第200話「『軍勢』の筋肉をほぐす」

 ──リカルド視点──




「ディアス兄が来ているに違いない。打って出るぞ!!」


 リカルド皇子は宣言した。


 ここは、狩り場にある宿舎。

 リカルドたちが拠点きょてんとしている場所だ。


 ダフネたちが出陣してから数十分が経過した。

 リカルドたちも、彼女たちが『軍勢』から脱落したことには気づいている。


 感覚共有を試みても反応がないからだ。

 おそらくは倒されたか、全員、眠りについてしまっているのだろう。


 この場には数名、ダフネたちの配下が残っていた。

 彼らはダフネたちと強く感覚共有していたのだが『ああ、ああ! 頭上から来る! やさしいものが……』と言い残して眠ってしまった。


 だが、おかげで敵が頭上から襲ってくるということがわかった。

 ならば、対処は簡単だ。


密集陣形みっしゅうじんけいを取り、一気に攻め滅ぼす。これでよかろう」

「兵士同士の距離を近づけることで、感覚共有を強化するわけですね? 殿下」


 リカルドの腹心、魔術師マルクが言った。

 彼はリカルドと共に『カースド・スマホ』を分析した人物だ。

 最も長くリカルドの『軍勢』になっている。彼の考えも、手に取るようにわかるのだろう。


「マルクの言う通りだ。簡単な話なのだよ」


 満足そうにリカルドはうなずく。


「理由は不明だが、ディアス兄は兵士を眠らせる技を使っている。それでダフネたちは敗れた。感覚を共有しているせいで、眠気も伝わってしまうからだ。ならば──」

「起きている兵士の方が多ければいい、ということですな?」

「そうだ。多数の『起きている兵士』が、覚醒中かくせいちゅうの意識を送り込めばいい。声に出さずに、他の者をたたき起こすようなものだ。それで皆、目を覚ますだろう」

「痛みを共有するという手もあります」

「名案だぞ、マルク。さすが、このリカルドの腹心だ」

「我らはひとつの『軍勢』です。これは、皆の意見でもあります」


「「「すべては、リカルド殿下と我ら『軍勢』のために」」」


 魔術師マルク、そして、兵士たちは一斉に地面にひざをついた。


 リカルドと感覚を共有している彼らは、ひとつの生き物のようになっている。

『最強』を目指すために、全員が一丸となっているのだ。


 リカルドは勝利を確信している。

 ダフネたちが眠らされたのは、不意を突かれたせいだ。

 だから対処が遅れ、皆が眠りに引きずり込まれてしまったのだ。


 だが、対処法はわかった。

 あとは敵を一気に蹴散らし、『軍勢』の仲間にすればいい。



「──リカルド殿下は、状況を甘く見過ぎでは?」



 不意に、声がした。

 くさりで縛られた大公カロンが、じっとリカルドを見つめていた。


「いや、甘く見ているというよりも、問題をなかったことにしているように見受けられる。だから見せかけの解決策で満足しているのでは? 危ういですぞ。殿下」

「黙られよ。カロンどの」

「黙らぬ。これは大公の……いや、殿下の遠縁の者としての意見ですからな」


 大公カロンはリカルドたちを見据えて、告げる。


「リカルド殿下がすべきことは、今すぐ我らを解放することと、危険な魔術を手放すことだ。幸運にも、我が友人にはマジックアイテムの専門家がいる。彼なら後遺症こういしょうもなく魔術を解除することができよう」

「……黙れ」

「今なら魔術実験の事故として、事を収めることもできる。ここで引き時だ。わかりませぬか、リカルド殿下!?」

「……黙れと言っているのだ!!」

「聞きなさい、殿下!!」

「聞かぬ! 聞くことなどなにもないぞ、大公どの! このリカルドはまだ敗北していないのだ!」


 忘れかけていた敗北感が、リカルドの脳裏のうりをよぎる。


 国境地帯で探していた『例の箱』と、それをソフィアに譲られたこと。

 リカルド自身では箱を見つけ出せなかったこと。

 ダリル・ザンノーという狼藉者ろうぜきものの部下を捕虜ほりょとしたものの、彼らに逃げられてしまったこと。


 その事実は、リカルドの心をちくちくと刺し続けている。

 それを忘れるために『軍勢』の魔術に手を出したというのに、敗北感が消えない。


(我らは巨大な『軍勢』にならなければいけない……このリカルドの敗北感など、小さな点となるくらいに、もっともっと、巨大に!!)


