14章 勇者パーティ(前編) 06
翌日からはまた勇者パーティを引率してダンジョンに入った。
すでに一度攻略しているルートであり、またパーティメンバーの成長が著しいために、6階層のボス部屋までは1日で到達した。
ちなみにザコモンスターは再出現するのだが、ボス部屋のヒュドラだけは復活していなかった。ボスは復活しないタイプか、もしくは復活までに時間がかかるタイプかのどちらかなのだろう。
好評のドラゴンステーキで夕食を取った翌日、俺たちは未踏破の7階層への階段を下りていった。
「6階層と同じみたいですね」
ネイミリアの言葉通り、7階層は6階層と同じ遺跡風のダンジョンであった。
各部屋ごとにモンスターが出現するのも同じで、出現するモンスターもほぼ変わりがない。
ボス部屋の前に着く頃には、勇者パーティのメンバー全員が5等級のモンスターを1対1で倒せるようになっていた。相変わらず驚異の成長速度である。
「ご主人様、すごく強いモンスター……多分7等級が2匹います」
ボス部屋の扉の前でラトラが俺を見上げながら言う。灰色の尻尾がピコピコしているのは褒めてもらいたいからというのはすでに判明している。(猫好きの洞察力)
「強さまできちんと分かるようになったんだね。大したものだよ」
「はいっ」
目を細めて嬉しそうな顔をする猫耳少女。勇者と言ってもまだ12歳の女の子だ。
「ラトラの言う通りこの奥に7等級が2体いるようだ。1体は皆に任せる。前回と同じ作戦でかかってくれ」
「はいっ」
ネイミリアとソリーンの魔法の準備ができたのを見計らって扉を開けると、そこには岩の巨人・ガーディアンゴーレムが2体待ち構えていた。以前『邪龍』の山ダンジョンで出てきたモンスターである。
「ストーンバレットを大量に撃ってくる。ネイミリアは防壁の魔法を」
「はい師匠。『
魔法を雷魔法から地魔法にシフトさせたネイミリアが、パーティの前に分厚い岩壁を生成。
俺が『炎龍焦天刃』で一体を両断していると、もう一体が『全体攻撃』扱いのストーンバレットを乱射し始めた。
パーティは岩壁の後ろに隠れ攻撃のチャンスをうかがっていたが、攻撃の切れ目にラトラとエイミが左右から飛び出してゴーレムに肉薄する。
エイミは当然として、ラトラもすでに『縮地』スキルを獲得しており、その動きはすでに肉眼で追うのは困難なレベルにある。2人はゴーレムのパンチをかいくぐりながら、石柱のような足を何度も斬りつける。
有効な攻撃は与えられていないものの、その隙にリナシャとカレンナルが接近する。なるほど上手い連携だ。
リナシャがメイスを大きく振りかぶってゴーレムの足を強打。聖女であるにもかかわらずパワーファイターになりつつある彼女の一撃で、7等級ゴーレムの片足が砕け散った。
崩れ落ちるゴーレムにソリーンとネイミリアの魔法が着弾するとゴーレムの表面に幾筋ものひびが入った。カレンナルら前衛組がそのひびを広げるように攻撃し、ラトラの止めの一撃が決まるとガーディアンゴーレムは黒い霧になって消滅した。
その後8階層も特に問題なく踏破した俺たちは、9階層へ下りる階段の前で幕営をすることにした。今回の調査は10階層まで行くことを目標としており、日数は5日を予定している。3日目の明日に9階層を踏破できれば計画の日程で帰還することができるだろう。
「このダンジョンに入ってから、なんかみんなあっという間に強くなったよねっ」
全員で車座になって夕食を取っていると、リナシャが楽しそうに言った。
「そうですね。私が普通のモンスター相手にこんなに戦えるようになるなんて思ってませんでした」
「私もです。神官騎士として恥ずかしくない実力が身に付きつつあると感じています」
ソリーンとカレンナルが答える。
「だよね。まあでもわたしたちは前に鍛えてもらったから分かるけど、エイミさんも初めから強かったよね。一体何者なの?」
「え……っ? ……私はその、もともととある貴族様の元で修行を積んでいましたので」
いきなりリナシャに指名されて焦るエイミ。さすがに王家直属の密偵などと言えるはずもない。
