6章 穢れの足音(後編) 03
2人からは有益な情報が得られないまま、さらに1時間ほどが経過した。
俺がインベントリから非常食を取り出そうとしていると……気配察知に反応。
反省室にまた誰か――「どういうことか説明しなさいよ!」という叫び声からして間違いなく聖女リナシャ――が入れられたようだ。
リナシャを連れてきたのは、どうやら俺を連行した神官騎士4人のようだ。
遅れてクネノ大司教ともう1人の人間が反省室前の廊下を歩いてくる。
「田舎の小娘が!素直に私の駒になっておればよいものを、いらぬ知恵を持ちおって」
「
「ふんっ!最初から貴様の手を借りるなぞ、それこそ『
「それは元の目的が失敗したからこそ得られただけでは?」
「神の御心によってもたらされたのだ。我が信心の
大司教ともう1人、
いかにも悪役ボスと、ボスの協力者といった関係を匂わせている。しかも別の黒幕の存在まで……フラグ立てとか伏線張りとか、勝手に進めるのはやめていただきたいものだ。
しかし『洗脳』という単語は、キナ臭いを通り越してこの後の展開を容易に想像させる。
「では大司教様、誰から洗脳をすればよろしいですかな?」
「ふむ……まずは薄ら汚い魔人族の小娘にしようか。あの青白い顔は見るだけで
「分かりました。ちなみに洗脳を行えば、その直前の記憶は完全に消えまする。洗脳前に何をしても覚えておりませんので、何か楽しまれてはいかがか?」
「ふんっ!下衆なことよ」
「大司教様、よろしければあっしら……いえ、我々にそのお楽しみとやらを……」
最後の言葉は神官騎士のものである。
俺は今のセリフがソリーンたちに聞こえていないことを祈った。
短期間に2回も暴行『未遂』を経験したら、ひどいトラウマになってしまうだろう。
とりあえずここまでか――俺は超能力で反省室の扉の
俺の顔を見て、悪徳商人風大司教が目を
「なんっ!?鍵をかけていなかったのか馬鹿者が!さっさと反省室に戻せっ!」
「へいっ!」
神官騎士4人がメイスを構えてこちらへ向かってくる。
振り下ろされるメイスは、俺から見れば何の脅威にもなりえない。
軽く素手でさばき、空手の中段突きで鎧ごと腹部を打ち抜く。
「がッ!」「ごふ!」「ゲッ!」
1人、2人、3人……俺が4人目で少し手こずっている『ふり』をしている間に、大司教は慌てて逃げだした。
「封印球を返せ!」
その背に言葉を投げかけ、俺は4人目の騎士を蹴り飛ばすと、一人残ったあの陰惨な声の男に向き直った。
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名前:グリモ
種族:灰魔族 男
年齢:45歳
職業:洗脳師
レベル:25
スキル:
格闘Lv.2 短剣術Lv.4
属性魔法(闇Lv.7)
算術Lv.4 魔力操作Lv.2
闇耐性Lv.4 気配察知Lv.2
暗視Lv.3 隠密Lv.7 俊足Lv.1
称号: なし
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黒い装束を着た、灰色の肌をした背の低い男だった。
濁った目と大きな
しかし『闇属性』使いか。単属性というのも初めて見るが、洗脳に関する他のスキルがない所からして、『闇属性』というのは精神に干渉する属性ということなのだろうか。
そうだとするならば、『闇属性』自体は雷や光と違い、それなりに知られている属性ということになる。
「参りましたな、どうやら某ではどうあがいても勝てぬ相手。貴殿は何をお望みかな?」
「その部屋に入れ」
「言う通りにしまする。手荒な真似はおよしくだされよ」
男はちらちらこちらの様子をうかがいながら自ら反省室に入った。
「ライトニング」「あぎッ!」
俺は男を気絶させると、
反省室の壁を土魔法で補強し、扉を閉め閂をかけ、空気穴を少し残してさらに土魔法で固める。
これで逃げられないだろう。
こういうキャラは隙を見せると必ず取り逃がす、と、前の世界のメディア作品では相場が決まっているのである。
俺はソリーン、リナシャ、カレンナルを部屋から出すと、リナシャの案内で大司教の後を追った。
わざわざ声をかけて『フラグ』を立てておいてやったから、大司教は必ず『封印球』を確保しに行くはずだ。
大司教室の前に行くと、銀色の球を手に持った大司教が丁度出てくるところだった。
その行く手を俺たちがふさぐと、ギラギラ大司教は顔を真っ赤にして唾を飛ばしてきた。
「きっ、貴様、このようなことをしてっ、大司教たるこの私にこのようなことをして、ただで済むと思っておるのかっ!そこをどけっ!このハンター風情がっ!」
「その手にお持ちなのは本物の『封印球』ですね。大司教様、この度のなさりようはいったいどうなさったのですか?」
ソリーンはあくまでも無感情な感じで言ったが、それが
「黙れ小汚い魔人族がっ!お前が聖女など笑わせるわっ!お前なぞ傭兵風情に汚されるのがお似合いだったのだっ!」
「それは……どのような意味ですかっ!」
「大司教様、それはどういう意味なのっ!?」
カレンナルとリナシャが詰め寄ると、大司教は一歩下がった。
「……っち、今のは何でもないわ!ただの失言、迷い言よ。そもそもなんなのだ貴様たちは。何の権利があって私を脅そうというのだ!」
「何言ってんのよ!その手にある物は何!?ウソをついていたのは大司教様の方でしょ!何いまさら被害者ぶってんのよ!」
「ぬぐっ!」
おっとここで聖女リナシャのクリティカルヒット。大司教は1ターン動けなくなった、みたいな感じか。
丁度いいタイミングだ、ここで答え合わせをしておくか。
「大司教様、聖女ソリーンを退け、身内である聖女リナシャを大聖女にして、外戚として自ら権力を握ろうとする企みはもう
「なうっ!?貴様っ、なぜそれをっ!いや、そのようなことは……っ」
はい正解。ひねりも何もない、ただの悪徳商人風小悪党でした。
「まさかそのようなことを……」
「なんと、そのような企みをなさっていたのですか!?」
「えっ何っ!?今クスノキさん何言ったの!?」
1人
「大司教様は家族であるリナシャを大聖女にすることで、自分も出世なさろうとしたというお話です」
「え……あっ!まさかさっき言ってた『穢れの君』を封印した手柄を私のものにする話って、それが目的だったの!?」
「だ、黙れ黙れっ!余計な事をしゃべるな貧乏農家の小娘がっ!」
顔を醜く歪ませた大司教様が、絵に描いたような
そのはずみで『聖女の封印球』が大司教の手を離れ、宙を舞い床に落ち――硬質な音を立てて砕け散った。
「いけませんっ!」
ソリーンが再封印のために魔法を発動しようとする。
しかしそれが無駄であると俺は知っていた。
なぜなら俺は、ソリーンに先んじて、『封印球』が宙に舞った瞬間に念動力を発動し、その破損を防ごうとしていたのだ。
しかし念動力は一切働かなかった……つまり『封印球』がここで破損することは、強制的に発生するイベントなのだろう。
ヒュゴオオオオォォォッ!!
砕けた『封印球』の中からおびただしい量の黒い霧があふれ出し、それは礼拝堂を抜けて教会の外に吹き出していった。
「3人は自分の武器を取りに行けっ」
そう言うと俺は
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