第44話「光属性攻撃を防ぐパラソルを作る」
「『アルティメット・ヴィヴィッドライト』を防ぐアイテムとは面白い! 必要な素材は用意しよう。ぜひ作ってくだされ、トールどの!!」
次の日。
俺はライゼンガ将軍の執務室で、『UVカットパラソル』の説明をしていた。
パラソルの能力について詳しく伝えると、将軍は、よろこんで素材を提供してくれた。
『
銀貨を素材にするという手もあったんだけど、それはルキエに怒られそうだ。
せっかく
そんな話をしたら、将軍は俺に銀のかけらをくれた。
鉱山の調査をしたときに見つけたものらしい。
もちろん、代金は払おうと思ったのだけど──
「ありえぬ! ご自分がなにを言っているのかわかっているのか、トールどの!」
怒られた。
「先日の戦のことを考えてくだされ。トールどのの『レーザーポインター』のおかげで、我らは安全に
将軍は真面目な顔で、続ける。
「トールどのは、それを防いでくれたのだ。その価値は計り知れぬ。こんな銀のかけらでは足りないくらいであろう」
「でも、陛下から
「それは陛下とお主の問題だ。我の感謝の気持ちとは別だよ」
そう言って、にやりと笑うライゼンガ将軍。
「それに、これは先行投資のようなものなのだ。『UVカットパラソル』は光の魔術を無効化する、偉大なアイテムのようだからな。火炎将軍である我は、それに投資したいのだ。だから素材は、遠慮なく受け取ってくれ」
「わかりました」
ここまで言われて、断るのは失礼かな。
将軍の厚意だ。ありがたく受け取ろう。
「錬金術師トール・カナン。将軍のご期待に添えるよう、勇者世界に負けないくらいの『UVカットパラソル』を完成させてみせます。魔王領のUV対策のためにも」
「うむ。期待しておるよ。トールどの」
「そういえば、アグニスさんはどうしてますか? 今朝は見かけませんけど……」
朝食のテーブルにもいなかった。
将軍の執務室に来れば会えるかと思ったんだけど、いないな。
お世話になってるんだから、あいさつしたかったんだけど。
「もしかして、外出されてるんですか?」
「うむ。あやつは護衛とともに、近隣まで出かけておる。『光属性』の使い手を探すためだ」
……そういえば昨日、俺からお願いしたんだった。
アグニスに、『光属性』の攻撃魔術か武術が使える人を、探してくれないかって。
もう動いてくれたのか。すごいな。
「すいません。面倒なことをお願いしてしまったようです」
「気にすることはないよ。それに、今のアグニスは普通の服を着て出かけるのが楽しいようだ」
将軍は、愉快そうに笑った。
「町の者はまだ、
「そう言っていただけるとうれしいです」
本当にいい人だな。ライゼンガ将軍。
いいお父さんがいてうらやましいな……アグニス。
「それじゃ、俺は作業に入りますね」
「うむ。成果を楽しみにしておるぞ、トールどの」
そうして、一礼して、俺は将軍の執務室を後にしたのだった。
「お待ちしておりました。トールさま」
部屋に戻ると、メイベルが待っていた。
服がよごれてもいいように、いつもより大きめのエプロンを身につけてる。
長時間の作業を想定してるのか、テーブルにはお茶が入ったポットと、小腹がすいたときのために、ドライフルーツとクッキーが用意されてる。
「さすがメイベル。気が利くな」
「トールさまがお仕事に集中できる環境を整えるのも、私の役目ですので」
「ありがとう。メイベル。それじゃ
素材はすべて用意した。
『通販カタログ』は『UVカットパラソル』のページを開いて、テーブルに載せてある。
飲み物よし。おやつよし。
準備は完璧だ。
「今回は、ちょっと時間がかかるかもしれない。悪いけど、最後まで付き合ってくれるかな」
「はい。トールさま。お任せください!」
そう言ってメイベルは、メイド服の胸を叩いた。
いつもより緊張してるのは、これから作るのが、勇者の最強魔術を防ぐアイテムだからだろう。
光属性の究極魔術『アルティメット・ヴィヴィッドライト』──通称『UV』。
