【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第113話「番外編:トールとルキエと『1万年記録できるペン』」
第113話「番外編:トールとルキエと『1万年記録できるペン』」
今回は「創造錬金術」書籍版発売(だいたい)1ヶ月前記念の番外編です。
発売日の5月8日まで不定期にアップしていく予定です。
今回、トールはとある筆記用具を作ったようですが……。
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「勇者世界の『万年筆』というものを作ってみました」
ある日の午後。
工房にお茶を飲みに来たルキエに、俺は言った。
「ちなみに『万年筆』とは、勇者世界の筆記用具です」
「興味深いな。どのようなものじゃ?」
「軸の部分にインクを溜めておけるペンですね。この世界では、羽根ペンや金属製のペンにインクをつけて書いてますけど、そういう必要がないものです」
「なるほど。すばらしいものじゃな。それを再現したのか?」
「はい。一応は再現したんですけど……」
俺はルキエの前に、金属製のペンを置いた。
「軸には濃厚なインクと『水の魔石』を仕込んであります。握りの部分に魔力を注ぐと『水の魔石』から水が出て、希釈したインクをペンに届けるようになっています」
「それで文字が書けるわけじゃな?」
ルキエは羊皮紙を取り出し、サラサラと『万年筆』を走らせる。
「少し色が薄いが、改良すればなんとかなるじゃろう。問題は『水の魔石』が必要になるため、あまり大量生産には向かぬところじゃろうか。じゃが、悪くない」
「そんなことないです。それは失敗作ですから」
「……失敗作じゃと?」
「はい。まったく、話にもならない欠陥品です」
「いや、待て、普通に文字は書けておるぞ?」
「そうですけど、これは『万年筆』なんです」
「うむうむ。そういうアイテムじゃな?」
「でも、羊皮紙に文字を書いたところで、一万年も保たないんですよ」
「…………?」
「保存状態を良くしても、せいぜい数百年から千年がいいところですね。一万年にはほど遠いです。まったくこれはお話にならない欠陥品で……」
「いやいやいや! 待て、トールよ!」
ルキエがびっくりしたような顔になる。
「アイテム名が『万年筆』だからと言って、文字が一万年保存できるとは限らぬじゃろう!?」
「ルキエさま。これは勇者世界のアイテムなんですよ?」
「……むむ?」
「勇者が、まったく意味のない名前をつけるわけがないじゃないですか」
「そ、そうかもしれぬが……」
「このペンが一万年保つか、あるいは記録した文字が一万年保つか、どちらかの意味があると、俺は推測しているんです」
「じゃが、文字を一万年保存するのは無理じゃろう?」
「そこで方法を考えました」
とりあえず俺はルキエから万年筆を受け取った。
それから『超小型簡易倉庫』を開けて、素材として入れておいた石を取り出す。
大きさは、こぶし大くらい。表面が平たくなっただけの、どこにでもある石だ。
「ルキエさま。雨だれに石を
「知っておる。同じところに水滴を落とし続けると石がくぼんだり、穴が空いたりするのじゃろう?」
「そうですね。つまり、水にはそれだけの力があるということです。で、石に彫った文字というのは、なかなか消えないですよね? 保存状態が良ければ数千年は保つと思うんです。ですから──」
「待て。お主はもしかして……?」
「はい。魔力を注ぐ位置によって『一万年筆記モード』に切り替わるようにしました」
俺はペンのお尻に魔力を注ぐ。
それから、石の表面にペン先を当てて、『水の魔石』の魔力を一気に解放すると──
ボシュッ!
