2章 城塞都市ロンネスク 02
城門は高さが10メートルはあろうかという金属製の立派なものであった。
もちろん城壁はそれ以上に威容のあるもので、近くで見ると圧倒されるばかりである。
戦いを前提にした建築物は、平和な日本のビル群とはまったく異なる迫力を備えていた。
行列に並んで待ったほかは特に悶着もなく、都市ロンネスクに入ることができた。
犯罪歴を調べる魔道具とやらはお目にかからなかったが、もしかしたらどこか遠くから検査していたのかもしれない。
「これが異世界の都市か……。映画のセットじゃないよなこれ」
城門を抜けると、そこはそのまま大通りだった。
石畳の道ははるか向こうあるもう一つの城壁まで続いており、その奥には西洋風の城が見える。
尖塔が何本も空に突き出しているその姿は、そのままこの街の経済力を示しているかのようだ。
道の左右には石壁3階建ての建物が並び、人や馬車が所狭しと行き交っている。
「窓にはガラス、店の看板は金属製もある。道もきれいで、ゴミもほとんど落ちていない。臭いがしないから下水道もあるか。文化文明レベルはかなり高そうだな」
ファンタジー世界というと中世ヨーロッパなどがモデルになるようだが、少なくともこの都市の文明レベルはそれより高い気がする。
元日本人としては大変ありがたい話だ。
さて、先程の商人氏に聞いた話では、この都市の宿代は安くても一泊5000デロンかかるらしい。
『5000デロンもかかりますぞ』と言っていたので、これはかなり高い水準のようだ。
今の持ち合わせを考えると3日過ごせるかどうか怪しいので、まずは金策から当たってみるのが良さそうである。
商人氏から勧められた宿で予約を取った後、俺はやはり商人氏から聞いた『ハンター協会』なる所に向かった。
『ハンター協会』は西側の城壁沿いにあった。
非常に立派な建物であるが、『ハンター協会』はこの街の産業の一翼を担う協会らしい。
そんな重要な協会の建物が中央ではなく城壁のそばにあるのは、『モンスターの素材』(この世界では『魔物』ではなく『モンスター』呼びだった)を運び込めるようにするためだとか。
近くを歩いている人間はいかにもハンターという出で立ち……ではなく、まんまゲームで言う所の『冒険者のパーティ』であった。
男の戦士2人に女の魔法使い1人と僧侶1人、みたいな集団があちこち歩いている姿は、正直かなりシュールである。
美形が多めなこともあって、仕事で手伝わされたプロのコスプレイベントを思い出してしまう。
気を取り直して協会建物に入っていく。
一階は広いホールになっていた。床面積は学校の体育館くらいはあるだろうか。
左側に受付カウンターが並び、正面と右側には掲示板が並んでいる。
掲示板には文字や絵が描かれた木製プレートがいくつも掲げられ、大勢の冒険者風ハンター達がそれらを眺めては相談し合っている。
俺はそのコスプレ集団を横目にカウンターに向かい、『素材買取』窓口の受付嬢に声をかけた。
「初めまして。モンスター素材の買取をお願いしたいのですが」
「承りました。ハンター登録はされていますか?」
「いえ、しておりません。この街に来るのも初めてです」
「分かりました。お名前をお願いします」
「ケイイチロウ・クスノキです」
受付嬢の対応は、下手な日本の銀行員より上等なものであった。
ただその、目の前の受付嬢――ネームプレートにはサーシリアとある――は、水色の髪を片側でまとめた、泣き黒子がチャーミングな超絶美人であり、胸元が大きくあいた制服を着ている上にその制服の胸部ははちきれそうであるという、目のやり場に非常に困る女性であった。
周りを見ると他の受付嬢の制服も同じように胸元があいており、ハンター協会のコンプライアンスは一体どうなっているのだろうかと現実逃避したくなってしまう。
しかも問題はそれだけではなかった。
このサーシリア嬢、あの超絶美少女エルフ・ネイミリアと同じく、『ヒロイン的キラキラオーラ』を全身にまとっているのだ。
「今日お持ちいただいた素材をお見せいただいてよろしいですか?」
「あ、はい」
上目遣いがあざとすぎる受付嬢の精神攻撃に耐えつつ、俺は背負い袋(亡くなったハンター氏のもの)から、3等級の魔結晶を取り出した。
ちなみに3等級の魔結晶なら自分が出してもギリギリ問題ないと商人氏に確認済みである。(それとなく聞いたが、ワイバーンの7等級は王家に献上する案件らしい)
「魔結晶……3等級が3つですね」
サーシリア嬢は虫眼鏡のようなもので確認をし、魔結晶と引き換えに金貨銀貨をトレイにいれて差し出してきた。
「協会の規定により、魔結晶3等級は1つ50,000デロンになります。そこから税を引きまして1つ40,000デロン、3つで120,000デロンとなります。こちらにサインを」
税率20%は良心的なほうだとは商人氏。俺は受取証にサインをし、金を受け取った。
「ハンターの登録はされますか?ソロで3等級を採取できる方は協会として歓迎いたしますが」
受付嬢がニッコリ笑ってキラキラビームを放ってくる。これを回避できる男は存在するのだろうか。
もっとも、『協会として』という言い回しで、暗に『個人的に歓迎しているわけではありません』と伝えるあたりに美人受付嬢の苦労を感じてしまうのも確かだ。
「お願いします。受付はどちらで?」
「わたくしが承ります。では、こちらの書類に記入を……」
もとからなるつもりだったから構わないのだが、妙に負けた感があるのはなぜだろうか……。
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