俺たちは、それに挑戦しようとしてるんだから。
……そう考えると緊張してきた。
あと、わくわくもしてる。
光の魔術を防ぐパラソルが、どんなものになるのか──って。
慎重に、かつ、集中して作業を進めよう。
「発動『
俺はスキルを起動した。
まずは『通販カタログ』に
パラソルの柄の長さは、90センチくらい。直径は140センチ。
全身が隠れるように、大きめに作られているのだろう。
パラソルの
解説文には『当社開発の新キラキラ素材が、降り注ぐ光を散乱させて防ぎます』と書いてある。
光を乱反射させることで、光の属性攻撃を防ぐらしい。
裏面が黒になってるのは、地面を反射する光を受け止めるためだそうだ。さすが、考えられてる。
でも……光を散乱させて防ぐというのが、ちょっとわかりにくいな。
「メイベル。魔術についてだけど」
「は、はい。トールさま」
「光の魔術攻撃を、鏡で跳ね返せたりしないよね?」
「そうですね。光の魔力には闇の魔力と同じように、『侵食』の力がありますから。鏡では、それを防ぐことはできないと思います」
「……だよね」
闇の魔力は『無』や『なにもない空間』を意味する。
だから他の者を消して、無に帰す力を持ってる。
光の魔力はその逆で、『有』『存在そのもの』の意味を持っている。
その源である太陽は、世界のどこからでも見える。
太陽は、むちゃくちゃ自己主張の強い存在だからね。
それだけに、攻撃的な光の魔力を受けた者は、強すぎる『存在の力』のせいで自分自身の存在を侵食されてしまう。
同じ場所にふたつのものは存在できないから、弱い方が消える。
攻撃に使われる光の魔力とは、そういうものなんだ。
だから、鏡で反射しても防げない。
でも『通販カタログ』の『UVカットパラソル』は、それを成し遂げている。
鍵になるのはこの『新キラキラ素材』か。
これが光の魔力に対して、どう作用するのか解読できればいいんだけど……。
「まぁいいや。わかるところから作って行こう」
まずは、空中にイメージ図を展開。
写真に載っているままの姿だ。
最初は、フレーム部分を作ることにしよう。
「メイベル。金属の素材と、魔石を用意して」
「承知いたしました!」
メイベルが金属の塊と、魔石をテーブルの中央に移動させる。
それにイメージ図を重ねると、パラソルの骨組みができあがっていく。
問題は、パラソルの布地をどうするかだ。
『UVカットパラソル』はおそらく、光の魔力を乱反射させることで、魔術を無効化してる。
強力な光の魔力に『侵食』される前に、魔力を散らして拡散させてるんだ。
問題はそれをどうやって実行しているかだけど……。
「……あれ? メイベル。ちょっと『通販カタログ』を開いて持ってみて」
「こうですか?」
「うん。よく見ると、ページの隅に、絵のようなものがあるよね」
「そうですね。パラソルと矢印と、なにかキラキラするものが描かれていますね」
「『新キラキラ素材の仕組み』……?」
これだ。
『UVカットパラソル』がどうやって光の魔力を弾いているのか図解されてる。
図の中央には、パラソルの絵がある。
そこに降り注ぐ光が、矢印で表現されてる。
パラソルの表面には、キラキラしたものが描かれている。光る粒のようなものだ。
そして──降り注ぐ光は、そのキラキラしたもので弾かれて、バラバラな方向に拡散している。
横に文字もある。『新キラキラ素材の力でUVカット』──って。
なるほど。
パラソルは光の粒子のようなものを発生させて、光の魔力を防いでいるのか。
魔術は
この粒子が魔力の流れをバラバラにしてしまうなら、魔術の効果は消えてしまう。
魔力を乱反射させて、
そうやって魔力の流れを妨害して、魔術そのものを無効化する。
それが『UVカットパラソル』の能力だったみたいだ。
「やっぱりおそろしいな。勇者の世界のアイテムは」
「勇者がこの世界にパラソルを持ち込まなかったのは、初代魔王さまたちが闇の魔力をあつかっていたからなのでしょうね。このパラソルは、光属性のみに対抗するものですから……」
