第45話「小さくて義理堅い種族と出会う」

「西の森に住む、羽妖精ピクシーの中に、光属性の魔術が使える者がいるそう、なのです」


 アグニスは言った。


 俺とメイベル、アグニスは、テーブルを囲んで座っている。

 とりあえず『UVカットパラソル』と錬金術の素材は片付けて、ティータイムに。

 俺たちはお茶を飲みながら、アグニスが見つけてきてくれた情報を聞いている。


「昨日、トール・カナンさまのお話をうかがってから、アグニスは屋敷のみんなの話を聞いた……のです。でも、知ってる人がいなかったので、今朝は……町の方に行っていたので」

「手間をかけさせてすいません。アグニスさん」

「ううん。これはアグニスがしたいことなので」


 アグニスはドレスの裾をつまんで、笑った。


「それに、よろいじゃない服を着て町を歩くのは、ずっと、夢だったので」


 素顔をさらして、ドレスを着てるアグニスを見て、町の人たちはびっくりしてたそうだ。

 不思議そうに見守る人もいたし、心配そうに見てる人もいた。

 でも、きれいだって言って、近づいてくる人もいたそうだ。


 アグニスはそういう人たちに、『光属性の魔術使い』について訊ねた。

 そうしているうちに、町にいた兵士の一人が、光の魔術が使える羽妖精ピクシーのことを教えてくれたそうだ。


羽妖精ピクシーって、身長数十センチで、背中に羽が生えている亜人のことですよね?」

「はい。おっしゃる通りなので」


 俺の言葉に、アグニスはうなずいた。


 羽妖精は、帝国ではほとんど伝説の存在だ。

 わかっているのは生息数が少なくて、なぜか女性しかいないこと。

 魔力や人の気配に敏感なので、話をするどころか目にすることさえも難しいこと。

 それが帝国で語られる、羽妖精の姿だった。


「魔王領には……普通に羽妖精が住んでるんですね」

「はい。あの方たちは魔力に敏感なので、魔王領内の魔力の調査などを……してくれてます」


 お茶を飲みながら、アグニスは言った。


「土地の魔力の流れなどもわかるので、畑や牧草地を選ぶお手伝いもしてくれます。鉱山を見つけることができたのも、羽妖精のおかげです。でも……」

「でも?」

「あの方たちは、すごく人見知りで、あまり人前には出てこないので」

「頼み事とかは難しいかな」

「……そう、なのですけど」


 アグニスは困ったような顔をしてる。

 羽妖精ピクシーがすごく人見知りなら、俺が頼みごとをするのは難しいだろうからね。


「トールさま。陛下から羽妖精さんにお願いしてもらうのはどうですか? 『UVカットパラソル』の実験につきあってください、って」


 不意に、メイベルが言った。

 でも、俺は首を横に振った。


「そこまでしなくても……いいかな」


『UVカットパラソル』は、光の魔術に対する実験のために作ったものだ。

 ルキエの依頼でもない。誰かのために作ったわけでもない。

 ぶっちゃけ、100パーセント俺の趣味で作ってる。

 わざわざルキエを動かして、命令してもらうほどのものじゃないんだ。


「光属性の魔術を『解呪ディスペル』できることはわかったし、次の実験は機会があったら、ということでいいと思うよ」


 本当は、羽妖精に会ってみたいけど。

 羽妖精は、帝国では伝説の存在だったからね。ぜひ会って、話を聞いてみたい。

 どんな生活をしてるのか。どんなふうに世界を見てるのか、すごく気になるんだ。


 それに羽妖精は、異世界勇者と魔王との戦いに関わっていない。

 彼女たちは身体が小さくて弱いため、戦いには関わらず、ずっと隠れ住んでた。