 ──勇者の後継者には、敗北などあってはならない。

 ──敗北への恐怖さえも感じてはいけない。


 それは『強さ至上主義』の元で育ってきた、リカルドの信念だった。


(大公カロンを捕らえても、敗北感は消えなかった。ならば……皇太子であるディアス兄と戦い、打ち倒すしかあるまい! 次期皇帝に勝利してこそ、このリカルドの強さは証明されるのだ!!)


「皆、すぐに準備をしろ! 出陣する!」


 そして、リカルドは叫んだ。


「大公どのも来るがいい。そして、見届けるのだ。勝つのはリカルドか、ディアスか。そのすべてを!!」


 リカルド皇子とその配下は準備を整え、拠点を出た。

 この地に来ている皇太子ディアスと決着を着けるために。


 だが──






「帝国のリカルド殿下に申し上げます!! あなたが使っているのは、呪われたアイテム『カースド・スマホ』です!!」」


 リカルドを待っていたのは──『ノーザの町』で出会った少年だった。

 ソフィアから『例の箱』を受け取る時に同席していた、記録係だ。リカルドは彼の名前も知らない。


(……いや、誰だ貴公は。どうしてディアス兄ではなく、貴公が出てくるのだ)


 少年が着ているのはローブだ。武器は手にしていない。

 どう見ても戦士ではない。まったく強そうには見えない。

 少なくとも、リカルドのライバルではないことは確かだ。


「申し遅れました。俺は魔王領の錬金術師、トール・カナンと言います」


 少年は言った。

 その名前には、聞き覚えがあった。


 戦闘力を持たないために追放された、リーガス公爵家こうしゃくけの子どもだ。

 彼の隣には耳の長い少女……エルフがいる。

 逆側には赤いよろいを着た少女が立っている。

 ふたりとも、魔王領の者だろうか。


 だが、皇太子ディアスは彼らと共にいる。まるで仲間でもあるかのように。

 その上、『不要姫』のソフィアまでついてきている。


 ソフィアは病弱を理由に離宮へと幽閉され、国境地帯へと捨てられた者だ。

 怪力を身につけたとはいえ、戦闘能力は弱いはず。

 ディアスが相手にするような人間ではないのに──


(なのに、どうしてディアス兄が、彼らと肩を並べているのだ……?)

「聞こえていますか!? リカルド殿下!」


 混乱するリカルドに向けて、トール・カナンが叫んだ。


「あなたが使っているのは『軍勢ノ技』という魔術です。人を軍勢に……あるいは群体ぐんたいのようにしてしまうものです。とても危険なものなんです。警告のために、勇者世界がアイテムを送ってくるほどに」


 トール・カナンはぬいぐるみを掲げた。

 ぬいぐるみの手の中には、鏡のような板がある。

 リカルドが手に入れた『魔術の手順を示す板』と、まったく同じものだ。


「……貴公も、それを持っていたのか?」

「これは『正義の精神感応スマホ』です。このアイテムには勇者世界のメッセージが宿っていました。『軍勢ノ技』という危険な魔術があることと、『カースド・スマホ』というアイテムに、その魔術が宿っていることを」


 トール・カナンは答えた。


「ディアス殿下のお話を聞いて、確信しました。リカルド殿下が使っている魔術こそが『軍勢ノ技』です。おそらく、殿下は『カースド・スマホ』をお持ちなのでしょう。だから俺はディアス殿下と共に、リカルド殿下を止めにきたのです」

「このリカルドが、危険な魔術を使っていると……?」

「そうです。でも、俺ならそれを安全に解除できます。ディアス殿下も、解除のためのマジックアイテムの使用に、同意してくれました」


 トール・カナンの近くで、ディアスはうなずいている。

 つまり、ダフネたちを眠らせたのは、トール・カナンということになる。


 リカルドは周囲を見た。

 トール・カナンたちは草原に立っている。

 周囲にはなにもない。樹も生えていない。頭上から不意打ちするのは不可能だ。


 リカルドからディアスまでの距離は、数百メートル。

 そしての人数は、20人弱。

 こちらの・・・・兵力の方が・・・・・多い・・


「魔術師マルクよ。意見を」

「彼らの言っていることは意味不明です。『軍勢』の中で、理解できる者は皆無です。ですが、あの少年の言葉に怒りを覚えている者は45パーセント。戦闘を望んでいる者は、9割を超えています」


