14章 勇者パーティ(前編) 02
家に帰ると、そこには着せ替え人形にされて顔を赤くしている猫耳勇者ラトラがいた。
着せ替え人形にして楽しんでいるのはエルフ少女ネイミリアと聖女リナシャ、聖女ソリーンの3人。その様子を少し離れたところで聖女の世話役兼護衛の神官騎士カレンナルが暖かい目で見守っている。
朝ラトラの服の買い出しに付き添いを頼んだのはネイミリアだけなんだが、少し気を抜くとキラキラ密度が異様に上がる俺の家……。
「あっ師匠、これどうでしょうか?ラトラちゃんに似合ってますよね!?」
ネイミリアに押し出されて恥ずかしそうに俺の前に出てくるラトラ。灰色の髪と白い肌に薄い藍色のワンピースがよく似合っているのではないだろうか。
「その色がよく似合って可愛いと思うよ。いい服を選んだね」
「あっ、ありがとうございますご主人様……」
「ですよねっ。絶対似合うと思ったんです!」
顔を真っ赤にして
「クスノキさんお帰りなさい。私が選んだ可愛い服もあるから見てねっ」
「あ、首都へのお勤めお疲れさまでした。ラトラちゃんの服は私が選んだのもあります。絶対似合うと思うので見てあげてください」
リナシャとソリーンがそれぞれ服を持ってきて近寄って来る。
「ああ、ありがとう。2人も服を選ぶのを手伝ってくれたんだね」
「たまたま街でネイミリアさんたちに出会いまして、ご一緒させていただきました」
ソリーンがニコッと笑う。最初は無表情な感じの娘さんだったが、最近は少し表情が柔らかくなったようだ。
「でもまさか首都に行ってこんな可愛い娘を連れて帰ってくるなんて、クスノキさんってやっぱり危険な人なの?」
容赦のないリナシャの言葉に、ソリーンが「やっぱりって何言ってるのっ」と突っ込みを入れる。
「いやいや、これには色々事情があってね。ラトラとは仲良くしてあげてくれると嬉しいよ」
「それはもちろんっ。じゃあ次はこの服を着ようねラトラちゃんっ」
「えっ、あっ、はいっ」
リナシャがラトラを奥の部屋に連れて行こうとする。その横でカレンナルが遠慮がちに声を上げた。
「あの、クスノキ様の後ろにいらっしゃる方はよろしいのでしょうか?」
「えっ!?」
その言葉に皆が目を丸くして俺の後ろに視線を移す。
実は俺と同時にエイミは家に入って来ていたのだが……忍者だけに気配を殺すのが上手い、というか気配を殺すのが自然になってるようだ。
「あっ、エイミさんっ!どうしてここにっ?」
真っ先に反応したのはラトラである。城にいた時に一緒だったが、ラトラにとってエイミはメイドの先輩になるようだ。
まあ多分、あのまま女王陛下の元にいたらエイミ本来の姿である王家の密偵『影桜』の先輩にもなったはずだ。陛下はラトラを「見込みがある」と言っていた。
「ラトラが一人だと寂しいだろうというのと、メイドの作法を教える先生が必要だろうと思って派遣してもらったんだよ」
というのがさっきエイミと相談して決めた設定である。ダンジョンに入ったらエイミの正体はすぐにバレるとは思うが、対外的な言い訳は必要であろう。
「嬉しいです。またよろしくお願いしますっ」
「はい、私も会えて嬉しいですよ」
ラトラが走りよると、エイミの口元が微かにほころぶのが分かる。種族は違うが姉妹みたいだ。やっぱりこうして正解だな。
と一人自分の采配を自賛していると、エルフ少女と聖女2人がとてつもなく冷たい目で俺を見ているのに気づいた。
「師匠って節操がないんですね。次は絶対に一人で行かせませんから」
「クスノキさんって可愛い女の子を連れてくるのが趣味なの?」
「クスノキ様、私では不十分なのでしょうか?」
えっ、いやだってラトラ一人じゃ可哀想じゃないか。というかソリーン様何か変な事を言ってませんか?あ、リナシャはともかくカレンナルさんまでそんなゴミを見るような目で見ないで下さい胃が痛くなりますので……。
その日の夜はラトラとエイミの歓迎会と、一応俺の3段位昇段の祝いということで、ちょっと豪華な料理と多彩なスイーツがテーブルに並んだ。スイーツはもちろん俺が首都で土産用に大量に買い込んだものである。
仕事から帰ってきたサーシリア嬢にはエイミの事で
そこまで広いわけでもないテーブルの周りに、ラトラとエイミとネイミリアとサーシリア嬢、さらにリナシャとソリーンとカレンナル嬢までが座り、楽しそうに談笑しながらケーキなどに舌鼓を打っている。
そのあまりのキラキラ密度に耐えきれなくなった俺は一人テーブルから離れ、黒猫アビスに例のペーストを食べさせていた。
「んなぁ……んなんな……」
相変わらず俺の手からペーストを食べるアビスは、拾った頃より一回り大きくなったように見える。とはいえまだまだ可愛い子猫ではあるので、俺の顔は自然とにやけてしまう。
「あ、クスノキさんまた気持ち悪い顔してる」
