26章  森の果て  05

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 研究員IDカード


 イスマール魔導帝国技術省管轄の研究所に入るために必要な身分証明書


 このカードを所持したもの1名の入場が許可される


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「ええっ、師匠どういうことですか!?」


「いやだから、この鍵だと遺跡には一人しか入れないんだよ」


 今俺はネイミリアだけでなく、勇者パーティの全員に詰め寄られていた。


 理由は今言ったように、ドロップした『IDカード』では、一度に1人しか遺跡に入れないという話にあった。


 恐らく誰かが1人で中に入って、遺跡の制御を掌握して全員を引き入れる……そんなイベントなのだろう。


 もちろんそんなことを言っても納得してもらえるはずもないが。


「でもそれだとご主人様に何かあった時に助けられません」


 ラトラが心配そうな顔をする。


「俺は大丈夫だから。それより皆をここに残すほうが心配なんだ。だから皆をいったんエルフの里に送り届けてから、もう一度俺1人でここに来ることにするよ」


「そんなことできるわけないじゃない! 私はここで待つからねっ」


 リナシャがぷくっとむくれながら言うと、ソリーンとカレンナルもうんうんと頷く。


 エイミが前に出て俺に強い視線を向ける。


「クスノキ様、私たちはここで待機をしています。もし1刻を過ぎてクスノキ様が戻られないようなら、何とかして遺跡に入る手立てを考えます。それでどうでしょうか?」


 ネイミリアを始め、全員がその意見に強く頷いた。


 彼女らの気持ちを考えると、これ以上強く言うのもどうかという気はする。俺がさっさとイベントをクリアすればいいだけの話であるし。


「……わかった、じゃあそれで行こう。一応食べ物とか道具とか置いとくから」


 俺はインベントリから一通り必要そうなものを出して床に並べると、『IDカード』を手に、『遺跡』に近づいた。


 さきほどの『ガーディアン』が出てきたあたりの壁に手を触れると、急に四角い切れ目が壁面に浮かび、その四角の中の壁がすうっと上にスライドして内部への通路が現れた。


「すごいな。まるでSFの世界だ」


「えすえふ……ってなんですか師匠?」


「いや、何でもない。すごい技術だなって思ってね。さて、じゃあ行ってくるよ。皆も気を付けてね」


 振り返ると、皆が心配そうな顔で俺を見ている。ああ、皆いい娘たちばかりなんだよなあ。


 俺は心の奥底と胃袋にちくちくと痛みを感じつつ、遺跡の中へと入っていった。





 背後で扉が閉まると同時に、通路の天井に明かりが灯った。


 LED照明を思わせる純白の光である。『イスマール魔導帝国』は『光属性』も使いこなしていたのかもしれない。


 『気配察知』を全開にして通路を進んでいく。


 遺跡内部はダンジョンとは違い、整然とブロック分けされた構造のようだった。


 廊下の左右には扉があり、それぞれ『事務処理室』『保管庫』などと表示がある。初めて見る文字でも意味が分かるのは、『多言語理解』様々である。


「まあ大抵は一番奥に重要なものがあるんだろうが、途中の部屋とかにも必要な情報が断片的に残ってたりするんだよな……」


 とゲーム脳を全開にしてすべての部屋をすべて覗いていこうとしたのだが、幸い(?)手持ちの『IDカード』で開く扉は限られており総当たりは避けられた。


 入れた部屋のうち『研究員室C』では、恐らくこの『IDカード』の持ち主だったであろう人物の手記を見ることができた。


 その手記によると、この遺跡は予想通り『厄災』『大厄災』への対抗手段を研究・開発する研究施設だったようだ。


 地下には大規模な汎用工場があり、そこで『精鋭兵』などの量産まで可能というトンデモ施設だったようだ。その工場は今でも細々と稼働していて、『逢魔おうまの森』のモンスターを生み出しているという感じなのかもしれない。