 リカルドの後ろで、腹心の魔術師が答える。


「『軍勢』の総意は『「軍勢』の強さを見せつける』ことと、決まっております」

「だが、ディアス兄たちは平和的な解決を求めているようだ」

「それは切り札を使えないからでしょう。この草原で、頭上から襲いかかるのは不可能です。草も背が低く、兵を伏せておくことはできません」

「ディアス兄たちには、我らを眠らせる術は使えない、と?」

左様さよう。ならば有効な戦術は──」


 リカルドとマルクは、即座に答えを出す。


 障害物なし。伏兵なし。

 兵数はこちらが上。敵には、戦闘能力の弱い者がいる。


 この状況で最も有効な戦術は、正面突破だ。


 皇太子と敵兵、および錬金術師トール・カナンの無力化。 

 仮に眠りの力を使われたとしても、こちらの勢いは止まらない。

 全員が眠る前に、ディアスたち部隊を粉砕できるだろう。


 そう考えたリカルド皇子は『軍勢』の感覚共有を使い、兵士たちに指示を出す。


「……理解せよ」

「「「──うぉおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 直後、リカルドたちは走り出す。

 まっすぐに、皇太子ディアスに向かって。


(殺しはしない。このリカルドこそが最強であり、勇者の後継者だと認めさせるだけだ)


 トール・カナンも『軍勢』に取り込もう。

 彼も喜ぶだろう。

 追放された公爵家の子どもが、帝国の『軍勢』の一人になれるのだから。


 それで、リカルドの願いは達成される。

 このリカルドは、長兄ディアスに勝利したいだけなのだから──


(……待て。今、このリカルドは、なにを考えた?)


 一瞬、浮かんだ思考を、リカルドは慌ててかき消す。


 目の前には超えるべき相手がいる。今は彼らに集中するべき。

 そう思いながら、全力疾走ぜんりょくしっそうする。



 そして──リカルドたちがいた場所には、拘束された大公カロンが残されていた。



「だから、危ういと申し上げたのだ。リカルド殿下」


 大公カロンはつぶやいた。


 彼はすでに、この草原に仕掛けられたわなに気づいていた。


 ここは背の低い草が生えた草原だ。

 確かに、兵を伏せることはできないだろう


 だが、板を・・伏せることは・・・・・・できるのだ・・・・・


 大公カロンは、草の間に隠れている、子どもの姿をした板を見た。

 あれは間違いなくマジックアイテムだ。

 すでにトール・カナンは、この地にわなを張っていたのだ。

 おそらくは、皇太子ディアスをおとりにした、わなを。


(さすがは、ソフィア殿下のご友人だ。抜け目がないな)


 大公カロンは地面に座り直す。


 リカルドは言った。大公カロンに「見届けろ」と。

 ならば、腰を据えて、その役目を果たすことにしよう。


 ただし、カロンが見届けるのは、リカルドの勝利ではないのだろうが──



「……やっぱり、話は聞いてもらえないか」



 大公カロンの視線の先で、トール・カナンが肩をすくめていた。

 迫る軍勢を眺めながら、おそれた様子はまるでない。


「それじゃ起動! 『飛び出しキッド・低周波治療器ていしゅうはちりょうき装備型そうびがた』!!」


 元々の予定通りだったかのように、トール・カナンは宣言した。



 ばんっ。



 突然、リカルドの部隊を取り囲むように、無数の板が起き上がった。


 草原をおおっているのは背の低い草だけだ。だが、板状のものならば隠せる。

 草の間に伏せておけば、遠目には視界に入らない。

 リカルドたちが皇太子ディアスに気を取られていれば、なおさらだ。


 起き上がった板には、子どもの姿が描かれている。

 今にも走り出しそうな、元気な子どもの姿だ。

 その板が円陣を組み、リカルドの軍勢を包み込んでいる。


「……この板については、報告を受けている」


 リカルドは兵士たちと感覚共有。

 交易所に入り込んで捕らえられた者たちの記憶を呼び出す。情報を理解する。


 あの板は人を追いかけ、突き飛ばすものだ。

 不意打ち専門だから、今のリカルドたちには通用しないはず──


(……いや、違う。少し形状が変わっているのか?)


