27章  転生者のさだめ  12

 入り口から見ると、遠くにある円形の舞台の向こうに何か巨大なモノが形を成そうとしているのが感じられた。


 最初は人型のラスボスが、一度倒されて巨大な姿に変身する――いかにもありがちな展開だが、やはりここでもそれを踏襲するらしい。


 俺が『瞬間移動』で円形の舞台に移動すると、舞台の外側の空間が陽炎のようにゆらめいた。


 次第に姿を現す『星の管理者』最終形態。


 それは6本の長い首を持った超巨大な化物だった。本体は円形の舞台の下にあり、首だけが舞台の上にある。

 

 一見するとヒュドラの親玉にも見えるが、その頭部はなんと倒してきた『厄災』のものだ。『邪龍』『魔王』『穢れの君』『悪神』『闇の皇子』そして『玄蟲』。


 『邪龍』と『玄蟲』はともかく、『魔王』など人の頭部が巨大化しているのは見た目かなりエグい。特にもともと複数の頭の集合体である『悪神』はグロいまである。


 しかし一体は『玄蟲』なのか。恐らく本来ならあそこにはアビス……『奈落の獣』が入るはずだったんだろうな。アビスはもう完全に猫だから関係ないけど。


「それがお前の真の姿か?」


『いかにも。これが『理』より解き放たれた我の真の姿である』


「理より解き放たれた……? つまり人間を滅ぼすなという命令が消えたということか?」


『汝の理解の早さは異常である。理外の異物はやはり消去するのみ』


「理解と言っても、そっちが勝手にお約束をやってるだけなんだけどな」


 一度死にかけてリミッターが外れるとか、いかにもな展開で笑うしかない。言っても理解はしてもらえないだろうが。


『汝を消去したならば、残りの人間もこの星から完全に消去する。我が使命はそれにて完遂されよう』


「もちろんそれを許すつもりはない。ラストバトルを始めようか、『星の管理者』」


『星の管理者、我にふさわしき名よ。その言葉は永遠に記憶しよう』


 無数の首が震えて広がり、その頭部が一斉に俺を向いた。戦闘開始というわけだ。BGMはパイプオルガン的なやつが似合いそうだな。


 『星の管理者』の6つの首、それぞれの口の部分から魔力があふれ出す。


 なるほど最終形態は魔法ブレスメインの攻撃か。それなら俺も本気の全力魔法を試せそうだ。


ね、理外の異物』


「断る」


 ――『魔力圧縮』『九属性同時発動』『並列処理』


 俺の周りに6つのブラックホール球が浮かび上がる。


 それとほぼ同時に吐き出される6本のブレス。すべて極彩色の『カオスブレス』――『四属性同時発動』のブレスだ。


 俺はブラックホール球を一斉に射出する。その暗黒の球はブレスを吸い込みながら、6つの頭めがけて飛んでいく。しかしブレスを吸収しきれなかったのか、途中で爆発を起こし消え去った。


「ちっ」


 俺は再度ブラックホール球を生成、一斉射出。それでブレスの第一波は防ぎ切った。


『不可解な魔法を使うな、理外の異物め』


 6つの首が左右に広がり、俺を半円形に取り囲む。


 面倒な攻撃がきそうな予感。俺は先んじて『炎龍焦天刃』を発動し首の切断を試みる。


 しかし表面の鱗を削り取る程度しか効果がない。続けて『聖龍浄滅光』で頭部を撃ちぬくが、やはり表面を多少焦がすのみ。


『その程度の魔法では我は倒せぬ』


 6つの頭部から再び魔力の反応。先ほどより密度が高い。高圧縮のブレスというわけか。


 対抗してまたブラックホール球を生成する。6つではだめだ。可能な限り生成を……。


 一斉にブレスが吐き出された。鋭く螺旋を描く極彩色のブレス。俺はブラックホール球を生成した端から次々と射出し、高圧縮のカオスブレスを相殺していく。


 しかし微妙な差で間に合っていない。相殺している距離がじりじりと圧縮されていく。


『さあ消えよ、異物』


 無機質な『星の管理者』の声に、かすかに勝利を確信したかのような感情が混じる。


 遂に1本のカオスブレスが俺に届く――その瞬間、俺は『瞬間移動』を発動した。


 俺がいた場所に6本のブレスが着弾して大爆発を起こす。しかしそこに俺はいない。

 

 俺が今いるのは――『魔王』の頭の上だ。


『なぜそこにいる!?』


 答える義務もない。俺はブラックホール球を最大出力で生成、『魔王』の脳天に叩きつける。


『おごっ!?』


 頭部が圧縮されながら、暗黒の穴に吸い込まれていく。ちょっと……いやかなりグロいなこれ。俺一人で戦っていてよかった。


『我が身を削るとは。許さぬ』


 残り5つの頭部が、着地した俺に向けて再びブレスを照射する。だが同じことだ。次は『悪神』の上に『瞬間移動』、ブラックホール球を叩きこむ。


 『瞬間移動』を使ったこの攻撃に、結局『星の管理者』は有効な対策を打てなかった。6つの頭部すべてを失い、6本の首が円形の舞台に横たわった。


『……まことに理外の異物……ここまで想定外の存在とは……』


 すべての頭部を失ったにもかかわらず、『星の管理者』の声が響く。まあそうだろう、ここからが真の最終形態のはずだ。ラスボスの頭部が今までのボスの流用というのは、ゲームなら手抜きだと文句を言われるだろう。


