第151話「新たな捜索チームを結成する」
──トール視点──
ここは、ライゼンガ領にある俺の工房。
俺たちはリビングで、ソフィア皇女の書状を読んでいた。
『例の箱』の調査に出ていた彼女からの、お詫びの手紙だった。
『いただいた「MAXスベスベ
手紙の冒頭には、そんなことが書かれていた。
読み進めていくと、詳しい事情もわかった。
ソフィア皇女が『例の箱』の調査をしている間、宿に帝国の調査部隊が侵入したらしい。
そいつらを彼女は『MAXスベスベ化粧水プレミアム』を使って捕らえたそうだ。
その時に、調査部隊から資料を押収した、と、少しだけ書いてある。
手紙の大半はお詫びの文章が占めているから、資料については、本当にちょっとだけだ。
『トール・カナンさまに直接お目に掛かって、お詫びをしたいのです』
『そのときに、調査部隊から押収した資料もお見せしたいと思います』
──これが、ソフィア皇女の希望だった。
「ソフィア皇女って、たまに予想外のことをするよね……」
「まさか『MAXスベスベ化粧水プレミアム』で侵入者を捕らえるなんて……」
「はい。ソレーユが協力したそうでございます」
俺の隣ではメイベルと、
『ノーザの町』まで飛んで、書状をもらってきてくれたのはルネだ。
その時、ついでにソレーユから詳しい話を聞いたらしい。
ソフィア皇女は『防犯ブザー』で侵入者の動きを止めて、『MAXスベスベ化粧水プレミアム』が入った瓶を投げつけた。
その瓶に、羽妖精のソレーユが光の攻撃魔術をぶつけて、穴を空けた。
結果、侵入者は化粧水の原液まみれになったそうだ。
あの化粧水の原液は、
それを浴びた侵入者は、立つことも起き上がることもできなくなった。
さらに、そいつを助けに来た連中も化粧水に触れて──結局、
「この化粧水は、強力な戦闘アイテムでもあったのですね。となると、陛下の護身用に使っていただくべきでしょうか……」
自分用の化粧水が入った瓶を見ながら、メイベルが訊ねた。
「使えるだろうけど、緊急用にした方がいいね」
俺は首を横に振った。
「相手に命中したときの効果は大きいけど、原液が自分の手についたら大変なことになるからね。本当に他に手段がないときの、緊急用にした方がいいだろうな」
「そ、そうですね」
『MAXスベスベ化粧水プレミアム』の原液は危険だ。
あとで『化粧水を無効化する化粧水』を作れないか考えておこう。うん。
「とにかく、ソフィア皇女が無事でよかったよ」
「ですね。私もびっくりしました。帝国の調査部隊が、皇女殿下の宿舎にまで入り込むなんて……」
「普通だったら皇帝の子どもの部屋を漁るなんてできないと思うんだけどな」
ソフィア皇女は
でも、皇帝の子どもであることには変わりはない。
そんな彼女の宿舎に、帝国に仕える臣下が無断で入り込むなんて、普通では考えられない。となると──
「調査部隊を指揮してるのは、別の皇子か皇女なのかもしれないな」
「別の皇子か皇女、ですか?」
「だとすれば、ソフィア皇女の宿舎に入り込んだことも、皇帝一族の責任になるだろ? それに兄弟姉妹が家族の部屋に入ることを命じるなら、命令された方も抵抗が少ないだろうし」
「……あり得る話ですね」
メイベルはうなずいた。
「でも、捕らえられた調査部隊の者たちは、黙ったままなのですよね?」
「交易所に入り込んだ連中と同じだな。服装も同じだし、多分、仲間なんだろうな」
帝国の調査部隊は、お休み中の交易所にも入り込んでいた。
