5章 穢れの足音(前編) 04
そこからの道のりは、ソリーンの魔力温存のためと、俺の神聖魔法のスキル上げのため、俺が先頭に立ってモンスターを
5等級のリッチや6等級のエルダーリッチも現れ始めたのだが、『ホーリーランス』の一撃で消滅してしまうため、正直ゴブリン並に弱……いや、慢心はやめておこう。
多分奴らが魔法を撃って来たら結構危険なはずだ。
なお、ネイミリアは光魔法と炎魔法、風魔法を複合させた『
中身が凡人の俺は、なるほど光魔法にはそういう使い方もあるのかと感嘆することしきりである。
それはともかく……6等級がすでに複数体現れているというのは明らかに異常である。俺とネイミリアがいなかったら、傭兵の裏切りがなかったとしても、恐らくソリーンたちは撤退を余儀なくされていただろう。
「聖女様、エルダーリッチが複数出現するというのはかなり危険な状況なのではありませんか……?」
「え、ええ、そうですね……。クスノキ様たちは簡単に消滅させていますが……本来なら私とリナシャ、そして上位神官クラスの騎士が大勢必要でしょうね」
「このまま進んで大丈夫なのでしょうか?いえ、クスノキ様たちの力は疑いないのですが、それにしてもこの先何があるか……」
廃墟の中心部あたりだろうか、前方に大きな扉の残骸が見えたところで、聖女主従がひそひそ話をしている。
おっとお嬢さん方、情報共有は大切ですよ。というか、こちらとしても専門家の意見は聞いておかないといけない。
「申し訳ない、こちらとしては特に問題がありませんでしたので進んでしまいましたが、何か問題がありましたか?」
ソリーンがひそひそ話をやめ、ハッとした顔でこちらを見る。
「はい……クスノキ様たちは大変お強いのでお分かりにならないかもしれませんが、明らかにこの廃墟にはかなりの異常が発生しております」
「実は私もそれは感じてはいたのですが……ハンターとしての経験上、最奥部に強力なモンスターがいるためかと考えています。それを討伐すれば解消されるかと思うのですが」
「そうですね、通常ならそうだと聞いておりますが――」
急にソリーンの顔に緊張が走った。
前方の大扉の残骸の向こうに茶色の瞳を向けたまま、やや焦りの混じる声で言う。
「あの扉の向こうに、急速に『
いきなりソリーンが走りだす。無論俺たちもその後を追った。
扉の向こう側は、どうやら玉座の間だったらしい。
広間の奥に一段高くなった舞台のような場所があり、そこに黒い霧が渦巻きながら集まりだしているのが分かる。
ソリーンが何か魔法を発動したのだが――
「きゃあっ!」
ピシッと鋭く弾けるような音がして、ソリーンが2メートルほど吹き飛ばされた。
カレンナルが慌てて近寄って助けようとする。ソリーンはその手をとりつつ叫んだ。
「強力な『穢れ』が現れようとしています!
俺は咄嗟に『ホーリーランス』を発動。ネイミリアも『聖焔槍』を放つ。
しかし何事もなかったかのように集まり続ける黒い霧を見て、俺は理解した。
――あ、これ現れるまでイベントが進まないやつだ、と。
見る間に霧が集まり、人型をなす。
そしてその人型は、次第に漆黒のマントを羽織った、一人の青年の姿となった。
いや、それを青年と言っていいのかどうか……顔の左半分は確かに青年のそれなのだが、右半分はなんと黒色の骸骨になっている。なるほど高位のアンデッドを思わせる出で立ちではある。
「ふむむむう、ここここれが、現世かかかか。なななななるほど忌まわしい気配に満ちているなななな」
顔の左半分、
「わわわわ我が眷属がだいぶ少ないようだがががが、ももももしや貴様らの仕業かかかかか」
「『
ソリーンの声は震えていた。目の前の存在にかなりの衝撃を受けているようだ。
口にした『穢れの君』というのが事実なら、目の前の存在は、過去数度にわたって国を滅ぼした『厄災』の一体であるから当然だろう。
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穢れの君(分霊)
スキル:
気配察知 魔力操作 魔力回復
死霊魔法 聖属性耐性 物理耐性
回復 再生 不死
ドロップアイテム:
魔結晶8等級
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解析すると……確かに『穢れの君』なのは間違いないが、『(分霊)』とあるから本体ではないようだ。
8等級ということはワイバーンなどよりは上だが……所詮偽物だからそこまで強くないということだろうか。
しかし『不死』というスキルは……ちょっと注意だな。
「あれは本体ではないようです。多分何とかなるとは思いますが、ソリーン様も何か有効な手をお持ちではありませんか?」
そう聞いたのは、この場に『聖女』がいる意味がありそうだと思ったからだ。
ゲーム脳で申し訳ないが、このイベントは聖女ソリーンがメインの話な気がしたのだ。
「え……、はい、確かに聖女には、『穢れの君』を封じる手段が伝えられています。どうしてそれを?」
「いえ、なんとなくそう思っただけで……。その手段は、どういう状況なら実行することができますか?」
「『穢れの君』がまとう『穢れ』を払っていただければ……。恐らく攻撃して損害を与えていけば、『穢れ』は払えるかと……」
「分かりました。ではそのように」
ソリーンと打ち合わせをしている間に、『穢れの君(分霊)』は両手を広げ周囲に黒い球を多数生み出し始めていた。
あれは多分『触ると即死』的な攻撃が飛んでくる奴だろう。前世に触れたメディア作品群の記憶がそう言っている。
「せせせせ生ある者はあるべき姿へ還れれれれれ、ええええ
「セイクリッドエリア」
俺はソリーンが使った、神聖な力でアンデッドの力を弱める的な魔法を展開。
付近一帯が強烈な光に包まれ……『穢れの君(分霊)』が生み出していた暗黒球はすべて消滅した。
ついでに『穢れの君(分霊)』までがっくり膝をついているのだが……。
「ホーリーランス」
取りあえず追撃をすると、『穢れの君(分霊)』は頭部を残して消滅してしまった。
「ききき貴様あああああ、ここここの力は何なのだああああ!」
「ソリーン様、あれで行けませんか?」
「えっ!?ええ、はい、大丈夫だと思います。『シールインピュアリティ』」
左半分だけ
一瞬の後に地面にコロンと転がったのは、ピンポン玉大の銀色の球。表面に浮いた黒い筋がうねっているのが少し禍々しい。
「はあ、はあ……大丈夫です。封印できたようです」
ソリーンが青い顔をさらに青くして、ガクっと膝をついた。カレンナルが慌てて介抱に走る。
銀球を解析すると
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聖女の封印球
『穢れの君(分霊)』を封じた球。
封じられたものは長い時間をかけ消滅する。
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と出た。
なるほど、これが聖女にのみ備わる能力ということなのだろう。
つまり聖女であるソリーンとリナシャは、『厄災』である『穢れの君』に対する切り札ということなのかもしれない。
しかし、ほとんど消滅寸前の分霊を封印するのでさえ激しく消耗するのでは、本体に対してどこまで有効なのか少々疑問ではある。
ともあれ『穢れの君(分霊)』が封印されると周囲の霧が明らかに薄くなったので、この廃墟での異常は解決したと判断。
俺たちはソリーンの回復を待ってロンネスクへ帰投することにした。
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