6章 穢れの足音(後編) 02

突然の聖女強襲が一段落した後、俺は聖女リナシャを伴って教会へとおもむいた。


いや、俺が赴いたというより、リナシャが


「私大司教を問い詰めて、ソリーンが持ち帰ったっていう『聖女の封印球』の本物がどこにあるか聞いてくる!!」


とか言って飛び出していこうとしたから、慌ててついて来ただけなんだが。


出る前に支部長に報告したかったのだが、丁度外出中ということで、サーシリア嬢に言伝

を頼んでおいた。


なお、思う所があってネイミリアは協会に待機してもらった。俺の勘が合っていれば、多分この後ひと悶着あるはずだ。


ちなみにネイミリアのファインプレーについてはきちんとお礼を言った。


「師匠のお役に立てて嬉しいです!」


とか言ってくれるエルフ少女があまりにいい娘すぎて少し涙が……。こっちは「いい所はすぐ誉める」みたいな中間管理職マニュアルに従ってるだけなので心が痛いのは秘密である。





「大司教様はどちらにいらっしゃいますか!」


教会に入るなり聖女リナシャは奥の間の方に大司教を探しに行ってしまった。


リナシャも最初はアレだったが、言動を見る限り友達思いのいい娘ではある。


ただ直情径行すぎるのがちょっと問題なんだよな。


「聖女リナシャよ、大声を出すなといつも言っておろう。聖女がそのような態度でおっては、信者の方々が不安になるではないか」


「あっ、大司教様!話をお聞きください!私先程、ソリーンとともに廃墟に行ったハンターの方とお話をしました!」


「何を言っておるのだ、また勝手なことをして」


奥の間の方で、どうやらリナシャは大司教をつかまえたようだ。


「そのハンターの方が言うには、『聖女の封印球』は確かに本物だったそうです!」


「……声を少し小さくせぬか。その話は人前でするなと行ったはずだぞ」


「あっ、申し訳ありません。それで、その人が言うには、きっとどこかに本物の『封印球』があるはずなんだそうです。大司教様はその行方をご存じありませんか?」


「知っているわけがなかろう。先日見せた偽の『封印球』がソリーンの持ってきたものだ。それ以外の『封印球』など見たこともない」


「そんなっ、じゃあ一体どこに……」


「それより、そのハンターとやらについては私は名も知らぬのだが、なぜ聖女リナシャは知っていたのだ?」


おっと、大司教の声のトーンが明らかに変わったな。リナシャがそれに気付く……はずもないか。


「それはカレンナルに聞いて……。そんなことより、このままだと2人はどうなるんですか?」


「どうなるかは教皇様のお考え次第だ。恐らく追放処分ということになるのではないかな。しかしそのハンターの話次第では、少しは情状酌量の余地があるかもしれぬ」


「えっ?」


「して、そのハンターの名はなんという?今どこにいるのだ?」


「あっ、ええと、クスノキさんと言って、今一緒に来てもらっています」


「ほう、それはお手柄だぞ聖女リナシャよ。どれ、私が直接話を聞こうか。おいっ!」


大司教の掛け声で、数人――気配感知によると4人――の人間が奥の間から現れた。


4人ともが完全武装の神官騎士である。


そしてその後ろから、リナシャを伴って、以前教会で見た悪徳商人風大司教がギラギラオーラをまとって姿を現す。


「貴殿がソリーンを男どもから救い、共に廃墟の調査をしたというハンターか。お初にお目にかかる、私はここロンネスク教区の代表を任されている大司教で、名をクネノという。貴殿に少し話をお聞きしたい、奥に来ていただけるだろうか」


4人の神官騎士たちが、スッと俺を取り囲むように位置を変えた。


大司教様は一応お願いしてる体でお話されていますが、明らかに断れない奴ですよねこれ。





俺は今、頑丈そうな壁に囲まれ、扉一つ、便器一つ以外はなにもない、座るのもやっとの狭い部屋に閉じ込められている。


大司教曰く『反省室』とのことだが……なぜ教会の地下にこんな部屋が複数並んでるのだろうか。


もっとも今使われているのは俺の部屋ともう2つ――聖女リナシャの言によれば聖女ソリーンと神官騎士カレンナルが入れられている部屋だけだから、普段はあまり使われていないのかもしれないが。


大司教に奥に案内(連行)された後、一応お話(尋問)はあった。


あったのだが、「ソリーンが『穢れの君(分霊)』を封印した時その場にいた」と言ったら、いきなり問答無用でここに放り込まれたのである。


某ギラギラ団長のように、こちらを買収する取引でも提案されると思ったのだが、大司教様は随分と短気でいらっしゃるらしい。


いや、それとも何か他の手があるのだろうか。


ともあれ仕方ないので久々にボーッと……してようと思ったのだが、魔力操作や圧縮のトレーニングをして過ごした。いきなりの余暇に残った仕事を片付けてしまう元勤め人の悲しい性である。


