第8章
第181話「魔王城に帰還する」
「ただいま戻りました。魔王陛下」
数日後。
俺は無事に、魔王城へと帰還していた。
まずは旅の報告をするために、玉座の間へ。
そこでは魔王スタイルのルキエと
俺は、まずは魔王ルキエに帰還の
それから、まわりの人々に一礼する。
「錬金術師トール・カナン。魔王城に
「……うむ」
「持ち帰ったのは小さなかけらです。大きなものについては、メイベルが採取に行ってくれました。『ご先祖さま』と
「そうじゃな。そちらは心配しておらぬ」
「これで『ハード・クリーチャー』への対策を始めることができます」
俺は、布に乗せた『精神感応素材』のかけらを、ルキエへと差し出した。
宰相ケルヴさんが進み出て、それをルキエの前に置く。
俺は続ける。
「この『精神感応素材』の正体は『ドラゴンの骨』だそうです。びっくりしました。でも、高位の生命体の骨なら、精神に反応する能力があってもおかしくはないですよね? ドラゴンは自分の意思で身体の強度を変えたりできたそうですし、骨格にも秘密があると考えて当然です」
「う、うむ。それはわかったのじゃが、トールよ」
「『ご先祖さま』と話をする方法がわかりましたので、他のドラゴンたちの居場所についても教えてもらえるかもしれません。カロティアさん以外の『ご先祖さま』も、魔王領にいるわけですからね。彼らに間に立ってもらえば、ドラゴンと接触して、新たな知識を得ることが……」
「待て。待つのじゃトール。そこまでにしておけ」
「え?」
気づくと、玉座の間が静まり返っていた。
ミノタウロスの衛兵隊長さんも、エルフの魔術部隊長さんも、無言で俺を見てる。
宰相ケルヴさんは……あれ? いつの間にか扉の近くに移動してる。普段はルキエの斜め前にいるのに、反対側……というか、対角線上だ。柱に寄りかかっている。エルテさんが隣で「この柱なら大丈夫です。まだ傷んでません──」って言ってるけど……?
「我が錬金術師、トール・カナンよ」
「はい。魔王陛下」
「旅は、楽しかったようじゃな?」
「魔王陛下のおかげで、とても有意義な旅になりました」
「じゃろうな。『オルティアの町』からも連絡が来ておる。お主が作った『クラウド除湿機』によって、町の居住環境が良くなったと。あれは広範囲の水分を操作できるゆえ、沼地の干拓にも使えるじゃろうと。町の者が連名で感謝状を寄越したのじゃ」
「そんなことがあったんですか」
「あったんじゃよ」
「びっくりですね」
「びっくりしたのじゃ」
「でも、よろこんでもらえてよかったです」
「そうか。それで次にお主は、ドワーフの村に行ったのじゃな?」
「はい。行きました」
「あの村からは『
「馬車に? どこかおかしいところがありましたか?」
「車輪が異常なくらい滑らかに動き、車体の揺れが少なかったそうじゃよ」
「それは
「その目立たぬ技術に感服したのじゃろう。ドワーフたちは技術者でもあるからな」
「そういうものでしょうか」
「そういうものなんじゃよ」
仮面の奥からじーっと、俺を見てるルキエ。
それから彼女は、こほん、と、
「エルフの村の『謎アイテム』の回収については、これはもう称賛するしかない。村の不安を消し去ってくれたのじゃからな。よくやってくれた、トールよ」
「ありがとうございます。陛下」
「『ワンニャン・仲良しトークペンダント』というアイテムについても……うむ。まぁ、よいのではないかな。あれを使って『ご先祖さま』に礼儀正しく接したわけじゃからな」
「はい。金色狼のカロティアさんは、とても優しい方でした」
「これから魔王領の者が出会った際は、名前を呼んであいさつすることもできるじゃろう」
「カロティアさんも喜んでくれると思います」
「そうじゃな……」
魔王スタイルのルキエは、頬杖をついている。
それから、ふと、気づいたように、
「確認じゃが、トールよ」
「はい。陛下」
「お主が旅に出た理由は、なんじゃったかのぅ?」
「エルフの村で素材採取をするためです」
「じゃよなぁ」
「はい」
「その旅の間に獣人の問題を解決して、ドワーフを
ルキエは考え込むように、腕組みをしてる。
「出発前に『余の使節として、魔王領を見て来るがよい』と言ったのは余じゃ。トールは間違いなくその役目を果たしておる。ちょっとやり過ぎの感はあるが、余としてはなにも言えぬのじゃ……」
やがて、玉座の間がざわめきはじめる。
