17章 エルフの里再び  02

翌日、俺とネイミリア、ラトラ、エイミの4人でニルアの里へと向かった。


今回、3人は俺の手伝いという扱いにした。


勇者パーティでの活動となると教会の聖女主従3人にも話をしないとならなくなるからである。


もっともいくら体裁を整えても、後で間違いなく文句は言われるだろうが……。


4人で『逢魔おうまの森』を無人の野のごとくに抜け、その日の夕方にはニルアの里に到着した。


「これがニルアの里ですかっ。なんとなくわたしの故郷を思い出します」


「エルフの集落には任務でも来たことがありません。色々見て回りたいですね」


里へ顔パスで入って行くと、ラトラとエイミが興味深そうに辺りを見回す。


日も暮れ始めているので、とりあえず寄り道はせずネイミリアのご実家にお邪魔することにした。


出迎えてくれたのは、相変わらず豊満な身体を面積の足りない衣服で包んだキラキラおっとり系美人エルフのネイナルさんだ。


「まあまあネイミリアちゃんまた帰ってきてくれたのね。それにケイイチロウさんも、こんなに早く来てくれてとっても嬉しいです」


ネイナルさんはあいかわらず一児の母とは到底思えない雰囲気で、屈託のない笑顔を向けてくれる。ネイミリアと並ぶとやはり姉妹にしか見えないな。


「突然の訪問申し訳ありません。この度は女王陛下の依頼で参上いたしましたが、できればまた御厄介になりたく……」


「それはもちろん願ってもないことですわ。さあどうぞ中へ。あらあら、今日は他にも可愛らしいお連れさんがいらっしゃるのですね」


「ええ、こちらラトラにエイミと言います。私の……仲間という感じでしょうか」


「あっ、ラトラですっ。ご主人様の直属メイド候補ですっ。よろしくお願いいたしますっ」


「エイミです。同じく直属メイド候補です。よろしくお願いいたします」


ラトラとエイミがそれぞれ挨拶して頭を下げる。


直属メイドってなんだろう?その前に俺「仲間」って言ったはずなんだけど……?


俺の戸惑いをよそに、ネイナルさんは目を細めてニコニコ笑いながら挨拶を返す。


「うふふっ、私はネイミリアの母のネイナルよ。お客さんがいっぱいで今日はいい日になりそう。こんなに可愛らしいメイドさんを雇うなんて、ケイイチロウさんも隅に置けない人ね」


