第43話「光属性攻撃を防ぐアイテムを探す」
食事が終わったあと、俺は用意された部屋に向かった。
場所は2階の隅にある大部屋だ。
ここがこれから、俺の住居と作業場になる。
「将軍はずいぶんと広い部屋を用意してくれたんだな」
部屋の広さは、一般的な寝室の2倍くらい。
そこに大きなベッドがひとつと、テーブルや書棚が置かれている。
窓側の家具をすべてどかしてあるのは、作業をしやすいようにだろう。
そこには俺が魔王城から持って来た『簡易倉庫』が置いてある。
『簡易倉庫』の中には錬金術に必要なものが全部入ってる。
今日から作業を始めることだってできるはずだ。
「でも……まずは『光属性』に対抗するためのアイテムを探さないと」
俺は『超小型簡易倉庫』から『通販カタログ』を取り出した。
この中に『光属性』の攻撃を防ぐためのアイテムがあればいいんだけど。
そんなことを考えていたら、ノックの音がした。
「トールさま。入ってもよろしいですか」
「メイベル? いいよ。どうぞ」
「失礼します」
ドアが開いて、メイド服のメイベルが入って来る。
手にはお茶のカップと、果物が載ったトレーがある。
夜食を持ってきてくれたんだ。
「旅先でお疲れではないかと思いまして、ハチミツ入りのお茶と、甘い果物をもらってきました」
「ありがとう、メイベル」
「もう作業は始められたのですか?」
「これからだよ。今日は、光属性の攻撃を防ぐためのアイテムを探そうと思ってる」
「無理はなさらないでくださいね。まだ、将軍の領地にきて1日目なのですから」
メイベルは俺の前にティーカップを置いて、
「陛下も心配されていましたよ? トールさまのことだから、夜通しで研究を続けてしまわれるんじゃないかって」
「ルキエさまが?」
「はい。ですから、私にお目付役を命じてゆかれました」
えっへん、という感じで胸を張るメイベル。
「私は陛下より直々に──トールさまに無理はさせないように。
「……俺、信用されてないのかな」
「陛下も、トールさまを大切に思われているのです」
「無理はしないよ。今日だって、きりのいいところで止めるつもりだったし」
「きりのいいところですか?」
「うん。アイテムが出来上がったら──」
「え?」
メイベルが首をかしげた。
笑顔だけど、目は笑ってなかった。
「──出来上がったらどんな気分になるかなぁと想像しながら、作りたいアイテムを探そうと思ってた。で、作りたいものが見つかったら止めようかと」
俺は慌てて言い直した。
メイベルは納得したのか、静かにうなずいて、
「そうだったんですか」
「そうだったんだよ」
「…………」
「…………」
「こほん」
メイベルはじーっと俺を見てから、
「トールさま」
「はい」
「魔王城に帰ったとき、トールさまが
「……うん。わかった」
メイベルやルキエを心配させるわけにもいかないか。
考えて見ると、ふたりが時間を決めて『お茶会』をやってたのは、俺に規則正しい生活を送らせるためだったのかもしれない。さすがだ。
「それじゃ今日は、作りたいアイテムを探すだけにしておくよ」
「はい」
「メイベルも一緒に『通販カタログ』を見てくれるかな。俺がカタログの文章を読み上げるから、なにか気づいたことがあったら教えて欲しいんだ」
「承知いたしました」
そう言って、メイベルは俺の隣の椅子に座った。
ふたりで並んでお茶を飲み、それから『通販カタログ』のページをめくっていく。
「トールさま。食事中にお話をうかがったとき、ふと感じたのですが」
「うん」
「もしかしてトールさまは、この『通販カタログ』に光属性の攻撃を防ぐアイテムがあると、確信されていらっしゃいませんか?」
「……すごいなメイベル」
俺はうなずいた。
「その通りだよ。俺はこの『通販カタログ』には、光属性の攻撃を防ぐためのアイテムがあると思ってる」
「理由をうかがってもいいですか?」
「大昔に異世界から来た勇者が、光属性の攻撃魔術や剣技を使いまくってたから」
帝国にいたころ、本で読んだことがある。
異世界から来た勇者には、光の魔力を使う者がやたらと多かった──と。
だから彼らが使った『光属性』の攻撃について、たくさんの記録が残っている。
無数の光の弾を飛ばす魔術や、光の波動を飛ばす剣技などだ。
もちろん聖剣による『光の刃』も、普通に使っていた。
というか『フォトン・ブレード』って名前をつけたのも彼らだ。
勇者は技名を叫んだり、書き残すのが好きだったらしい。
帝国の書物に『フォトン・ブレード』や『Photon Blade』といった名前が、いろいろな言葉で残されてるのも、そのせいだ。
「勇者の半数以上は、光属性の技を使ってたらしいよ」
俺は説明を続ける。
メイベルは真面目な顔で、うなずきながら、
「はい。魔王領にも記録が残っています。勇者が使っていた『フォトン・アロー』や『アンリミテッド・フォトンブラスト』などですね。彼らは光の魔力を好んでいたようです」
「派手だからね。あと、魔王が闇属性だから、対抗する意味もあったんだろうけど」
「太古にはそういう技や魔術が飛び交っていたんですよね」