メイベルは小さく震えてる。
「もしも、闇の魔術を無効化するパラソルがあったら、今の魔王領はなかったかもしれません。もしかしたら、世界そのもののかたちが変わっていたかも……」
「……かもしれないね」
「トールさま……」
「もしも、メイベルが怖いなら、ここでやめるよ」
俺は言った。
俺の錬金術は人を不幸にするためのものじゃない。
メイベルを恐がらせてまで、『UVカット』にこだわる必要はないんだ。
「いいえ。トールさまが作ってくださるアイテムなら、怖くないです」
でも、メイベルは首を横に振った。
「トールさまのアイテムは人を幸せにしてくださるものだって、私は知っていますから」
「ありがとう、メイベル」
「いいえ。お気遣いありがとうございます」
メイベルはメイド服のスカートをつまんで、一礼。
「お手を止めてしまってすいませんでした。作業をお続けください。トールさま!」
「わかった。じゃあ、この『新キラキラ素材』に似た素材を作ってみるよ」
俺はメイベルにお願いして、布を用意してもらう。
作業としては、
パラソルの布地に属性を付加して、光の魔力をかき乱すようにすればいい。
『通販カタログ』のパラソルは、薄い一枚布で『アルティメット・ヴィヴィッドライト』をブロックできるようだけど、俺には……そこまでの技術はない。
悔しいけど、勇者の世界にはまだ、敵わないんだ。
布を2枚……いや、3枚使わないと、ブロックしきれないみたいだ。
まずは1枚目。これは『光の
ここには更に、強力な水属性を追加しておく。
水には物の通過を遅くする能力がある。光の魔力を、ここで捕まえてくれるはず。
2枚目には、銀を粒状にして埋め込んでおこう。
1枚目の布で捕まえた光の魔力を、ここで乱反射させるように設定して、っと。
この面には光属性と水属性、風属性を与えておけばいいな。
3層目は裏面と同じ黒色になる。当然、闇属性だ。
この層には拡散しきれなかった光の魔力を吸収させよう。
パラソルの柄には魔石を組み込んであるのはそのためだ。吸収した魔力を
「……これでいいかな」
大丈夫。失敗したら作り直せばいい。
俺はまだ、勇者の世界には追いつけてない。それは自分でもわかってる。
でも、メイベルもルキエも、俺を信じて助けてくれてる。
将軍は素材を用意してくれたし、アグニスは『光属性』の使い手を探してくれてる。
だから、失敗だって怖くない。
何度でも作り直す。できるまでやる。
俺は魔王陛下の錬金術師だからね。
ルキエの魔剣を作るためと……ついでに、帝国の光の力への対策は、ちゃんとしないと。
そうして俺は深呼吸して、宣言する。
「実行! 『
ぽんっ!
机の上に、純白のパラソルが出現した。
本体の長さは、約90センチ。柄が透明なのは、中にからっぽの魔石が埋め込んであるからだ。
開いたパラソルの直径は、約160センチ。かなり大きい。
布地の表面は白。裏は黒。
布は3枚の布を組み合わせた、3層構造になっている。
第1層は水属性を強めた流体。
第2層には銀を織り込んだ、魔力反射システム。
そして第3層は、魔力吸収能力を持っている。
異世界の技術を採用して、ワンタッチで開くボタン式。
これが光属性攻撃を防ぐアイテム『
──────────────────
『UVカットパラソル』
(属性:光・闇・水水水水・風)(レア度:★★★★★★★★★★★★★★☆)
光属性と強い水属性を付加した第1層で、光の魔力を捕らえる。
光属性と水属性、それに風属性を付加した第2層で、光の魔力を乱反射させ、バラバラに砕く。そうすることで魔術を妨害する。
闇属性を付加した第3層で、余った光の魔力を吸収する。
吸収した魔力は、柄の部分にある魔石に
『UVカットパラソル』は光属性の攻撃、および魔術攻撃をブロックできる。
光の魔力を源とする攻撃であれば、物理・魔術を問わず防御する。
防御できない場合は、威力を90パーセント
物理破壊耐性:★★★ (魔術で強化された武器でしか破壊できない)
耐用年数:3年。
