【書籍4巻7月8日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-

千月さかき

第1話「追放された日」

「我が息子トール・リーガスよ。偉大なるドルガリア帝国は、お前を他国への人質ひとじちとして送り出すこととなった。迎えの馬車はもう来ている。我がリーガス公爵家こうしゃくけの名誉のため、その命を使い果たすがいい」


 2年ぶりに話しかけてきた父親の第一声がこれだった。

 父は唇をゆがめて、愉快ゆかいな思いつきでも語るような顔をしていた。

 俺には、まったく意味がわからなかったけれど。


「父上、意味がわかりません。どうして俺が人質として他国に……?」

「お前が、死んでもいい人間だからだ」


 俺の父、リーガス公爵は吐き捨てた。

 その横では、公爵家の執事と衛兵隊長が笑いをかみころしている。

 ふたりとも、こっちを見ようともしない。


 ここは帝国の帝都にある、リーガス公爵家。

 つまり、俺の実家だ。

 当主バルガ・リーガス公爵の執務室で、俺は父親の話を聞いている。


 といっても、俺は公爵家とはとっくに縁を切っている。

 13歳のときになんとか仕事を見つけて、家を出た。

 それから4年の間、平民として暮らしてきた。

 二度と公爵家に来るつもりはなかった。


 なのに今日、仕事をしていたら公爵家の兵士が来て、問答無用で俺をここまで連れてきたんだ。


 その場にいた同僚どうりょうや上司は、無言で俺たちを見送っていた。

 相手が悪すぎた。

 公爵家は最上位の貴族だ。平民が逆らえるわけがない。


 そうして俺は馬車に乗せられて、公爵家の屋敷までやってきた。

 引きずられるように父親の執務室に連れ込まれ、こうして父親と話をしてる。


「俺が死んでもいい人間……って、どういうことですか?」


 返事はなかった。


「俺はすでに公爵家を出た身です。リーガスの姓も使ってません。今は帝国の文官として仕事をしています。仕事内容は書類仕事に在庫管理、アイテムの修理など。地味な仕事ですけど、特に失敗もしていないですし──」

「うるさい黙れ!! 公爵家の恥さらしめ!!」


 父親が、テーブルを叩いた。


「役立たずなら黙って死ねばよいものを。どうしてワシに反論する!?」

「……話の意味がわからないからですよ。父上」

「どうしてわからない!?」


 わかるわけがない。

「人質として送り出す」「死んでもいい」以外、ほとんど説明されてないんだから。


「以前にも言ったであろうが? 我が公爵家に戦闘スキルを持たぬ者は必要ないと!!」


 部屋すべてに響き渡るような声で、公爵は叫んだ。


 でも……どうして理不尽なことを言われたような顔をしてるんだろう。

 無理矢理連れてこられて、怒鳴られてるのは俺の方なのに。

 

「我が祖先は、代々の国王陛下とともに剣を取り、このドルガリア帝国を作り上げてきた。初代の皇帝陛下は、かつて勇者と共に戦った英雄でもある! 偉大なる皇家は、帝国民すべての誇りなのだ!」

「知っていますよ。父上」

「ゆえに、すべての帝国民は強さを至上としている。貴族ならばなおさらだ。我が公爵家は、他の貴族や、すべての国民の見本とならねばならぬ! だが、お前は!」


 父親の表情を見ただけで、次に来るセリフがわかった。


「お前は戦うためのスキルをなにも持っておらぬ! 攻撃系の魔術も使えぬ! 『剣聖』と呼ばれた祖父を持つ公爵家の長男がこれだ! その事実を知ったときの絶望が、お前にわかるか!?」