「その時代に生まれてたら、俺は普通に死んでるだろうなぁ」
「そのときは、私も同じ時代に生まれて、トールさまをお守りします」
メイベルは真剣な顔で、言った。
「勇者からお守りして、初代の魔王さまの元までお連れします。だから、トールさまは死んだりしません。絶対です」
「ありがと。メイベル。ごめん……話が
「い、いえ。私こそ、むきになってすいません……」
メイベルは恥ずかしそうに目を伏せた。
話に夢中になりすぎて、俺たちはいつの間にか手を繋いでる。
まぁ、それはそれ。話を続けよう。
「重要なのは、異世界から召喚された勇者の半数以上が、光属性の技を使ってたことだ」
俺は話を戻した。
「つまり異世界人は普通に光の魔力を扱えたってことだ。そうなると、彼らがいた世界の人たちも、光属性の技を使っていたと考えるのが自然だよね」
「……そうですね」
「たぶん、勇者の世界には光属性の技がポンポン飛び交っていたんじゃないかな」
「勇者は超絶の力を持つ存在ですからね」
「あいさつ代わりに光属性の技や、魔術を使ってたんじゃないかな」
「『おはようございますフォトン・ブレード』『おやすみなさい。アルティメット・ヴィヴィッドライト』という感じでしょうか」
「でなければ勇者が、強力な光属性の技を使いまくってたことの説明がつかないからね」
「勇者の世界とは……おそるべき場所なのですね」
「……だよね」
メイベルの手が、かすかに震えてた。
俺も同じだ。
この世界に住む俺たちにとって、勇者の力は計り知れないものだ。
たぶん、この『通販カタログ』のアイテムだって、彼らの力の一部でしかないんだろうな。
「とにかく、勇者は当たり前のように光属性の技を使っていた。となると、その世界には、光属性の攻撃を防ぐ手段もあるはずなんだ」
「わかりました」
メイベルが、ぽん、と手を叩いた。
「勇者の世界には光属性の技を防ぐ方法が、当たり前に存在していた。だから、それに慣れていた異世界勇者たちは、この世界でも光の攻撃や魔術を
「そういうこと。魔王領にも、勇者の技の記録は残ってるだろ?」
「はい。特に、初代魔王さまの結界を破壊した究極奥義『アルティメット・ヴィヴィッドライト』のことは、今でも語り継がれています」
「あれかー」
究極の光の魔術『アルティメット・ヴィヴィッドライト』。
それは大量の『光の魔力』を凝縮して放つ、光属性の最強魔術だ。
かつての最強勇者はその魔術で、魔王の防御結界を破壊したと言われている。
『アルティメット・ヴィヴィッドライト』のことは、帝国貴族なら誰でも知ってる。
というか、子どもの頃から教わる。
俺も名前の書き取りをさせられてたもんな。『Ultimate Vivid-light』──って。
貴族なら勇者の究極奥義の名前くらい、勇者の言葉で書けるようにすべきだという方針らしいけれど……覚えたところで使い道なんかないよね……。
「まぁ、異世界のカタログでも、あれを防ぐアイテムはないよな……」
『通販カタログ』のページをめくりながら、俺は言った。
「だからまず、光属性に対抗できそうなものを探してみようよ」
「わかりました」
「俺がカタログの文章を読み上げるよ。メイベルは『光の魔力』に関わりがありそうな単語が出てきたらチェックして。一番、関連する単語が多かったアイテムを作ってみよう」
「どんな単語をチェックすればよろしいですか?」
「『光』……特に『強い光』かな。あとは『防ぐ』という単語。あとは……勇者が使っていた光の魔術や技に関わる言葉が出てきたら要注意だ」
「『フォトン・ブレード』や『アルティメット・ヴィヴィッドライト』ですね」
「うん。それと、勇者は剣技や魔術の名前を省略したりしてた」
「そうですね。頭文字だけの場合もありました」
「面倒かもしれないけど、そこも注意しておいて」
「承知いたしました!」
それから、俺とメイベルは『通販カタログ』を読み始めた。
アイテムの解説文を読み上げながら、ひとつひとつチェックしていく。
声に出しながらだから、時間がかかる。
今日は数ページ読んだら終わりかな……と思ったけど、そんなことはなかった。
キーワードに引っかかるアイテムが、すぐに見つかったからだ。
「こんなにすぐ見つかるとは……」
「勇者の世界では光属性対策のアイテムが、当たり前に存在していたのですね……」
俺とメイベルは顔を見合わせた。
見つけたアイテムは、ふたつ。
両方とも光の魔術『アルティメット・ヴィヴィッドライト』に関わるものだ。
「『アルティメット・ヴィヴィッドライト』の、勇者世界での正しい書き方は『Ultimate Vivid-light』だよね」
「このカタログでは、その頭文字が使われていたわけですね……」
「そうだな。『強い光』『防ぐ』──そして『アルティメット・ヴィヴィッドライト』の頭文字──『U』と『V』。このふたつアイテムには、そのすべてが含まれてる」
俺たちは、同じページに掲載されたアイテムを、じっと見つめていた。
そこには、こんなことが書かれていたのだった。
────────────
太陽に負けない素肌へ!
