12章 首都 ラングラン・サヴォイア(前編)  06

翌日の実地審査の場所は、首都を出て東に走って2時間程に所にある岩山地帯だった。


高低差300mほどの大きな岩山が中小の岩山を従えてそびえ、その間を道が何本も這いまわっている。何らかの鉱石を掘りだしていた跡地らしいが、今はモンスターが徘徊する、いかにもゲーム的なフィールドになっているらしい。


なお、そのモンスターたちがミスリルなど希少金属をドロップするらしく、高レベルハンターの狩場になっているようだ。アイテムドロップのシステムにはすっかり慣れてしまったが、それでも直接高純度の金属塊が手に入るというのは前世の記憶からするととんでもない話ではある。


その日も狩場の手前にはいくつかテントが並んでおり、すでに先客がいることを示していた。


副本部長と俺もそれぞれテントを張り、すぐに狩りの準備をして、狩場の入り口に向かった。


「では、これより3段位審査、実地審査の部を開始します。この審査は、狩場における全行動が審査対象になります。モンスターの討伐能力は当然ですが、それ以外の索敵能力や移動能力や野営のスキル、むろん判断力なども見ます。こちらは魔法の使用も制限はありません。貴方様の全能力を使用して行動してください」


副本部長は今日もライダースーツ姿である。


顔つきは完全に平常通りに戻っていて少し安心したが、彼女が3段位のハンターであることを考えると、その心配は余計なお世話だったのかもしれない。


なお、あのゴミを見るような目つきもなくなっていて、俺の胃の負担が減ったこともありがたかった。模擬戦で少しは見直したということなのだろうか。


「狩場での目標はどのようなものでしょうか」


「今回はミスリル塊をできる限り多く収集することを目標とします。収集した数ももちろん審査対象です。使えるのは本日これからと明日一日、そして明後日の午前までになります」


「失礼なことをお聞きしますが、副本部長を守るということは考えないでよろしいのですね」


「無論です。逆に私が貴方様を助けるようなことがあれば、それも審査対象になりますのでご注意を」


少し眼光を鋭くした副本部長だったが、「貴方様が助けを必要とすることはないでしょうが」と小声で付け加えてくれたので、やはり少しは認められたのだろう。


「でははじめましょう。私は少し後をついていきますので、いつでも行動を開始してください」


「分かりました。では参ります」


俺は装備を再確認し、狩場へと足を踏み入れた。






さて、この審査はミスリル塊の収集が目的ということだが、その合格基準は示されなかった。そこも踏まえて狩りをしなければいけないのだが、まずはモンスターから一度にどの程度の量がドロップするのかの確認が先だろう。


俺は岩山へ続く道に入ってすぐ『千里眼』を発動し全体を確認した。モンスターとともにいくつかのパーティが確認できたので、彼らとは出会わないルートを行くことにする。


何が審査対象になるか分からないので一応『罠感知』や『魔力視』などを常時発動しながら、獲物がいる山の中腹に向かって走っていく。もちろん副本部長は少し距離を置いてついてくる。


その山の中腹には岩に囲まれた広場のような場所がいくつかあり、そこに複数のモンスターがたむろしていた。


金属の光沢をもつ鱗に覆われた大型トカゲ『メタルリザード』、金属製の槌を担いだ巨人『ハンマージャイアント』、剣と盾を持った金属鎧がそのまま動いているような『フルアーマーゴーレム』、金属製の二本角を持つ大型の馬『ピアシングバイコーン』、3~6等級のモンスターである。


俺はそいつらを赤熱した大剣で次々となます斬りにしていく。見るからに物理防御力が高そうなモンスターもいるのだが、インチキ付与魔法の前には豆腐ほどの歯ごたえもない。


ドロップアイテムは金属塊がメインで、20体ほど倒してミスリル塊は1つしか手に入らなかった。落としたのは6等級モンスターで、さすがに希少金属だけはあるようだ。


ちなみに金属塊はどれも10キロほどの重さがあるのだが、空間魔法持ちの俺には何の関係もない。副支部長は俺が空間魔法持ちだと知っているそうなので遠慮はしないことにした。


その日は200体程狩ってキャンプに戻ることにした。ミスリル塊は6個、まずまずの成果だと思いたい。






夕食は一応を声をかけるのが礼儀かと思って副本部長を誘ったところ、意外なことに一緒に食べるということになった。ゴミ扱いからだいぶ昇進させてもらったようだ。


「副本部長は肉はお好きですか?」


「ええ、いただきますよ」


インベントリから取り出しておいたソードボアの肉を切って焼く。パンと野菜スープとステーキ、外で食うには十分な料理だろう。


「料理もお上手なのですね」


美貌のダークエルフがスープに口をつけながら言う。その端正な横顔は夕陽に照らされ、エキゾチックな雰囲気を醸しだしている。


なるほどこれなら男が放っておくわけもない。軟派な男を嫌うようになるのも仕方ないだろう。


「ええ、自分で作ることも多かったものですから」


前世では妻と交代で作っていた。手抜き料理がメインであったが、家族からの評判は悪くなかったと思う。


「クスノキ様は剣を中心にお使いになるのですか?付与魔法をお使いにはなっていましたが、ほぼ剣で戦っていらっしゃいましたが」


「相手によりますね。飛行型だったり、数が多ければ魔法が中心になります。魔法もそれなりに使えるので」


「あれだけの剣を修めてなお、魔法までお使いになられるのですか。失礼ですが人族でいらっしゃいますよね。お歳は書類通りで間違いないのですね?」


「ええ間違いありません。まあ経験は多少積んできましたので」


ただし会社員の、と付くのであるが。ギリギリでウソではないのである。


肉が焼けたのでそれぞれの皿に分ける。ソードボアの肉は前世で食べたイノシシ肉の上位版だ。硬いが臭みが少なくかなり美味い。


「副本部長は魔法はどれほどお使いになられるのですか?」


「人よりは使えると思いますが、相手が5等級以上だと剣が中心になりますね。そちらの方が得意なので。ん、このお肉は美味しいですね。何の肉なんでしょう?」


「ソードボアですね。逢魔おうまの森の奥地で獲れます」


エルフと言うと肉食は避けるイメージだったのだが、ネイミリアもその母ネイナルさんも里長のユスリン女史も食いまくるんだよな。普通に考えたら狩猟に頼るような世界に菜食主義の種族など生まれようはずもない。


「ところでこれは聞いていいかどうか分かりませんが、この狩場は6等級が複数いるのが当たり前なのでしょうか?3段位の審査に使うのだから当然と言われればそれまでですが……」


「そうですね……確かに私もそう感じました。貴方様の狩る早さが異常なのでその分遭遇率が高まったとも思えますが、しかし6体というのはやはり多いかもしれません」


さらっと「異常」とか言われているのは置いといて、確かに多い気はしたのだ。6等級というと一般的にはボスクラスのモンスターだ。ロンネスク周りの高難度の狩場でも現れない数である。異常が発生していないかぎりは、だが。


「首都周辺でも異常発生は起きているんですよね?明日はより警戒を強めておきます」


「その方がいいでしょう。もし異常があるということになれば、その時はすぐに解決を図らないといけなくなるでしょう。申し訳ありませんが――」


「もちろんお手伝いしますよ。そのための高段位ハンターですからね」


俺がそう言うと、副本部長は目を細め、微かに笑ったようであった。

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