14章 勇者パーティ(前編) 04

翌日は4・5階を危なげもなく抜け、6階への階段の前まで難なくたどり着いた。


勇者パーティの前にはすでに4等級も完全な雑魚扱いである。


「思ったより早く進めたので、一度6階の様子を見ておこうと思う。5・6等級のモンスターが出るそうなので、今までと同じだとは思わず慎重に戦うこと。危険だと感じたらすぐに撤収するのでそのつもりで」


「はいっ」


5等級というとマンティコアやオーガエンペラー、グリフォン、ロックリザードなどがそれに当たるが、どれも一癖あるモンスターばかりであり、上位ハンターへの登竜門ともなる存在である。俺やネイミリアはすでに敵にはならないが、ほかの娘たちには少し荷が重いかもしれない。


階段を下りるとそれまでダンジョンの壁が岩から石組に変わり、遺跡の内部を思わせる通路に変わった。


「雰囲気がだいぶ違いますね。見た目もですが、圧が上がったような気がします」


エイミが周囲に目を走らせながら言う。さすがに密偵だけあって、環境の変化には敏感なようだ。


「そうだな。気を付けて行こう」


隊列を組んで進んでいくと、眼前に扉が現れる。この階層から部屋ごとにモンスターが現れるパターンになるらしい。


扉の向こうには複数……3体の気配がある。『魔力視』の感じからして獣系のモンスターだ。


「中に5等級3体、多分マンティコアかグリフォンだ。ネイミリアとソリーンは魔法撃の用意。1体は俺がやるから、残りは突入後3対1でかかること」


「はいっ」


扉を開けると人面の獅子が3体。マンティコアはこちらを視認すると身体を低くして攻撃態勢に入る。


火焔岩槍かえんがんそう!」「ファイアランス!」


ネイミリアとソリーンが放った炎の槍が2体に突き刺さる。


威力はネイミリアの方がまだまだ上だが、ソリーンの属性魔法もかなりの腕になっている。


俺が無傷の1体をメタルバレットで瞬殺すると同時に、ラトラとエイミ、リナシャとカレンナルが2人一組になって、ダメージを受けてひるむマンティコアに向かっていく。


ラトラ・エイミ組は、エイミがマンティコアの毒針のある尻尾を、ラトラが足を切断し、その後は一方的に切り刻んで討伐を完了した。


リナシャ・カレンナル組はリナシャが正面でマンティコアの前足の攻撃を盾で受け止め、その隙にカレンナルが横から足を切断、ソリーンのファイアランスがもう一発炸裂し、リナシャのメイスが人面を粉砕した。


なんかこの娘さんたち普通に強い。すでに都市騎士団に並ぶレベルであり、彼女らの成長速度を考えればすぐに超えてしまうだろう。


難を言えば前衛で守れるのがリナシャしかいない所だが……それは俺がフォローすればいいだけだ。





その後いくつかの部屋を攻略した。


元の予定では6階の様子をみて今回の調査は一旦終えるつもりだった。


しかし5等級モンスターが相手なら3対1を守れば危なげなく討伐できることが分かったので、俺がフォローをしつつ先に行ってみることにしたのだ。


奥に行くに従って部屋が広くなりモンスターの数も増えていくのだが、インチキ野郎の俺がいれば問題になることは全くない。


それよりも、やはりというかなんというか、勇者パーティの皆が目に見えて強くなっていくのが恐ろしい。ネイミリアはすでに6等級を単独で討伐できるレベルだが、それ以外の娘たちも5等級なら相性次第では単独で行けそうなレベルになっている。


俺が『魔力譲渡』と『生命魔法』でバックアップしてるのも大きいとはいえ、それでもやはり尋常の成長速度ではない。やはりキラキラ族はゲーム的なメインキャラなのかもしれない。


そんな事を考えながら進んでいると、目の前に、普通のものに比べて倍ほども大きい扉が現れた。


鈍く黒光りする重厚そうなその鉄扉は、この先が特別な……ボスのいる部屋だと無言のうちに告げている。


「ご主人様、この先にすごく大きなモンスターがいます。今までと同じくらいのものも5……いえ6体います」


「ラトラはもうそこまで分かるのか、すごいね」


褒めてやるとラトラは嬉しそうな顔をして頭を……猫耳のついた頭をこちらに向けた。


むっ、まさかこれは「撫でてほしい」というサインなのか?いやまさかそんなはずはないだろう。猫の耳に目がくらんだ俺の妄想だな。いやしかし……


「師匠、なぜそんな難しい顔をしてるんですか?もしかしてかなり強力なモンスターがこの奥にいるんですか?」


ネイミリアの純粋に心配しているような顔や、その後ろで真剣な表情をしている聖女一行の姿が俺の心に痛い。エイミだけ俺をにらんでいるのは……まさか心の葛藤を見抜かれたわけではないよな?