当社の商品は、ついに太陽を
強い光はブロックしましょう。
危険なUVをカットできる、
太陽の力を、甘く見てはいけません。
光が当たるたびに、身体のダメージは
しかし、ご安心ください。
おそるべきUVに対する秘密兵器がここにあります!
この新製品で、白い肌・健康な身体を維持しましょう!
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UVカットローションは、低刺激なので小さなお子様にも安心です。
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白は光を反射し、黒は光を吸収する性質があります。
強い光の中でも自由に活動できる解放感を、お楽しみください!
────────────
「メイベル」
「はい、トールさま」
「光の魔力の
自分の声が震えているのがわかった。
『太陽に負けない素肌』──それは
勇者の世界の人間は、
「トールさまのおっしゃる通りです。太陽こそが……光の魔力の源だと言われています」
メイベルの声も震えていた。
気持ちはわかる。
勇者の『光属性の力』に敗北した魔王領の人だからこそ、この商品の
「この世界ができて、はじめて太陽が世界を照らしたときに、昼と夜ができました。そのときに、太陽は大いなる光の魔力を、この世界に与えたのです」
「そして、今も魔力の
「魔王領の光の魔力が弱いのも、日照時間が少ないからです」
「その光の魔力の
だから異世界から来た勇者は、光属性の技を使いこなしていたんだろう。
おそらく勇者の世界では、光の魔術がポンポン飛び交っているに違いない。
それを素肌で受け止めて──平然と立っている。それが異世界の人間なのか……。
おそるべき……というか、よくそんな連中を
「そして、このカタログにあるのが、光の魔力を防ぐローションとパラソルか」
カタログには、2つの商品が掲載されている。
ひとつはは傘の形をした『UVカットパラソル』。
もうひとつは身体に塗るタイプの『UVカットローション』だ。
パラソルはかざすだけで、光の魔力を防いでくれるらしい。
ローションは身体に塗って使うようだ。
そうすることで、小さな子どもであっても、光の魔術が飛び交う中で遊べるようになる──と、書いてある。
「メイベル……この『
「はい。トールさまの予想通りだと思います」
「やっぱりメイベルも『UV』が、勇者が使う最強の光魔術『アルティメット・ヴィヴィッドライト』のことだと思う?」
「あの魔術の頭文字以外に考えられません」
「『アルティメット・ヴィヴィッドライト』。つまり『Ultimate Vivid-light』の頭文字で『UV』か」
「
メイベルは、はっきりと言い切った。
そして、俺も同意見だ。
勇者は、自分たちの技を文字として書き残していった。
その情報は、今の時代にも語り継がれている。
さらに、彼らは
『ガーキャン割り込み無詠唱』『魔力溜めキャンUV』なんてのがそれだ。
もちろん、俺やメイベルが言ってることは、すべてが推測だ。
『通販カタログ』にある『UV』が『アルティメット・ヴィヴィッドライト』のことだという証拠はない。
魔王の結界を破った究極魔術が、パラソルやローションで防げるとは思えないからだ。だけど──
「作ってみる価値はあるよね」
「はい。トールさま」
「とりあえず素材を用意して、必要な属性を考えて……って、今日は無理か……」
もう、夜の遅い時間だ。
今から将軍やアグニスに『素材をください』なんて言えないよな。
「……時間をかけた方がいいものが作れるか」
とりあえず、自分に言い聞かせるみたいに、言ってみた。
「明日にしよう。お疲れさま、メイベル」
「はい。お疲れさまでした。トールさま」
メイベルはティーセットとトレーを持って立ち上がった。
「それでは、着替えをお持ちしますね」
「ありがと。メイベル」
「それと……今日は汗をかかれましたので、お休みになる前に身体を拭かれた方がいいと思います。準備いたしましょうか?」
「……確かに」
今日は色々と移動したせいで、汗をかいてる。
晩ご飯も熱いものだったから、そのときも。
