27章 転生者のさだめ 13
辺り一面が白い光に包まれていた。
俺はその乳白色の空間の中で、一人ぽつんとたたずんでいた。
ああ、思い出した。
俺はあの世界に転移する前に、確かこの不思議な空間に一度来たのだ。
忘れていたのは記憶を消されていたからだろうか。
『……サンプル12番、クスノキケイイチロウの覚醒を観測』
そう、この声だ。この声も聞いたことがある。機械的で無機質な女性の声。
『当該サンプルは、転送先世界にて旧管理システムの削除を完了』
『旧管理システムの削除を確認。新管理システムによる『プロジェクトミレニアム』を実行する』
『クスノキケイイチロウの肉体修復完了。スキル継続付与、新管理システム付与』
『サンプル12番をミレニアム素体1号に更新』
こちらを無視して話を勝手に進めるのも同じだ。しかし肉体修復ということは、やはり俺はあの爆発に巻き込まれて吹き飛んだんだな。
『ミレニアム素体1号を当該世界に再転送』
どうやらもとに戻してもらえるようだ。それはありがたいな。
あの世界にはやり残しが……いや、やらなければいけないことが多くできてしまったのだ。
乳白色の空間が、いきなりその輝きを増す。
光は俺の意識を塗りつぶし……。
『マスター、返事を。マスター、返事を』
遠くで声が聞こえる。機械的な声だが、微かに感情がこもっている感じもある。
この声は聞き覚えがある。
確か……ゼロ。そう、アンドロイド少女のヴァルキュリアゼロだ。
「ああ、大丈夫だ。生きているよ」
俺は目を開けた。
薄い色の髪をなびかせた少女の顔がそこにある。背景が空ということは、俺は仰向けに寝ているらしい。
む、後頭部が柔らかい。ゼロの顔の位置と合わせて考えるとこれはもしや……
『急に起き上がってはいけませんマスター、安静にしてください』
「大丈夫だよ。ゼロにいつまでも膝枕をしてもらうわけにはいかないからね」
上半身を起こして周囲を見回すと、赤茶けた土の地面が周囲に広がっていた。
どうやら円形に地面がえぐられていて、その中央部付近にいるようだ。
立ち上がってみてようやく状況がつかめた。巨大なクレーターの底に俺とゼロはいるのであった。
「すまないゼロ、ここはどこだ?」
『『大厄災』ダンジョン入り口の真下です。入り口は消滅しています』
「ということはダンジョンが爆発したということか?」
『はい。ダンジョン内に収まり切れなかった魔力が溢れたものと思われます』
「よくゼロは無事だったな」
『寸前に機能が回復しましたので』
「そうか。もっと遠くに運んでおくべきだったな」
そう言って空を見上げた。もちろん宙に開いていたダンジョンへの入り口はきれいになくなっている。
これでこの星の人間を縛っていた『管理者』はいなくなった。今後この星の文明はとめどなく発展していくだろう。
それがこの星にとって正しいことであるのかどうか、神ならぬ身には知りようもない。
だがこの世界に来て、この世界に生きるようになった俺としてはこれ以外の道はなかった。
後はせいぜい、残りの人生を使って人間が星を滅ぼさない方向に進むよう微力を尽くすまでだ。さすがにそのくらいは、あの『星の管理者』の意志を尊重してやってもいいだろう。
俺が似合わない感傷に浸っていると、気配察知に感。
20人位の人間が近づいてきているようだ。
彼女らはクレーターの外周の壁を乗り越え俺たちの姿を認めると、すごい勢いでこちらに走ってきた。いや、一人は空を飛んでるな。
「師匠~っ!!」
ハグ一番乗りはネイミリアだった。そしてサーシリア、ラトラ、エイミ、リナシャ、ソリーン、カレンナル、アシネー、アメリア、メニル、クリステラ、ローゼリス、メロウラ、バルバネラ、リルバネラ、セラフィ、シルフィ、ロンドニア、マイラ、ユスリン、ネイナル。
っていうかやっぱり多いな!?
最後に黒猫のアビスが肩に乗ってきた。皆がそれを見て泣きながら笑っている。感動的な光景のはずなんだけど、胃がシクシクしはじめてきたのはなぜだろう。
……いやまあ分かってるんだけどね、自業自得という言葉が胃を攻撃してるのは。
しかしなぜ全員がここに揃っているのだろうか。リルバネラとか『凍土の民』の集落にいたはずなんだが……まあ詮索は無粋か。
そして最後に俺の前に立ったのは、深窓の令嬢風美少女、リュナシリアン女王陛下であった。
透き通るような青い瞳の彼女の前で、俺は膝を折って頭を垂れた。
「リュナシリアン女王陛下。侯爵ケイイチロウ・クスノキ、『大厄災』の討伐を完了いたしました。この勝利を陛下にお捧げいたします」
「……うむ、よくぞ『大厄災』を討伐してくれた。古今東西比類のなき大義である。サヴォイア国の女王として心から礼を言う」
「は、光栄至極に存じます。今後も女王陛下のために身を尽くす所存でございます」
とまあお約束のやりとりをしたところで、女王陛下はいきなりしゃがみこみ、俺の顔を見上げてきた。
「で、『身辺整理』の方はここにいる者で全員ということで良いな?」
「え……は……?」
陛下の奇襲攻撃に、俺は言葉に詰まってしまった。一瞬にして冷や汗が滝のように背中を流れ始める。
「これ以上側室にしたいという者はいないな?」
「そ、そのことに関しましては大変申し訳なく……ん? 側室……?」
「そうだ。本来なら王配に側室はあり得ぬのだが、卿だけは別だ。むしろ大勢の女で縛っておかねば周りが不安になってしまう。ゆえに側室候補をきちんと整理しとけと言ったのだ」
「あ、『身辺整理』ってそういう……」
なんだ、そうか、俺が勘違いしてただけか、良かった……いや、良くないよ!?
「ではその、私は彼女たち全員を側室にするということで、陛下とも?」
「無論だ。まさか文句はあるまいな?」
青い瞳に氷の刃がちらつく。
「も、もちろんです。身に余る光栄です。生涯を陛下とこの国に捧げさせていただきます」
俺がなんとかそれだけ言うと、女王陛下はニッコリと屈託のない笑みを浮かべた。
「何を言っている、これからは卿が先頭に立って国と国民を導くのだ。安心しろ、卿を助けるものがこれだけいる。きっと指導者としても古今東西類を見ない名君となるだろう」
え、でもこの国はサヴォイア女王国ですよね? 王配が先頭じゃマズいんじゃありませんか……と思いつつ、未来の妻たちに目を向ける。
目も眩むほどのキラキラな彼女たちが力強く頷く。
それを見て、俺は悟ったのであった。
この世界に転生してきた自分の、これがさだめなのだと。
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