1章 異世界転移?異世界転生? 03
異世界生活2日目の朝が来た。
正直夜寝るのは怖かったが、大きな石のそばで身を隠すようにして寝た。
昨夜は残してきた家族のことが思い出された。
俺自身生命保険は入っていたし、長男は地元に就職したし、家のローンも終わっていたし、俺の両親も妻の両親も健在だから生活は問題ないだろう。
できるなら元の世界に戻りたいが、俺の元の身体はもう死んでいるし、恐らくそれは不可能な気がする。
とはいえ訳が分からない今、元の世界に戻ることを目的の一つにして生きていくのはアリかもしれない。
ともあれ今は行動だ。
俺は立ち上がって軽くストレッチを行い、昨日焼いておいた魚を食う。
やはり塩が欲しいな、と思いつつ、下流に向かって川沿いを歩き出した。
一時間ほど歩いた時だ、妙な感覚が俺を襲った。
誰かに、何かにじっと見られている……初めて感じる感覚のはずだが、そう直感がささやいている。
ナイフを抜き、周囲に目を走らせる。
と……、20メートルほど先の木の陰から、赤黒いモノがのそりと現れた。
一見するとクモ、だがその胴体の大きさは牛ほどもある。
6本の脚と、鉤爪のついた二本の触腕、腕ほどもある牙が一対、どう見て地球上の生物ではない。
「本当に魔物がいるのか……」
一応心構えはしていたが、想像以上に禍々しいその姿に身体が竦む。
俺が躊躇しているのを感じたからか、そのクモ型の魔物がガサガサと音をたてて近づいてきた。
結構なスピードだ。
「……っ!」
俺は気を取り直す。昨日何度も練習したはずだ。
『飛べ!』
俺の周囲にあった河原の石が10個、弾丸のように魔物に向かって飛んでいく。
バキバキバキッ!
石が魔物に着弾すると、トタンを破るような音が響く。
魔物の脚が何本か吹き飛び、緑色の体液が吹き出し、外皮と思われる破片が飛び散る。
ギュイィィィ、という鳴き声と共に、魔物はその場にひっくり返った。
俺はその場を動かず、痙攣を繰り返す魔物を観察する。
無論周囲にも目を配ることも忘れない。
魔物が一匹だけとは限らないからだ。
空手の『残心』をこんな形で実践することになろうとは思わなかった。
魔物の
いや、溶けたと言うより蒸発した、か?
黒い霧状のものが魔物の身体から広がったと思うと、大きな赤黒い身体が消えた。
その場に魔物の身体の一部と、いびつな結晶を残して。
「ドロップアイテムとか……本当にゲームみたいだな」
近づいて解析をしてみる。
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アグリースパイダーの牙
金属を含み、素材になる
アグリースパイダーの外皮
金属を含み、素材になる
魔結晶 3等級
魔力を大量に含んだ結晶
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現実感が薄れる表示に溜息をつきつつ、その『ドロップアイテム』を手に取る。
ずっしりとした重みは、それが現実であることを強く主張する。
ピロリロリ~ン
間の抜けた電子音が魔物との初の戦闘の余韻をかき消した。
ステータスを確認。
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名前:ケイイチロウ クスノキ
種族:人間
年齢:26歳
職業:なし
レベル:15(1up)
スキル:
格闘Lv.3 短剣術Lv.2(new) 投擲Lv.2(new)
四大属性魔法(火Lv.2 水Lv.2
風Lv.2 地Lv.2)
空間魔法Lv.1 算術Lv.6 超能力Lv.4
多言語理解 解析Lv.1 気配察知Lv.1(new)
称号:
天賦の才 異界の魂
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どうやらレベルが上がったようだ。『気配察知』なるスキルも増えていた。
魔物を倒してレベルアップとは……いや、もうさすがに余計なことを感じるのはよそう。これが現実だ。
しかしレベルアップしても細かいステータスが表示されないので変化がよく分からないな。
身体を動かすと、少しばかりキレが増したような気がしないでもない。プラシーボかもしれないが。
さて、ドロップアイテムだが、結構な量がある。
持っておいた方がよさそうなのは分かるが、こんなものを持って歩くのは勘弁願いたい。
これがゲームなら、魔結晶×99とか表示されるだけで平気で持ち歩けるんだが……と考えたところで『空間魔法』というスキルが勘に引っかかる。
「そういえば何と言ったかな……確かインベントリ、だったか?」
独り言を言った直後に、何もない空間にいきなり直径50センチ程の黒い穴が現れた。
「これが空間魔法?もしかしてこの穴に入れろってことなのか……?」
手にしていた魔結晶を穴に入れてみる。魔結晶は穴の反対側に落ちることなく、スッと消えてしまった。
「取り出しはどうするんだ……?」
恐る恐る穴に手を入れてみる。大丈夫、手先の感覚はある。
しかし何も掴むことができない。
魔結晶を頭に思い浮かべる。と、手の中に硬い感触が現れた。
「はぁ……もう何でもありだな」
俺は何度目かの溜息をつきながら、ドロップアイテムをインベントリ穴の中にすべて放り込んだ。
ピロリン。空間魔法がレベル2になったようだ。
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