 子どもの頃から、聞き慣れたセリフだった。

 どう答えればいいかも、とっくに身にしみている。


『わかる』と答えれば、『わかるものか!』とこぶしが飛んでくる。

『わからない』と答えれば『どうしてわからない!?』と木剣で打たれる。

 だから、黙るしか選択肢がないんだ。


「──言葉も無いようだな。では衛兵隊長! 執事よ! トール・リーガスの罪について語るがいい!」

「「はっ!!」」


 よろいを着た衛兵隊長と、黒服の執事が前に出た。


「──10歳のときに神殿にて、トール=リーガスのスキル鑑定かんていが行われました。報告によると、戦闘系のスキルはありませんでした。公爵家の長男として、あるまじきことです」

「──12歳のときに二度目のスキル鑑定かんていが行われました。戦闘用のスキルの他に、魔術系のスキルを確認いたしましたが、攻撃魔術のスキルはありませんでした。貴族の者として、信じられない失態です」


 話は終わり、とばかりに、ふたりはトールから視線を逸らした。


 これが、戦闘スキルを持たない者の扱いだ。


 このドルガリア帝国は武力によって領土を拡大してきた。

 だから、貴族も平民も、戦闘能力を重視してる。

 特に、戦闘用のスキルを持たない貴族は見下されることになる。まわりの貴族はみんな、優れた戦闘スキルを持つ者ばかりだからだ。


 だから、俺は公爵家を出た。

 試験を受けて文官になり、書類仕事やアイテム修理の仕事をしてきたんだ。


 仕事は、ちゃんとこなしてきた。書類仕事は向いていた。

 それに、俺のスキルが活かせる仕事も、時々はあったから。


「確かに、俺に戦闘向きのスキルはありません」


 俺は公爵を見返して、言った。


「でも、俺には『錬金術れんきんじゅつ』のスキルがあります」


 父親の顔がゆがむのが、わかった。

 10歳と12歳のときに、スキル鑑定の結果を聞いたときと同じ顔だ。

 俺は続ける。


「俺の『錬金術』スキルは、アイテムの修理や補修に役立ってます。現に役所でもアイテム管理の仕事を任せられてます。スキルをみがけば、新しいアイテムを作り出すこともできるかもしれない。そのために俺は貯金して、いずれは自分の工房を──」

「そんなものに価値などない!!」

「父上!」

「帝国の民は、全員が最強を目指して競っている! 他のやり方など必要ないのだ! それに、帝国には勇者が使っていた聖剣や聖盾がある。最強のものがすでにあるのに……新しいアイテムだと? それは帝国のやり方を否定するということか!?」

