10章 エルフの里  04

里長と別れた後、俺は森のダンジョンに進入した。


森のダンジョンは、ダンジョンと言っても、要するに隔離された上に空間が拡張された森そのものである。


『千里眼』+『魔力視』で見ると、四方が謎の境界によって区切られた広大な森であることが分かる。


そのあちこちにはおびただしい数のモンスターがいて、侵入者を待ち構えているようだ。


奥の方まで捜索すると、エルフの戦士団と思しき集団が動いているのが見え、さらにその奥にはこのダンジョンのボスらしき反応もある。


俺はとりあえず、戦士団を追って森のダンジョンを進むことにした。




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アグリースパイダーレギオン(成体)


スキル:剛力 剛体 粘着糸


ドロップアイテム:

魔結晶4等級 

アグリースパイダーレギオンの糸

           

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ソードボア(成体)


スキル:

剛力 剛体 不動 突撃


ドロップアイテム:

魔結晶4等級 

ソードボアの突起

ソードボアの肉 


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出てくるモンスターは『逢魔おうまの森』に出るものの上位種であるようだ。


メタルバレットで瞬殺、ドロップアイテムは念動力でインベントリに回収しながら、かなりのハイペースで森を進んでいく。


戦士団がすでに通った後であるし、急いでも特に問題はないだろう。


二時間ほど走っただろうか、進行方向の少し先で、大勢の人間とモンスターが戦っている気配が感じられた。


近づいて見ると、20人程のエルフの戦士(と言っても全員細身のイケメンと美人だが)が魔法や弓、短剣などで、4~5匹の大型のサソリ型モンスターと戦っていた。


一際強力な魔法を放ち、今まさにそのモンスター1匹を四散させたのは、遠目でもキラキラオーラがまぶしいネイミリアである。




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スコーピオンタイラント(成体)


スキル:

剛力 剛体 突撃 

毒刺突 気配察知


ドロップアイテム:

魔結晶5等級 

スコーピオンタイラントの外殻

強毒腺 


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なかなかに強力なモンスターだ。


援護が必要か……と思っていたら、ネイミリアが2体目を撃破。残りの3匹も戦士団が苦戦することなく討伐していた。やっぱりエルフは武闘派集団かもしれない。


速度を落として近づく俺に真っ先に気付いたのはネイミリアだった。


「あっ、師匠っ!」


ぱあっと嬉しそうな顔になってぱたぱたと近づいてくる様子は、子犬を連想させてとても微笑ましい。


「どうしたんですか、こんな所に。あっ、もしかして私を迎えにいらっしゃったんですか?そうだとしたら済みませんっ!」


顔色を二転三転させて謝るネイミリアを落ち着かせて、俺はここに来たいきさつを手短に話した。


「本当は師匠がお帰りになる前にロンネスクに戻るつもりだったのですが、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


