【コミックス5巻は10月10日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
第159話「ソフィア皇女、帝国部隊についての話を聞く」
第159話「ソフィア皇女、帝国部隊についての話を聞く」
その後、俺たちは小屋を出て、林の中で身を隠した。
「──アグニスさまは、すぐに来てくださるとのことでした」
伝令から戻ってきた
アグニスはアイザックさんと相談して、部隊を2つに分けていたそうだ。
半分は球体型『お掃除ロボット』の追跡に、もう半分は距離をあけて、俺たちの後をついてきていた。
だからアグニスは、意外なほど近くにいた。すでにこっちに来るそうだ。
「アグニスさまの部隊には『オマワリサン部隊』の一部が同行しているそうです。小屋の見張りは彼らに任せましょう」
「首謀者が戻ってきたら、彼らが対応してくださいますわ」
ソフィーとドロシーさんは言った。
俺もエルテさんも、その意見に賛成した。
ここは人間の領土だからね。
小屋の見張りも、人間の部隊に任せた方がいいだろう。
「あとは『耐火金庫』を持ち帰れば、今回の作戦は終了だな」
「無事に終わってよかったですね。トールさま」
「うん。あとは、帰って戦利品を分けるだけだからね」
ちなみに『耐火金庫』は、俺の『超小型簡易倉庫』の中にある。
これはみんなで話し合って決めたことだった。
これで魔王領側が『耐火金庫』を、『ノーザの町』側が『異世界の手紙と資料』を所持したことになる。
ソフィーたちは『耐火金庫』を望んでいる。
俺たち──というか、俺個人として欲しいのは、『異世界の手紙と資料』の方だ。
今はお互いが、お互いの欲しいものを所持する状態になっている。
俺たちは友好関係にあるけど、表向きは、互いの勢力の代表でもある。
だからこうして、バランスを取らなきゃいけないらしい。面倒だけどね。
「では、
ドロシーさんは言った。
捕虜の男たちは後ろ手に縛られた状態で、
彼らは帝国の砦から『例の箱』を奪った犯人──あるいはその仲間だ。
そして大公国は帝国から、その砦の調査を任された経緯がある。
その関連で、砦から箱を奪った連中をと取り調べることになっているんだ。
「町に戻り次第、
「……う、うぅ」
捕虜の男たちは、がっくりと肩を落としてる。
彼らはもう『ノイズキャンセリング・コート』を着ていない。
外に出る前に、目隠しと一緒に外したからだ。
だけど──
「……なんでも話す。だから沈黙の世界に放り込むのはやめてくれ」
「……まっくらで、耳鳴りだけが……キーンと続く世界は嫌だ。嫌なんだ……」
「……あんな能力を持っている上に……『ダークウルフ』をあっさり全滅させるなんて、何者なんだ……あんたたちは」
「「「………… (がくがくぶるぶる)」」」
男たちは膝をがくがく震わせてる。
目隠しされて、『ノイズキャンセリング・コート』で周囲の音を消されたのが、よっぽど怖かったみたいだ。
まぁ、しょうがないよね。人里で魔獣を飼ってた連中だからね。
「お疲れさまでした。カナンさま」
林の木に寄りかかって、ソフィーは大きく伸びをした。
彼女はフードを被ったまま、俺を見て、
「カナンさまのおかげで調査は成功です。本当に、ありがとうございました」
「お礼はいいですよ。俺も、貴重なアイテムに触れることができましたからね」
「そう言っていただけるとうれしいです。それと……」
ソフィーはうつむいて、照れくさそうに、
「カナンさまにはこれからも『ソフィー』と呼んでいただけたら……と」
「いいんですか?」
「親しい方には、愛称で呼んでいただきたいのです」
「わかりました」
「リアナのことも『リーナ』と呼んであげてください」
「そっちは本人の許可を得てからの方が」
「あら……それは残念です」
ソフィーはいたずらっ子みたいな笑みを浮かべて、それから、胸を押さえた。
彼女の胸元には、『異世界の手紙と紙束』が入っている。
旅人の服の内側には、貴重品を入れるための隠しポケットがある。
ソフィーはそこに、例の資料を隠すことにしたんだ。
「これは絶対に落としません。ご安心ください」
「俺も『例の箱』はちゃんと町まで届けます」
「あとで交換いたしましょうね」
「そうですね」
「ちゃんと、お互いに手を伸ばして、必要なものを受け取るということですよ?」
「……? はい。わかってます」
「
ソフィーは満足そうにうなずいた。
魔王領と『ノーザの町』側は、手に入れたものを公平に分配することになっている。だから言質を取る必要はないんだけど……?