 戦闘能力を持たない俺としては、その処世術はすごくいいと思う。

 ぜひ話を聞いて、その生き方を学んでみたいんだけど……。


「俺も魔王領に来たばかりだからね。あんまり無茶を言うわけにはいかないか」


 俺はアグニスの方を見て、そう言った。


「というわけで、せっかく見つけてくれたのに悪いですけど、羽妖精のことはそっとしておいてあげた方が──」

「いえ、実は羽妖精の方から……トール・カナンさまにお目にかかりたいと言って来ているので……」


 アグニスは言った。

 俺とメイベルの目が点になった。


「もしかして、もう向こうと連絡を取ったんですか?」

「はい。今回の件とは、別の件なのですけど」

「別の件?」

「羽妖精のいる西の森の近くが……トール・カナンさまの工房と住居の候補地なので、その件で、連絡を取っていたので……」


 あ……忘れてた。

 そういえば、俺が将軍の領地に来たのは、観光と、工房を作る土地の下見をするためだったんだっけ。


 もう工房の手配をはじめてたのか。

 さすがライゼンガ将軍、素早いな。


「お父さまは工房の候補地として、鉱山と町の近くにあり、水脈があって魔力が多い土地を選ばれました。そこが、西の森の近くなのです」


 アグニスは言った。


「でも、近くにある西の森は、羽妖精たちの自治区……なので」

「だから先方に『近所に錬金術師の工房を作りたい』って、連絡したんですね」

「はい。それで羽妖精の方から『それならぜひ、その錬金術師さまにお会いしたい』という返事が来ていたのです」


 ……なるほど。

 羽妖精が人見知りなら、無理に会う必要はないと思ってたんだけど。

 でも、工房のご近所さんになるなら、今のうちにあいさつしておいた方がいいな。


 魔王領は魔族と亜人の国で、俺は人間だ。

 向こうを警戒させないように、ちゃんと話を通しておきたいから。


「わかりました。そういうことなら、羽妖精ピクシーと会ってみることにします」


 俺は言った。


「わざわざ来てもらうのは悪いですから、こちらから出向くようにしたいんですけど、いいですか? ついでに工房の場所の下見もしたいですから」

「大丈夫だと思います。羽妖精も……その方が安心すると思うので」

「となると、まずは羽妖精の森を訪ねて、それから工房の場所に寄る流れですかね?」

「そうですね。ではそのように……羽妖精に書状を出しておきます」

「ちなみに、羽妖精とはどうやって連絡を取ってるんですか?」

「森の近くに、連絡用の切り株があるのです」


 アグニスは少し考えてから、そう言った。


「そこに書状を置いておくと、いつの間にか彼女たちが持って行くのです。そうして、気づくと返事が置いてある、というパターンなので」

「本当に人見知りなんですね」


 というよりも、神秘的な存在って感じがする。

 帝国でも、羽妖精はほとんと人前に姿を現さないって言われてたもんな。


 人目を避けて、魔力の流れに乗って飛ぶ不思議な種族。それが羽妖精だ。

 まさか魔王領に来て、伝説の種族に出会えるとは思わなかったよ。


「メイベルは羽妖精のことについてなにか知ってる?」

「エルフの村にいたとき、一度だけ見たことがあります」


 メイベルはなにかを思い出そうとするように、自分の耳を突っついてから、言った。


「服の代わりに葉っぱを身体に巻き付けて、木々の間をうように飛んでいました。エルフの長老と話をしていたようです。内容は存じません。彼女たちは魔王領でも、謎の多い種族なんです」