「……トール・カナンどのが城を離れていたのは、20日足らずでしたな」
「……短期間に、すごいことに、なって、ます」
「……我らの故郷であるエルフの村には、『魔王陛下直属の錬金術師さまがそちらに行く。
エルフの魔術部隊長さんと、ミノタウロスの衛兵隊長さんが話し合ってる。
そういえば部隊長さんの実家には結局泊まらなかったね。
ちゃんと挨拶をして、おみやげは渡してきたんだけど。変わったものがいいと思ったから『光・闇両属性の魔織布』だけど、満足してくれたかなぁ。心配だな……。
「ケルヴよ。お主の意見を聞かせよ」
「……旅の間のことについては……今は、考えるべきではないかと思います」
ケルヴさんが柱から離れ、いつもの場所にやってくる。
「重要なのはトールどのが入手された、スマホに似た『謎アイテム』の件です。今はそれに絞ってお話をいたしましょう」
「意外じゃな。他のことは良いのか?」
「優先順位がございます。他のことまで考えていては精神と柱が
そう言って、ケルヴさんは報告書を手に取った。
「皆も聞いてください。トール・カナンどのはエルフの村で、異世界の『スマホ』に似た『謎アイテム』を入手されました。それには数字が表示されております。数字がゼロになると、なにかの情報を開示するというのが、トールどのの予測です。そうですね? トールどの」
「はい。
俺はうなずいた。
「『謎アイテム』が開示するのは『ハード・クリーチャー』に関わる情報ではないかと、俺は考えています」
「となると、やはり『謎アイテム』は最優先で調べるべきですね。ただ……」
考え込むように、額を抑えるケルヴさん。
「『謎アイテム』では、どんなものかわかりにくいですね。報告書を読んだ者もイメージしづらいでしょう。他に良い呼び方はありませんか?」
「『スマホモドキ』はどうでしょうか? あれは勇者世界の『スマホ』に似ていますから」
「わかりました。今後あのアイテムは『スマホモドキ』と呼ぶことといたします」
さすがは宰相閣下だ。準備もいいし話も早い。さすがだ。
「『スマホモドキ』は、あとどのくらいで起動するのですか?」
「3日と半日後です」
「では、急いで解析チームを組織いたしましょう」
「解析チームを?」
「トールどのだけでは手が回らないこともあるでしょう。予想外のことがあった場合に備えて、数名で対処にあたる方が良いかと考えます。『スマホモドキ』が勇者世界から来たのであれば、どんなに警戒しても、十分とは言えないのですから」
なるほど。ケルヴさんの言う通りだ。
勇者世界は非常識な場所だ。
『スマホモドキ』が予想外の動きをする可能性だってある。
そんなとき、解析チームの仲間がいれば、協力して対処することができる。
それに、あの『スマホモドキ』は重要なアイテムだ。
だったら、俺個人じゃなくて、魔王城全体で分析した方がいいよね。
「宰相閣下のご提案に賛成です」
俺は答えた。
「魔王陛下の許可をいただけるなら、俺はチームを組んで、『スマホモドキ』の情報解析に取り組みたいです」
「うむ。許す」
ルキエはあっさりと許可してくれた。
「あれは重要なアイテムじゃからな。何人かの担当者で調べるのがよかろう。お主が人材を選び、解析チームに入れるがよい」
「ありがとうございます。魔王陛下」
「感謝いたします。陛下」
俺と宰相ケルヴさんは、ルキエに向かって頭を下げた。
「それで陛下、宰相閣下。解析チームメンバーの人選ですが……」
「トールはどのような人材を望むのじゃ?」
ルキエが俺の方を見て、訪ねた。
俺は少し考えてから、
「まずは、魔術の知識が豊富な方がいいですね。『スマホモドキ』は
「うむ。納得できるのじゃ」
「それと、ある程度高い地位にいる方にメンバーになっていただけると、作業がスムーズに進むと思います。人材や資材が必要になるたびに、魔王陛下のご裁可をいただくのは大変ですから」
「そうじゃな。ある程度、自由に動ける体制が必要じゃろう」
「あとは……勇者世界と相性が良い人がいいですね」
「勇者世界との相性じゃと?」
「そうです。俺はこれまで、様々なマジックアイテムを作ってきました。けれど、それは俺ひとりの発想で作れたわけじゃありません。まわりの方がヒントをくれたから作ることができたアイテムもあるんです」
「そのヒントをくれた者こそが、勇者世界と相性が良い者ということか……」
