5章 穢れの足音(前編) 03
男たちに『しかるべき処置』をした後、4人パーティとなった俺たちは、廃墟の奥に出発した。
ソリーンの案内に従って進んでいくこと数分、急に気配察知に反応があった。
「前方にゾンビ、スケルトン、グールが多数おります」
ソリーンが淡々と警告を発する。モンスターの種類まで分かるのはスキルなのだろうか。
神官騎士のカレンナルが、腰のポーチから聖水のビンをとりだし、聖水を武器――なんと刀である――にふりかけた。
なるほどああやって使うのか……俺もそれに倣い、大剣に聖水をふりかけておく。
そのまま進むと前方に広場があり、そこに多数の人型モンスターがうごめいていた。
「動きを止めます。セイクリッドエリア」
ソリーンが手を天にかざし、魔法を発動した。
周囲に一瞬だけまばゆい光が走り、モンスターたちの動きが明らかに鈍くなる。
なるほどこれが神聖魔法か。
「師匠、ゾンビやグールには火魔法が有効です。スケルトンは剣で倒した方が早いと思います」
「じゃあゾンビとかは任せていいか?俺はスケルトンをやる」
「はい、お任せくださいっ」
ネイミリアが次々とファイアボールを放ってゾンビたちを火だるまに変えていく。
あの火力ならスケルトンもいける気もするが……まあ聖水も使ったし、折角だから剣で切ってみよう。
ネイミリアの魔法を横目に、俺はスケルトンの群れに『縮地』スキルで突っ込んでいった。
大剣を縦横に振り回し、骸骨戦士を鎧ごと粉砕していく。あ、これ聖水関係ないな。
見るとカレンナルも鋭い斬撃でスケルトンを次々と斬り捨てている。聖女リナシャは『神官騎士はモンスターには役に立たない』と言っていたが、彼女は例外なんだろうか。
広場のモンスターをあらかた倒し終わると、中央に黒い霧が集まって、中ボスっぽいモンスターが現れた。
黒いローブを着た巨大な半透明の骸骨……解析では『リッチ』との表示。
「お任せください。ホーリーランス」
ソリーンの手から一条の光が走り、リッチの身体を貫通する。
シギャアァァ……、と寒気のするような叫びを上げて、5等級の魔結晶を残しリッチは黒い霧へと還っていった。
「5等級のモンスターを一撃とは、聖女様はお強いのですね」
「ソリーンとお呼びください、クスノキ様。今のは相性がよかっただけです。普通のモンスターが相手だとこうは参りません」
「神聖魔法だからアンデッドには強い、ということですか?」
「ええ、そうです。神聖魔法や特殊なスキルを持っている以外は、私は普通の娘に過ぎません」
「なるほど……」
そのキラキラな見た目だけで普通の娘さんではないのだが、それを指摘するのはただのセクハラだから自重する。
「では、先に進みましょう」
ソリーンの言葉に従って、俺たちは広場を後にした。
奥に行くに従って、モンスターの出現頻度が上がっていった。
ゾンビやスケルトン、レイスやゴーストなど1~2等級はもちろんのこと、ビーストゾンビやスケルトンナイト、フィアーレイスなど3~4等級の上位種も結構な頻度で現れる。
ソリーンの神聖魔法がアンデッドに対して相性が良すぎるため、俺とネイミリアの出番はそれほどないのだが……。
「少し休憩しましょう」
ソリーンが少し疲れている様子を見せたため、俺は城の廊下跡地らしい場所でそう提案した。
「……ええ、そうしていただけると助かります」
崩れた石柱に腰を下ろすソリーンは、無表情の中に
自分やネイミリアの魔力の多さを忘れ、魔法を無尽蔵に放てるのが当たり前みたいな感覚になっていたためのミスだ。
年長者としてかなり情けない。
「聖女様、こちらを」
「ありがとう」
カレンナルがポーションのようなものをソリーンに渡して飲ませている。多分マジックポーション――魔力を回復させるポーションだろう。
「師匠、私もここに来るのは初めてなのですが、少しモンスターが強いというか、量が多くないでしょうか?」
「実は俺もそう思ってた。上位種の数も多いような気がする。もっとも、比較するにも普通の状態を知らないから正確にはわからないけどね」
「そうですね。でももしここにも異常が発生しているとなると、そろそろ師匠も神聖魔法を使ったほうがいいのでは?」
いや、だから使えないって言ったはずなんだが……なぜそこで「当然使えますよね?」みたいな顔するんだろうかこの魔法マニア少女は。
「え……?クスノキ様は神聖魔法をお使いになられるのですか?」
普段伏し目がちなソリーンが、少し目を見開いて俺を見る。
「え、ええ。聖女さ……ソリーン様に何度も見せていただいたので……ああいや、恐らく使えます」
なんか変なことを口走ってしまった。さすがに見たからすぐに使えるようになります、は言ったらマズいだろう。
俺は今日見せてもらった神聖魔法を思い出しながら、除霊とかエクソシストとか、何か前世でのそれっぽいイメージと混ぜて魔力を練る。
……む、すこし安定しないから超能力で指向性を持たせて……。
「ホーリーランス」
俺の手から一条の光……と言うより光柱とも言うべき輝きがほとばしり、少し離れた
「今のはもしや……『聖龍
今俺『ホーリーランス』って言ったよね?
すごくキラキラしてるネイミリアはおいといて……、ああ、あちらのお二人も目を丸くしてフリーズしていらっしゃいますね。
「申し訳ありません、今のは少し魔力を込め過ぎました」
何度か出力を調整し、超能力の補助が必要なくなる程度までスキルを上げると、ソリーンが見せた『ホーリーランス』に近いものが撃てるようになった。
これで事なきを得たはず……ええ分かってます、きっと無理ですね。
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