「私も魔王領の者として、立ち会ってもいいですか?」
俺の後ろでは、メイベルが真面目な表情でうなずいてる。
「もちろん。メイベルにはちゃんと見届けてもらわないと」
「はい。魔王領に戻るまでが、私のお仕事です」
「気を引き締めないとね」
「もちろん、油断しないようにいたします」
俺とメイベルは顔を見合わせて、うなずいた。
それから、しばらくして──
「お待たせいたしましたので」
林の向こうから、アグニスがやってきた。
到着したアグニスは、俺とメイベルに笑いかける。
それから、エルテさんやドロシーさんと打ち合わせを始めた。
「捜索チームの皆さまが、ご無事でなによりでした」
アグニスはチームの全員に向かって
それから、彼女はソフィーの方を見て、
「色々とお話したいことはあるのですけど……まずは、『オマワリサン部隊』の人から、ソフィア皇女さまに緊急の連絡があるそうなので」
「緊急の連絡ですか?」
「──失礼します。殿下」
護衛部隊から兵士が進み出て、ソフィーの前に膝をついた。
「部隊長アイザック・オマワリサン・ミューラより、殿下にご伝言がございます。直言をお許しいただけますか」
「許します。どうぞ」
「……ここで申し上げてよろしいのですか?」
「構いません」
ソフィーは言った。
俺たちは捕虜の男たちに『ノイズキャンセリング・コート』を
もちろん。裏返しで。
男たちは真っ青になったけど、短時間だから我慢してもらおう。うん。
「申し上げます。アイザックさまの部隊が、帝国の部隊と
……帝国兵か。
たぶん、交易所とソフィア皇女のところに来た、侵入者の仲間だな。
侵入に失敗したから、堂々と話をすることにしたのかな。
まったく……いさぎよいというか……ずうずうしいというか。
「隊長らしき人物とは?」
「リカルド・ドルガリア殿下……とのことです」
沈黙が落ちた。
ドロシーさんも、ミサナさんも、おどろいたような顔をしている。
俺たちだってそうだ。
まさか、ここで帝国の皇子の名前が出てくるとは思ってなかった。
「リカルド皇子が会談を希望する理由は?」
「『極秘任務のために、ある者と交渉を行うこととなった。ついては「ノーザの町」に協力願いたい』とのことです」
「わかりました。よーくわかりました」
何度もうなずくソフィー。
彼女は俺の方を見て、苦笑いを浮かべている。
なんとなく、彼女が考えてることがわかった。
極秘任務というのは『例の箱』の件だろう。
交渉相手は捕虜の男たちか。それともダリル・ザンノーかな。
仮にダリル・ザンノーだとしたら、奴が小屋にいなかった理由もわかる。
帝国の皇子との交渉のため、外で準備をしているんだろう。護衛の魔獣でも集めに行ったのかな。
あとで捕虜の男たちに聞いてみよう。
「会談に応じましょう」
ソフィーは言った。
「場所は『ノーザの町』で、日時は……これから私たちも休まなければなりませんから、明後日の正午としましょう。護衛は、それぞれ1名。それに加えて、こちらは記録係を同席させます。この条件を先方に提示してください」
「記録係ですか?」
「交渉の内容は一字一句違えることなく、記録しなければなりません。仮に『例の箱』に関わる件なら、魔王領の皆さまにも関係があります」
ひと呼吸おいて、ため息をつくソフィー。
「ですから、誰でもわかるような記録を残す必要があるのです。言質をとる……いえ、言った言わないの問題にならないように」
「承知いたしました!」
「リカルド皇子の部隊には監視をつけてください。私たちが戻るルートと、彼らがいる場所がかぶらないようにしましょう」
「はい。殿下!」
そう言って、『オマワリサン部隊』の兵士さんは走り出した。
「……まさか、リカルド殿下がこちらにいらしているなんて」
ドロシーさんは、ぽつり、とつぶやいた。
「ソフィア殿下は、リカルド殿下がなにを望んでいるのかおわかりなのですか?」
「想像はつきます。また、それに対しても一案がございます。こんなに早く使うことになるとは思いませんでしたが」
そう言って、ソフィーは俺の方を見た。
「ことは急を要するようです。『ノーザの町』まで『耐火金庫』を運んでいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
俺はうなずいた。
「ただ、その場で戦利品を交換するとなると、魔王陛下の許可が必要になりますが」
「そのために交渉を2日後としました。その間に、魔王さまにお話を通していただけますか?」