 『武器保管庫』という物騒な部屋では、大量の銃を手に入れた。


 銃と言っても少ない魔力で魔法を撃ちだす『魔導銃』というもので、誰でも中級レベルの魔法が簡単に撃てるようになるというヤバい物であった。


 おそらくこれを持ち帰ってもすぐにはコピーを造れたりはしないだろうが、ちょっと怖いのですべてインベントリに放り込んだ。これは女王陛下に要相談案件である。


 そんなこんなで程なく最奥部と思われる部屋の扉の前にたどりついたのだが……


「『最終調整室』、ね。いかにも調整中の『大厄災』用決戦兵器がいそうな部屋だな」


「いる」ってなんだよ、と自分に突っ込みたくなるが、遺跡の大きさ的にこの先の部屋はそう大きくはない。


 個人的には空飛ぶ巨大戦艦とかが嬉しかったのだが、どうも『精鋭兵』の超強化バージョンとかそんなところな気がする。


 まあ予想をしてても仕方ないので扉に『IDカード』をかざす。


 シュウンッと左右に扉が開き、部屋に明かりがともった。


 真っ先に目に入ってきたのは、部屋の一番奥にある、椅子に座った人影である。


 その周囲には制御盤のようなものが多数並んでおり、その制御盤から太いコードのようなものが伸びていって、椅子に座った人物(?)に接続されている。


 制御盤にはほのかに光が明滅しており、この『最終調整室』がまだ稼働状態にあることがうかがい知れた。


 俺は制御盤をチラチラと横目に見ながら椅子に座った人物に近づいていく。


 正直、制御盤がなにをするものなのかさっぱり分からない。『解析』すれば行けるかもしれないが、この手のものは勝手に動くのがお約束である……ことを信じたい。


 特に何のイベントもなく椅子の前までたどりつく。


 椅子に座り、全身にコードがつながれているその人物は、ひとことでで言ってしまえばいわゆる『アンドロイド少女』であった。


 透明に見えるほど色の薄いロングヘアと、両耳部分を覆うメカメカしいヘッドセットが特徴的な頭部、顔つきは人形のように整っている。


 手足は先にいくにしたがってメカ成分が増えていくが、二の腕やふとももの付け根付近は普通の人間のようにも見える。


 そしてそのボディ部分は……いや、まあ、昔のアンドロイド娘といえば確かにそんな格好が一部で流行ってましたけどね、どうなんですかね、その、ビキニスタイルっていうのは……。


