26章  森の果て  04

 そんな感じで何度か転移を繰り返すと、遂に7等級がザコとして出現するとんでもない領域にまで来てしまった。


 木々の間をぞろぞろと歩いてくるのは、『精鋭兵Ⅰ型』『精鋭兵Ⅱ型』という名前の、身長2メートルほどの人型ロボット兵だ。


 この世界的に言うと『リビングアーマー』が一番近いのだろうが、元日本人の俺から見ると完全にロボットである。


 どうやら『Ⅰ型』は大剣を持つ近接型で、『Ⅱ型』は『ストーンバレット』や『ファイアボール』を射出する銃のような武器を持つ遠距離型のようだ。


 俺が『解析』の結果を伝えると、エイミが構えながら俺を見た。


「どう戦いますか?」


「『Ⅱ型』は俺がやるから、皆は『Ⅰ型』を相手してくれ。くれぐれも最初は様子を見るように」


「分かりました」


 恐らく面倒なのは『Ⅰ型』『Ⅱ型』の連携だろう。まともにやり合うとさすがに勇者パーティでも手に余る気がする。逆に、近接型の『Ⅰ型』だけになれば十分対応できるはずだ。


 俺はインベントリからミスリルジャケット弾を取り出し、『Ⅱ型』を狙撃して全滅させた。一瞬で僚機を破壊され、うろたえたような動きを見せる『Ⅰ型』たち。


 このまま勇者パーティに突撃させてもいいが、一応『Ⅰ型』がどれほどのものか見ておくか。


「俺が行ってどの程度の強さか確かめてみる。見ててくれ」


 一体の『Ⅰ型』に『縮地』で距離を詰めて打ち合ってみる。数合ほど剣を合わせたが、ニールセン子爵やレイガノ本部長には及ばない程度か。人造の兵士としては十分以上に強いだろうが、7等級というにはやや物足りない気もする。やはり連携することで本領を発揮するタイプのようだ。


「今のでだいたい分かったかな。よし、全員攻撃」


「はいっ!」


 俺が攻撃許可を出すと、皆はそれぞれ得意とするやりかたで『Ⅰ型』を討伐しはじめた。


 ラトラやカレンナルはともかく、聖女のリナシャすら正面からの斬り合い(リナシャは殴りだが)で倒してしまうのがすさまじい。


 特殊能力のないモンスターとは言っても一応7等級なんですがね……。


 俺が呆れている間にモンスターを全滅させると、全員が俺のところに集まってきた。


「皆本当に強くなったね。7等級を1対1で倒せるということは、ハンターとしては3段位に匹敵するよ」


「師匠のお陰です。でももっと強くなって師匠のお役に立ちます!」


 ネイミリアの言葉に全員が頷く。


 その笑顔がまぶしい……というか胃に非常に悪い。ダメだ、ここは未来の俺に任せて先に進むんだ。


「……もう十分に強いけど、上を目指すのはすばらしいことだと思うし期待してるよ。さて、敵がだいぶ古代文明っぽくなってきたから、そろそろ遺跡が近いと思う。一層気を引き締めてくれ」


「はいっ!」


 ちなみに『精鋭兵』を『解析』したところ、やはりあれらは『イスマール魔導帝国』によって造られた対『厄災』用の兵士だということが分かった。


 というか、やはり『逢魔の森』のモンスターももとはすべて『イスマール魔導帝国』が作り出したものらしい。


 さて、次のモンスター襲撃がある前に『千里眼』による捜索に入る。


 そして、その建物はすぐに見つかった。


 一目見て人工物とわかる、歪みなく整った半球の形をした建造物が森の中に鎮座していたのだ。


 大きさは前世でのドーム球場くらいだろうか、その表面は太古の遺跡とは思えないほど濁りのない光沢を放っている。


 この世界では見たことのない材質でできているようだ。俺の記憶だと樹脂に近いような気もするが……どちらにしろ、今のこの世界では考えられない建物である。


 その建造物の周辺は地面も同様の材質で覆われているらしく、草一本生えていない。 代わりに多数の『精鋭兵』が周りを取り囲んでいるのが見えた。


「遺跡らしいものを発見した。さっきのモンスターが周囲を守っているようだ。転移したらすぐに戦闘になるから注意してくれ」


 俺は皆に伝えて、転移魔法を発動した。





 転移した先は、建造物の周囲にしかれた、光沢のある床の上であった。


 上に立った感じはやはり樹脂のように見えるが、光沢がある割に足が滑らない。不思議な感触の床である。


 目の前にそびえたつドーム状の建造物は、大きさこそサヴォイア城を見慣れてる我々にとってみればそこまで驚くほどではないが、表面に継ぎ目がまったくないところは驚嘆するしかない。


 21世紀日本の記憶がある俺ですらこれは近未来的だと感じざるを得ない建造物である。


「クスノキ様、モンスターが来ます!」


 と、見てる訳にもいかないんだった。エイミの言葉に、俺は意識を集まってくる『精鋭兵』に向ける。


「ここは面倒だから俺がやる。皆は遺跡の方に動きがないか注意してくれ」


「はいっ」


 次々と現れる『精鋭兵』はすべてミスリルバレットの餌食にした。


 対『厄災』用の兵士を苦もなく全滅させる俺を、遺跡が『大厄災』に認定したりしなければいいんだが。


「クスノキ様、建物から大きなモンスターが!」


 ソリーンが示す方向を見ると、遺跡の壁の一部にぽっかりと四角い穴が開き、そこから四足歩行のモンスター……というかロボットが出てくるところだった。


 四足歩行といっても形は平べったく、クモの脚を4本にしたみたいな形のロボットだ。


 ダンプカーほどもある本体には、小型の砲塔のようなものが4つ設置されている。




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インペリアルガーディアン フォーレッグス


スキル:

気配察知 剛力 剛体

物理耐性 魔法耐性 

属性弾射撃

物理弾射撃

跳躍 高速走行


ドロップアイテム:

魔結晶9等級 

古代文明の残骸

研究員IDカード


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 なるほど、見ての通り遺跡を守る中ボスか。


 しかもドロップアイテムの『IDカード』は、明らかにこの遺跡に入るための鍵的なやつだよな。


 と『解析』を見ていると、四つの砲塔が動き出した。射撃をしてくるということだろう。


「皆集まれ!」


 俺は皆を集めると、その前に『地龍絶魔鎧ぜつまがい』……エルフの秘術による防壁を出現させた。


 『ガーディアン』が射撃を開始したようだ。『絶魔鎧』の向こう側から激しい着弾音が響いてくる。


 壁ごと破壊しようといるのだろうが、残念ながら俺のインチキパワーは破れない。


 さすがに無駄だと分かったのかそれとも弾が尽きたのか、射撃の音が止んだ。代わりにモーター音が響く。なにか大きな動きを起こすようだ。


 ガチャンッ!!


 という激しい音と共に、壁の向こうから『ガーディアン』の巨体が現れた。


 宙に跳んだのだ。さきほどの音は跳躍の予備動作の音だったらしい。


 俺たちのはるか頭上まで飛び上がった『ガーディアン』。狙いは明らかだ。俺たちを踏み潰すつもりに違いない。


 しかし腹を見せるのは悪手でしかない。


 俺は『炎龍焦天刃しょうてんじん』を発動。超高熱の熱線で空中の『ガーディアン』を十文字に切り裂いた。


『ガーディアン』の巨体は空中で黒い霧に変わり、空から魔結晶と残骸と、そして一枚のIDカードが落ちてきた。

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