「色々と魔王領の仕事をしてるんだよね?」

「はい。アグニスさまのおっしゃった通り、魔力の観測や、狭い場所の調査などをしてます」

「そのやりとりも……ほとんど『切り株通信』で済ませているので。お願いしたいことを書いた書状を切り株に置くと、依頼を受けるかどうかの返事が来る……という感じです」


 メイベルの言葉を、アグニスが引き継いだ。


「だから、依頼主も、どの羽妖精ピクシーが仕事をするのか知らないので……」

「そうして仕事が終わると、羽妖精が調査結果を書いた羊皮紙を切り株に置いて、こちらが報酬を切り株に置くという流れになっています」

「報酬はミルクや木の実、魔石……など」

「本当に人見知りの種族なんです」

「先方から会いたいと言ってくるのは、本当に珍しいことなので。やはりトール・カナンさまは、特別な錬金術師なので……」


 アグニスもメイベルも、びっくりしてのか、早口になってる。

 羽妖精が自分から誰かに会いたがるのは、本当に異例中の異例らしい。


「失礼がないように、なにかおみやげを持って行った方がいいかな」


 でも、羽妖精がよろこびそうなものってなんだろう。


「メイベルは、なにを持っていけばいいと思う?」

「やはりミルクや木の実、魔石ですね」


 メイベルは迷わずに答えた。


「それらは羽妖精に依頼するときの報酬です。これなら、間違いないかと」

「では、準備はアグニスがするので!」


 しゅた、と、アグニスも手を挙げた。


「今回は護衛として、アグニスが森まで案内します。持って行くものも用意いたしますので!」

「私も準備を手伝います。アグニスさま」

「うん。一緒にやるの。メイベル」

「トールさまは休んでいてください」

「用意ができたら、呼びに来ますので」


 そう言ってメイベルとアグニスは部屋を出て行った。

 羽妖精へのおみやげは、ふたりに任せておけば問題なさそうだ。

 問題なさそう……なんだけど、ちょっと物足りないな。


 向こうは錬金術師に会いたがってるんだ。

 もしかしたら、なにか依頼したいことがあるのかもしれない。

 そうじゃなかったら人見知りの種族が、俺を呼び出す理由がない。


 となると、羽妖精が使いそうなものを準備しておいた方がいいな。

 俺が勇者の世界を超える錬金術師を目指してるんだから、それくらいできないと。


 勇者の世界のすごさは、『通販カタログ』を見ればわかる。

『通販カタログ』には、あらゆる問題を解決できるようなアイテムが並んでいる。

 それはつまり、起こりそうな問題を予測して、あらかじめアイテムを準備しておくのが異世界の流儀ということだ。


 依頼を受けてからアイテムを作るのが一流。

 依頼を予測してアイテムを準備しておくのが、勇者世界の超一流──ってことなんだろうな。

 俺もそれにならうことにしよう。うん。


 そんなことを考えながら、俺は準備を始めたのだった。






 翌日。

 俺たちは馬車で、羽妖精ピクシーが住む西の森へと向かっていた。


「でも……羽妖精ピクシーに光の魔術使いがいるのは、なんとなくわかりますね」


 ふと、メイベルは言った。


「羽妖精は魔力に敏感な種族で、さまざまな属性を備えて生まれてくると聞いています。水の羽妖精や、風の羽妖精がほとんどですけど、ときどき火の羽妖精や地の羽妖精なども現れるそうです」