そっちはエルテさんと『
捕らえたとき、侵入者たちのうち大半が気絶してたらしい。
交易所に『五行防御陣・
「侵入者のリーダーは『飛び出しキッド』の体当たりを喰らって倒れてたそうだよ」
「帝国の調査部隊でも避けられないなんて……すごいですね」
「『飛び出しキッド』は勇者世界の乗り物──『馬車』や『
『五行防御陣・威嚇・飛び出し型』には、『健康増進ペンダント』と同じ理論が使われている。
神獣型の『三角コーン』で循環・増幅した魔力を、敵を威嚇するのに使っているんだ。
その威嚇能力は、通常型の数倍。
それほどの威嚇攻撃を食らったら、帝国兵が気絶するのも無理ないよな。
さらに今回の陣形には『飛び出しキッド』も仕込んである。
あれは循環する魔力に乗って、『飛び出しキッド』が陣地の外周を高速移動するようになってる。敵の脱出を防ぐこともできるすぐれものだ。
それがうまく効果を発揮して、侵入した部隊を退治してくれたらしい。
「まぁ、とにかく役に立ってよかったよ」
「エルテさまは侵入者たちから、砦にいた者たちの名簿を手に入れたのですね」
「うん。『例の箱』を持ち去ったと疑われてる人たちの名前がわかったそうだよ」
俺もリストの写しをもらってる。
該当するのは5名。
正規兵ではなく、魔獣使いの腕を買われて、臨時で雇われた者たちだ。
写しは、ソフィア皇女にも渡すことになってるんだけど──
「名前だけで見つけるのは、結構大変だろうね」
「たぶん、町や村で聞き込みをすることになるのでしょうね」
「アイザックさんや『オマワリサン部隊』も大変だな……」
「……あたくしは、リストの名前に聞き覚えがあるのでございます」
いきなりだった。
俺の肩に腰掛けてたルネが、そんなことを口にした。
「知ってるの? ルネ」
「はい。
「ちょっと待って。なんで羽妖精のみんながそんなことを知ってるの?」
「錬金術師さまの指示によるものとうかがっておりますが……?」
ルネは不思議そうに首をかしげた。
俺が指示したから?
……覚えてないな。
俺、羽妖精たちにそんなこと言ったっけ?
「交易所で、両殿下とお話されたときのことを覚えてらっしゃいますか?」
「覚えてるよ。お風呂場で、リアナ皇女に聖剣の使い方を教えてもらったから」
「はい。錬金術師さまは、その少し前に、交易所をお散歩されておりました」
「うん。天幕を見て回ってた」
「その際に、錬金術師さまは怪しい商人さんを見つけられました。そして、猫に化けていた羽妖精に、その者の調査を命じられたのです」
「……そんなこともあったね」
あの時、奇妙な商人を見つけた。
高級そうな服を着てるのに、売ってるものが安物ばかりで、怪しいと思ったんだ。
だから俺は、その場にいた羽妖精に尾行を頼んだ。
でも結局その商人は、帝都の方向に戻っていっただけだった。
本当にただの商人だったのか、そうじゃないのかもわからなかった。
まぁ、何事もなかったからいいんだけど。
その後、俺は報告に来てくれた羽妖精にお礼をしようとした。そしたら『一緒にお茶を飲んで、お菓子を食べさせて欲しいのです。情熱的に!』と言われたから、その通りにしてあげたんだ。
「まさか、あのときの商人が、砦の兵士だったの?」
「残念ながら、違うのでございます」
「……だよね」
「あのときの調査は空振りでした。ですが仲間の羽妖精たちは、交易所で見つけた怪しい人たちを尾行すると、錬金術師さまにお菓子を食べさせていただけると学習してしまったのです。しかも、錬金術師さまの手から、直接」