「リナシャ、気持ち悪いは失礼でしょう。変な顔くらいにしとかないと」
「それ全然フォローになってなくない?」
リナシャ様の意見に賛成ですソリーン様。さすがに最近自覚はでてきたので大丈夫ですが。
「ご主人様はアビスちゃんに何をあげているんですか?」
ラトラが俺のところに来て、俺の手をじっと見始める。現在アビスがしがみついて舐めまくっている手である。
「これは俺にしか作り出せない魔法の食べ物なんだ。どんな猫でもこれを食べると夢中になるという恐ろしいものなんだよ」
「どんな猫でも……。先程からすごくいい匂いがするのはそれなんですね」
「わかるの?」
「はい、とてもおいしそうな匂いです……」
ラトラのくりくりした目が次第にトロンとした感じになってくる。ふらふらと俺の手に顔を近づけて、しきりに匂いを嗅ぎ始める猫耳少女。確かにラトラは猫系の獣人族だが、まさか猫つながりでこの魔性のペーストに
「あの、これは猫用の食べ物だから……」
「でも人間が食べても大丈夫ですよね?」
「毒ではないと思うけど、普通食べないからね」
「普通の匂いじゃないんです、ご主人様一口だけ……」
「いやだから……。……っ!?」
そんなやりとりをしていたら、急に首の後ろ辺りに何かビリッと来るものがあった。これはまさか殺気……だろうか?
テーブルの方に顔を向けると、そこには氷の矢のごとき視線を射かける6人の女性たちがいた。
「ふぅん、そうやって女の子をひきつけるんですね。それもエルフの秘術ですか? さすがです師匠」
「クスノキさんってもしかしてラトラちゃんくらいの娘が好みなの?」
「えっ!?そうなのですかクスノキ様?」
「……」
ネイミリアの無感情な「さすがです」は初めてだし、いつもはリナシャの冗談に反応しないソリーンも本気で心配そうな顔するし、エイミに至っては無言で睨んでくるし……。
「ケイイチロウさん、困ってる女の子を見るのが好きとかでないなら、意地悪しないでラトラちゃんに食べさせてあげたらいいと思いますよ」
ちょっとだけ
「いや、これは猫用の……」
と言いかけて気付く。この世界にはそもそもペットフードという概念がないのだ。だから猫用の食べ物を人間が食べるのはおかしいという考えもピンとこないに違いない。
「……まあ毒じゃないから試しに食べてみる?」
激しく首を縦にふるラトラ。罪悪感が半端ないのだが、逆の手にペーストを生成。一応人間用というイメージを強く念じる。脳内に電子音。
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名前:ケイイチロウ クスノキ
種族:人間 男
年齢:26歳
職業:ハンター 3段
レベル:132(13up)
スキル:
格闘Lv.41 大剣術Lv.45 長剣術Lv.38
斧術Lv.35 短剣術Lv.30 投擲Lv.19
九大属性魔法(火Lv.43 水Lv.44
氷Lv.37 風Lv.49 地Lv.51 金Lv.53
雷Lv.41 光Lv.39 闇Lv.16)
時空間魔法Lv.50 生命魔法Lv.39
神聖魔法Lv.38 付与魔法Lv.39
九属性同時発動Lv.14 算術Lv.6
超能力Lv.65 魔力操作Lv.55 魔力圧縮Lv.48
魔力回復Lv.48 魔力譲渡Lv.32
毒耐性Lv.14 眩惑耐性Lv.20 炎耐性Lv.24
風耐性Lv.9 地耐性Lv.12
水耐性Lv.9 闇耐性Lv.15
衝撃耐性Lv.42 魅了耐性Lv.14
幻覚看破Lv.5
多言語理解 解析Lv.2 気配察知Lv.38
縮地Lv.43 暗視Lv.28 隠密Lv.32
俊足Lv.44 剛力Lv.48 剛体Lv.45
魔力視Lv.33 罠察知Lv.14 不動Lv.46
狙撃Lv.48 錬金Lv.43 並列処理Lv.55
瞬発力上昇Lv.48 持久力上昇Lv.49
反射神経上昇Lv.14(new)
〇〇〇〇生成Lv.14 人間向け〇〇〇〇生成Lv.1(new)
称号:
天賦の才 異界の魂 ワイバーン殺し
ヒュドラ殺し ガルム殺し
ドラゴンゾンビ殺し 悪神の眷属殺し
闇の騎士殺し 邪龍の子殺し
四天王殺し 魔王の影殺し(new)
レジェンダリーオーガ殺し
キマイラ殺し サイクロプス殺し
オリハルコンゴーレム殺し
ガーディアンゴーレム殺し
ソードゴーレム殺し
ロイヤルガードゴーレム殺し
エルフ秘術の使い手
エルフの護り手 錬金術師
王家の護人(new)
オークスロウター オーガスロウター
ゴーレムクラッシャー
エクソシスト ジェノサイド
ドラゴンスレイヤー
アビスの飼い主 トリガーハッピー
エレメンタルマスター
シャープシューター(new)
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セーフ、間一髪セーフ。これでペットフードをいたいけな女の子に食べさせる鬼畜判定は避けられたはず。というか食べ物を作り出せるってこれも相当おかしい気がする。