 兵士の記憶にある板には、笑顔で元気な子どもが描かれているだけだった。


 だが、新たに出現した板に描かれている子どもは、円盤と四角い板を持っている。

 それにどのような意味があるのか──?


 リカルドがそう考えた瞬間、不意に円盤が、震えた。



『…………とくん』



 優しい音が響いた。


「「「ぐはっ!?」」」


 直後、リカルドたちを眠気が襲う。

 即座に彼らは理解する。

 あれは、ダフネたちを眠らせたアイテムだと。


 だが、耐えられる。リカルドたちはまだ走れる。

 少なくとも、謎の板の包囲陣を突破するまでは。


「我が『軍勢』に同じ技を使うとは、甘すぎるぞディアス兄!!」

「……リカルド」


 視界の先で、ディアス皇子が口を開いた。


「もう、私と戦っても仕方がないのだよ。我が弟、リカルド・ドルガリア」


 淡々たんたんとした口調で、ディアスは言った。


「私はすでに、魔王領の者たちに敗れている。彼らの技術にひざくっし、対等な協力関係を結ぶことに同意しているのだ。そんな私に勝ってどうするのだ?」

「────な!?」


 嘘だ、と思った。


 皇太子ディアスはリカルドと同じく、常に最強を目指す者だ。

 そんな彼が、敗北を認めるなんてありえない。


 なのに、ディアスは続ける。


「お前は自分と、倒すべき相手しか見ていない。理解できないもののことは考えようともしない。だから敗れるのだ。私にではなく、他の者に」

「な、なにを言っているのだ! ディアス兄!!」

「残念だよ。リカルド」


 ディアス皇子は視線を逸らした。


「……すまない。私の弟を止めてくれ。錬金術師どの」


 そうして、ディアスは、錬金術師トール・カナンに頭を下げた。

 深々と。

 帝国の・・・次期皇帝・・・・魔王領へ・・・・追放された・・・・・少年に・・・頭を・・下げている・・・・・

 プライドが高く、常に最強を目指していた、皇太子ディアスが──


「嘘だ! このリカルドが倒すべきディアス兄が……そんなばかなっ!!」

「了解しました。とりあえず、『軍勢』を落ち着かせます」


 錬金術師トール・カナンは、腕を振り上げる。


「『飛び出しキッド』装備型『低周波治療器ていしゅうはちりょうき』発動!!」



 彼が宣言した瞬間──周囲に雷光が走った。



 子どもの姿をした板から発した雷光が、リカルドたちのあしをなでた。


 だが、弱い。脅威きょういはまったく感じない。

 抵抗レジストするまでもないかみなりだ。


「違います殿下! 弱すぎて……脅威きょういと認識できないのです……!」


 魔術師マルクの声がする。


 魔術で『軍勢』という集団生物となったリカルドたちは強大だ。

 かすかな雷など、ものともしない。


 だから・・・反応・・できない・・・・

『耐魔術障壁』を張ることも、身体が抵抗することもない。

 雷は、リカルドたちの身体を通り過ぎていっただけ。


 だから、リカルドたちはそのまま、全速で走り続けて──



 びくんっ!



 ずしゃああああああああっ!!



 ──全員、足がもつれて転倒した。



「な、なんだ……これは!?」



 ぴくん。ぴくん。ぴくぴっくん。



 リカルドの足が、小刻みに痙攣けいれんしていた。


「……ありえない。なんだこれは!?」


 勇者を目指すリカルドは、常に身体をきたえ続けている。

 全力疾走したくらいで、足が震えるなどありえないはずだ。


「そんな馬鹿な。このリカルドは疲れてなどいない。なのに……どうして足が……」


 まわりを見ると、魔術師のマルクも、兵士たちも地面に倒れている。

 全員、足をぴくぴくさせている。

 それだけではない。腕や肩、腰をぴくぴくさせている者もいる。



「……リ、リカルド殿下!? これは……!?」

「……わ、わけがわかりません。身体がぴくぴくします。しかも……」

「……疲れが取れて行きます!! 筋肉がすっきりやわらかくなっていきます!」

「……ですが、動けません……一体なにが起こっているのですか……」



 兵士たちはパニック状態だった。

 槍を杖代わりに立ち上がる者もいる。しかし、足も手もピクピクと震えている。

 戦うどころか、歩き出すこともできない。



「あの板が発する雷のせいか!? ならば、マルクよ!」

「今すぐ破壊いたします。『ファイア・ブラスト』!!」


 リカルドの腹心の魔術師が、呪文を詠唱えいしょうする。

 だが──



 びくんっ!



