3章 都市騎士団 08
次の部屋にいたのはやはり5匹のグリフォンだった。
ネイミリアが1匹、俺が1匹、騎士10人が2匹、そして団長が1匹を倒す。
団長は言うまでもなく、騎士コーエン達が一糸乱れぬ動きでグリフォンを倒す様も感嘆のほかはない。
都市騎士団の練度の高さは間違いなくプロフェッショナルのそれである。
そして次の部屋へ向かおうとした時……黒い霧がいきなり部屋に立ちこめた。
「円陣ッ!」
唐突な異常事態を前にして、団長以下騎士たちは一瞬で対処行動に移る。
俺たちを囲んで輪になり、周囲を警戒する騎士たちに緊張がみなぎる。
オォォォォ……ッ!
奇妙な
黒い霧が塊となり、その塊が膨張、次第に四つ足の獣の姿を形作っていく。
そして霧がいきなり晴れると、そこには体高5メートルはあろうかという、黒い巨大な犬がそそり立っていた。
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ガルム(成体)
スキル:
ブレス(炎) 気配察知
縮地 剛力
ドロップアイテム:
魔結晶7等級 ガルムの毛皮
ガルムの牙 発炎器官
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「7等級だっ!防御陣形ッ!」
女騎士団長が叫び、騎士たちが盾を構え半円陣を敷く。
その陣の前に、いきなり巨大な犬が現れた。いや、一瞬で移動したのだ。『縮地』スキルか。
巨大な黒犬……ガルムが前足をひらめかせる。
あの爪はマズい――
俺も『縮地』で出ようとする……その前に騎士団長が動いた。
盾でその致死の一撃を弾き、さらに炎の短槍で巨犬の胸を突く。
ガルムは一瞬ひるみ、『縮地』で距離を取る。
と、その禍々しく並ぶ牙の間から、
「ブレスッ!」
騎士団長が叫ぶ。ガルムの目は、盾を構える騎士たちをとらえている。
――ダメだ、あの盾では防げない。
俺は魔力を瞬時に圧縮、ガルムに向かって手を突き出す。
「ウォーターレイッ!」
以前より威力を増した波動ほ……ではなく
気まずい。
とても気まずい。
「さすが師匠です!」とキラキラしていたネイミリアが、不穏な空気を感じてオロオロし始めるくらい気まずい。
いや、自分もガルムを倒した直後は「何事もなくてよかった」くらいに考えていた。
自分が重大なミスを犯していたことに気づいたのは、氷の刃のような視線を送りながら、美人騎士団長が近づいてきた時だった。
「やはり貴殿がワイバーンを落としたのだな」
そうだった、この騎士団長は
その騎士団長の前で、ワイバーンを落とした魔法を見せてしまうという痛恨のミス。
「やはり、というのは?」
「先日、領主閣下よりワイバーンの件の調査を中止せよと連絡があった。我々が何も見つけていないにもかかわらず、だ」
「……」
「同時に7等級の魔結晶が、協会から領主閣下の元に献上されたらしいという『噂』が聞こえてきた。そして時を同じくして1級ハンターが新しく現れた。その男はエルフの少女を連れた新人だという」
「……」
「そこに丁度この遺跡の話だ。あまりにもタイミングが良すぎて驚いたが、貴殿を見極めるいい機会だと思った。ガルムの出現は予想外だったが、おかげで謎が解けたというわけだ」
なるほど、森の中での印象を裏切らず、この騎士団長は頭の方もかなり切れるらしい。
『噂』などと誤魔化しているが、中止の命令が出た時点で裏を取りにいっていたに違いない。
「たとえそうだとしても、私が罪を犯しているわけではありませんよね?」
騎士団長はそこでフッと笑った。
「私も別段、これをもって貴殿をどうこうするつもりはない。ただ半端な仕事は嫌いなのでな、ついでに確認できればと考えたまでだ」
「はあ……」
俺がこれからどう話を進めようか悩んでいると、騎士団長はスッと距離を縮めてきた。
近くで見ると本当に凛々しい美女という感じだが、そんな圧倒的キラキラ顔を無造作に近づけるのはやめて欲しい。
「ああ、はじめに言っておくべきだったが、部下を助けてくれて礼を言う。あのままブレスを吐かれたらただでは済まなかったろう。それとともに、7等級を一撃で討伐するクスノキ殿の力には称賛を贈ろう。今後とも我々と懇意にしていただけると幸いだ」
『お前のことは黙っててやるからこれからも協力しろ。これは職務命令な』みたいな二重音声が聞こえるのは幻聴……じゃないんだよな、きっと。
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