv.10 光Lv.6)

時空間魔法Lv.12 生命魔法Lv.7 算術Lv.6

超能力Lv.14 魔力操作Lv.9 魔力圧縮Lv.9 

魔力回復Lv.3(new) 毒耐性Lv.6 

眩惑耐性Lv.5 炎耐性Lv.1 衝撃耐性Lv.4  

多言語理解 解析Lv.2 気配察知Lv.9 

縮地Lv.3(new) 暗視Lv.6 隠密Lv.8

俊足Lv.6 剛力Lv.5 剛体Lv.4(new)

不動Lv.5 狙撃Lv.4 錬金Lv.3 

並列処理Lv.4(new) 瞬発力上昇Lv.7 

持久力上昇Lv.8 

   

称号: 

天賦の才 異界の魂 ワイバーン殺し

ヒュドラ殺し(new) エルフ秘術の使い手

錬金術師 オークスロウター(new)

オーガスロウター(new)


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『魔力回復』はそのままだが、俺は魔力が切れたことがないので効果は分からない。


『縮地』は一瞬で短距離を移動するスキル、『剛体』は身体の剛性が瞬間的に上がるスキルだ。


『並列処理』は二つ以上の作業を同時に行えるスキルだが、これは魔法で狙撃しながらインベントリを開いて超能力でアイテムを拾う、ということをやって取得したものだろう。


称号については……まあ仕方ないのだろうか。


ヒュドラを倒すと黒い霧は晴れ、気配察知に引っかかるモンスターの数が一定以上増えなくなった。


モンスターの大発生については解決したと判断し、俺はハンター達が集まる本陣に戻った。





本陣はまだ多少の緊張感を保っていた。


俺は一応隠密を発動したまま副支部長がいるはずの本部テントに向かった。


テント側で隠密を解き本部に入る。


副支部長とネイミリア、そして数人のハンターがおり、何か話し合いをしていたようだった。


俺の顔を見て、ネイミリアが慌てて近づいてくる。


「師匠、ご無事だったのですね!」


「ああ、特に問題はなかったよ。心配してくれてありがとう」


美少女エルフの屈託のない笑みに、殺伐としかかった心が癒される。


ゲーム的とはいえやはり殺戮行為は元日本人としてはストレスが大きい。


『スロウター(虐殺者)』という称号がつくほどのことをしたのだから余計である。




副支部長はハンターたちに何か指示をしてテントから追いだすと、俺に茶を出してくれた。


「モンスターの氾濫が二刻程前から完全に止まったのだが、君が戻ったということは解決されたということだろうか?」


「ええ、恐らくそうなると思います」


俺は先程までの戦い(あくまで戦いだと主張したい)について報告をし、ヒュドラのドロップアイテム、7等級の魔結晶その他を証拠として提出した。


副支部長はじっと聞いていたが、報告が終わると長い息を吐きだした。


「ありがとう。今回の件は君の尽力によって解決したと判断しよう。正直今の話を全て信じるのはまだ抵抗があるのだが……」


「私は全て真実だと思います」


「そう言うなネイミリア、私にも公人としての立場がある。ともかく、ここは撤収してロンネスクに戻ることとする。クスノキ殿、申し訳ないが、戻ってから再度報告をお願いする。その……もし大量のドロップアイテムがあるというのなら、その扱いについても相談する必要があるだろう。無論、貴殿の処遇についてもだ」


副支部長の顔は、肩の荷が下りたが半分、新たな厄介ごとが増えたが半分という感じだった。


会社で何度か見た上司の顔だ。


原因の半分が自分なだけに、申し訳なさを感じずにはいられなかった。

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