23章 → 24章
―― リースベン軍 第二陣 左翼 『三龍将』『弓姫』マイラ
その男たちがわたくしの部隊の真ん中に現れたのは、本当に突然でした。
地面に魔法陣のような光が見えたかと思うと、そこには3人の男たちが立っていたのです。
私はその3人のうち、2人については聞き覚えがありました。
黒い鎧を身に着けた、鬼人族の美丈夫はクリステラ・ラダトーム。そして青い衣服に身にまとった美青年はアンリセ・ヴァンダム。
どちらも私たち『三龍将』に比肩すると言われている、サヴォイア女王国の最高戦力『王門八極』の内の2人です。
しかしもう一人は聞いた事のない人物でした。背の高い、刀を片手にした剣士。
彼は相当な強者と見え、その顔は戦場にいる人間のそれとは思えないほど落ち着いていました。
いや、落ち着いているというより、どことなく済まなそうな顔をしているように見えます。
今にも「申し訳ない」と口にしそうな雰囲気。
「敵襲ッ!!」
副官が叫びます。
わたくしも……いや、わたくしの身体も腰に帯びた剣を抜きました。
得意の弓はこの距離では役に立たない。わたくしでもそう判断したでしょう。
部下たちが一斉に3人に向かっていきます。
本来なら「待ちなさい」と言いたかった。部下が何人束になろうとも、あの3人には傷一つつけられないと分かっていたからです。
わたくしたち『三龍将』が三人集まったのと同等の戦力と考えれば、到底一般兵がかなう相手ではありません。
しかし今、わたくしの身体はわたくしのものではありませんでした。
いえ、わたくしだけではありません。他の『三龍将』も、総大将であるわたくしの父も、さらには大臣たち、そして国王陛下も、国の要職にある者のほとんどが『何者か』に身体を奪われているのです。
わたくしの身体は一切の言葉を発することもなく、突如現れた背の高い男に斬りかかっていきます。
剣を合わせて理解しました。目の前の人物はまさに怪物でした。
わたくしの身体が縦横無尽に振るう剣を、彼はまるで羽虫を払うがごとくにすべていなしたのです。
「マイラ様っ!」
部下たちがその男性に殺到します。彼らも理解したのでしょう、その男性の異常性に。
「『エアショット』」
今何と言ったのでしょうか? エアショット? 最下級の風属性魔法?
そんなはずはありません。なぜなら斬りかからんとした部下たちが、その魔法一撃ですべて吹き飛んだからです。
完全装備の兵士をまとめて吹き飛ばす魔法など、宮廷魔法師レベルでもそう簡単に放てはしないでしょう。
それがエアショットなど……。
「ああ、憑依されてる方か。ちょっと失礼」
その男性は意味不明のことを言うと、動きを止めたわたくしの目の前で刀を振りました。
斬られるのかと思ったのですが、そうではありませんでした。
わたくしの身体にはなぜか多量の水滴がかかり、わたくしの脳内で奇妙な叫び声がこだまします。
男性がもう一度刀を振ります。水滴がかかり、脳内の叫び声が遠のいていきます。
その時、わたくしは自分の身体が自分の手に戻ってきたことを感じ取りました。
崩れそうになる身体を、自らの意志をもって支え踏みとどまります。
男性が脇を通り過ぎ、背後で何かを攻撃したように感じました。
振り返ると、そこには半透明の奇妙なモンスターを刀で串刺しにしている男性がいました。
モンスターが霧となって消えます。残された魔結晶は7等級、いやもっと上でしょうか。
あれがわたくしの身体を操っていたというのでしょうか。
「さて、申し訳ありませんが戦闘を止めていただけますか? ええと、『三龍将』殿?」
男性はそう言いながら、わたくしの首に刃を当てました。
先程の、済まなそうな顔をして。
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