27章 転生者のさだめ 01
「つまり今から12日後に10万のモンスターが現れる可能性が高いというのか? さらにその後『大厄災』という途轍もないモンスターも現れる、と?」
「はい、遺跡から得られた情報とヴァルキュリアゼロの話を総合すると、その可能性が極めて高いと考えられます」
俺は、眉をひそめる金髪碧眼の深窓の令嬢……リュナシリアン女王陛下の質問にそう答えた。
ここはサヴォイア城の女王執務室、もちろん女王最側近のヘンドリクセン老と、メカビキニ姿のアンドロイド少女・ヴァルキュリアゼロもいる。
「ふむ、突飛すぎる話ではあるが、その少女という証拠がいる上に、他でもない卿の言うこととなれば間違いなく現実のものとなるのであろうな。じいはどう思う?」
「陛下と同じにございます。クスノキ卿以上に信用できる情報源はございますまい。情報そのものは信じたくない類のものでございますがな」
「そうよな……。じい、最優先で重臣を集めよ。猶予があるとは言い難い、すぐにでも対応策を考えねば。クスノキ侯爵、済まないが今回も全面的に卿の力をあてにさせてもらうぞ」
「はっ、すぐに招集をかけます」
「御意。全力を尽くします」
ヘンドリクセン老が執務室を早足で出ていくと、女王陛下は心配そうな目を俺に向けた。
「話を聞く限り『大厄災』とやらは卿に任せるしかなさそうだが、勝ち筋は見えているのか?」
「確認はこれからなのですが、ヴァルキュリアゼロが『大災厄』に対する武器を持っているようです。それと私の力を合わせれば討伐することは可能だと考えています」
「卿がそう言うならできるのであろうが……。しかし大陸全土を支配した国を滅ぼす『厄災』など想像も及ばぬ話だ。卿の力を借りると言っても不安は拭いきれぬ」
そう言いつつ、女王陛下はその美しい瞳を伏せた。女王陛下がここまで気弱になるのは初めて見るな。
「正直なことを申し上げれば、私もどこまでのものかは予想がついておりません。できる限りの対策をした方がよろしいかと……と申し上げるしかありません」
「分かってはいるが、やはり気持ちとしては不安になるものだ。余は卿と違い、普通の女であるゆえな」
「さすがに陛下が普通の女は無理です」って突っ込みたくなるのをこらえていると、その陛下がチラッチラッと俺の方に意味ありげな視線を投げかけてくるのに気付いた。
「こういう時は、頼れる者に力づけてもらいたいと思うのが普通の女だと思うのだが……」
とか、さらに小さな声でなにか言っている。
え、これって何か俺にして欲しいということだよな。力づけるって、この間みたいに芝居がかったことでも言えばいいのだろうか?
「言葉だけでは足りぬかも知れぬ……」
またぼそっと漏らす陛下。
まさかとは思うが、なんかこう抱きしめたりしろとかいう感じなのかこれ?
いやこの部屋にはゼロもいるしさすがにそれはないか。
ちょっと悩んだ結果、俺は女王陛下の手を取って顔を近づけて
「陛下、陛下の御身は私が命をかけてお守りします。一切の心配は必要ございませんので、今は『大厄災』を退けることに注力くださいますよう」
と誓いの言葉(?)を述べるにとどめておいたのだが、それだけで深窓の令嬢風美少女は顔を真っ赤にして固まってしまった。
政治家としては経験を積んでいても、こういう方向は経験のほぼない少女……と考えれば当然なのかもしれない。
『マスター、女王陛下の心拍数が急上昇しています。先ほどのマスターの行為による影響かと思われます。何らかの対応が必要ではないでしょうか?』
「ああいや、その必要はないから少しそっとしてあげておいて。それよりゼロは心拍数のモニターとか、身体に触れなくてもできるのか」
『はいマスター。対象の体温、呼吸数、心拍数、血圧をモニターできます』
うん、イスマール魔導帝国の技術はやはりすさまじいな。あの遺跡を研究すれば、この世界は地球レベル程度の科学力はすぐに追いついてしまうかもしれない。よく考えたら魔道具とかは、すでに結構高性能なんだよな。
とか考えているうちにヘンドリクセン老が部屋に戻ってきた。
「陛下、1刻後にすべての大臣と主要官僚が集まるよう手配いたしました。ご用意をなさいま……む、いかがなされましたかな?」
ヘンドリクセン老は怪訝な顔をして呆けたままの女王陛下を見ていたが、何かに気付いたように俺の顔を見てフッと笑みをもらした。
「クスノキ侯爵、女王陛下はこう見えてそちらの方面に関しては大層弱くございますので、手加減は十分になさってくだされ」
ちょっと手を取って力づけただけなんです、とはさすがに本人の前で言うのもはばかられ、俺は「承知しました」と言うだけにとどめた。
しかしなんか本当に女王陛下をたぶらかす
ヘンドリクセン老には後でキチンと説明しておこう。さすがに王配になる予定の男がただの女たらしというのでは、彼も不安になってしまうだろうからなあ。
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