人の家に来てるんだから、身だしなみは整えておいた方がいいな。
「お願いしてもいいかな。メイベル」
「はい。
そうして、メイベルは部屋を出て行った。
しばらくして、お湯の入った
身体を拭いてくれると言ったけど、残念ながら、それは断った。
『UVカットパラソル』と『UVカットローション』のどっちを先に作るか、集中して考えたかったからだ。
強さでいえば『UVカットローション』の方が上だ。
パラソルを持つと片手がふさがってしまう。
ローションは身体に塗るから、光属性への防御をしながら、剣と盾を持つことができる。
汎用性はローションの方が上だ。
そんなことを考えながら、背中を拭こうとしたら──気づいた。
「背中だと手が届かない場所がある……ローションの塗り残しがあったら、そこにダメージを喰らう……のか?」
ローションだと、使う前に誰かの手を借りる必要がある。
塗り残した部分に魔術を喰らったら、間違いなくダメージを喰らう。
こうして手を伸ばしてみると……うん、やっぱり、
全身こうして布を当ててみると、届かない場所って結構あるな。
となるとパラソルの方が安定性が高い。つまり──
「トールさま。お湯を回収にまいりました」
「メイベル。ちょうどよかった。入って」
「失礼いたします。トールさま」
ドアを開けて、メイベルが入って来る。
さすがメイベル、いいタイミングだ。
「今気づいたんだけど、やっぱり最初に作るべきは『UVカットローション』より『UVカットパラソル』の方だと思うんだ。ローションを塗れば両手が空くというメリットがあるけど。塗り残しの危険性があるからね」
「……は、はい」
「だから、明日になったら将軍とアグニスにお願いして、パラソルのための素材を準備してもらおうと思う。メイベルも協力してくれるかな」
「もちろんです。それはいいのですが……」
「……? どしたのメイベル」
「お湯をお持ちしてからずいぶんと経つのですが、トールさまは……ど、どうしてまだ上半身裸でいらっしゃるのですか……?」
メイベルは真っ赤になって目を伏せてる。
……しまった。
身体を拭いてる途中で考えに沈んでしまって、手が止まってた。
しかも、お湯も冷めちゃってる。
「トールさま」
「……ごめん」
「いえ、お気になさらないでください。新しいお湯をもらってきますね」
「ごめんね。お願いするよ」
「はい。お任せください」
メイベルは真剣な表情でうなずいた。
「それと、トールさまの背中は私が拭きますから」
「え?」
「私は陛下から、トールさまの健康管理をするように言われております。そのために、陛下から、専用のアイテムを授かっておりますので」
「専用のアイテム?」
「み……『水の
手回しがいいな。ルキエ。
『水の魔織布』は、動きやすさ重視の服だ。
水に濡れても大丈夫だから、水泳用に使えるんじゃないかって思ったんだけど。
なるほど、ルキエとメイベルは、こういう使い方も考えていたのか……。
「陛下からのお達しです。トールさまの健康管理のために、ここまでは許しをいただいたのです」
メイベルはそう言って、俺に向かってお辞儀をした。
「トールさまに風邪を引かせるわけにはまいりません。せめて汗を拭くくらいはさせてください。お願いします」
そうしてメイベルは──メイド服の
準備は完璧だった。
「そ、それに先ほど、私は申し上げました。『お休みになる前に身体を拭かれた方がいいと思います。準備いたしましょうか?』と。トールさまは『お願いする』とおっしゃいました」
「う、うん」
「だ、だから私は……こうして『水の魔織布』の服を着て来たのです……」
耳の先っぽまで真っ赤にして、メイベルは言った。
「私がトールさまの健康管理をすることを……お許しいただけますか」
降参だった。
結局、俺はメイベルに身体 (もちろん上半身だけ)を拭いてもらい──
今度からちゃんと、身体には気をつけることを約束して、眠って──
翌日、将軍とアグニスに『UVカットパラソル』のことと、製作に必要な素材について、話をしたのだった。
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