「だから、闇や光の羽妖精もいるってこと?」

「そういうことです」


 なるほど。

 一人がひとつの属性を持つなら、光の属性の羽妖精もいる。

 だから光属性の魔術を扱える羽妖精もいる、ってことか。わかりやすいな。


「羽妖精は人見知りですが、依頼はちゃんと受けてくれます。ですから、トールさまが正式に依頼すれば、『UVカットパラソル』の実験にも協力してくれると思いますよ」

「それは助かるけど……ちょっとぜいたくすぎるかな」


 実際のところ、羽妖精と会って話ができるだけでも十分なんだ。

 伝説存在だからね。羽妖精って。

 その上、依頼まで出して、マジックアイテムの実験に付き合ってもらったら……。


「……錬金術師として、どう恩返しすればいいのかわからなくなるからね」

「いえ、トールさまなら問題ありませんよ。トールさまは陛下直属の錬金術師で、すごく、魔王領に貢献こうけんされているのですから」

「でも、俺も十分すぎるほど、色々もらってるだろ?」


 俺としてはルキエに『直属の錬金術師』に任命されて、工房をもらった。

 その場所で、俺は好きなものを作ることができてる。

 今は、それだけで十分だ。


 これ以上、色々なものをもらったら、どう恩返ししていいのかわからなくなる。

 とりあえずは魔王領を、勇者世界を超えるほど快適な世界にするつもりではいるけど……今のところ、どうやればいいのかはわかってない。

 だから、失われた魔剣を超える剣を作ることで、恩返ししようと思ってるんだけど、その目処も立ってないからね。


「……トールさまは、もっとわがままをおっしゃってもいいと思います」

「そうかな?」

「では、この旅の間に、トールさまをもっとわがままにするのを、私の目標にしていいですか?」

「どんな目標だよ、それ」

「乙女の目標です!」


 なぜか視線を逸らして笑うメイベル。

 なにか企んでるようだった。


 ……わがままかー。

 思いつくのは、メイベルとアグニスに『魔織布』の実験に付き合ってもらうくらいかな。

『UVカットパラソル』を作ったおかげで、新しいものが作れるようになったから。

 でもなー、どんな効果になるかわからないんだよな。

 せめてもう少し実験をしてから──



「トール・カナンさま。間もなく西の森に到着いたしますので!」



 ──そんなことを考えていたら、御者席でアグニスが声をあげた。


 窓から外を見ると、道の先に大きな森が見えた。

 背の高い樹が生い茂る、山の裾野まで広がる、大きな森。

 あれが羽妖精ピクシーの自治区、西の森だ。


 しばらくして馬車が停まり、俺とメイベルは外に出た。

 街道はここで途切れている。

 行き止まりのところに大きな切り株がある。

 切り口は水平に整えられて、物が置きやすくなってる。

 切り株の隣には大きな石がある。これは書状が飛ばないように押さえる……いわゆる文鎮ぶんちんみたいなものかな。


「ここが『切り株通信』の場所?」

「はい。トール・カナンさま」


 アグニスはうなずいた。

 彼女は切り株の上をながめて、不思議そうに、


「先触れの兵士には、今朝、ここに書状を置くように指示したのです。『錬金術師トール・カナンさまが、羽妖精の元にうかがいます』って」

「……書状はなくなってるね」

「……なくなってますね」


 アグニスと俺とメイベルは、切り株を前に首をかしげていた。

 話によると羽妖精は書状を受け取ると、返事をせてくれるらしい。


 でも、切り株の上にはなにもない。

 文鎮代わりの石は切り株の隣にある。

 ということは、書状が風で飛ばされたわけでもなさそうだ。


 そんなことを考えていると──




「……お待ちしておりました」




 切り株の後ろから、ひょい、と、小さな人影が顔を出した。


 白い肌。黒い、まっすぐな髪。身体には服の代わりに、大きな葉っぱを巻き付けている。

 そうして背中には半透明の、きれいな羽。


 切り株に隠れながら、小さな羽妖精が、俺たちを見ていた。


「は、はじめまして。わたしは、羽妖精のルネでございます……そ、その……」

「はじめまして。魔王陛下直属の錬金術師トール・カナンです」


 俺は反射的に、地面に座った。

 羽妖精と目線の高さを合わせるためだ。


 大きな相手から見下ろされるとプレッシャーになるというのは、帝国でさんざん学んだ。

 うちの父親も、貴族の戦士とかも、みんなガタイがよくて、声のでかい人ばっかりだったし。


「このたび、魔王ルキエ・エヴァーガルド陛下のご厚意により、ライゼンガ将軍の領地に工房と屋敷をいただくこととなりました。その場所が羽妖精のみなさんのご近所ということなので、あいさつに参ったのです」

「トールさまのメイドで、メイベル・リフレインと申します」

「トール・カナンさまの護衛、アグニス・フレイザッド……です」


 メイベルも俺の隣に腰を下ろす。アグニスも同じだ。

 俺たちは三人並んで座り、視線を下げて、小さな羽妖精と向かい合う。


「伝説の羽妖精さんと出会えてうれしいです。ルネさん」

「ご、ごていねいにありがとうございます。改めてごあいさついたします。闇の羽妖精──ルネと申す者でございます……」


 やがて、ゆっくりと、羽妖精が切り株の後ろから現れる。

 覚悟を決めたように俺たちの前に姿を現して、ぺこり、と頭を下げた。


「人間の方と話をするのは初めてですけれど……こんなにおだやかでやさしい種族だなんて……びっくりしました」

「そうなんですか?」

「はい。伝説によれば、人間とは魔族以上に巨大な力を持ち、大魔術をふるって世界を変えるのが大好き、と、うかがっておりますから……」


 それはたぶん、異世界の勇者のことだ。

 あの時代、羽妖精たちはもっと南の地にいたんだろうか。

 小さな羽妖精たちにとって、大魔術を乱発する勇者の存在は、相当なプレッシャーだっただろうけど。


「……錬金術師さまがこんなに優しいお方なら……安心して、話ができます」


 黒髪を風に揺らして、羽妖精のルネはうなずいた。

 ゆっくりと、俺の膝のあたりに近づいてくる。


「お手に載せていただいて、よろしいでしょうか?」

「手に?」

「その方が話しやすいと、思います。よろしければ、ですが」

「いいですよ。どうぞ」


 俺は手を差し出した。

 羽妖精のルネは、半透明の羽を動かして飛び上がり、俺の手の平に着地する。

 小さい。そして軽い。

 うかつに触れたら壊してしまいそうだ。

 

