第128話「番外編:トールとメイベルとルキエと『勇者世界の英雄』」

『創造錬金術師は自由を謳歌する』1巻は、ただいま発売中です!


 というわけで「創造錬金術」書籍版発売記念の番外編、第10弾を書いてみました。

 今回のお話は……番外編のお約束ということで、本編とはあんまり関係ないお話になっております。

 番外編なので、パラレルワールド的なお話だと思っていただけたらうれしいです。


 読者の皆さまのおかげで、書籍版も無事に刊行できました。

 書店に本が並んでいるところを見ると……やっぱり感慨深いものがあります。

 本当に、応援していただき、ありがとうございます!


 カドカワBOOKさまのホームページでは、表紙やキャラクターデザイン、画像つきの作品紹介も公開されています。YouTubeでも「創造錬金術」のCMが公開になっております。

 作品の概要欄と近況ノートに、リンク先のアドレスを貼ってありますので、ぜひ、見てみてください。


 さてさて。

 今回はメイベルが、勇者世界の奇妙な紙を見つけたようですが……。



──────────────────


「トールさまトールさま」

「どうしたのメイベル」

「倉庫の隅で、奇妙な紙を見つけました。見ていただけますか?」


 ある日のこと。

 倉庫の片付けをしていたメイベルが、そんなことを言い出した。


 彼女が手にしているのは、古い紙だ。

 写真が掲載されているところを見ると、勇者世界のものだろう。

 どこかの本から外れたページみたいだ。


「私には読めないのですが、なんと書いてあるのでしょうか」

「『隠れたお宝を買い取ります』だって」

「隠れたお宝、ですか?」

「帝国の酒場とかにある、貼り紙のようなものだね。ああいう人が集まる場所には掲示板があって、いろいろな依頼書が貼ってあったりするんだ」

「そういうものがあるのですね……」

「たとえば『報酬を支払うので薬草の採取をお願いします』とか『人やアイテムを探しています。見つけた人には報酬を……』というものだね」

「人が集まるところには情報も集まる、ということですね」

「そうだね。この紙がはさまっていた本は、勇者世界に広く流通していたんじゃないかな」

「さすが勇者の世界です」


 俺とメイベルはため息をついた。

 おそらく、この『お宝買い取ります』のページがあった本は、勇者世界の主立った施設に配布されていたのだろう。

 こちらの世界で言えば王宮や、大きな店舗などだ。

 そこで情報を流して、アイテムや人材を集めていたのかもしれない。

 まったく、計り知れない場所だな。勇者の世界は。


「それでトールさま。勇者世界にはどんなお宝があるのですか?」

「このページにあるのはひとつだけだね。『アルティメットでスペシャルなお宝だから本誌が全力で探しています。お心当たりの方はご連絡ください』って書いてある」

「……すごいです。勇者世界が全力でバックアップするなんて」

「そうだね。それでお宝の名前は……え? 『変身アイテム』?」

「変身? 身につけると姿が変わるアイテムですか?」


 メイベルがびっくりした顔になる。


「この世界にはトールさまが作られた『なりきりパジャマ』がありますけれど……それに似たものでしょうか?」

「ちょっと違うかな。これは異世界の英雄ヒーローが悪の組織と戦う姿に変身するときに使っていたアイテムらしいよ」

「悪の組織!? 勇者の世界には、そんな組織があったのですか!?」

「うん。しかも、戦いの記録がわかるように、彼らは詳細に記録を取っていたらしい。ほら、ここに『探しているのは、撮影時に使われていた初期型の変身アイテムです』って書いてある」