「ええ~、メイドをやりながら戦うための修行もしていたの? それってすごくない? わたしなんて聖女の修行だけでも面倒なのに」
「……いえ、それが普通でしたので特には大変とは思いませんでした。リナシャさんこそ聖女様とは思えない戦いぶりですね」
エイミの指摘に笑いが漏れる。やはり皆思ってたんだな。
同じ聖女のソリーンがいたずらっぽく笑いながら言う。
「リナシャは修行よりもこっちの方が楽しそう。大きなモンスター相手にも正面から向かっていくし、なんか生き生きしてるみたい」
「正直わたし自身そう思うんだよね、こっちの方が性に合っているというか。いっそのことハンターになっちゃおうかな」
「リナシャ様、冗談でもそういうことは仰らないでください」
カレンナルに
「それにしても、やっぱり一番すごいのはラトラちゃんかなっ。もう動きが見えないくらい速くなってるし、5等級を一撃で倒すのって大人でもそうできないよね」
「はい……っ? あ、そうですね。いつの間にかできるようになっていました。皆さんのお陰です」
俺が生成した例のペーストを一心不乱に頬張っていた猫耳勇者が慌てて答える。
「ラトラの成長の早さは驚異的ですね。私もすぐに追い越されてしまいそうです」
「そんなっ、エイミさんにはまだまだ教えてもらいたいことがいっぱいありますっ」
「ふふっ、そうですね。メイドの仕事の方はまだまだだから……」
慌ててすり寄るラトラの頭をエイミが撫でる。猫耳もちょっと触ったりして……羨ましいわけではないが、猫好き的には一度感触を確かめたい気も……いかん、早く家に帰ってアビスを撫でないと精神衛生上危険だな。
「師匠、なにか気になることでもあるんですか?」
肉に集中していたはずのネイミリアが俺の顔を不思議そうに眺めている。
「あっいや、ダンジョンの中とは思えないほどほのぼのとしてるなと思ってね」
「それは師匠のお陰ですね。お肉……ご飯がすごく美味しいので」
「それはネイミリアだけじゃないのか?」
「そんなことないと思いますっ。師匠は私をなんだと思ってるんですか、もうっ」
ネイミリアが頬を膨らませ、それを見て皆が笑う。人間関係がほどよく
「やはり何かお気になさっていることがあるのではありませんか?出発前から少し悩んでいらっしゃったように思えましたが」
俺の内心を読んだかのようにソリーンが言った。聖女である彼女は、人の心の動きに
「……ちょっと気になることがないでもないんだ。ただまだ不確定の話だから……」
「え~、気になるから話してよクスノキさん。一人で悩むより皆で悩んだ方が楽になるよ」
俺が言い淀んでいると、リナシャもなんか聖女っぽいことを言う。いや彼女も聖女だけど。
俺はちょっと悩んだが、彼女らもあらかじめ知っていた方がよかろうと判断した。例の件について、派閥問題の部分は伏せて、パーティメンバーが増えるかもしれないという形で話をする。
「協力者が増えること自体はいいことに思えますが……」
カレンナルが言うと、リナシャがすぐに反応した。
「でも誰が来るかによるよね。今わたしたち結構いい連携ができてるし、ヘンな人が増えたら逆に困るかも」
「……そうですね。少なくとも力のない方では困ります」
エイミが俺を意味ありげに見るのは、裏の事情を察したからだろう。密偵をしている彼女の事だ、トリスタン侯爵からの横槍だという所まで気付いてもおかしくはない。
「まあまだ未確定だし、来るとしても勇者に協力するんだから強い人だろう。それより今は自分達の事に集中しよう。まずはこのダンジョンの調査を終わらせるのが先だしね」
「は~い。何かあったらクスノキさんが何とかしてくれるだろうし、気にしないことにしま~す」
「もう、リナシャったら……」
聖女二人のやりとりで結局その話は立ち消えになった。
杞憂に終わってくれればそれが一番だが、ゲーム的な『フラグ』がすでに立ってしまっている以上それは望み薄だろう。
あとはどこまでこじれる話になるのか……俺が注意しなければならないのはすでにその部分のはずだ。
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