「それは重要なことですね! ルネさん」
「わかっていただけますか。メイベルさま」
「わかります。すごくよくわかります」
顔を見合わせて、真面目な表情でうなずくルネとメイベル。
「じゃあ、羽妖精のみんなが、お茶の時間になると工房に遊びに来るのは……」
「錬金術師さまの手からお菓子をいただくためです」
「確かに……時々は報告っぽいことも聞いてたけど」
交易所でケンカがあったとか。
商品を盗もうとしてた人が、ミノタウロスさんに取り押さえられたとか。
「でも、ほとんどは世間話だったよね。報告なんてごく一部で」
「羽妖精の中には、説明が下手な者も多いでございますから」
「……あー」
そういえばそうだよな。
風の羽妖精さんなんか「今日は交易所でドロドロした人がどよーん」とか言ってたし。
あれは報告だったのか。そっかー。
「つまり、俺にお菓子を食べさせてもらうために、羽妖精たちは交易所を見回りするようになって……」
「その時に耳にしたのが、この名前でございました」
ルネは細い腕を伸ばして、リストの下の方にある名前を指さした。
その人の名前は、『ダリル・ザンノー』
例の砦で臨時雇用されていた、魔獣使いのひとりだ。
「報告によると、その人は『ダリルさま』『ザンノー殿』と呼ばれていたようでございます。フードで顔を隠しているのを怪しく思った風の羽妖精が、フィーリングで尾行したのだとか」
「その人たちが交易所に来てたのは、砦が崩壊する前? それとも
「後でございますね。交易所を出た彼らは、街道を北東に向かったそうです」
「メイベル。地図を」
「はい。トールさま」
メイベルがテーブルの上に地図を広げる。
交易所から北東に向かう街道は、国境の森に沿って伸びている。
その先には町がひとつある。
その『ダリル・ザンノー』って人は、この町にいるんだろうか。
それとも移動したのか?
わからない。手がかりがなさすぎる。
でも、砦の崩壊後に交易所に来ていたとなると、彼らには国境地帯を離れたくない理由があるのんだろうか。
だとすると……まだ町にいる可能性がある。
それに、町の人に話を聞けば、なにか情報がつかめるかもしれない。
「ありがとう。ルネ。助かったよ」
「お役に立てて光栄なのでございます」
「すぐに書状を書くから、羽妖精のみんなを呼んでくれる? 魔王陛下とライゼンガ将軍とソフィア皇女に届けて欲しいんだ」
「承知いたしました」
「でもその前に……」
お昼ご飯を食べてから、大分時間が経ってる。
喉も渇いてるし、小腹も空いてる。
だから──
「メイベル。お茶の時間にしない?」
「承知いたしました。お菓子も準備しますね」
さすがはメイベル。俺の言いたいことがわかったみたいだ。
「話し合いも済んだし、とりあえずお茶を飲んでゆっくりしようよ」
俺はルネの方を見て、そう言った。
彼女の後ろで、メイベルも優しい笑みを浮かべてる。
「それじゃ、自分でお菓子を食べるのと、俺が食べさせてあげるのと、どっちがいい?」
「た、食べさせていただく方でお願いいたします!」
「はい。よろしくお願いいたします。トールさま!」
……あれ?
どうしてルネと一緒にメイベルも頭を下げてるの?
いや、俺が羽妖精さんたちに焼き菓子とかを食べさせてあげてるのは、羽妖精の小さな身体でお菓子を持ち上げるのが大変だからなんだけど……。
よく考えたら、さっきまでメイベルは俺の正面にいたよね?