それはともかく俺の手にあるペーストに吸い寄せられるようににじり寄ってくるラトラ。
「あの、お皿を取ってきて……」
「そのままでいいです」
「いやスプーンとか」
「そのままで大丈夫です」
「ええ……」
仕方ないので指先にペーストを乗せてラトラの口に運ぶ。猫耳少女は一瞬の
「ご主人様、もっと……」
なんか目がさっきよりもトロンとしているんですが……。ラトラが手を離してくれないのでそのまま全部食べさせる。
さっきよりも首筋に感じるビリビリが格段に強くなっているのは絶対に気のせいではないので、テーブルの方は見ないようにする。
「あ、なくなっちゃいました……。はっ!?済みませんご主人様、わたしはしたない真似をっ!」
しばらく
「美味しかったのならそれでいいよ。次はちゃんとお皿とスプーン使って食べようね」
「はっ、はいっ。またいただけるんですね!ありがとうございます!」
そう言いながら、恥ずかしそうにエイミの隣まで戻っていくラトラ。
「大丈夫?変な事されなかった?」とかこっちに聞こえるように言わなくてもいいですよリナシャ様。
「ところでケイイチロウさん、明日はあのダンジョンに調査に行くんですよね?どのくらいかかる予定なんですか?」
ラトラにお茶を出しながら、いつもの協会職員モードに戻ったサーシリア嬢が聞いてきた。
「最初は様子を見てすぐ戻るつもりだよ。徐々に日数をかけて深く潜っていくことになるけど、最後はダンジョン自体がどれだけ深いかによるから何とも言えないね」
「いきなり最後まで行くことはしないんですね?」
「氾濫とかが起きない限りはね。さすがに大規模なダンジョンは初めてだから慎重に行くよ。一人で潜る訳じゃないし」
「誰を連れて行くんですか?」
そう言うネイミリアの目には「もちろん自分は行きます」という強い意志を感じる。
「もちろんネイミリアには一緒に行ってもらうよ。あとは……」
ラトラとエイミについては聖女様たちの前では言いづらい。どうせ入って行くところを見られたらバレることではあるんだが……。
「あっ、ラトラちゃんも行くんでしょ?だって勇者だもんねっ」
「えっ!?どうしてそれを知ってるんですかリナシャさん!?」
「……っ!?」
俺が言い淀んでいたら、いきなりリナシャの口から爆弾発言が飛び出した。それにうっかり反応してしまうネイミリアと、警戒して目つきを鋭くするエイミ。
サーシリア嬢が「どういうことですか?」という感じで俺を見るが、俺も首をかしげてみせることしかできない。
妙な空気を察したのか、ソリーンが慌てて付け加えた。
「あの、私たちは首都の大聖女様からの連絡を受けてまして、ラトラちゃんが勇者だって知ってるんです。いきなり済みません」
「大聖女様が……なぜご存知なのでしょうか?」
低い声で聞いたのはエイミ。その態度からして、勇者の話はアルテロン教本部にはまだ伝わってないはずなのだろう。
「大聖女様に神託があったそうです。勇者ロンネスクにあり、其は灰を
「ロンネスクって聞いた時はクスノキさんかと思ったんだけどね。でも灰色の髪をしたラトラちゃんを見て一発でピンときちゃった。すごいでしょっ!」
リナシャの空気をまったく読まないところは確かにすごいかもしれない。しかしリナシャやソリーンたち聖女が大聖女候補なのだとは聞いていたが、現大聖女様もいらっしゃるのか。どんな方なんだろう……と口にするとまた白い目で見られそうなのでやめておく。
「実は私たち聖女は『
「それは大司教様も?」
「もちろんご存知です」
静かに頷くソリーン。カレンナルがそれに「私ももちろん参ります」と付け加える。
そういえば、アシネー支部長が以前勇者について「仲間とともに『魔王』を
ただ引っかかるのは、『魔王』討伐には『凍土の民』との対決が避けられないということなんだよな。モンスター退治だけで済むならいいが、相手が人間となると彼女たちを巻き込んでいいのかどうか……もと日本人としては悩まざるを得ないところである。
「ということで、ダンジョンに行くのはラトラちゃん、ネイミリアちゃん、エイミさん、わたし、ソリーン、カレンナル、そしてクスノキさんの7人かなっ。ねっ?」
「そう……なるかな」
なし崩し的に決まってしまった気もするが、俺はリナシャの言葉に頷くしかなった。
勇者パーティは4人という固定観念完全無視な上に男女バランスも激しくおかしい気がするが、色々な組織の思惑もあることなのでどうにもならない。
『凍土の民』に関しては最悪俺がどうにかすればいいだろう。インチキ能力はそういう時のためにあるはずだ。
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