2章 城塞都市ロンネスク 13

「来るぞっ!オークはソルジャー10、キング1、オーガはノーマル50ちょい、ディフェンダー6、ジェネラル1だっ!」


谷の淵で斥候せっこうをしていたハンターが叫びながらこちらに戻ってくる。


ソルジャー云々はいわゆる上位種の数だろう。オークのノーマル種は数えきれないということだ。


谷の方からブヒブヒという鼻息が波が打ち寄せるように響いてくる。一体どれだけの数がいればこのような音になるのだろうか。


俺は森での戦闘とは違った緊張感を覚える。ただ冷静に考えれば、オーガの最上位種でもワイバーンよりは弱いだろう。俺が緊張を感じる必要はないはずだ。


ネイミリアを見ると、落ち着いた様子で谷の方に目を向けている。青い水晶の付いた杖……クリスタルロッドを構える姿はとても自然体である。


谷の淵から20体以上のオークが同時に飛び出してきた。文字通り谷の底からいきなり飛んで来たように見える。


「オーガがオークを投げ上げているのよ」


隣の魔女が言う。なるほど谷の淵から下に向けて攻撃しないのはそのせいか。


あんなのが次々飛んで来たら、あっという間に乱戦になってしまう。


「魔法撃てぇっ!」


この場のリーダーらしきハンターが叫んだ。


20人ほどの魔導師ハンターのうち、半数が魔法を放つ。


ストーンバレットがメインで、有効と思われるファイアーボールを使わないのは視界が遮られるからか。


残り半数の魔導師は上位種のために魔力を温存しているのだろう。


俺とネイミリアもストーンバレットを放つ。


叫びながら突進してくるオークが次々と黒い霧に変わる。


と、オーガがチラホラと姿を見せ始めた。


オーガはさすがにストーンバレット一発では沈まず、接近を許してしまう。


「接敵っ!!」


前衛がオーガにとりつく。3対1の手慣れた動きでオーガを翻弄ほんろうし、次々と霧に変えていく。


さすが3級、まるで危なげがない。


とはいえさすがにオーガが増えてくるとマズい感じだ。


俺とネイミリアはオーガを集中して狙って倒していく。


石一発で頭部が吹き飛ぶ様子はかなりショッキングだが、森の戦いを経た俺はもう何も感じない。


「アンタ達やるねっ!助かるよっ!」


魔女が叫ぶ。彼女は彼女で、前衛に近づいてくるオークを的確に撃ち抜いている。


「上位種注意っ!!」


リーダーが叫ぶ。一際体格のいい黒光りするオークが10体、さらに大きなオークが1体現れる。


あれがソルジャーとキングか。


「大魔法撃てっ!」


叫びと共に今まで沈黙していた魔導師達が、炎をまとった岩の槍を一斉に放つ。


火・地・風の3属性を複合させた『火焔岩槍かえんがんそう』(エルフ族での呼び方)だ。


ソルジャーに次々と着弾し、何体かが霧に還る。


次弾は……と待っていると、どうやら連続では撃てないらしい。


ネイミリアは連射していたと思うんだが。


「あの魔法は通常一発撃つと回復時間が必要です」


ネイミリアが教えてくれる。ちょっとだけ誇らしそうなのは気のせいではないだろう。


ソルジャーは5体健在、キングも無傷だ。


どこまで力を見せたものかと悩んだが、出し惜しみして死人でも出ると後悔するだろう。


俺はストーンバレットの出力を上げ、ソルジャー5体の頭部を一気に消し飛ばした。


「さすが師匠です」


いや、貴女も余裕でできますよね?


「アナタ何者!?」


魔女嬢が目を見開いてこっちを見ている。今気づいたが、結構な美人だった。


美人の多い世界である。


「魔法はちょっと得意なんですよ。派手なのは使えないんですけどね」


言う間にネイミリアが『火焔岩槍』を発動、キングの上半身が蒸発する。


「ええ!?アナタも!?」


「おい、今の誰だ!?キングが一発で消し飛んだぞ!」


「すげえな!これなら楽できそうだ!」


おお、士気が上がっている。さすが集団戦に慣れている。派手に見せるのも時には必要と言うわけか。


「ディフェンダーだっ、魔法は雑魚優先に切り替えろっ!」


巨大な盾を持ったオーガが6体現れた。その奥には身長3メートルを優に超える巨躯きょくのオーガ、あれがジェネラルか。


「あの盾は魔法防御力が高いの。撃ち抜けないなら無視した方がいいわ」


美人魔女が言う。俺は試しにバレットを一発。オーガの盾は大きくへこむが貫通はせず。受けとめたオーガは吹き飛んだが健在のようだ。


「確かに硬いな」


「いや、それはそれでおかしいでしょ」


魔女が呆れている。


と、陣の右方から光の筋が一本放たれた。


そのレーザーのような光はディフェンダーを盾ごと打ち抜いて消滅させた。


「今のは何だ?」


「大叔父上の『光神牙こうしんが』です。魔法と弓の複合技ですね」


「弓と魔法、そういうのもあるのか……」


異世界の技は奥が深いな。


「ただ、あの技も連続では使えないのです。しかしあれを見せられたら私も負けられませんね」


ネイミリアがロッドを掲げる。目の前に渦巻く炎が現れ、それは圧縮されながら一本の槍となる。


「『焦熱炎槍しょうねつえんそう』!」


紅蓮の槍はゴオッという唸りと共に射出されると、大盾を融解する形で貫通し、ディフェンダーごと蒸発させた。


「魔力圧縮のおかげで威力があがってます!」


戦場でその喜び様はどうなのだろうか、という感じでキラキラしているネイミリア。


オーガディフェンダーは2体が撃破されマズいと感じたのか、4体が集まってジェネラルを守る形に入った。


そこに魔術師部隊の2発目の『火焔岩槍』が多数着弾する。


俺はそれに合わせるように高圧縮ストーンバレットをこっそり放って、ディフェンダー4体の眉間を盾ごと貫いた。


「残りジェネラル1体っ!」


4体が消滅してリーダーが叫ぶ。


そこに2発目の副支部長の必殺光線が炸裂、ジェネラルの頭部が消失し、この戦いは残りオークの殲滅せんめつ戦に入った。

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