 いや、ビキニと言ってもそこはメカメカしい鎧みたいなデザインではあるのだが……この研究所に女性はいなかったのだろうか。


 いや、肌の部分もそう見えるだけで、実は強靭な装甲になってるのかもしれないな。勝手に古代文明人の嗜好を否定してはいけないかもしれない。


 どちらにせよこのアンドロイド少女もキラキラオーラが漂っているので、彼女がこの遺跡における重要人物であることは間違いないようだ。


 と色々と考えていると、そのアンドロイド少女はいきなり目を開いた。


 さすがに俺もビクッとしてしまう。


『――ヒトノ存在ヲ認識――』


 抑揚のまったくない、カーナビの音声のような声だった。


『――ワタシハイスマール魔導帝国技術省所属『試製戦闘支援システム ヴァルキュリアゼロ』――ソチラノ情報ヲ開示サレタシ――』


 ふむ、『戦闘支援システム』ということはこのアンドロイド少女自体が兵器というわけではないようだな。ともあれキチンと対応しておくか。


「こちらはサヴォイア女王国、ケイイチロウ・クスノキ侯爵だ」


『――サヴォイア女王国――該当データナシ――』


「現在、イスマール魔導帝国があった時代から1万2千年以上経過している。そちらのデータにはないはずだ」


『――経過時間確認――1万2245年――』


「君がいた帝国が『厄災』によって滅び、そのあと人類は文明を一からやり直したのだと思う。サヴォイア女王国は300年ほど前に建国された国だ」


『――データ更新――ケイイチロウ・クスノキハ『厄災』ノ存在ヲ認識シテイルノカ?――』


「認識している。その上ですでに6体の『厄災』は討伐した。俺が知りたいのは、その後に出現するだろう『大厄災』についてだ」


『――了解――『大厄災』――現在特殊魔素ガ臨界点ヲ超エテ凝縮シテイル――『大厄災』顕現マデ推定13日ノ猶予――』


 本題に入った途端にいきなり重要情報だ。決戦は13日後か。意外と余裕がある……と言っていいのだろうか。


「『大厄災』について、君が知っていることをすべて聞きたい。やつらが一体何者なのかも含めて、だ」


『――ソノ命令ヲ実行スルニハ、ケイイチロウ・クスノキが当機『ヴァルキュリアゼロ』ノマスター権限ヲ取得スル必要ガアル――』


 ええ、そんな面倒な……と思ったが、『大厄災』なんて最重要軍事機密扱いだったはずだ。当然と言えば当然の話である。


「マスター権限を取得するにはどうすればいい?」


『――当機ニソノ情報ハ知ラサレテイナイ――』


 あれ、フラグが足りていないのだろうか。『研究員室』を調べなおすか? いや、制御盤を『解析』で調べてしまえば何とかなる気がする。


 俺はアンドロイド少女『ヴァルキュリアゼロ』……長いからゼロでいいか……から離れると、一台の制御盤の前に立った。


 制御盤は大小のボタンや球体が並ぶ、地球のそれとは似ても似つかないもので、見ただけでは何が何だか分からない。


『解析』を使うと膨大な情報が表示されたが、制御盤の操作方法とゼロのマスター権限取得方法だけを検索する。


 ……なるほど、魔力を流し込みながらこちらの命令を読み取らせて操作するのか。


 ゼロのマスター権限はステータス的に問題がなければ付与されるらしいが、これってステータスを読み取って適正な人間か判断する機能があるってことだよな。


 イスマール魔導帝国ヤバいな。どんな文明だったのか俺ですら理解が追いつかない。


 もしかしたらこの進み過ぎた文明が『大厄災』――『星の管理者』の逆鱗に触れたのだろうか。


 ともかくも制御盤にある一番大きな球体に手を置く。


 魔力が吸いとられる感覚がある。なるほどこの魔力に乗せて自分の思考を流すのか。


 自分でも何言ってるのかよく分からないが、頭で考えれば勝手に読み取るみたいなので深くは考えないことにする。


 俺は脳内で、ゼロのマスター権限と、ついでにこの遺跡のマスター権限の取得を申請してみた。


 ピロリ~ン、と脳内で電子音。


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名前:ケイイチロウ クスノキ

種族:人間 男

年齢:26歳

職業:ハンター 4段

レベル:391(30up)


スキル:

格闘Lv.92 大剣術Lv.95 長剣術Lv.83

斧術Lv.69 短剣術Lv.61 弓術Lv.45

投擲Lv.46 二刀流Lv.34

九大属性魔法(火Lv.83 水Lv.78

氷Lv.65 風Lv.89 地Lv.92 金Lv.99

雷Lv.74 光Lv.75 闇Lv.50)

時空間魔法Lv.92 生命魔法Lv.81 

神聖魔法Lv.80 付与魔法Lv.77 

転移魔法Lv.39

九属性同時発動Lv.53 算術Lv.6

超能力Lv.132 魔力操作Lv.105 魔力圧縮Lv.94

魔力回復Lv.97 魔力譲渡Lv.80

体力注入Lv.41

毒耐性Lv.35 眩惑耐性Lv.42 炎耐性Lv.49

風耐性Lv.29 地耐性Lv.32

水耐性Lv.30 闇耐性Lv.35

衝撃耐性Lv.78 魅了耐性Lv.18

幻覚看破Lv.19 朧霞Lv.22

多言語理解 解析Lv.99 気配察知Lv.65

縮地Lv.80 暗視Lv.55 隠密Lv.58 

俊足Lv.79 剛力Lv.95 剛体Lv.89 

魔力視Lv.74 最適ルート感知Lv.57

不動Lv.90 狙撃Lv.98 

錬金Lv.88 並列処理Lv.102

瞬発力上昇Lv.83 持久力上昇Lv.83

反射神経上昇Lv.68

〇〇〇〇生成Lv.35  人間向け〇〇〇〇生成Lv.19  


称号:

天賦の才 異界の魂 ワイバーン殺し

ヒュドラ殺し ガルム殺し 

ドラゴンゾンビ殺し 悪神の眷属殺し 

闇の騎士殺し 邪龍の子殺し 邪龍殺し

四天王殺し 魔王の影殺し 魔王殺し

奈落の獣堕とし 穢れの君殺し

悪神殺し 聖弓の守護者殺し

玄蟲殺し 

レジェンダリーオーガ殺し

キマイラ殺し サイクロプス殺し 

オリハルコンゴーレム殺し 

ガーディアンゴーレム殺し

ソードゴーレム殺し

ロイヤルガードゴーレム殺し

エルフ秘術の使い手 

エルフの護り手 錬金術師

王家の護人

オークスロウター オーガスロウター

ゴーレムクラッシャー 

エクソシスト ジェノサイド 

ドラゴンスレイヤー

アビスの飼い主  トリガーハッピー 

エレメンタルマスター シャープシューター

人間重機 光を導く者 喜びを与える者

解放者 再来の預言者 武闘王

聖杯を掲げし者 女王の騎士

古代文明の探究者 全知の賢者(new)

ヴァルキュリアゼロのマスター(new)

イスマール魔導帝国技術省施設管理者(new) 

先史魔導文明を継ぐ者(new)

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 『全知の賢者』は『解析』がレベル99になったせいだろうけど、『先史魔導文明を継ぐ者』ってなんなんですかね。勝手に継がせないで欲しいんですが……。


 よく考えたらこの遺跡にとってどこの馬の骨とも知れない俺に権限を与えるのもおかしな話だな。


 たぶん緊急事態ということで特別措置をとったのだろうと勝手に納得し、俺はゼロのところに戻った。

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