「そういう方なら『スマホモドキ』の解析にもヒントをくれるのではないかと」
「なるほど」
「納得できるお話ですね」
魔王ルキエがうなずき、宰相ケルヴさんが同意の声をあげた。
俺は続ける。
「もちろん、魔王陛下にも様々なヒントをいただいております。ですが……」
「わかっておる。余が解析チームに入っては、皆が
ルキエは苦笑いした。
「となると、余の
「同感です。ある程度高い地位にいらっしゃって、陛下の名代になれるお方で、さらに、マジックアイテムについて常にヒントをくれる方。そういう方であれば、申し分ないですね」
「しかし陛下、トールどの。それではあまりに条件が厳しすぎます」
ケルヴさんはとまどったように
「魔術に詳しく、勇者世界との相性が良く、陛下の
「「え?」」
「え?」
「「「………… (じ──っ)」」」
俺とルキエはケルヴさんを見た。
エルテさんも、ミノタウロスの衛兵隊長さんも、エルフの魔術部隊長さんも。
5人分の視線を浴びたケルヴさんは、不思議そうな顔をしてる。
驚いたようにルキエを見て、俺を見て、まわりの人たちを見て──
「わ、私? まさか! 陛下とトールどのは……皆は……私のことを言っているのですか!?」
ケルヴさんは視線の意味に気づいて、声をあげた。
「な、なぜ!? どうして私が適任なのですか!?」
「だって宰相閣下は、いつもアイテム作りのヒントをくれるじゃないですか」
『お掃除ロボット』を作ったときもそうだった。
ケルヴさんが描いた絵が、『球体型お掃除ロボット』を作るヒントになった。
球体型は魔獣調査や『例の箱』の調査で、すごく役に立ってくれたんだ。
変装用のアイテムを作ったときもそうだ。
試作品の『光を放つ角と眼帯』と『うねうね動くマント』を進んで身に着けてくれた。
それが
『例の箱』を帝国側に渡す前に、『召喚魔術』を防ぐ警告文を考えてくれたのもケルヴさんだ。
あれは本当にすごかった。
『勇者は爆発する。ハード・クリーチャーも爆発する』という文章のインパクトはすさまじい。
あんな文章、俺にだって思いつかない。
あれを読んだルキエも、勇者世界の言葉に
これほどの実績を持つ宰相ケルヴさんなら、解析チームにぴったりだ。
ケルヴさんと勇者世界の相性は、すでに実証されているんだから。
「余からも頼む。解析チームに入ってくれぬか。ケルヴよ」
ルキエは宰相ケルヴさんに向けて、言った。
「『スマホモドキ』の解析は重要じゃ。あれは間違いなく、勇者世界のアイテムなのじゃからな」
「お、おっしゃることはわかるのですが……」
「だからこそ解析チームには、余の名代として、その場で決断を下す者が必要なのじゃ。やってくれるか。ケルヴ」
「………………承知いたしました」
宰相ケルヴさんは重々しい口調で答えた。
ルキエの方を向いたケルヴさんの背中は、小刻みに震えていた。
気持ちはわかる。
宰相という立場だからこそ、あのアイテムの重要性も理解しているんだろうな。
「魔王陛下のご命令により、このケルヴ、『スマホモドキ』の解析チームに参加いたします」
「うむ。よろしく頼むぞ。ケルヴよ」
「それでは陛下、他のメンバーの選定ですが……」
「そうじゃな。トールの方で、なにか希望はあるか?」
そう言ってルキエは、俺を見た。
魔術の知識と、人を動かす権威の方は、ケルヴさんが担当してくれる。
となると、次に必要なのは『スマホモドキ』が予想外の反応をしたとき、対応できる人物だ。
そう考えると最適なのは……
「アグニスさんはどうでしょうか」
アグニスは『火炎巨人』の
『スマホモドキ』が熱を帯びても大丈夫だ。
『通販カタログ』によると、勇者世界のスマホとは、たまに熱を帯びることもあるらしい。
そのため『冷却ジェル』『保冷剤』というアイテムを入れるためのケースまであるんだ。
『スマホ』が魔術具なら、それもわかる。
大規模術式を使った魔術師が、魔力の暴走で高熱を発することはあるからね。
場合によっては魔術をコントールできずに、炎に包まれることだってある。
でも、アグニスには耐火能力がある。
また、強い『火の魔力』を持つ彼女なら、『スマホ』が生み出す炎の謎も解明できるかもしれない。
その上『健康増進ペンダント』によって、超絶の身体能力を使うこともできる。
解析チームにはぜひとも欲しいメンバーなんだけど……。