「撮影……確か、写真を撮ることを意味する言葉だったでしょうか」

「動画というものを撮る意味でもあるね。勇者世界では色々なものに対して、こまめに記録を取っていたみたいだ。ヒーローと悪の組織の戦いも、その一環だったんだろうね」


 写真には、ヒーローの姿が映っている。

 不思議なかたちのかぶとを被っているせいで、顔はまったくわからない。

 さらに、腰には複雑なかたちをしたベルトを身につけている。なんか光ったり、回ったりしてる。

 このベルトが『変身アイテム』のようだ。


 うん……欲しがる人の気持ちもわかるな。

 こっちの世界で言えば聖剣や、極大魔術のスクロールのようなものだからな。

 大金を払ってでも手に入れようとするのも無理ないよな。


「この『変身アイテム』は、どのくらい高価なものなのですか?」

「それがわからないんだ。『応相談』『交渉受け付けます』って書いてあるから」

「……そうなんですか」

「聖剣や極大魔術のスクロールと同じくらいだとすると……金貨数千枚はするだろうね」

「そうですね」


 俺とメイベルはため息をついた。

 もちろん、聖剣が金貨数千枚というのは、ただの推測だ。

 帝国が所有している聖剣は、お金では買えないからね。


 たまに魔法剣が市場に出ることもあるけど、それは金貨で数百枚。

 勇者世界の『変身アイテム』がどれくらいの能力を持つのかはわからないけれど……本で大々的に情報を集めるくらいだ。

 やっぱり聖剣くらい高価で──


「いや、聖剣よりは安いかな」

「え? 異世界の英雄が使っていたのなら、聖剣以上なのではないですか?」

「よく聞いて、メイベル。もう一度説明文を読み上げるから」

「は、はい」

「ここにはこう書いてあるんだ。『探しているのは、撮影時に使われていた初期型』だって」

「──!」


 メイベルも気づいたらしい。

 そう、この依頼者が探しているのは『初期型・・・の変身アイテム』だ。

 つまり──


「依頼者が探しているのは初期型の『変身アイテム』だ。後期型と比べて、性能が安定しないか、欠陥がある可能性がある。だから聖剣や極大魔術スクロールよりは安いと思うんだ」

「な、なるほど!」


『初期型』があるということは、『後期型』や『改良型』があるはず。

 性能がよくなったヴァージョンアップ型があるということだ。


 それだけじゃない。この紙によると、勇者世界にはもっと数多くの『変身アイテム』が存在するらしい。

 でも、もしも様々な『変身アイテム』が勇者世界に存在するのだとしたら……。


「もしかしたら『変身アイテム』は、儀式魔術に使うものなのかもしれないね。アイテムの力じゃなくて、儀式の力で変身するのかも」

「そうなのですか?」

「『変身』というひとつの結果をもたらすのに、アイテムの種類が多いのは不自然だからね。ベルトはどの姿に変身するかを規定するもので、重要なのは『変身』のための儀式なのかもしれない」

「神官が儀式用のアイテムで、聖なる力を呼びだすようなものでしょうか?」

「身につけているもので立場や力を示すのは、よくあることだから」

「……そういうことだったのですね」

「……勇者世界は奥が深いね」


 俺とメイベルは並んで、『お宝買い取ります』のページを読んでいく。

 このアイテムには、様々なレプリカが存在するらしい。

 複製品レプリカでも値が付くことがあるのでぜひ連絡を──って書いてある。


「トールさま」

「うん。メイベル」

「トールさまなら、このベルトをコピーすることができるのではないですか?」

「できると思うよ。儀式魔術に使うものなら、重要なのはその形状だろうから。ただ……問題は素材だね。この紙だけでは、アイテムがどんな素材で作られてるのかわからないから」