1年間のユーザーサポートつき。
──────────────────
「……意外と軽いな」
俺はパラソルを開いて、持ち上げてみた。
重さはたいしたことはない。
だけど大きい分だけ、取り回しが悪いな。
これを持って接近戦をするのは無理っぽいな。
「表面は真っ白なのですね……きれいです」
メイベルは興味深そうに、パラソルを見てる。
「これでどのように光の属性攻撃をブロックするのですか? トールさま」
「魔力を込めると変化するんだ。ほら」
俺は『UVカットパラソル』の柄を握って、魔力を込めた。
すると──
「わわっ。表面が鏡になりました! しかも……動いてます」
「2層目には銀を埋め込んであるんだ。だから鏡になってる。うねうね動くのは水属性のせいだよ。さらに光属性も加えてある。これで光の魔力を捕らえて、乱反射させて、バラバラにできるはずだけど……」
でも、気持ち悪いくらいに動いてるな。
まるで表面に活きのいいスライムを貼り付けたみたいだ。
異世界の人たちって、どんなセンスをしてるんだろう。こんなのを持って歩いたら、落ち着かないと思うんだけどな……。
「まぁいいや。それより、光の魔術を防げるかどうか試してみよう」
ちょうど、ベッドサイドに魔力ランプがある。
あれを使おう。
「メイベル、そこのランプを取って」
「点灯させた方がよろしいですか?」
「うん。お願いするよ」
魔力ランプは、この世界で一般的に使われる灯りだ。
初歩的な『ライト』の魔術を再現したもので、光の魔石を動力にしている。
「それじゃ、点けますね」
メイベルが魔力ランプに触れた。
光の魔石が反応して、ランプがほのかな光を放って──
ふぃん!
『UVカットパラソル』が反応した!?
開いたままのパラソルの表面が、波打ち始める。
魔力ランプの光が当たった部分から、光る粒子のようなものが浮かび上がる。
それがうねうねと動いて──光をとらえる。乱反射させる。
まるで粒子が光を分解しているようだ。
「……これが『新キラキラ素材』の力なのか」
「見てくださいトールさま。魔力ランプが……消えていきます」
メイベルの言う通りだった。
パラソルから浮かび上がった光の粒子が、ランプが生み出す光を解体していく。
パラソルの表面では、銀色の粒が飛び回ってる。
それが魔力ランプの光を乱反射させて、魔力をバラバラに分解していく。
まるで光の粉が飛び散ってるみたいだ。
そして──魔力ランプの光が徐々に弱くなり……ふっ、と消えた。
『光属性の魔術の
パラソルから、かすかな声がした。
「光が当たった瞬間に、光源の魔術まで解除するのか……このパラソルは」
「はい……魔力をバラバラに解体することで、魔術を
メイベルは目を見開いて、そう言った。
信じられないものを見るように、『UVカットパラソル』を見つめてる。
メイド服に白いパラソルは似合ってるし、かわいいけど、表情は深刻そのものだ。
「光属性を与えられた新キラキラ素材──いえ、銀の粒が、同じ光属性の魔力に干渉して、妨害をしてるんです。だから、光の魔力は乱反射して、バラバラになってしまうんですね」
「結界や障壁で防ぐんじゃなくて、魔術そのものを解除できるのか」
「でも、おかしいです」
「というと?」
「この『UVカットパラソル』は『アルティメット・ヴィヴィッドライト』の威力を90パーセント減らすんですよね? なのに、光の魔術を解除しちゃってます」
「それはたぶん『勇者の最強魔術は90パーセントカット。それ以下のレベルのものは打ち消します』ということじゃないかな?」
「…………」
「…………」
「……トールさま」
「最強魔術を防ぐアイテムだからね。それくらい出来てもおかしくないよ」
今まで色々な異世界アイテムを作ってきたけれど、これは
触れた光の魔術をほどいて、問答無用で
さすが『アルティメット・ヴィヴィッドライト』を防ぐだけのことはある。
異世界の『UVカット』おそるべしだ。
「でも、このパラソルは光属性の技と魔術しか防げないからね」