「ネイミリアに何もなければそれでいいんだ。アメリアさんの実家のほうでもちょっと事件があってね。俺も少し敏感になっていたかもしれない」


「えっ、それってどんな事件なんですか?」


「それは里に戻ったら話すよ。それより皆さんに紹介してくれないかな」


エルフの戦士団の皆さんが怪訝そうな顔でこちらを眺めていた。ダンジョン調査中にいきなり人族の男が後ろから現れたら、そういう態度にもなるだろう。


「そうですね。こちらへどうぞ」


ネイミリアに引っ張られて戦士団の前までいくと、ネイミリアの口から俺のことが紹介された。


始めはいぶかしそうな目でみていた戦士団一行だったが、俺がネイミリアに雷魔法を教えた師だと分かると、急に態度が軟化した。


「そうか、君がネイミリアの言っていた師匠なのか。まさかこんな若い人族とは思わなかったから、妙な目でみて済まなかったな。俺はソリス。この戦士団の団長を務めている」


握手の手を伸ばしてきたのは、エルフには珍しいスポーツマンタイプの色黒イケメンだった。


長剣と盾を持っているところからして前衛型の戦士のようだ。21人いる戦士団でも前衛型は3人しかいない。


「クスノキです。里長に許可をいただいて、調査の手伝いにきました。それなりに戦えますので、邪魔にはならないかと思います」


「ネイミリアの話だと7等級すら一撃だというじゃないか。邪魔なんてとんでもない」


そう言いながらも、ソリス氏の視線にちょっとだけ値踏みするようなところがあるのは気のせいではないだろう。


命のやり取りをする戦士である以上、自分の目で見るまで信じられないというのはむしろ正しい姿勢だと思う。


「ご期待に沿えるよう尽力します」


ネイミリアはそのやりとりを見て無邪気そうにニコニコしている。こういう人情の機微も、師匠としてはその内教えたりしないとならないのだろうか。


「よろしく頼む。さて、一休みしたらこのまま一気にボスまで行くぞ。そろそろ時間的にも限界に近い。ダンジョンでこれ以上夜を明かすのは避けたいからな」


ソリス氏は振り返りながらそう指示を出した。


『千里眼』で見る限り、ボスまでそう距離はない。ただ近づいてはっきり分かったのだが、

そのボスモンスターはどうやら3体いるようなのだ。


「ソリスさん、ボスは3体いるようです。ご注意を」


「なに……?そのようなことがなぜ分かるんだ?」


「師匠なら分かります。師匠ですから」


訝しむソリス氏に、なぜか鼻を高くして答えるネイミリア。さすがに会ったばかりの人に「師匠ですから」だと納得してもらえませんからね……。


「そういうスキルを持っているとお考え下さい」


「おう……。分かった、まあ警戒しておくに越したことはないからな。確かにボスが一匹だけとは限らんな」


そう言ってソリス氏は団員に注意を与え、小休止の後出発の指示を出した。





モンスターを倒しながらしばし進んでいくと急に森が開け、そしてその先に大きな岩山が姿を現した。


その岩山には巨大な横穴が口を開けており、この奥にボスモンスターがいるのだと声高に主張していた。


「あの中か、確かに複数の気配を感じるな」


ソリス氏が横穴にゆっくりと近づくよう指示を出し、戦士たちがそれに従って隊列を組んで進んでいく。


俺とネイミリアも戦士団の横をついていく。


穴の中にいるボスの魔力は、やはり一般のモンスターとは違う感触だ。今までの流れからいって間違いなく『厄災』の関係者だろう。


横穴まであと100メートルほど。そこで穴の奥にいる魔力に強烈な揺らぎが発生した。


「注意を!」


俺が叫ぶと、戦士団が構える。


穴の奥から飛び出してきたのは……直径5メートルはあろうかという巨大な火球であった。


「ブレスか!」


念動力を全開にして火球の軌道を上に逸らす。その火球が上空でぜるのを確認する間もなく、穴から3体の大型モンスターが飛び出し空へ舞い上がった。


蝙蝠こうもりの羽が生えた首長竜とも言うべき姿、全身を覆うのは黒いとげ状の鱗、額にはじれた角、そして口に並ぶ禍々しい牙。


「ドラゴンだっ!対空戦用意っ!」


ソリス氏が怒鳴り、戦士団は弓と魔法をすぐさま準備する。




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邪龍の子(成体)


スキル:

剛力 剛体 ブレス(炎・水) 

気配察知 風属性耐性


ドロップアイテム:

魔結晶8等級 

邪龍の鱗(小) 邪龍の角(小)

邪龍の爪(小) 邪龍の牙(小)

邪龍の肉(小)


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予想通り『厄災』の一つ『邪龍』に関わるモンスターであった。


しかし『邪龍の子』とは……これを討伐したら邪龍が怒り狂って暴れ始めましたとかいう流れにならないといいんだが。ま、歴史的に見ても暴れることは確定してるみたいだから、そこまで気にする必要はないか。


3匹の『邪龍の子』は上空にとどまりながら、次々とブレスを吐き出し始めた。


戦士団も水魔法で相殺を試みるが、さすがに間に合わない。俺は火球ブレスをすべて念動力で逸らす。


「ブレスが俺たちを避けている!?一体どうなってるんだ!?」


盾を構えていたソリス氏が叫ぶ。


俺は一番近い一匹の羽にメタルバレットを連射、羽がズタボロになったその『邪龍の子』は地面に落ちる。


「ブレスは俺がスキルで逸らしています!落ちた奴に止めを!」


俺が言うとソリス氏は目を丸くして俺を見たが、ハッとなってすぐさま戦士団に命令を下し、落ちた一匹に集中攻撃をかける。


付与魔法付の矢と魔法の槍の集中攻撃を受けて、さしもの『邪龍の子』もかなりのダメージを負ったようだ。そこにネイミリアの『聖焔槍せいえんそう』が連続で炸裂し、巨大ドラゴンは断末魔の叫びを上げながら黒い霧に還っていった。


俺は皆の意識がそちらに集まっている隙に、熱線魔法(エルフ名『炎龍焦天刃しょうてんじん』)を発動。一匹を正面から真っ二つにした。


そしてもう一匹も……というところで、最後の一匹は大きく羽ばたき、長い首を巡らせて逃走を図った。向かう先はダンジョン出口方面。もちろんその先にはニルアの里がある。


俺はすかさず熱線魔法を照射、しかし『邪龍の子』は、明らかに不自然な動きでその必殺の一撃を回避し、逃げ去っていった。


思った通り、どうやらここで強制イベントが発生してしまったらしい。


「ソリスさん、どうやら一匹が里に向かったようです。私は先行して里の援護に向かいます。ボスが消えればこのダンジョンもじきに消滅すると思いますので、皆さんも速やかに出口に向かってください」


俺がそう伝えると、ソリス氏は魔結晶の回収を指示し、戦士団に集合をかけた。


「私も行きます、師匠!」


「ああ、急ごう」


俺はネイミリアを伴って、全力で里へ向かって走り出した。

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