10章 → 11章

―― サヴォイア女王国 首都ラングラン・サヴォイア 

   ラングラン・サヴォイア城   女王執務室



「……陛下、何をしておいでですかな?」


「ん?見ての通りだ。各貴族に年頃の子弟の肖像画を送らせたのだ。なかなか粒ぞろいだな」


「『厄災』が迫っているという時に何をさせていらっしゃるのですか……」


「『厄災』が近いからこそ慶事が必要ということもあろう。安心せよ、これは余の私費で行っているゆえ、国庫に負担はかけておらぬ。それにどの貴族も乗り気で送ってきおったぞ」


「それはそうでしょうが……。そのような行いが過ぎますと陛下の御名にきずがつきますぞ。ご自重くだされ」


「城にいるといつも同じ顔ばかり見ていて面白くないのだ。少しは目こぼしをせよ。で、なんぞ面白い話でもあったのか?」


「面白くはございませぬな。2日前に北の凍土にて魔王城の姿が確認されたとの報告ですので」


「思ったより早いな。ではそろそろ北の奴らが動き出すということか」


「そうですな。すでに北に『王門八極』を2名派遣しておりますが、継続でよろしいでしょうかな」


「うむ。国軍の方は?」


「北に派遣する軍はすでに編成を済ませております。陛下の命令あらばいつでも」


「まだ良い。あまり早く動きすぎると士気がもたぬであろうし、『勇者』もまだ十分に育っておらぬからな。それに魔王は策をろうすると聞く。他の『厄災』の動きを見てから動くであろうよ」


「御意」


「他には?」


「各領地の『厄災』の兆候の発生状況ですな。こちらにまとめましたので御覧くだされ」


「ふむ……。まだモンスターの異常発生が主のようだが、いくつかダンジョンの発生も見られるようになってきたか。確認できた眷属けんぞくは……『けがれのきみ』『闇の皇子』『悪神』『邪龍』……ロンネスク、叔父上からの報告が多いのは偶然か?」


「分かりませぬ。ただコーネリアス公爵閣下の配下に眷属を見分けることができる者がいるようで、そのせいかもしれませんな。他領で出現していてもそれを判別する手段がございませぬゆえ」


「叔父上のところは有能な人材が多くないか?ここに報告されている眷属はすべて討伐されている上に、被害が他領に比べて圧倒的に少ないではないか」


「実はそのことなのですが……メニル、クリステラ両名の報告が上がってきております」


「おお、以前話があった叔父上秘蔵のハンターの情報か。見せてみよ」


「こちらです」


「ふむ、クスノキと言うのか、聞かぬ姓だな。……ふむ……ほう……ん?……んんっ!?……なんだこれは、信頼できる情報なのか?」


「『王門八極』2名が口を揃えておりますれば、誤りはないかと」


「『王門八極』2名を相手にもせず、『厄災』の眷属すら敵ではなく、空間魔法持ちで未確認の魔法を使い闇魔法まで操る。しかもトリスタンの策まで退けるなど、八面六臂の活躍……。お前はどう思う、このクスノキという男」


「公爵閣下からは彼が討伐した8等級の魔結晶まで届いておりますので、その力は疑いようもないかと。公爵、ニールセン子爵連名での恩賞願いも提出されております」


「実力は間違いない、か。……しかし、このような人物が『厄災』の前兆とともに急に姿を現したのは偶然か?」


「……っ!?なるほど、確かにそれは……陛下のご慧眼けいがんには恐れ入るばかりです。その人物には引き続き監視が必要のようですな」


「まあ、叔父上もその辺りの不自然さは気付いているではあろうが……。まだ『勇者』が現れていないならそちらの可能性もあったのだがな。後に現れたとなると、色々と疑わざるを得まい」


「公爵閣下も注視はしておられるでしょうな。して、いかがいたしましょう。こちらからも『影桜』を派遣いたしますか?」


「腕利きを差し向けよ。半端な者では見破られようからな。必要があれば、恩賞願いが出ている以上、一度ラングランに呼ぶことも検討せねばな」


「御意。すぐに手配いたします」


「うむ。……ところで、このクスノキというのは見目はどうなのだ、いい男なのか?」


「陛下……」

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