いつの間に、ルネのいる側に移動したんだろう……。
……まぁ、別にいいか。
むちゃくちゃ恥ずかしいけど……メイベルにも食べさせてあげよう。
そんなわけで、お茶の用意は始まり──
俺は書状を書きながら、メイベルとルネの口元に焼き菓子を運んであげることになったのだった。
──数日後、魔王城で──
「魔王領と『ノーザの町』で、合同の
玉座の間で、魔王スタイルのルキエは言った。
目の前に控えているのは、宰相ケルヴとライゼンガ将軍だ。
ライゼンガはトールから書状をもらい、この件については、魔王ルキエと直接話をするべきだと判断した。
だから早馬を飛ばして、魔王城に駆けつけたのだった。
赤い顔で息を荒くしているライゼンガとは対象的に、ケルヴは青ざめた表情だ。
うつむいて、動揺しているようにも見える。
「ソフィア皇女と打ち合わせの上、魔王領と『ノーザの町』で捜索チームを結成する。人数は……数人程度がよいじゃろう。あまり多数では、町の者も警戒するじゃろうからな。数人で、旅人を装って町に入り、箱を持つ者の捜索を行うのじゃ。安全のために距離をおいて、後詰めの護衛部隊がついてゆく。それでよかろう」
「よきご判断と存じます。陛下」
ライゼンガが賛同の声を上げる。
「帝国の介入を防ぐためにも、今回の件は早めに解決すべきと考えます。ならば『ノーザの町』と魔王領で、お互いの情報を統合し、それを元に『例の箱』の持ち主を探し出すべきかと」
「『例の箱』を持つ者が、すでに遠くへ行っているのであれば安心なのじゃがな」
「そうであれば、すでに魔王領には無関係の話になりますからな」
「どちらにしても、確認はせねばならぬ。できれば『例の箱』も入手したいが……あれは、なにが出てくるかわからぬからな。扱いが難しいのじゃ」
砦の主は面倒なものを召喚した──と、ルキエは思う。
箱の中身が……例えば武器だった場合、ルキエはそれを魔王領内で封印するつもりだ。少なくとも、帝国には渡したくない。彼らが何に使うかわからないからだ。
ただし、魔王領で箱を封印しても、帝国がそれを信じない可能性がある。
『魔王領は異世界の武器を、いざというときに使用するために隠し持っている』──帝国はそう考えるかもしれないのだ。
だから、帝国を納得させる方法も考えなければならないだろう。
(だが、これはお互い様じゃな。余たちも、帝国を信じられぬのじゃから)
例えば帝国側が箱を手に入れて『危険はなかった』『国内で封印した』と言ったとしても、魔王領ではその事実を確認できない。
帝国が異世界のマジックアイテムを手に入れて、いつか魔王領に使うかもしれない──その疑いは常に残る。
『例の箱』の扱いは、本当に気をつけなければいけないのだった。
(中身がわからないとは、やっかいなものじゃな)
ルキエが魔王領と『ノーザの町』の、合同の捜索チームを作ろうと考えているのは、そのためだ。
『例の箱』を見つけた場合、魔王領と『ノーザの町』の代表者がしばらく管理する。
もしも箱が開いたら、その中身をルキエとソフィア皇女が同時に確認する。
それが一番安全なやり方だと、ルキエは考えている。
もしも中身が危険なものだったら……開かなかったことにするしかない。
魔王領で箱ごと封印して、一定期間ごとに、ソフィア皇女に封印を確認してもらうしかないだろう。
メイベルの『メテオモドキ』で箱ごと中身を
「魔王領と『ノーザの町』で合同の捜索チームを作ることについて、ケルヴはどう思うのじゃ?」
ルキエは宰相ケルヴに向かって訊ねた。
玉座の間に入ってから、ケルヴは黙ったままだ。
心配ごとがあるのか、なにか考え込んでいるようだった。
「は、はい。捜索チームを作るのは、大変よいお考えだと存じます」
数秒後、ケルヴは静かに答えた。
そのこわばった表情が気になり、ルキエは、
「どうしたのじゃケルヴよ。なにか心配事でもあるのか?」
「は、はい。陛下。申し訳ございません。私はトールどのの『五行防御陣
「「……ああ」」
ルキエとライゼンガはため息をついた。
ふたりとも、『三角コーン』による謎の陣形のことは知っている。
交易所のセキュリティが強化されたのは、良いことだと思っていたのだが──
「ケルヴは、あの陣形に問題があると考えておるのか?」
