4章 美人受付嬢の悩み 05

家に帰り、俺は部屋でベッドに横になりながらアビスとたわむれていた。


今回の件は、自分としては何が何やらよく分からない内に終わってしまった。


一体あのギラギラ団長とのやりとりは何だったのだろうか。


ああ、一応サーシリア嬢のお悩み解決みたいな意味はあったのか。


領主様の言っていた『審問官』というのは嘘を見抜くスキル持ちのことらしいので、ギラギラ団長が処罰されることは間違いないだろう。


ロンネスクを守る都市騎士団の団長を私情で失脚させるなどという話は到底許されるものではない。


よく考えるとガルムを討伐したのは俺だから、ギラギラ団長が言っていたことも実は間違いではないのだが……まあ俺を脅したのは事実だし深く考えないようにしよう。


実はあらかじめ支部長から聞いていたのだが、あの団長は女癖が悪いことで有名で、部下の妻に手を出したりしていたらしい。


金に関しても不透明な動きが多く、汚職をしている疑惑は絶えなかったそうだ。


領主様の口ぶりだと以前からあの団長の事をうとましく思っていたみたいだし、俺は実は上手くダシにされただけなのかもしれない。


最初から全部仕組まれていたということはないだろうけど、あのタイミングを逃さず一芝居設けた支部長と領主様はちょっと恐ろしい。


普段の行いが重要ってことで、俺も気をつけるようにしよう。


そんなことを考えていると、ノックの後にドアが開いてサーシリア嬢が入ってきた。


「ケイイチロウさん、少しいいですか……?」


「ああ、大丈夫だよ」


「その、今回の事は本当に……」


「ストップ。謝罪なら十分に聞いたからもう大丈夫。それに今回のことは本当にサーシリアさんが悪いんじゃないんだよ。俺があの団長をけしかけたようなものなんだから」


「しかし……」


「いや、むしろ謝らなくちゃならないのは俺の方というか――」


なんとも申し訳ないので、俺は騎士団長とのやりとりを正直に話した。


「え、ええっ!?そんなことをおっしゃったんですかっ!?」


「それについては本当に申し訳ない。まあ今の話の通り、今回の決闘は俺のせいで起こったことなんだ。だから本当にサーシリアさんは悪くないんだよ」


「……はい、それは、分かりました、けど、ええ、そんな……」


顔を赤くして両手で頬を覆うサーシリア嬢。


あ、やっぱりこれは土下座案件かもしれない。いやそれはそうだよね、勝手にとんでもないことをでっち上げられたんだから。


「ま、まあ、あの場だけの話だから広まることもないとは思うけど……何と言うか、本当に申し訳ない」


俺が頭を下げると、サーシリア嬢は慌てて両手を振って遮った。


「いえ、ケイイチロウさんが謝るようなことじゃありません。ただ、その、もしかしてケイイチロウさん、そういうことを望んでいたり……」


「いやまさか、そんな身の程知らずじゃないから。とにかく今回の事はお互い忘れることにしよう。ね?」


「うぅ……分かりました。でも、ケイイチロウさんを利用しようとしたことはそれとは別に申し訳なくて……」


「だからそれは、むしろサーシリアさんみたいな美人に頼ってもらえるなら男としても嬉しいくらいだから気にしなくて大丈夫だって」


「えっ……美人……男としても……?」


「ん?」


「あ、なんでもありません!分かりました、今回のことはいずれ何らかの形でお返しをいたします。それで……これからも今まで通りってことでいいんですよ……ね?」


「そうしてもらえると助かるよ」


「はい、分かりました。この度は色々とお騒がせをしました」


ふぅ、首の皮一枚でセーフをもぎ取ったぞ。


こういうデリケートな問題はこじれた時、男側に勝ち目はないのだ。

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