 6本の首がゆらりと持ち上がった。その首がより合わさり、一本の太い首となる。


 そしてその先端がボコボコと変形したかと思うと、そこに出現したのは巨大な黒い人間の顔。


 そう、『星の管理者』が人型の時の顔がそこにあった。もちろん表面には無数の文字列が浮かび上がっては消えていく。


『これぞ我が究極の姿』


 広い空間に、『星の管理者』の声がこだまする。期待を裏切らないラスボスぶりである。


『今こそ我が力、すべてを解放する時。我が使命を阻むことは許されぬ。今度こそ消滅せよ、理外の異物』


『星の管理者』の頭部の全周囲に数百という魔力のわだかまりが出現した。


 それらのうち一部は頭部周辺を高速で移動し壁となり、残りは極彩色の光弾となって俺の元に殺到する。


 接近戦を禁じての魔法の撃ち合いというわけか。先ほどは撃ち負け気味だったが、こちらも全力で応ずるしかないだろう。


 俺は『九属性同時発動』のブラックホール球を無数に生成し、極彩色の光弾を迎え撃つ。


 数百という光弾と暗黒球が俺と『星の管理者』の中間地点でぶつかりあり、次々と光芒を放っては消滅していく。


 それら一つ一つの爆発が街一つを壊滅させ得るほどの威力を秘めている。ネイミリアが見たら喜びそうだな。


『我が魔力は無尽。汝に勝ち目はない』


 魔法の撃ち合いは、やはり俺がじりじりと圧されはじめる。


 もちろん『瞬間移動』を使えば回避自体はできるのだが、ここは任せるとしよう。すでに俺の一部となっている、あのインチキパワーに。


 すでに俺の脳内は、ピロリンピロリンと電子音の大合唱だ。全力で魔法を行使するはじめての状況に、スキル群が恐ろしい勢いでレベルアップしていく。


『なぜ圧しきれぬ』


 俺の近くまで迫っていた極彩色の弾幕が、ある時点でその進行を止めた。


 言うまでもなく、俺の魔法の力が『星の管理者』のそれと並んだのだ。


 むろん並んだだけで満足するようなインチキパワーではない。


 なおも遠慮なくレベルが上がり続けるスキル群。俺の撃ちだす暗黒球が、『星の管理者』の光弾を押し返していく。


『あり得ぬ。なぜ我が圧し負ける』


「お前が自分で言った通りだ。俺が理外の異物だからだよ」


 まさにそうなのだ。他の世界からやってきて、アホみたいな力を持った異物のような存在。


 今なら分かる。いや、すでに分かっていた。俺がこの世界に来たのは、この瞬間のためであると。


『我が消滅すればこの星は滅びるのだぞ。汝の行いは、自ら死を選ぶに等しいとなぜ理解できぬ』


「その話に関しては立場が違いすぎて永遠に平行線のままだろう。だからこうして力比べをしているんじゃないのか? 『星の管理者』」


『愚か。もはや語る言葉なし』


 俺の暗黒球が『星の管理者』の周囲を守っていた魔力をすべて食いつくす。これで『星の管理者』は丸裸だ。ならばラスボスにに残された行動はただひとつ。


『我が力を一点に。我が前より消え去れ、理外の異物』


 巨大な顔の正面、口に当たる部分に圧倒的な魔力が凝縮されていく。そうそう、最後っ屁で最強の一発奥義。やはりラスボスはこうでないとな。


 俺は両手を前に突き出し、あらん限りの魔力を圧縮。巨大なブラックホール球が出現するが、それをさらに圧縮し、ぎりぎりまで密度を高める。


 『星の管理者』の口から、極彩色のブレスが螺旋を描いてほとばしる。星をも破壊しかねない程の、破滅の光。


 ――『九属性同時発動』、そして『念動力』


 俺は極限まで凝縮されたブラックホール球を念動力で収束させ、『星の管理者』に向けて解放した。漆黒の柱が、周囲の光をすべて吸い込みながら真っすぐに伸びていく。


 俺が放った最終奥義『混沌龍無限裂牙むげんれつが』(今命名)は、極彩色のブレスを食らいつくしながら宙を裂き、そして――


『オゴォッ!』


 『星の管理者』の頭部を貫き、その巨大な身体ごとすべてを吸い尽くした漆黒の柱は、その場で暗黒球の形に戻った。


 暗黒球は一気にしぼんだかと思うと、極限まで小さくなった瞬間に、そのすべての魔力を解放した。


 今いる空間、すべてを塗りつぶすほどの魔力の爆発。


 超新星爆発にも匹敵するであろう力の奔流は、俺自身をも呑みこんで――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る