「問題はございません。ただ、別の使い道を考えてしまっただけです」
「別の使い道じゃと?」
「そうですね……たとえば魔獣が多くて、民がなかなか入れない森があったといたします」
「うむ。魔獣が多い森があったとしよう」
「果物や木材、キノコや野生動物がいる豊かな森です。魔獣がいなくなれば、木材の採取にも使えるようになるでしょう」
「じゃが、魔獣がおるのでは採取には行けぬな。魔獣を駆除するにも、森では多くの兵を展開できぬ。魔獣が隠れる場所も多くある。完全に魔獣を森から消し去るのは難しいじゃろう」
「このケルヴもそのように考えます」
宰相ケルヴは礼儀正しく、一礼した。
「けれどその森に、魔獣用にセッティングした『五行防御陣
「……『三角コーン』に、対象の魔獣の体毛を入れるわけじゃな」
「……森の中が『防御陣』の効果エリアになるとしますと……」
ルキエとライゼンガは首をかしげた。
森の中心に『
森を囲うように他の『神獣型・三角コーン』を配置する。
そうすると、森全体が『五行防御陣』の効果エリアになる。
防御陣の中に配置された、通常型の『三角コーン』たちは、森に住む魔獣を
方向感覚が狂っているのだから、魔獣は獲物を捕まえることもできない。食事が一切、取れなくなる。
万が一、外に向かって飛び出したとしても、『飛び出しキッド』のさわやかな笑顔に撃退されることになる。
つまり森の魔獣は、最終的には飢え死にするしかなくなり──
「一ヶ月もすれば、森から魔獣がいなくなるじゃろうな……」
「そうです。トールどのが考えた『防御陣』は、交易所を守るだけでなく、魔獣を駆除するのにも使えるのです」
「し、しかし宰相どの。『三角コーン』と『飛び出しキッド』は、以前にも鉱山の魔獣を駆除してくれたではないか。今さらおどろくことではあるまい?」
「ですが将軍、あれは鉱山という限定された場所でした。今回の『五行防御陣』は場所を選びません。魔獣のいる場所であれば、どこでも使うことができるのです」
宰相ケルヴは震える声で、告げた。
「トールどのはあの防御陣を『大切な場所を守るため』に作り出されたようですが……あの陣形は『危険な魔獣を外に出さないため』にも使えるのです。守りに使えるだけでなく、土地から魔獣を駆除するのにも使えます。まさに、攻防一体の戦陣と言えましょう……」
「……じゃが、ケルヴよ。それは良いことなのではないか?」
ルキエは言った。
トールが考えた『五行防御陣』は防衛だけではなく、魔獣のナワバリを攻略するのにも使える。
つまり、便利な陣形ということだ。
なのに宰相ケルヴはこわばった顔をしている。
その理由は──
「……また宰相府の仕事が増えるからです」
──だった。
宰相府は魔王領の開発や、それに必要な経費や資材の手配。
開発が行われた後の人材管理なども担当している。
しかも、今は、『ウォーターサモナー』のおかげで、土地の開拓や鉱山の開発が急ピッチで進んでいる。人手は増やしているけれど、宰相府はいつも大忙しだ。
この上『五行防御陣』で森の開発まで始まったら──
「──そうなったら宰相府は、もうお手上げなのです。陛下」
「いやいや、別に『五行防御陣』による開発をする必要はあるまい? できるというだけの話じゃ。後回しにしてもよいのではないか?」
「それはわかっています。わかってはいるのです」
宰相ケルヴは震える声でつぶやいた。
「ですが、魔王領が発展する機会を、宰相府の都合で先延ばしにしてしまうのは……宰相としてのプライドが許さないのです。まったく、トールどのにも困ったものです。どうしてあの方は次から次へと、国を変えるほどのアイテムを作り出してしまうのでしょうか……」
「こら、ケルヴよ。柱に頭をぶつけるのはやめよ。柱が傷むじゃろうが。当たるならライゼンガの背中にしておけ」
「……承知いたしました。む、むむ。これはちょうどいい堅さ……」
ごすっ。ごすっ。
「……我の背中から妙な音がするのですが」
「しばらく我慢せよ。ライゼンガ。それより合同捜索チームの話じゃが、人数は……旅人に化けることを考えたら、5名か、6名程度がよいのではないか?」
「我は6名がよいと考えます。それで魔王領と『ノーザの町』で、人数を均等にすべきかと。一方の側が多いと、互いに警戒心を持つかもしれぬですから」
