1章 異世界転移?異世界転生? 06
森を歩き始めてから5日が経った。
千里眼で確認をすると、徐々に森の端が近づいてきているのが分かる。
と言ってもまだまだ時間はかかりそうだ。
魔物との戦闘は5日で16回を数えた。
正直かなり戦闘慣れしてきたと思うが、油断や慢心は禁物と言い聞かせる。
魔物は新たに『死毒蜂』『グランドバイパー』という蜂と蛇の巨大な奴と遭遇した。
実は蜂の毒を食らってしまったのだが……生命魔法での解毒が間に合い事なきを得た。
おかげで『毒耐性』なるスキルが身に付いた。
「文字通り怪我の功名ってか」
一方で、こんな独り言がでるくらいに精神は疲れているのだが。
「ん?」
日が中天に近づくころ、ふと視界の端に異物が映り込んだ。
気配察知に感がないので魔物ではない。
近づいてみると、それは人間……だったものであった。
視界に映った異物の正体は金属製の鎧の残骸だったのだが、周囲には明らかに人骨と思われるものが散乱していた。
ひしゃげた兜らしきもの、折れた長剣、籠手、そして背負い袋……そんなものも地面に散らばっている。
「ここまで森に入り込んで、魔物にやられた感じか」
そう推測しながら、人間がいるという証拠をはっきりと見つけたことに俺は少し感動していた。
鎧などの錆具合を見る限り、この人物が森で人生を終えたのはそう前のことではなさそうだ。
そしてそれはこの世界の文明レベルが、やはりゲーム的ファンタジー世界に近いことを示していた。
「森の外に見えるアレは、やはり城塞都市ってことになりそうだな」
言いながら、落ちているものをインベントリに入れていく。
自分が元から持っていたものを除けば、この森で初めて目にする人工物だ。できるだけ拾っておきたくなるのが人情というものだろう。
なお一応解析もしているが、鉄製の武具、という以上の情報はない。
「この札は?」
頭蓋骨と思しき骨のそばに、クレジットカードほどの大きさの金属片を見つけた。
表面に文字らしき記号が打刻されている。
『オッド・クレールソン ハンター2級』
初めて見る文字がすんなりと読めるのは、多言語理解スキルのおかげだろう。
「身分証明書かドッグタグか……、しかしハンター、か」
たったこれだけのアイテムだが、ここからうかがえる情報は少なくない。
オッド・クレールソンは人名だろう。ということは、この世界、もしくはこの国の人名には、姓と名があるということになる。
そしてそれはステータスの俺の人名の表記と一致する。
また、この人物が森にいたということから察するに、ハンターとは森の動物、もしくは魔物を狩る職業を指すのであろう。2級という表示はその職業に階級があり、階級を決める組織があるということを示している。
「なんにしろ、これで先行きが明るくなってきたか」
人がここまで来ているということは、人里に近づいていることに他ならない。
都市にたどり着いたら廃墟だった、などというオチもなさそうだ。
散らばった骨を前に合掌をし、俺はその場を後にした。
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