だから、そんなに強くはない。
炎や氷の魔術を喰らえば、普通にダメージを受けるんだ。
『UVカット』というから強力な防御アイテムかと思ったけど、それほどでもないようだ。よかった。
これならルキエや
「……トールさま」
「どしたのメイベル。難しい顔をして」
「たとえ話ですけど……魔王領に他国の軍隊が攻めてきて、野営したとしますよね」
「うん。野営したとして」
「当然、夜なので
「当然、魔術の
「そこに、夜目が利く魔王領の人たちが近づいて、パラソルを発動したら……?」
「……パラソルに魔術の光が触れた瞬間に
「…………」
「…………」
おかしいな。
究極魔術『アルティメット・ヴィヴィッドライト』を防ぐためのアイテムを作ったはずなのに、闇をもたらすアイテムになっちゃってる。
パラソルそのものは光属性なのに。
「でも、魔王領が他国と敵対することもないだろうから、気にしなくていいと思うよ」
「そ、そうですね」
「これはあくまで聖剣を研究するための、光属性対策アイテムだし」
「実験用ですものね」
「実戦に使うのなんて、帝国が聖剣使いか光の魔術使いを連れて来たときくらいだからね。そういう機会もないだろ。めったに」
「魔獣討伐が終わったばかりですものね」
「それに、光属性の攻撃が防げるかどうかもわからないし」
「光属性の使い手がいないのですから、仕方ないですね」
「というわけで、お茶にしようよ」
「はい。トールさま。お菓子もありますよ?」
「もらうよ。うん。おいしいね」
「おいしいですね」
とりあえずパラソルをたたんで、俺とメイベルは落ち着くことにした。
うん。お茶が美味しい。冷めてるけど。
今のところ、このパラソルの能力は、ランプの光を消しただけだ。
ぜんぜんたいしたことはしていない。
本当に『アルティメット・ヴィヴィッドライト』を消せるかどうかは、やってみないとわからない。
あとは、実際に光属性の魔術使いにお願いして、実験をするくらいだ。
それもまぁ、しばらく先の話だろうな。
魔王領は光の魔力が弱いから、光の魔術使いは少ないらしいし。
アグニスが光の魔術使いを探してくれてるけど、それも別に急がない。
ゆっくりと時間をかけて、光の魔術使いが見つかったら実験をしてみよう。
見つからなければ、アグニスにお礼を言って、『UVカットパラソル』はしばらく封印しておこう。
って、思っていたら──
「トールさま、いらっしゃいますか!? アグニスです!」
ノックの音と、アグニスの声がした。
メイベルがドアを開けると、荒い息をついたアグニスが駆け込んでくる。
「ひ、光属性の魔術使いが見つかりました!」
「本当? すごいよアグニスさん!」
「こんなに早く見つかるなんて……」
びっくりだ。
「ありがとう。アグニスさん」
「い、いえ。トールさまなら、すぐにアイテムを作る準備をされると思いましたので。それに間に合うようにと……」
アグニスが、テーブルの上にある『UVカットパラソル』を見た。
「──思っていたのですが、すでに出来上がっているのですね……」
「……ごめん。つい、やっちゃった」
俺は思わず視線を逸らして、つぶやいた。
アグニスは『健康増進ペンダント』を握りしめて、笑ってる。
「それで、光属性の魔術使いなのですが……町の兵士によると、西の森にひっそりと住んでいる種族の中に、ひとり、そういう者がいるそう……なのです」
「西の森……聞いたことがありますね」
「は、はい。魔王陛下から自治区をいただいている、少数の種族が住む森なので」
少数の種族か。
魔王領はいろいろな種族がいるからね。
森を住処にしている人たちもいるんだろうな。
「お父さまも、彼女たちに命令権はないのですが……お願いくらいは、できるそうです。紹介状を書いてくださるそうなので……どうされますか、トールさま」
照れたような顔で、ドレス姿のアグニスは、そんなことを言ったのだった。
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