「魔王領側のメンバーじゃが……やはり、トールは外せぬか」
「外せませぬ。ソフィア皇女が信頼するお方であり、『例の箱』のようなマジックアイテムに詳しいお方でもあります。羽妖精が常に側におりますから、すぐ連絡が取れるのも大きいでしょう。なにかトラブルがあったとしても、トールどのならその場で対処できますからな」
「本人も、同行したがるじゃろうな……」
「はい。ここに来る前に話をしましたが、トールどのはすでに、『例の箱』を開ける方法を考えておられるようでした」
「戻ったら釘を刺しておけ。考えるのはよいが使うのは後にするように、とな」
「承知いたしました。他のメンバーですが、魔王領側の代表者として、文官のエルテどのを同行させるのがよいと考えます」
「ケルヴの姪じゃな。優秀と聞いておる。彼女は謎のヘアーピースを使うことで、人間に化けられるようになったとか」
「はい。その上エルテどのは交易所の管理者であり、今後『ノーザの町』とも深く付き合うこととなりますからな。同行者としてはちょうどよいでしょう。また、ケルヴどのの姪御であれば、その力を疑うべくもありません」
「うむ。将軍であるお主の身体を揺らがせるほどの力を持つケルヴの姪じゃからな」
「文官であるケルヴどのが、これほどの力をおもちとは予想外でしたな」
ごすっ。ごすっ。
「ですが我としては……そろそろ頭突きをやめていただきたいのですが」
「痛いか?」
「痛くはありませんが……なんとも落ち着きませんな」
「すまぬが、もう少し我慢してやってくれ」
「御意」
「それで3人目じゃが。やはり、お主はアグニスを推薦するのじゃろう?」
「いいえ。今回はメイベルがよろしいかと」
「……意外じゃな」
「メイベルも例のヘアーピースで、人間に化けられるようになっております。同行するのに問題はありますまい。アグニスは兵と共に、後方支援をさせようと考えております。それに……」
ライゼンガは言葉を濁した。
「アグニスは控えめにすぎるところがありましてな。帝国の皇女は知恵者です。あの者と張り合うには……意外と抜け目のないメイベルの方が……」
「……今、なんと申した?」
「なんでもありませぬよ。陛下」
「そ、そうか」
「いずれにせよ、今回の調査は重要なもの。我としては全力を尽くすつもりでおります」
ライゼンガは床に膝をついた。
目標物を失ったケルヴも我に返り、何事もなかったかのように膝をつく。
「陛下に良き情報をお知らせできるように、このライゼンガが力を尽くすことをお約束いたします」
「私も宰相として、将軍の支援に努めましょう」
「その言やよし」
魔王ルキエはうなずいた。
「余からソフィア皇女に書状を出す。先方の同意が得られ次第、合同部隊は行動を始めるがよい。その間、国境地帯の警戒も続けよ。帝国がなにかしてくるかもしれぬからな」
「「はっ!」」
「トールにも、余から書状を書くとしよう」
不敵な笑みを浮かべて、ルキエはつぶやく。
「『例の箱』を見つけたとしても、勝手に開けぬように。危険な相手には近づかぬように。それから……ソフィア皇女と会うときには、メイベルを同席させるように。ライゼンガの口からも、トールにその旨伝えおくように。以上じゃ!」
こうして、魔王ルキエと宰相ケルヴ、ライゼンガ将軍の会談は終わり──
ソフィア皇女に提案した『合同の捜索チームの件』については、即座の了承の返事が来て──
魔王領と『ノーザの町』は合同で、『例の箱』の捜索チームを結成することになったのだった。
──────────────────
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いつも「創造錬金術師」をお読みいただき、ありがとうございます!
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これも皆さまの応援のおかげです。本当に、ありがとうございます!
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「ヤングエースUP」で読めますので、ぜひ、アクセスしてみてください。
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