石に穴が空いた。
「……というわけです。やっぱりこれは欠陥品ですね」
「……」
「出力調整がうまくいかないんです。本当は、石を
「…………」
「大量の水の魔石で水流を作って、風の魔石でむりやり圧縮してますからね。無理があるんですよ。もちろん、安全装置は付けてます。『地の魔石』を利用して、岩以外には『一万年筆記モード』は使えないようになっています」
「………………」
「でも、一瞬で『水の魔石』の魔力を使い果たしてしまうんですよ。こうやって魔石を交換すれば書き続けられますけど、それじゃ効率が悪いですよね? それに、石の材質によっては砕け散ってしまうことも──」
「トールよ」
「はい。ルキエさま」
「お主、もしかして
「あれ? どうしてわかったんですか?」
「よく見ると、目の下にくまができておる。しかも身体がフラフラしておる。お主……もしや寝てるときに『万年筆』のことを思い出して、真夜中のテンションのまま、徹夜で一気に仕上げたのではなかろうな?」
「見てたんですか?」
「見てなくともわかるのじゃ! まったく……」
呆れたようにつぶやくルキエ。
それから彼女は『認識阻害』の仮面とローブを身につけ、魔王スタイルになってから、
「食堂につれていってやる。まずは熱いミルクを飲んで、それから腹になにか入れよ。そうしたらゆっくり眠れるじゃろう。ついてくるのじゃ」
「いえ……ルキエさまに……ご迷惑をかけるわけには……」
「ふらふらしておるぞ? いいから、ほら、一緒に廊下に出るのじゃ……って、ああ、転んでしもうたか。仕方ない。ミルクはメイベルに言って、部屋に届けさせよう。ベッドまでついていってやるゆえ、眠れ。いいから寝ろ。まったく、ほっとけないやつじゃな。トールは」
俺は魔王ルキエの手を借りて立ち上がる。
廊下から部屋に戻って、ベッドに入って──
その後、メイベルが持って来たミルクを飲んだあと、俺の意識は途切れたのだった。
──数分後──
「おや? 見慣れないペンが落ちていますね」
通りかかった廊下で、宰相ケルヴは金属製のペンを拾い上げた。
「誰かの持ち物でしょうか? それとも、トールどのが作った新アイテムですか? ここは本人に聞いてみた方が……」
「宰相閣下!」
「おや、ライゼンガ将軍の部下の方ですね。どうしましたか?」
「郊外で魔獣ロックリザードが発見されたそうです」
「ロックリザード? 全身を岩で覆われた、素早い巨大トカゲですね?」
「はい。すでに討伐は完了しましたが、宰相閣下に検分をお願いしたいと思いまして」
「承知しました。あれは生命力の強い魔獣です。息の根を止めたかどうかチェックはしましたか?」
「戦ったのは新人の部隊ですが、訓練はしております。問題ないかと」
「わかりました。すぐに行きましょう」
そうして宰相ケルヴは、武官たちと共に郊外に向かったのだった。
数時間後。
武官たちにより、魔獣ロックリザードの死亡が確認された。
怪我人が出たのは、新人部隊がロックリザードを甘く見ていたことによるものだ。彼らは、あの魔獣の生命力が強く、時に死んだふりをするという習性を忘れていた。
息絶えたと思われた魔獣が暴れ出し、彼らに攻撃を加えたのだ。
その時に、ちょうど宰相ケルヴが居合わせていた。
彼は、記録を取ろうと羊皮紙を取り出し、持っていたペンを振り上げたところだった。
直後、魔獣ロックリザードは黒いインクに頭部を貫かれ、即死した。
その場に言わせた武官たちは、後にこう語っている。
「──魔獣の突進に気づいた宰相閣下は、手元に大量の魔力を集中させた」
「──次の瞬間、高圧噴射された黒い水が、ロックリザードの頭部を破壊した」
「──宰相ケルヴさまに、魔獣の爪が刺さる直前だった」
「──胸ポケットに万年筆を入れていなければ死んでいた」
その後、魔王ルキエと宰相ケルヴによって『一万年筆記モード』使用禁止令が出るのだが、それは武官たちには知るよしもないことなのだった。
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というわけで番外編をお届けしました。
「創造錬金術」書籍版は5月8日発売です!
書き下ろしエピソードも追加していますので、ぜひ、読んでみてください!
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