「……まあそうだね。この部屋には7等級のモンスターが1体、それから5等級が6体いるようだ」


「なるほど。しかしクスノキ様なら問題にはならないのではありませんか?」


「そうだよね。だってドラゴンゾンビもケルベロスも一撃だったし」


ソリーンとリナシャの信頼は嬉しいが、7等級は普通に騎士団総出レベルの相手だからね? 今のアメリア団長なら多分すぐ倒せるだろうけど。


「相手にもよるけど、皆にも戦ってもらおうかなと考えていたんだ」


「7等級を私達で、ですか。可能でしょうか?」


カレンナルが疑問を呈するのは当然だろう。


「討伐はまだ難しいかもしれないが、経験は積める時に積んでおいた方がいいからね」


実戦である以上安易な考えは禁物だが、彼女らが今後勇者パーティとして魔王軍と戦うなら絶対に必要な経験である。常に俺が側にいられるならそれに越したことはないが、一寸先に何があるか分からないのが世の常であるし。


「5等級は俺が始末するから7等級にだけ集中するように。ネイミリアとソリーンで先制、ひるんだところをリナシャとカレンナルで抑えて、ラトラとエイミで手足を奪う。あとはその場の判断で。そんな感じで行こうか」


「はいっ」


命がけの戦いの前のはずなのに、女子運動部の顧問みたいな感じになってきた。いかん、緊張感をなくした時が一番危ないんだよな。


ネイミリアが「初撃雷魔法いきます」と言って集中を始めた。ソリーンも魔力圧縮を始めている。


俺は準備ができたのを見計らって巨大な鉄扉を開いた。





サッカー場ほどの広さの空間にいたのはオーガエンペラー6体と、9つの頭を持つ巨大蛇・ヒュドラだった。自分にとっては何やら懐かしいメンツである。


とりあえずオーガの皆さんにはメタルバレット6発同時射出でご退場いただく。


「6体を一瞬で……!?」


とかエイミが絶句しているのが少しだけ罪悪感を誘う。所詮インチキだからあまり驚かないでほしい。


それはともかく、ここからどうするか。9本の頭がブレスを吐き始めるとさすがに厄介だが――


雷閃衝らいせんしょうっ!!」


ネイミリアが叫び、轟音と共にほとばしった蒼雷が巨大な蛇を打った。


9本の頭部が一瞬だけ伸び切り、その後糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちる。なるほど俺が放つと瞬殺だから分からなかったが、雷魔法はゲーム的な『麻痺』の効果があるようだ。


「ファイアランス!」


ソリーンが放った炎槍が一つの頭を串刺しにする。同時に前衛組4人がそれぞれ首に攻撃を始めた。


付与魔法を施した刀を振るうカレンナルが接近戦ではやはり強く、苦もなく二本の首を落とす。


リナシャは武器がメイスなので、巨大な頭部を滅多打ちにして潰している。およそ金髪碧眼の聖女様がやっていい攻撃ではない気がするが……。


苦戦しているのはエイミとラトラだ。さすがに短刀だとヒュドラの太い首を落とすのは難儀なようで、何度も斬りつけている。それでもあの鱗に刃が通るだけ大したものなのだが。


ヒュドラの巨体がビクンと動く。『麻痺』の効果が切れたか、3本の頭が鎌首をもたげる。


その口にはブレスの予兆。


聖焔槍せいえんそう!」「セイクリッドランス!」


二本の頭部にネイミリアとソリーンの魔法が突き刺さる。残り一本は――


「たあぁぁっ!!」


小柄な人影がヒュドラの首を一瞬で駆け上がり、その頭部まで達するや脳天に短刀を振り下ろす。その刀身には炎が宿っているのがはっきり見えた。


頭頂部に炎の短剣を差し込まれたヒュドラは目や口から炎を吹き出しながら崩れ落ち、同時にその巨体が黒い霧へと変わっていった。


「今ラトラちゃんが使ったのは付与魔法ですよね、師匠?」


「そうみたいだね。いつの間に……」


まさか習ってないのに付与魔法まで使い始めるとは、『勇者』恐るべし。あれだけの才能の塊を預けられたことにちょっと怖さを感じる。前世のプロスポーツのコーチとかストレスが半端じゃないんだろうなと今になって気づくことになるとは。


なんにせよ、結局彼女たちだけでヒュドラを討伐してしまったのは喜ばしいことである。というかもしかして俺は、かなり危険な集団を育てているのではないだろうか。


まだ勇者パーティとして一つ目のダンジョン攻略の途中のはずなんだが……。

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