14章 勇者パーティ(前編) 03
リナシャ達が帰り
色々な勘違いを避けるためにアビス同伴である。前世なら意識するだけで変態扱いされそうだが、こちらの世界では12歳は結婚することが可能な年齢なのだ。
「済まないラトラ、ちょっと話をさせてもらえないか?」
「はいご主人様。まだ散らかっていますが、どうぞ」
俺は用意された椅子に座り、ラトラはベッドに腰かける。
「色々と落ち着かないかもしれないが、こっちに来て疲れてはいないかい?」
「いえ、大丈夫です。むしろ皆さん優しくしてくださいますし、お料理も美味しくて、こんなに良くしてもらっていいのかって思うくらいです」
ニッコリ笑う猫耳少女の健気さに、俺は涙をこらえきれなくなりそうになる。
両親は奴隷商に害され、本人も奴隷にされた上に呪いまで受け、助かったと思ったらいきなり『勇者』だと言われて知らない男に預けられる。しかもこの先に待ち受けているのは『魔王』との戦い……およそ12歳の少女が経験していい人生ではないだろう。
「皆が優しいのはラトラがきちんとしているからだよ。ああそれで、話をしておきたかったのは、ラトラをダンジョンに連れていくという話をきちんとしたかったからなんだ。さっきは何となくそういう話になってしまったからね」
「はい。でも『勇者』なら当然だと思いますし、自分も昔から人より力があるのが不思議だったので、むしろそうするのが自然な感じがするんです」
なるほど、あの年齢に合わないスキル群は本人も違和感を持っていたのか。その上で今の状況に整合性を感じるとは、もしかしたらこれも『勇者』としての適性なのかもしれない。しかしそれでも、俺には確認をしておきたいことがあった。
「ラトラは立派な考えを持っているね。ただ俺が一つ気になってるのは、ラトラは人から酷い扱いを受けたのに、『勇者』として人を助けることに疑いを持たないのかなってことなんだ。俺だったら、きっと素直に『勇者』だから人のために頑張りますなんて言えないと思う」
「それは……」
ラトラが顔を曇らせて下を向いたのは、今までのことを思い出したからかもしれない。しかしその態度も一瞬で、すぐに決意に満ちた表情を見せた。
「確かに酷いことをした人たちのために、っていうのは無理かもしれません。でも、そうじゃない人もいっぱいいるっていうのは知ってます。それに私が『勇者』として頑張らなかったらみんな死んじゃうんですよね?それならやるしかないって思ってます」
「そう……か」
これが『勇者』のメンタリティか……などと考えるのはラトラをバカにしてることになりそうだ。本人がその気なら、保護者(?)の俺も切り替えてやれることをやるだけだ。
「ラトラの気持ちは分かった。それじゃ忙しくなるけど、明日からダンジョンでガンガン鍛えるからな。今日はよく休んでおくんだよ」
「はいっ!」
気合を入れるラトラの背後で、灰色の尻尾がピコピコ動いているのが見えた。しかもその尻尾にアビスがじゃれついて……。いけない、今感動的な少女勇者の決意表明シーンのはずなんだ、そっちを見てはいけないんだ。
……無理でした。
翌朝ロンネスクの東城門前に集合した俺たちは、装備を確認してダンジョンへと出発した。
道すがら、すれ違う人たちがチラチラ、もしくは露骨にジロジロ見てくるのは仕方ないだろう。
なにしろ武装コスプレしたキラキラ美女美少女が連れだって歩いているのだ。冒険者ルックのハンターが珍しくないこの世界でも、彼女らの存在は相当に浮いて見えるはずである。ゲームの勇者パーティが現実にいたらこうなるという見本であるが、それを引率する俺はちょっと……いやかなり胃が痛い。
ダンジョン入り口には程なくして着いた。
聞いた通り地面に大穴が開いており、幅の広い階段が下に向かって伸びている。
周囲にはバリケードが張られていて、見慣れた銀の鎧の騎士たちが20人程で警備をしていた。
「クスノキ殿ではありませんか。やはり調査にいらっしゃったのですね!」
迎えてくれたのはアメリア騎士団長の副官コーエン青年だった。キラキラオーラこそまとってはいないが、人柄も腕も確かなイケメン騎士である。
「ええ、公爵閣下からの依頼という形になります。ダンジョンに入る際に記録等が必要ですか?」
「はい、目的は調査以外認められておりませんので、人数と予定の活動日数をお願いします」
「人数は7人、後ろにいる娘たちがメンバーになります。日数は3日間を予定していますが、5日まで伸びる可能性があります」
「了解しました。メンバーは、ネイミリア殿は分かりますが……教会の聖女様?それとまだ小さい娘さんがいるようですが……」
ラトラを見て
ちなみにラトラは藍色の忍者装束に片刃の直刀を背負ってはいるが、猫耳と尻尾とが合わさって、どう見ても小さな女の子が仮装しているようにしか見えない。
「色々訳ありでして、恐らくアメリア団長は事情をご存知かと思います。彼女らについては私が責任をもって預かっていますのでご安心ください」
「分かりました。クスノキ殿がいらっしゃれば問題はないと思いますが、くれぐれもお気を付けください」