「信じられません……羽妖精が、誰かの手に乗るなんて……」

「アグニスもそんなお話……聞いたことない……ので」

「わたしたち羽妖精が人や亜人、魔族の手に乗るのは……信頼の証でございます」


 闇の羽妖精のルネの身体は、小さく震えていた。

 気持ちはわかる。

 俺が手を握るだけで、小さな羽妖精の身体はこわれてしまう。

 それほど小さくて華奢きゃしゃなんだ。羽妖精って。

 だからこうして手の平に乗るのが『相手を信頼している』という意味だというのはわかる。わかるんだけど……。


「でも俺は、そこまで信頼されるようなことしてないんですけど……」

「羽妖精がこのように相手を信頼するのは……お願いをしたいときで、ございます」


 羽妖精のルネは広げていた羽を閉じた。

 これでもう、すぐに飛び立つこともできない。

 完全にこっちに生命を委ねた状態で、羽妖精ルネは顔を上げて、俺を見た。


「これは『わたしはあなたを信頼します。だから、わたしたちを助けてください』という意思表示でございます。錬金術師さま」

「いや、そこまでしなくても……」


 俺は手の平を、切り株のところまで持って行った。

 そのまま指先を動かして、ルネを切り株の上に移動させる。


「俺は魔王陛下直属の錬金術師です。依頼があれば聞きますよ」

「そういうわけにはまいりません」


 でも、羽妖精のルネは首を横に振った。


「わたしたち羽妖精は魔王領に来て、こうして自治区までいただいております。ですが、いまだにそれに見合うほどの成果を上げておりません。そんな羽妖精が、一方的に頼み事をするなどというのは、許されないのでございます」


 真面目だった。


「そもそも羽妖精は、このように葉っぱを利用した粗末な服しか着ることができないのです。そのような姿で人前に出ることこそ失礼。なのに頼み事をするのですから、あなたさまに生殺与奪せいさつよだつをゆだねるのは当然のことかと」


 深刻だった。


「わたしが応接役に選ばれたのも、魔王陛下と同じく闇属性を持ち、闇の魔力を操れるからなのです。そのような者が命を差し出すならば、願い事を聞いていただいても構わないだろうと」


 重すぎた。


「……あの、メイベル、アグニスさん」


 俺はふたりに訊ねた。


「羽妖精さんって、こんなに生真面目で重い性格の種族なの?」

「いえ、私も……初めて知りました」

「依頼を生真面目にこなしてくださっているのは知っていますが……性格までは」


 メイベルとアグニスもびっくりしてる。

 ふたりも羽妖精がこんな性格だってのは、知らなかったらしい。


 というか、羽妖精が人前に姿を現さなかった理由が、さりげなく告白されてるんだけど。


 ──羽妖精は葉っぱの服しか着られない。

 ──そんな姿で人前に出るのは失礼。


 羽妖精がめったに人前に姿を現さなかったのは、そんな理由だったのか。

 びっくりだ。


「わたしをどうか、錬金術の素材としてお使いください。代わりにお願いを──」

「待った」


 俺は手を挙げて、ルネの話を止めた。


「錬金術の素材にするとか、身を差し出すとか、そういう話はいいです。その気もないですから」

「で、ですが、一方的にお願いをするわけには──」

「だったら、光の魔術を使える羽妖精さんを紹介してもらえませんか?」


 俺は言った。


「実は、マジックアイテムの実験のために、光の魔術が使える人を探してるんです。噂で、羽妖精さんの中に光の魔術使いがいるって聞いたので、よかったら紹介して欲しいんです」


 無理に協力してもらうつもりはなかったんだけど。

 でも、こっちからも頼み事をした方が、羽妖精さんは納得するかもしれない。


「……あの子に、ご用事だったのですか」


 俺の言葉に、羽妖精のルネは目を見開いた。


「実はわたしも、あの子のことでお願いをしたかったのでございます」

「そうなんですか?」

「はい。錬金術師さまに、光属性の持ち主であるあの子を助けていただきたいと……」


 羽妖精ルネは両手で俺の人差し指を抱きしめて、そう言った。


「強力な光の魔力を持ち……そのために身体が弱く、すぐに寝込んでしまうあの子──光の羽妖精ピクシーソレーユを……どうか助けていただけませんか。錬金術師トール・カナンさま」


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