26章 → 27章

―― イスマール魔導帝国技術省研究所所属 試製戦闘支援システム ヴァルキュリアゼロの報告


 帝国歴 3812年 3月


『翼龍型厄災』を帝国空軍が鎮圧。


『厄災』本体は『聖弓の使い手』が『聖弓』を用いて討伐した。


 一部の属州に軽微な被害。



 同 5月


『獣型厄災』を帝国陸軍特殊部隊が鎮圧。


 帝国直轄地に軽微な被害。



 同 7月


『アンデッド型厄災』を帝国陸軍及び空軍が鎮圧。


『厄災』本体は『聖女』と呼ばれる人物が封印した。


 一部の属州に軽微な被害。



 同 9月


『精神干渉型厄災』を帝国陸軍特殊部隊『黒虎』が鎮圧。


『黒虎』はダークエルフのみで編成された対『精神干渉型厄災』部隊である。


 広範な地域に軽微な被害。



 同 11月


『軍団指揮型厄災』を帝国陸軍及び空軍が鎮圧。


『厄災』本体は『光の巫女』と呼ばれる人物が消滅させた。


 なお、『光の巫女』はその際命を落としている。


 一部の属州に軽微な被害。 



 帝国歴 3813年 1月


『魔王型厄災』を帝国陸軍及び空軍が鎮圧。


『厄災』本体は『勇者』と呼ばれる人物が討伐した。


 帝国直轄地に軽微な被害。



 同 3月5日


 帝国首都上空に特殊魔素の異常凝縮が確認された。



 同 3月20日


 帝国首都周辺に10万体を超えるモンスターが出現。


 帝国全軍による防衛戦が行われた。


 首都及び首都周辺に甚大な被害。



 同 3月25日


 帝国首都近郊に人型のモンスターが出現。


『厄災』を超える魔素量を観測。


 帝国議会はそのモンスターを『大厄災』と認定。


 帝国軍全残存部隊が鎮圧に向かうも、全部隊が消息を絶つ。



 同 3月26日


 帝国首都消滅。


 帝国全域にモンスターが異常発生。


 同 4月12日


 外部からの最後の通信が途絶える。


 研究所所員が調査に向かうも以後消息不明。


 研究所は一部機能を除いて休眠モードにて待機状態に入る。




―― イスマール魔導帝国技術省研究所 『厄災』研究班チーフの手記


 一部『厄災』は、言語による意思疎通が可能である。


 ゆえに帝国では長い間、彼らの言動から『厄災』の行動原理を探るという試みがなされてきた。


 結果として我々は、『厄災』による攻撃は『人類の個体数の調整』を目的としている、との結論を得るに至っている。


 また、彼らが『人類の個体数の調整』を『何者か』によって命じられて行っているという説もほぼ確実視されている。


 そして、それらの情報から推測されるのは、この星の外側に『管理者』のような存在がおり、その『管理者』が『厄災』を使役して人類の個体数を一定に保っているということである。


 確かに歴史を紐解くと、『厄災』は常に一定周期で現れており、その度ごとに人類はその数を大きく減らしてきた。


 問題はその周期を考えた時、6体存在する『厄災』が同時に出現するタイミングが存在することである。


 一体ですら脅威となる『厄災』が同時に現れるなら、それは間違いなく『人類の滅亡』、もしくは『文明の崩壊』を意味するはずである。


 ではなぜそのような絶望的なタイミングが存在し、『管理者』はそれを放置しているのか。


 これに関しては我々もいくつかの推論を出すにとどまるが、それは3年後に明らかになるかもしれない。


 なぜなら、その同時出現のタイミングが3年後に訪れるからである。



……



 ……ついに『管理者』らしきものが出現した。


 どうやら帝国の万全な『厄災』対策によって、6体の『厄災』が成果もなく鎮圧されたことが彼の気に障ったらしい。


 彼の言動は前線から送られてくる映像ですべてチェックしたが……はっきり言おう。


 彼は恐らくまともではない。


 もし彼がこの星の管理システムのようなものだと仮定するなら、間違いなくそのシステムにエラーが発生している。


 彼の言動から、彼が過去何度となく文明を崩壊させてきたことが理解できるのだ。


 そして残念ながら、帝国が築いてきた文明も崩壊しつつある。


 唯一の光明は、彼自身もまた『何者か』に『星の管理』を命じられているようなそぶりを見せていたことである。


 もし彼の上位たる『管理者』……『管理神』とでも言うべき存在がいるなら、その存在にアクセスすれば彼を止められるのではないだろうか。


 ただの妄想かもしれないが、私はその『管理神』の研究を最後に行いたいと思う。


 この研究が、次に生まれる文明を救うと信じて――

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