「そうではありません! 俺は……」

「帝国のやり方を否定するのは、皇帝陛下への反逆にも等しい!!」


 公爵がテーブルを蹴る。

 重いテーブルが簡単に転がる。

 公爵は格闘のスキル持ちだ。それはまだ、衰えてないらしい。


「──まったく。貴族の風上にも置けませんな」

「──公爵家を出ても最低限の誇りは残っていると思ったのですが、これでは……」


 衛兵隊長と執事が、声を抑えて笑っている。

 それを見ながら公爵がわめき散らす。


「お前を人質として送り出すことは、すでに決定済みなのだ。ぐだぐだ言うな!」

「決定済みなのはわかりました……」


 ……やっぱり駄目か。

 父親とその仲間には、俺の言葉は通じない。

 もういい──。

 話が通じないなら、せめて情報だけでも引き出そう。


「だけど、その命を使い果たすがいい、というのは?」

「お前が行くのが危険な場所だからだ」

「危険な場所?」

「数十年前にも帝国から人質を出しているが、行方不明になっている。あの場所に行って、戻ってきた者はいない」

「俺はどこに送り出されるのですか?」


 俺が聞くと、父親は薄笑いを浮かべた。

 それだけで答えがわかった。


「まさか、魔王領ですか!?」

「察しがいいのだけは評価する」


 言いかけて、父親は首を横に振った。


「──いや、本当に察しがいいのなら、わしの思いをくみとって、幼いうちに自害してくれていたはずだ。まだ生きているということは、お前は本当に無能なのだな──」


 そんなこと、どうでもいい。


 まさか、公爵がここまでするとは思わなかった。

 こいつは俺を、敵国に送り込むつもりだ。


 数百年前、魔王と人間の国は、大陸で領土を争っていた。

 魔王は強大な魔族を従え、南に向かって侵攻してきていたのだ。

 魔王と魔族たちは強力だったが、人間の勇者も強かった。

 激戦の末、結局、勇者たちは武器と魔術を駆使して、魔王たちを追い返した。


 その後、人間の世界と魔王領には境界線が敷かれた。

 帝国の北にある森の向こうが、魔族と亜人のエリア──魔王領まおうりょう

 そこから南が、人間の世界だ。


 境界線が敷かれてからは、大きな争いは起きていない。

 人間も魔王たちも、互いの領土を侵すことなく暮らしている。


 だが、魔王領はいまだに謎の国だった。

 それどころか、北の地に追いやられた魔王と魔族は、人間を憎んでいるとされている。

 だから魔王領と人間の世界は、ほとんど交流がないはずだった。


「……帝国と魔王領に交流があったとは……知りませんでした」

「お前に政治はわかるまい。我らドルガリア帝国は、魔王領に最も近い位置にある。魔王どもとは不干渉とはいえ、対策はしなければならぬのだ」


 公爵は吐き捨てた。


「だから帝国には数十年に一度、魔王領に人質を差し出すことにしている。やつらは血に飢えた者たちだからな、人質──いや、いけにえを差し出してなだめるのだ」


「──魔王や魔族などは、獣のようなものですからな」

「──人間を殺して、自分たちが強いことを確認すれば満足なのでしょう」


「──ああ、だから魔王どもは、大人しくしているんのだろう」


 父公爵と、その配下2人は笑い合っている。

 寒気を感じた。

 こいつらは本気で、俺が死ぬことを望んでいる。だから話が通じないんだ。

 死すべき相手と、話す必要がないから。


「用事は済んだ。とっとと消えろ。迎えの馬車はもう来ていると言っただろう?」


 公爵が手を振る。

 それを合図に、部屋の外に控えていた兵士たちがやってくる。4人がかりで、トールを拘束する。

 思わず身をよじるけれど──ふりほどけない。


「衛兵の拘束こうそくから逃れることもできぬのか。お前には本当に戦うためのスキルがないのだな。こんな無能がどうして、我が公爵家に生まれたのだろう……」

「──おいたわしや、公爵さま」

「──お気持ち、お察しいたします」

「だが、その苦難の日々も今日で終わる」


 公爵は、執事と衛兵隊長が差し出しハンカチで目をぬぐい、晴れやかな笑顔を浮かべている。

 吐き気がした。

 部屋に入る前の身体検査を、拒否すればよかった。

 そうすれば──錬金術の素材として持ち歩いていた石を、あの顔に投げつけてやったのに。


「──俺は、あんたが大嫌いだ。バルガ・リーガス公爵」

「死体が口を開くな」

「魔王領に人を送りたいなら、あんた自身が行けばいい。見て来たもの、聞いて来たものを、皇帝にその口で話せばいいだろうが!」

「帝国は魔王領に勝利しているのだ。敗者の国の情報など必要あるものか」

「……油断しすぎだ。終わってるな。あんた──」


 ごすっ。


 腹に衝撃しょうげきが来た。

 公爵の拳がめりこんだのが、わかった。

 思わず呼吸が止まる。声が出なくなる。


 公爵が引いた拳を、執事がハンカチで拭いている。

 一撃でやめたのは、魔王領に着く前に、俺が死んだら困るからか。


「…………最悪だな。くそ親父」

「連れて行け」


 公爵は手を振った。


「間違って生まれてきた子はいなくなり、我が公爵家に新たなる日々がはじまる。皇帝陛下もわが公爵家を評価してくださることだろうよ」


 ──そうして俺は、生まれ育った帝国から追放されたのだった。


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