「ありがとうございます。では早速入りますね」
コーエン青年に敬礼を返し、パーティメンバーに指示を出してから、暗闇に下りていくダンジョンの階段に俺は足を踏み出した。
ダンジョンの地下1階層は、情報通り岩壁の洞窟のような見た目であった。
うっすら発光する岩が点々と広めの通路を照らし出しており、通路はいくつかに分岐して迷路上になっている。
「じゃあ予定通り、様子を見ながらラトラの訓練を中心に行動する。俺はそのフォローに専念するからそのつもりでいてくれ」
「はいっ」
俺を先頭に二列縦隊で進んでいく。最後尾は年長で前衛型のカレンナルだ。
先遣隊の残した印を頼りに奥に進む。気配探知に感。魔力からすると2等級が4体か。
「2等級が4体。恐らくオークだろう。ラトラ、行けるか?」
「はい、オークなら戦ったことがあります」
話を聞いたところ、ラトラが生まれ育った集落はモンスターが結構な頻度で出現する所だったらしく、彼女もすでに戦闘経験はそれなりに積んでいた。もっともそうでなければあのスキル群は説明がつかないのだが。
奥から豚面の戦士が4体現れる。
「ラトラ行け。エイミはフォローを」
「はい!」「はっ!」
ラトラは『軽業の才』という称号を持っていて、その名から察するにスピード重視の戦いが得意になるのだろう。それに一番近い戦闘スタイルを持つのは忍者少女のエイミであるので、彼女にフォローを頼むのは必然であった。もちろん俺も一応魔法援護の用意はする。
猫耳少女と黒装束の少女は一瞬の間にオークと接敵する。
オークが慌てて棍棒を振りかぶる……と、2人は風のように舞ってその死角に回り込んだ。
彼女らの持つ短刀が、鋭い光となって一閃二閃する。
的確に急所を切り裂かれたオークは、すべて黒い霧になって消えていった。
「えっ、ラトラちゃんもエイミさんもすごくない?動きが全然見えなかったんだけど」
リナシャが目を丸くし、他の娘たちも頷いている。
エイミは女王陛下直属の密偵だからある程度は強いだろうと予想していたが、ラトラもステータス以上に戦えるようだ。12歳でオークを苦もなく討伐できるのは末恐ろしい気がする。
エイミとラトラが戻ってきて俺の前で顔を見上げてくる。評価して欲しいということだろう。
「2人とも俺の予想よりいい動きだった。予定では2階層までのつもりだったけど、この感じなら3階まで目指せそうだ。皆もそのつもりでいてくれ」
「はいっ!」
声を合わせて返事をしてくれることにちょっと感動。こうやって指示を聞いてくれる部下ばかりだったら、前世でももう少し長生きできたかもしれないなあ……。
「よし、今日はここで一泊しよう。テントを出すから皆で設営をしてくれ。ラトラとエイミにはネイミリアが教えてあげてほしい」
「はい師匠」
地下4階への階段の手前の広場で、皆がテントを建て始める。
結局今日は一気に地下3階まで踏破してしまった。
事前の情報通り2~4等級のモンスターしか出ないため、ハンター1段位のネイミリア、以前の特訓で格段に強くなった聖女一行、そして腕利きの密偵エイミ、勇者の卵であるラトラといったキラキラ勇者パーティの敵ではなかった。
ネイミリアやエイミはともかく、アンデッド専門の聖女一行が何度か戦っただけで通常のモンスターに対しても力を発揮できるようになったのは驚きである。
しかしなにより成長が早いのがラトラであった。4等級のオークキングやバジリスクすら死角からの一撃で仕留める姿は天然の暗殺者そのもので、本職(?)のエイミすら驚いた顔をしていたほどだ。
ただ勇者が暗殺者スタイルなのはちょっとどうかと……いや、アリだと思おう。
テントの側で俺が食事の準備を始めると、ネイミリアがラトラを連れてやってきた。
「師匠、ワイバーンの肉はもうないんですか?」
「さすがになくなったよ。ただ代わりに『邪龍の子』の肉があるんだけど、ドラゴンって食べたことある?」
「ええっ!?さすがにありません、というか里長でも食べたことないんじゃないでしょうか」
「やっぱりレアな肉なのか。ちょっと怖いけど食べてみる?」
「ぜひっ!」
目を輝かせる肉大好きエルフ少女。聖女一行の方に飛んで行って「今日はドラゴンの肉が食べられるみたいです!」とか叫んでる。
「あっ、ご主人様お手伝いします」
「私も手伝います」
ラトラとエイミが手伝ってくれて、程なく『邪龍の子』ステーキが人数分完成した。
『厄災』を食べるのはどうかと思うが、『解析』しても特に問題はなかったので大丈夫だろう。
「おいひいれふっ!」
「えっこれ美味しくない!?こんなお肉食べたことないんだけどっ」
「すごく美味しいです。クスノキ様に感謝を」
「とても美味しいですね。『邪龍』を食べるなど考えたこともありませんでした」
「……美味しいです。お城でも出ないようなお肉を食べられるなんて……」
「ご主人様すごく美味しいですっ!」
皆さん大満足なのは結構ですが、ネイミリアさんは食べながらしゃべらないように。見た目は超絶美少女なんですからね。
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