21章 → 22章

―― サヴォイア女王国 首都ラングラン・サヴォイア

   アルテロン教会 大聖堂 教皇執務室



「メロウラ、この度は本当にご苦労様でした。『けがれのきみ』が調伏ちょうぶくされたことで神の御威光もますます強まるでしょう」


「教皇猊下げいかもご活躍だったとお聞きしました。本当にこの度の災厄は危険なものであったと再確認していたところです。クスノキ様がいらっしゃらなければと思うと、今でも身の凍る思いがいたします」


「ええ本当に。そうそう、『聖地』も浄化されたことが確認されました。以前より神気に満ちた地になっていると神官たちが騒いでおりますよ」


「実はそれもクスノキ様が『聖地』を浄化したからではないかと思います。同じ浄化魔法でも、クスノキ様のものは何もかもが違いますので」


「なるほど、『聖地』でも力をふるわれたのですね。ところでメロウラ、貴女はクスノキ卿がどのような出自の人物だと考えますか?」


「教皇猊下と同じ考えだと思います。本人は否定していらっしゃいますが、間違いなく預言者マティナル様の生まれ変わり、もしくはその力を継いだ方だと確信しています」


「やはりそう考えますか。『神祖しんその光』、そして神気に満ちた浄化魔法、さらには『厄災』に対して振るわれたという数々の奇跡、間違いないでしょうね」


「人間性を見ても疑う余地はないと思います」


「ふむ。そうすると彼に関わる悪評はどう解釈すべきでしょう」


「預言者マティナル様は生涯を通して清貧を保っていたことが知られておりますが、ゆえに寂しい晩年を送ったと言われています。それが関係あるのかもしれません」


「なるほど、前世でなせなかったことを今世こんぜで、というわけですか。無意識のうちにそれを求めている可能性はあるのかもしれませんね」


「はい、そう考えれば致し方ないかと」


「いずれにしてもクスノキ卿はあまり詮索は好まない様子。とは言っても我々としてはつながりを保っておきたいところです」


「それに関してはリナシャたちが側にいるようですので。それと、私もクスノキ様とは折を見てお話をしたいと思います。『厄災』も残っておりますでので、お手伝いできることもあるでしょう」


「ええ、それはいいですね。預言者マティナル様の生まれ変わりとなれば、大聖女の相手としてこれ以上のものはありませんし」


「猊下……っ、そういう意味ではありません……のでっ」


「ふふふ、どのような意味に取ったのかは分かりませんが、よろしくお願いしますよ」

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