「アグニスさんは、ぜひともチームに欲しい人材なんですが……でも、難しいかもしれませんね」
魔王領からライゼンガ領までは距離がある。
今からアグニスを呼んでも、来るのは『スマホモドキ』が発動するぎりぎりだ。
「解析チームを作るとわかっていれば、あらかじめライゼンガ領に手紙を出していたんですが……これから呼んでも、『スマホモドキ』の発動には間に合いませんからね……」
「いや、アグニスなら城に来ておるぞ」
「……そうなんですか?」
「帝国側で動きがあったそうでな。その報告のために来ておるのじゃ」
「帝国側に、ですか?」
「それは後ほど、本人も交えて話をする。今は解析チームの話じゃ。アグニスの参加を希望するなら、余からライゼンガに話を通しておくが、どうする?」
「お願いします。陛下」
「承知した。では、アグニスの参加を認めよう。もっとも、本人の意思を確認した上のことじゃがな」
「ありがとうございます!」
よっしゃ。
宰相ケルヴさんとアグニスがいてくれれば安心だ。
俺を入れて3人がメインの解析チームで、後は……数人、補助してくれる人材がいればいいな。そっちの人選は、ケルヴさんにお願いしよう。魔術に詳しい文官さんを、選んでくれるはずだ。
「では『スマホモドキ』の問題が解決するまでの間、トールとケルヴはその対応に専念せよ。あのアイテムへの対応を最優先とする。以上じゃ!」
「陛下……ひとつ、うかがってもよろしいですか」
「なんじゃ、トールよ」
「『精神感応素材』のサンプルがあるのですが……それを使った実験は……」
「『スマホモドキ』の問題が解決した後じゃな」
「……はい」
「し、仕方あるまい。どちらも重要ではあるが、時間制限のある『スマホモドキ』を優先するべきなのじゃから」
仮面の奥でルキエが、困ったような顔をしてる……ような気がする。
俺はいつも、ルキエの素顔を見てるからね。
こんなとき、彼女がどんな顔をするのか、わかるようになってきたんだ。
「陛下のお言葉の通り、今は『スマホモドキ』に専念したいと思います」
ルキエを困らせるわけにはいかない。
『スマホモドキ』の方が重要だとわかってるって、ちゃんと伝えよう。
「元々、俺は、異世界の『スマホ』に興味を持っていました。まずは『スマホモドキ』を解析して、似たようなものが作れないか検討してみることとします。その機会をいただき、ありがとうございます。陛下」
「そ、そうか……よかったのじゃ」
「……私も、しばらくは『スマホモドキ』への対応に専念いたします」
ケルヴさんは言った。
「宰相府に戻り、その間の引き継ぎをいたします。それでは……エルテ。引き継ぎを手伝ってもらえるだろうか」
「は、はい。叔父さま」
「陛下、申し訳ありません。急ぎの仕事を引き継いで参りますので、退出の許可をいただけますでしょうか」
「うむ。許す。よろしく頼むぞ。ケルヴ」
「…………はい。陛下」
ケルヴさんは一礼した。
それからエルテさんと共に、玉座の間から退出していった。
「解析チームについては以上じゃ」
ふたりが玉座の間を出たあと、ルキエは宣言した。
「『スマホモドキ』の研究施設は、安全のため城外に設置する。衛兵隊長はその周辺警備の、魔術部隊長は周囲に張る結界について、打ち合わせをするがよい。城の安全と、解析チームの安全を両立させねばならぬからな。頼むぞ」
「しょうち、しました、陛下!」
「『スマホモドキ』はエルフの村の問題でもありますからな。全力を尽くしましょう!」
ミノタウロスの衛兵隊長さんと、エルフの魔術部隊長さんが声をあげる。
「では、これにて会議を終了とする」
玉座の魔王ルキエは、重々しい口調で、うなずいた。
「各自、それぞれに対応を頼む。それから、トールは残れ」
「承知しました。えっと……帝国側で動きがあったんですよね?」
「うむ。それについて、アグニスから報告させるゆえ、立ち会って欲しいのじゃ」
「はい。陛下」
どのみち、アグニスには解析チームの話をしなきゃいけないからね。
ルキエも一緒なら話が早い。
でも、帝国側の動きってなんだろう。
まさかまた『召喚魔術』を使ったんじゃないよな。
いや……それならソフィア皇女が至急の使者をよこしているはず。こんなのんびりとはしていないよな。
そうじゃないとしたら……なんだろう。
リアナ皇女が遊びに来るとか、大公カロンがアグニスの腕試しに来るとか、そういう話ならいいんだけどな。