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名前:ケイイチロウ クスノキ

種族:人間 男

年齢:26歳

職業:ハンター 1級

レベル:67(5up)

スキル: 格闘Lv.19 大剣術Lv.19 長剣術Lv.14

     斧術Lv.12 短剣術Lv.13 投擲Lv.7

     八大属性魔法(火Lv.15 水Lv.19 氷Lv.11 

     風Lv.23 地Lv.22 金Lv.19 雷Lv.15 光Lv.12)

     時空間魔法Lv.17 生命魔法Lv.11 神聖魔法Lv.6(new)

     算術Lv.6 超能力Lv.26

     魔力操作Lv.21 魔力圧縮Lv.19 魔力回復Lv.12 

     毒耐性Lv.8 眩惑耐性Lv.8 炎耐性Lv.7

     闇耐性Lv.4(new) 衝撃耐性Lv.10 魅了耐性Lv.3 

     多言語理解 解析Lv.2 気配察知Lv.18

     縮地Lv.11 暗視Lv.11 隠密Lv.14 俊足Lv.14

     剛力Lv.13 剛体Lv.12

     不動Lv.13 狙撃Lv.12 錬金Lv.11 並列処理Lv.14

     瞬発力上昇Lv.14 持久力上昇Lv.14 〇〇〇〇生成Lv.5    

称号: 天賦の才 異界の魂 ワイバーン殺し ヒュドラ殺し

    ガルム殺し エルフ秘術の使い手 錬金術師

    オークスロウター オーガスロウター 

    エクソシスト(new) アビスの飼い主 


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久々にステータスを確認したが、普通に上がっていっている。


いやまあ、一般的にこのスキル群は全然普通ではないのだが……。


スキルレベルは10もあればその道の達人扱いで、10以上のスキルが複数あれば王家や貴族から召し抱えが打診されるレベルとか。


そう考えるとネイミリアは恐らくもうその領域に達しているはずだ。


ともかく、『神聖魔法』『闇耐性』『エクソシスト(祓魔師ふつまし)』は廃墟でのあれこれで手にしたものだろう。


スキルはまだまだ未取得のものが多くありそうだ。




しかしいつまでここに……と考えて、ソリーンとカレンナルの様子が気になった。


彼女たちは俺より長く閉じ込められているはずだ。さすがに女性がずっとこの状態というのは厳しいだろう。


会話でもできるといいのだが……ふむ、超能力が使えるか?


超能力には『精神感応』という、離れた人間とも精神的に会話(?)できる能力があったはずで、スキルレベルが上がった今なら使えるのではなかろうか。


まずはソリーンからだ。彼女の顔を思い出し、近くに囚われている彼女の気配と合わせてその場所に心の中で語りかけてみる。


『ソリーン様、聖女ソリーン様、クスノキです、この声が届いたらお返事をお願いします。ソリーン様……』


これまたいい歳した大人がやるようなことじゃないな、と少し恥ずかしくなってきた頃。


『……えっ、この声は何……?クスノキ様の声?どうしてクスノキ様の声が聞こえてくるの……?』


いきなり俺の頭の中に、ソリーンの抑揚のない声が響いた。まさか本当に『精神感応』が発動するとは。


『ソリーン様、今私は貴女の心に語りかけています。声が聞こえたらお返事をお願いします』


地味にキツいなこれ……。『心に語りかける』なんてセリフ、恥ずかしくて語りかける前に自分の心が壊れそうである。


『どうしてこんな時にクスノキ様の声が……。もしかして私、知らないうちにクスノキ様のことを――』


『違います!断じて違います!私のスキルで語りかけているのです!勘違いなさらないでくださいお願いします!』


『あ、はい、申し訳ありません。クスノキ様はこのようなこともできるのですね』


異世界少女純粋すぎませんか……いや、これが思春期の少女の危うさなのか。


よもや『精神感応』にこのような落とし穴があるとは、この父親歴20年の俺の目をもってしても見抜けなかった。いや見抜けるかこんなもん。


『ソリーン様はお身体のほうは問題ありませんか?長い間閉じ込められているようですが』


『はい、空腹なこと以外は問題ありません。それよりクスノキ様は今どちらに?』


『実は私も大司教様によって反省室に入れられてしまいまして。ですが出ようと思えばいつでも出られますのでご心配なく』


『なんと……。大司教様は何をお考えになっていらっしゃるのか……』


『大司教様の目的は、ソリーン様にもお分かりにならないのですね?』


『ええ、いきなり虚偽の報告をしたと糾弾され、ここにカレンナルと共に入れられましたので。そういえば、カレンナルは無事なのでしょうか?』


『今からカレンナル様にもスキルで話しかけてみます。少々お待ちください』


俺はソリーンとの『精神感応』を一旦切り、続いて神官騎士カレンナルに語りかけてみた。


『……クスノキ様の声が聞こえる!?そんな、もしや私は、知らないうちにクスノキ様のことを――』


うむ、『精神感応』の使用は相手を選び、十分注意して行うようにしよう。

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