 魔術師マルクの腕が震え、魔術はあさっての方向に飛んでいった。


「だ、駄目です。狙いが定まりません。それに……」


 マルクの目が、とろん、としていく。

 さっきから聞こえる謎の音のせいだ。


『とくん』『とくん』という、心音のようなもの。

 あの音を聞いていると、意識が遠ざかっていく。

 さらに周囲の空気も温かくなっていく。まるで、ひだまりの中にいるように。


(……このまま横たわってしまえば……)


 すごく、気持ちがいいに違いない。

 ひだまりの温度。

 安らげる心音。


 しかも、筋肉はぴくぴくしながらほぐれていく。

 まるで、上質なマッサージを受けているようだ。


 このまま眠ってしまえば、きっと、いい夢が見られる──



「ふ、ふざけるなああああああっ!!」



 リカルドは自分の両頬りょうほおを叩いた。

 痛みで眠気を吹き飛ばし、なんとか立ち上がる。


 感覚共有により、痛みは周囲の兵士にも伝わったはず。

 けれど、意味はなかった。兵士たちはすでに動きを止めている。


 筋肉は激しいピクピク状態。立ち上がることもできない。その状態で謎の心音を浴び続けた兵士たちは、あっという間に熟睡じゅくすいしてしまったのだ。


「……これが、錬金術師トール・カナンの力か」


 彼の力を借りて、ディアスはすでに対策をしていた。

 リカルドたちを無傷で、穏便に無力化する対策を。


 だからリカルドの部下たちは、幸せそうにピクピクしている。

 魔術師マルクでさえ夢の中だ。


 リカルドも、本当は眠ってしまいたい。

 ピクピクと筋肉がほぐれて、身体がとろけるような眠りに。


 だが──


「ふざけるなディアス兄! こんな、こんな敗北が認められるものか!!」


 リカルドは剣を振り上げ、叫んだ。

 唇をかみしめて、痛みで意識を覚醒かくせいさせる。

 生まれたての子鹿のように、両脚をピクピクさせながら、リカルドはディアスをにらみつける。


「このリカルドと戦え、ディアス兄!! もはや『軍勢』など関係ない!! 共に勇者を目指した者として、決着をつけるのだ!!」

「……リカルド」

「どうした!? おくしたかディアス・ドルガリア! 帝国の皇太子は強さを捨てて……剣を取ることさえ忘れてしまったのか!?」

「わかった。決闘を受けよう」


 静かに、ディアス皇子が進み出てくる。


「ただし、これはお前の挑発に乗ったからではない。兄として、責任を取るためだ」

「……なんだと?」

「お前をそんなふうにしてしまったのは、帝国の『強さ至上主義』だ。この国の皇太子として、私はお前のしたことに、責任を取らなければいけない。決闘を受けたのは、その覚悟を示すためだ」

「理由などなんでも構わぬ!」

「だが、これは私個人の戦いだ。お前の『軍勢』は、このまま無力化し続けることになるが。よいな?」

「構わぬと言っているだろう。来い、ディアス兄!!」

「わかった。ならば、同じ立場で戦うとしよう」


 ディアスは剣を手に、走り出す。


「ゆくぞ! 我が弟リカルド・ドルガリアよ!!」

「ああ。このリカルドが、帝国の正しき強さを示してやる!!」


 そして、ふたりの皇子は──『飛び出しキッド』に囲まれた草原で、剣を交えることになったのだった。




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 表紙は各書店さまで公開されていますので、ぜひ、見てみてください。

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 そしてルキエとの関係にも変化が……。


 WEB版とは少し違うルートに入った、書籍版『創造錬金術師』4巻を、どうぞ、よろしくお願いします。




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