 ……作るなら、色々な素材で試すしかない。

 素材を変えて5種類くらい作ればいいか。

 ひとつくらい、魔術的な反応を示すものがあるだろう。それをまた研究して、徐々に勇者世界のものに近づければいい。


「さすがトールさまです。では、魔王領の者でもヒーローに変身を!?」

「でも、もうひとつ問題があるんだ」

「そうなのですか?」

「ヒーローに変身するには、特別なポーズが必要みたいなんだ。それがわからなければ、『変身アイテム』だけを作っても意味が──」


 いや、待てよ。以前にルキエが言ってたな。

「いつかまた、勇者召喚が行われないとも限らない」って。


 その時に、この『変身ヒーロー』がやってくる可能性はあるんだ。

 今のうちに研究しておくのもいいかな。

 俺だけでは無理でも、魔王領のみんなの力を借りれば、正しい儀式を見つけ出せるかもしれないし。


「メイベル、ルキエさまに伝言をお願いできる?」

「は、はい。どんな内容でしょうか?」

「俺がこのアイテムをコピーするから、それを展示する許可が欲しいんだ」


 俺はメイベルに考えを伝えた。

 それから『創造錬金術』を起動。

『お宝買い取ります』を参考に、『変身アイテム』の複製をはじめたのだった。





 ──数日後、魔王城の入り口で──



「勇者世界の者は……これで変身をしていたのか」

「一体どうやって? もしや、我々にもできるものなのか?」

「英雄を選定する儀式と考えてみよう。やってみる価値はあるのではないか?」


 魔王城の入り口に、人々が集まっていた。

 彼らが取り囲んでいるのは、俺が複製した『変身アイテム』──ベルトだ。

 まわりにはベルトを支える石段が作られ、そこには文字が彫り込まれている。



『これはヒーローに変身するための、勇者世界のアイテムである。

 儀式魔術に使われるものだと考えられる。

 勇者の世界を知るためにも、これに触れ、さまざまな実験を行うがいい』



 ──と。


「……儀式魔術」

「……わからない。一体どんなものなのだろう……?」

「……勇者世界は難解すぎます。我々にはまったくわかりません……」


 みんなベルトを腰に巻いたり、肩に巻いたり、額に巻いたりしている。

 それを身につけたヒーローがどう動くのか、どんな武器を使うのか、色々と想像しているみたいだ。


「勇者世界のアイテムを研究することは、勇者を理解する助けとなろう」


 俺の隣で、魔王ルキエが言った。

 仮面とローブを身につけた魔王スタイルだ。

 彼女は玉座の間のバルコニーから、城の入り口にいる人々を見下ろしている。


「もしかしたら、変身に成功する者も現れるやもしれぬ。トールよ。面白いものを作ってくれたな」

「ありがとうございます。ルキエさま」

「異世界のヒーローは、悪の組織と戦っていたと聞く。ならば、魔王領の者が変身に成功すれば、我らが『悪』ではないことの証明にもなる。勇者が来たときに変身した姿を見せれば、戦いを避けることもできようよ」

「さすがルキエさまです」

「皆にも、そう伝えておる。彼らのがんばりを、温かく見守るとしよう」

「はい。ルキエさま」


 俺と魔王ルキエは温かい目で、人々を見下ろしていた。

 地上では、みんながベルトを手に、さまざまな実験を繰り返している。



「──儀式魔術は集中と、強き願いを必要とする。つまり!」

「身につけて、強く願えば変身できるわけだな!?」

「やってみよう。変身変身変身! へーんーしーんっ!」

「……無理か。やはり勇者以上の集中力と魔力が──」

「そういえば生命の危機を感じて、強くなった勇者もいたな」

「危険に対して潜在能力が覚醒するということか」

「なるほど。では私が……って、宰相さいしょう閣下。頭にベルトをつけたままどこに行かれるのですか!? え? 衝撃を与えることで変身を促す……って!? やめてください! ベルトが壊れたらどうするのですか!?」



 穏やかな昼下がり。

 俺とルキエは肩を並べてお茶を飲みながら、人々の声に耳を傾けていた。

 魔王城の入り口に集まる人の数は、どんどん増えていく。

 みんな勇者世界の『変身アイテム』に夢中だ。

 さすが異世界の英雄が使っていたアイテム。みんなを魅了する力があるらしい。


 変身ポーズを研究する人。

 展示しておいた『お宝買い取ります』の紙を参考に、『変身ヒーロー』の姿を模写する人。

 独自に分析したのか『勇者世界のヒーローの必殺技について』『勇者世界ヒーロー22のひみつ』なんて文書を読み上げてる人もいる。

 ギャラリーはどんどん増えていく。


 その様子を見下ろしながら、俺とルキエは──


「……予想以上の騒ぎになっちゃいましたね」

「……余たちは異世界の英雄ヒーローの力を、甘く見ていたのかもしれぬ」


 ──国をあげての騒ぎになる前に、あの『変身アイテム』は撤去てっきょした方がいいかもしれない……なんてことを考えていたのだった。



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【お知らせです】

 いつも「創造錬金術」をお読みいただき、ありがとうございます!


 書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」は、ただいま発売中です!

 詳しい情報はカドカワBOOKSさまのホームページで公開されています。

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 YouTubeでは「創造錬金術」のCMが公開中です。この作品の概要欄と「近況ノート」にアドレスを貼ってありますので、ぜひ、見てみてください!


 というわけで「創造錬金術師は自由を謳歌する」は、ただいま発売中です!

 書き下ろしエピソードも追加してますので、どうか、よろしくお願いします!



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