24章 → 25章
―― サヴォイア女王国 サヴォイア城 女王執務室
「トリスタンが挙兵した? ここラングランに向かっているというのか?」
「はっ。陛下の御身をお救いするという理由を掲げて、こちらへ攻め上っているとのことです」
「救うとはなんだ。余には救ってもらわねばならぬ覚えはないぞ?」
「それが……女王陛下をたぶらかし、多くの貴族を廃させ、
「……は? 何を言って……まさかとは思うが、それはクスノキのことを言っているのか?」
「そのようで」
「あまりに愚かしくて言葉も出ぬ。しかしそれに呼応した家も多いということか」
「言われてみれば、クスノキ卿が陛下のもとにきてから貴族家の取り潰しが続いてありましたからな。外から見れば彼がそそのかしたようにも見えたのでしょう。彼らの持つ危機感に侯爵がつけ込んだのではないかと」
「取り潰しの理由はすべて明らかにしていたというのにな。いや、むしろ後ろ暗いところをそれで刺激したか。それで概況は今どうなっている?」
「トリスタン侯爵の軍1万5千、ケルネイン子爵の軍5千を中心に、3万ほどの軍勢で攻め上っているとのこと。2日後にはラングラン付近に来るでしょう。いかがいたしますか?」
「いかがもなにもない。こちらは3万に正面から対抗できる軍はない。もとの案通り、城壁に拠って防衛に徹するのみ。急ぎリースベン方面軍を戻すしかあるまい」
「承知しました。エイミを向かわせますか?」
「すぐに送れ。援軍さえ来れば負けはあるまいが……奸臣扱いされた男がどこで戻ってくるかも大きいな」
「左様ですな。彼が戻ってくればいかようにもなる気がいたしますが」
「本当にな。いや、余は女王としてあの男に頼りすぎていたのかもしれぬ。そのツケがここで回ってきたと思えば、余も反省をせねばならぬかもしれん」
「思えばこの状況もクスノキ卿は予見しておりましたな。陛下が頼られるのも仕方ないかと」
「ガストンを防衛に回したのも奴の言葉が元だからな。ラトラ、ネイミリア、聞いての通りだ。済まぬがまた力を借りることになりそうだ」
「はいっ、頑張ってお役に立ちますっ」
「魔法ならお任せください」
「うむ、頼りにしているぞ」
「じい、一体何が起こっている!? なぜ城壁が一瞬で破られたのだ!? クリステラたちも守備に加わっていたのだろう!?」
「分かりませぬ。しかし伝令の話では、トリスタン侯爵の軍はまるで『厄災』のようだと……」
「なんだと!? あの妙な赤黒い
「市街地はすでに混乱の極みにあります。陛下におかれましては、地下より外に脱していただき、リースベン方面軍との合流をお願いいたします」
「うむう、今はそれしかないか。よもやこのような事態になるとはな。ラトラ、ネイミリア、共に来てくれるか」
「はいっ」
「分かりました」
『……どちらに行かれようというのですかな、女王陛下?』
「な……っ、トリスタン侯爵、何故これほど早く!? しかもその姿は……貴様『厄災』に魂を売ったのか?」
『私の魂はそれほど安くはございませんよ。特別な力を持つ者は陛下お気に入りの男だけではないのです。しかし討つべき奸臣が不在とは、これは残念なことですな』
「何が奸臣か……っ。それに貴様……不在を狙ったのであろう?」
『くくくっ。それはともかく首都も城もすでにわが手に落ちましてございます。『王門八極』の面々も私の考えに賛同して投降したのですよ。そこをよくお考えいただき、ここは私に従っていただいた方がよろしいかと』
「なに……『王門八極』が投降だと……つまらぬ
『そうでなければこれほど早くラングランの城壁は落ちますまい。現実をよく御覧になることですな』
「く……っ、じい、どう考える?」
「残念ながら侯爵の言うとおりの可能性が高いかと」
「そうか……まさかこのようなことになるとはな。ラトラ、ネイミリア、ここは引け。侯爵の言う通りにする」
『さすが聡明と名高いリュナシリアン女王陛下、賢明な判断かと思います。それとその2人には別の役目がありますゆえお借りいたします。なに、手荒なことになるかどうかは陛下のお気に入り次第ですからご安心を』
「なんだと……これ以上何を企んでいるトリスタン。貴様、やはり『厄災』に魂を食われているのではないか?」
『いえいえ、私が『厄災』を食ろうたのですよ。ご安心ください、この力でもってサヴォイア王国はますます強大な国となりましょう。くく、くははははっ!』
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