「しばらくは『スマホモドキ』への対応で忙しくなると思うが、皆、励んでもらいたい。以上じゃ!」
「「「承知いたしました。陛下!!」」」
こうして、魔王ルキエとの会談は終わり──
『スマホモドキ』対策のために、魔王城の人たちは動き出すことになるのだった。
──魔王城、ミノタウロスの護衛部隊の詰め所で──
「いそいで、仮設小屋の用意を、する」
「トールどのと宰相閣下と、アグニスさまが、異世界のアイテムの解析をされる」
「へやはひろくめに、すごく、かいてきに」
「ドワーフの仕立て係にも連絡を、かいてきなばしょを作れるように」
「魔王城の、大事なひとたちが、使う場所だから──」
──魔王城、エルフ魔術部隊の控え室で──
「トール・カナンどのは、エルフの長老より『スマホモドキ』を託されている。それをお助けするのは、我らエルフ魔術部隊の役目だ!」
「事故が起きたとき、解析チームを救うのはエルフの役目!」
「勇者世界のアイテム、なにするものぞ!」
「エルフの恩人と、宰相閣下と、ライゼンガ将軍の愛娘をお助けするのだ!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
──魔王城、
「……私が『スマホモドキ』の分析を。私が……トールどのと一緒に」
「お任せください、ケルヴ叔父さま。叔父さまが『スマホモドキ』の解析に専念できるように、精一杯努力いたします」
「ありがとう。エルテ」
「解析チームの方も、叔父さまがいれば問題ないと思いますよ」
「…………」
「叔父さまと勇者世界のアイテムの相性がいいことは、これまでに何度も立証され……ああっ。叔父さま。そちらは通路ではありません! 我慢してください! これ以上、柱にダメージを与えては、
──魔王城、応接間で──
「承知いたしました。解析チームのお役目、つつしんでお受けいたしますので!」
アグニスは床に膝をつき、魔王ルキエに向かって頭を下げた。
ここは、魔王城の応接間。
上座には玉座を模した椅子があり、手前に大きなテーブルが、少し離れたところに客用のテーブルと椅子がある。ここは魔王ルキエが内密の話をするための部屋だ。
俺やメイベルと秘密の話をするときは『簡易倉庫』を使ってるから、ここに来ることはあまりない。
今回、アグニスはライゼンガ将軍の使者として、ここに来ている。
公式の話ということで、応接間を使うことにしたらしい。
「魔王陛下とトール・カナンさまのお役に立てるよう、全力を尽くす所存なので!」
「うむ。頼むぞ、アグニス」
「よろしくお願いします。アグニスさん」
「はい! 全力でお役に立ちます!」
そう言ってアグニスは笑った。
さすがアグニス、頼りになるな。
彼女は、帝国の大公カロンと引き分けるほどの力があるからね。
仮に『スマホモドキ』が暴れ出しても、破壊することができると思うんだ。
ケルヴさんは防御系の魔術を得意としてるし、周囲はミノタウロスさんの衛兵部隊と、エルフさんの魔術部隊が固めてくれる。これで安心して、『スマホモドキ』の解析に専念できるよ。
「それではアグニスよ。帝国の動きについて、トールに話してやってくれ」
「承知いたしましたので」
そう言ってアグニスは、カバンから2通の書状を取り出した。
「数日前に、ソフィア皇女の使者が交易所にやってきたので」
「ソフィア皇女の使者が?」
「そうなので。交易所は改築中だけど、入り口に衛兵が詰めているので。そちらに書状を渡してくれたので。ただ……」
「一通はソフィア皇女からですよね? もう一通は?」
「……帝国の、ディアス皇太子から……と、言っていたので」
「……はい?」
変な声が出た?
いや、ありえないだろ。帝国の皇太子が、俺に?
「内容は、ソフィア皇女さまにもわからないそうなので。でも、伝言があるので」
「伝言?」
「『書状の内容がどのようなものであっても、ソフィア・ドルガリアはトール・カナンさまのお味方をします。私の力が必要なときは、いつでも、声をかけてくださいね』──と」
ソフィア皇女の真似をしているのか、立ち上がって、スカートをつまんで、
優しい笑みを浮かべたアグニスは、そんなことを言ってくれたのだった。
──────────────────
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