「お母さん、外だと目立つから早く中に入ろうよ」


ネイナルさんが俺をつつこうとすると、それを遮るようにしてネイミリアが間に割って入った。


「まあ、ネイミリアもそんな目をするようになったのね。ふふっ、そうね。皆さんどうぞお入りください。さあケイイチロウさんはこちらですわ」


そう言いながら、ネイナルさんは巧みな体捌たいさばきでネイミリアの脇を抜け俺の腕を取った。


さすが武闘派集団の一員ともいうべき動きに、忍者少女エイミの目もキラリと光る。


俺は腕に伝わる柔らかすぎる感触を必死にシャットアウトしながら、家の中に入っていった。





翌日、ネイナルさんにお願いして里長の家に向かった。


明るい時間に見るニルアの里は、まだ『邪龍の子』による破壊の爪痕は残っているものの、かなりの早さで修復が進んでいることがうかがい知れた。


少し胸をなでおろしながら進んでいくと里長の家が見えてくる。


半壊していたはずだが、パッと見て住むことはできる程度にはなっているようだ。


俺たちが入って行くと、キャリアウーマン風のキラキラ美女エルフ、里長のユスリン女史が奥から現れた。


「おお、ケイイチロウ殿ではないか。さっそく来てくれるとは、約束を守る男は大変好ましいぞ」


一部主張の激しいスレンダー体型のユスリン女史は、スッと近づいてくると自然な動きで俺の腕を取った。


実は事前にネイミリアとラトラ、エイミが俺の前に立っていてブロックするような形になっていたのだが……そこはさすが武闘派集団のトップ、巧みな体技でかわしていた。


振り返ったエイミが目を丸くしているので、やはり相当な技術なのだろう。


ただそんな高度なやり取りが彼女らの間で行われている理由は謎である。「常在戦場」ということだろうか。


「新しく見る顔の2人もかなりできそうだな。そのような娘たちを連れているということは、何か特別な理由があって来たのか?」


「ええ、実は女王陛下からの依頼でして……」


『聖弓の使い手』捜索の話を一通りすると、ユスリン女史は目を細めて「ふうむ」とうなった。


「話は分かった。とりあえず弓が得意な者を集めよう。ところでその『聖弓』とやらは見られるのか?」


「ええ、どうぞ」


俺はインベントリから装飾のついた銀色の弓『聖弓ソルグランデ』を取り出す。


「この里で一番の弓の使い手は一応私なのだが……ふむ、引けないようだな」


ユスリン女史が構えて弦を引こうとするが、銀色に輝く弦はやはり微動だにしなかった。


「ネイナルは試したのか?」


「私が弓を扱えないのは里長が一番知っているじゃないですか、もうっ!」


ネイナルさんがねるように言う。


「そうなんですか?」


「ええ、その……、私昔から弓を使うのは苦手なんです。あの……体つきがちょっと……」


俺が何気なく聞くと、ネイナルさんは急に頬を赤らめてモジモジしながら答えた。


胸を隠しながら……と言っても全然隠れていないのだが……こちらをちらちら窺う姿を見れば、彼女が何を言わんとしているかは明らかだろう。


あ、これもしかして地雷踏んだか……? と思ったその時、俺の脳裏に天啓のような閃きが下りてきた。


「あ……っ!」


っと声を漏らしたのはその閃きのせいである。


しかしそれを聞いたネイミリアは、ジトジトに湿度の高い視線を俺に向けてきた。


「……師匠、一体何に気付いたんですか?」


「ん?」


「師匠、一体何に気付いたか言ってください。あと今どこを見ていたかも言ってください」


ひえっ、完全に勘違いされてる。なんかラトラとエイミまでとがめるような目こっち見てるし……。


「待って、そういう意味じゃないから。ネイナルさん、この弓を持って弦を軽く引いてみてください」


「えっ、私がですか!?」


恐る恐る『聖弓』を手に取るネイナルさん。


弓を持った左手を伸ばし、右手を弦に……この時点で豊穣の女神体型が邪魔をしているのを見れば、確かに弓は無理だと分かる。


何とか身体の一部を潰しながら弦に指をかけ、腕を引くと――


「あっ!? 引けました!」


「なんだと!?」


「うそっ、お母さんが!?」


そう、俺の閃きとは、「ゆえあって弓を全く使えないおっとり系お母さんエルフ」という、どう考えても「違うだろう」という彼女の特性こそ、逆に『聖弓の使い手』の『フラグ』であろうという直感であった。


もっとも、これがゲームのシナリオだったらコントローラーを投げてる可能性も否定できない。


「やはり俺の勘が当たっていましたね。ネイナルさんが『聖弓の使い手』で間違いないでしょう。済みませんが、ステータスを確認させていただきますね」


「そんなことができるんですか?あ、どうぞなさってください」


ネイナルさんの了解を取り『解析』。




----------------------------


名前:ネイナル ニルア

種族:エルフ 女

年齢:143歳

職業:狩人(魔導師) 

レベル:52


スキル: 

格闘Lv.5 短剣術Lv.3 杖術Lv.4 投擲Lv.1

五大属性魔法(火Lv.11 水Lv.12 

風Lv.13 地Lv.11 光Lv.4)

生命魔法Lv.5 算術Lv.3 

魔力操作Lv.6 魔力増大Lv.5 魔力回復Lv.5

毒耐性Lv.3 炎耐性Lv.3 衝撃耐性Lv.3 

状態異常耐性Lv.4 言語理解 気配察知Lv.6

暗視Lv.5 隠密Lv.7 俊足Lv.2 

瞬発力上昇Lv.2 持久力上昇Lv.2

    

称号: 

聖弓の使い手(new) 


----------------------------




女性の年齢について触れるのは、いくら長寿のエルフでも失礼だろう。


ともかくかなり強い魔導師型のステータスだ。さすが魔法マニア少女ネイミリアの御母堂である。


『聖弓の使い手』の称号はどうやら新たに付け加わったもののようだ。『聖弓』を実際に持たないと判明しない称号だったらしい。


しかし、弓に関するスキルが全くないのをどうするか……。


「ネイナルさんが『聖弓の使い手』で確定のようです。昨日もお話した通り、『聖弓』は『邪龍』を討伐することのできる唯一の武器です。ですので……」


「ええ、そういうことならもちろんお手伝いさせていただきますわ。ただ、そのためには弓を扱えないといけませんね」


ニッコリ微笑んで胸の前で拳を握って見せる豊穣の女神、いやこれからは狩猟の女神か?


ネイミリアがちょっとだけ不安そうな顔でその様子を見ている。


「それは私が教えてやろう。しかしまさかネイナルがそんな役目を背負っていたとはな。ケイイチロウ殿は色々と面白いことを持ち込んでくる」


ユスリン女史そう言うと席を立ち、奥の部屋から数張の弓と矢、それから胸当てらしき防具を持ってきた。


「ではさっそく練習を始めようか。『厄災』は待ってはくれんだろうからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る