「わかりました。すぐに伝令を出します」
『ノーザの町』に箱本体を渡して、魔王領は中の資料を得る──これについて、ルキエは許可をくれると思う。俺たちは箱の説明書を手に入れているからね。
『鑑定把握』で素材についても調べてある。
研究を進めれば、いつか、箱のコピーを作ることもできるだろう。
ここでオリジナルの『耐火金庫』を渡しても、問題はないと思う。
もちろん、ルキエの許可を得られればの話だけど。
箱そのものはそれでいいとして、問題は異世界の資料をどうするかだ。
『異世界の手紙と紙束』を読めるのは俺しかいない。
だから俺が
『ハード・クリーチャー』と勇者世界の情報は、広く皆に知らせるべきだと思う。
その上で、帝国に『勇者召喚の禁止』を明言させないと。
勇者世界に新種の魔獣がうろついていることは確定した。勇者召喚を行っても、来るのは勇者じゃなくてそいつらだ。
勇者召喚は絶対に禁止しなきゃいけない。
ただ、どこまで情報をオープンにするかは、ルキエの判断次第だ。
手紙には、勇者世界の兵器についても書かれている。
それを読んだ帝国が『資料もよこせ』なんて言ったら、めんどくさいことになるからね。
あの資料は危険だ。
手紙に『様々な武器を提案してきた』とあったように、いくつかの束に分かれていた。たぶん、それぞれ別の武器について書かれているんだろう。
ひとつ目の表紙をちらっと見たけど、剣のようなものが書かれていた。
『超高振動ブレード』って……一体なんなんだろう?
「魔王領文官のエルテさまに、ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」
そんなことを考えていたら、不意に、ソフィーが声をあげた。
「今回の捜索チームですが、魔王領側はエルテさまがリーダーなのですね」
「は、はい。間違いありません」
「では、お願いいたします。交渉の場での記録係として、カナンさまに立ち会っていただくことはできますでしょうか?」
……俺を? 皇子との交渉の場に?
「『例の箱』の事件は、魔王領の皆さまと共に解決したものです。ですから、交渉の内容は魔王領の皆さまにもお伝えするつもりです。ならばいっそ、最初から魔王領の方に立ち会っていただいた方がよいでしょう」
理にかなってた。
さすがソフィーだ……と思って見たら、彼女は、不安そうな表情だった。
……そっか。これから会う相手は皇子だもんな。
しかも、ソフィーのところに調査兵を送り込んだ可能性もある奴だ。
不安になるのも当然だよな。
「──皇女殿下のご配慮に感謝いたします」
エルテさんは軽く頭を下げた。
「記録係についてですが……私個人としては構いません。錬金術師さまは──?」
「俺を記録係として、会談に立ち会わせてください」
俺は言った。
「魔王陛下には書状で許可を取ります。この件が魔王領にとって価値のあることだと、言葉を尽くして説明します。だから、同席させてください」
交渉についてソフィーに入れ知恵したのは俺だからね。
その結果を見届ける義務があるんだ。
「ありがとうございます。カナンさま。それでは、町に戻りましょう」
ソフィーは俺たちを見回して、そう言った。
「魔王領の皆さまにも宿舎を用意いたします。『ノーザの町』で休んでいってください。心ばかりのおもてなしをいたしましょう」
そうして、俺たちは『ノーザの町』に向かうことになり──
俺はルキエに、事情説明のための書状を出すことになるのだった。
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【お知らせです】
いつも「創造錬金術師」をお読みいただき、ありがとうございます!
書籍版「創造錬金術師は自由を謳歌する」2巻が発売になりました!
2巻ではリアナ皇女とソフィア皇女、それに羽妖精たちも登場します。
(「近況ノート」で、キャラクターデザインを公開しています)
もちろん、今回も書き下ろしをエピソードを追加済みです。
書籍版だけの新アイテムとして、ルキエ専用の魔剣も登場します。
ぜひ、読んでみてください!
「創造錬金術師は自由を謳歌する」は、コミカライズ版も連載中です。
次回更新は9月28日です。
「ヤングエースUP」で読めますので、ぜひ、アクセスしてみてください。
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